HUNTERS(10/18)縦書き表示RDF


HUNTERS
作:グリコ



第十話:悲しみの共鳴



「ぐッ!!」


角に貫かれた腹を押さえ、親父はその場に倒れこんだ。血が、先程まで体内を流れていた、真っ赤な鮮血が、真っ白な空間を汚す。

俺はただその光景を、傍観していた。指も、足も、口さえも。何一つ、動かないのだ。



苦しむ親父を見下ろしながら、MAは端整な顔立ちを愉快そうにゆがめた。

『この人間はあまり美味しくなさそうだ…』

ニヤリと口角を上げると、白い牙が見えた。

「くそっ!!」

ケイトの声がしたかと思えば、銀色の刀が空を切りMAは一瞬にして距離を保った。彼女の片腕はむき出しになっている。制服が破られたらしい。血も微かに垂れていた。

「──遅かったか!」

目の前の光景と、彼女の言葉を照らし合わせて、最悪の事態が脳裏に浮かんだけれども、頭を振る。そんなことは、ありえない。肩で息をしながら、ケイトは何かを気遣うように言った。

「……ヤマト、この男は、お前の父親なのか?」


「ああ」

抑揚のない平らな声しか出ない。どうしてだろう、何でこんなに目の奥が痛いんだ。何かが、堰を切るように溢れ始める。どうしてケイトはこんなに苦々しい表情をしているのだろう。何が助からないのだろう。


スニーカーに、赤いモノが流れ着いた。倒れた親父から流れた液体のようだ。


赤い、血。


──血を指で掬って、次の瞬間には爆発していた。

 頭の中の存在に、話しかける。今まではこんなこと出来なかったけれども、今ははっきりとその存在を感じるのだ。俺の感情に連動しているのは間違いない。


『主』

「早く出て来い…!あいつを殺す!!!」

粒子を撒き散らしながら現れたライオンを睨み、手のひらに何かを感じた。視線を落とすと、そこには大剣があった。手と一体化しているような感覚の鞘を握り、銀色に光る刀身に自らの目を移す。血走り、深い闇をたたえている。

どうしてだろう、先程まであんなに憎かった親父なのに。自らの手で息の根を止めてやるとさえ思っていたのに。MAがやってくれて、嬉しいはずなのに。

どうして。こんなに胸が痛むのだろう。


「ヤマト──冷静になれ!」

「やだ」

「冷静にならなければ、BクラスのMAは倒せない!」

「ごちゃごちゃうるせぇ!!」

ブンと、剣を振るうと、横に居たケイトが怒声を上げた。

「馬鹿が!」

ズドンと、重い拳を腹に食らった。思わず足が止まり、腹を押さえる。その場にかがみこみ、歯を食いしばる。影が落ちた白い地面を睨み、苦し紛れに言葉を紡ぐ。


「…っ、どうして、殺さないと、あいつは俺の親を…!」





ふと、その地面に何かが染みた。

小さな、染み。

それはポタポタと落ちて、さらに黒い染みになった。


ハッと気づき、見上げる。



──ケイトは、泣いていた。

雫が頬を伝い、無表情なのに、泣いていた。

眉を苦しそうに寄せ、肩は小刻みに震えている。

「…馬鹿だな、ヤマト」

「……」

「今のお前は…まるで、昔の私じゃないか」

「──」

どういうことだ、と尋ねる前に。ケイトは手の甲で涙を拭うと、俺に手を差しだした。

「冷静になれ」

手を掴み、立ち上がる。真っ赤に燃え盛っていた激情が、透き通るような青い炎へ変わっていく。

「冷静にならないと、自分を見失う」

「……ケイト」

少し腫れた目で、そう呟いた彼女の背後に、またあの目が角が見えた。

「あぶな…!」

しかし角はケイトを貫かなかった。彼女は俺を突き飛ばし剣でその角をなぎ払った。

「ヤマト、戦いたいなら戦えば良い!お前はハンターズだ!」

「…!!ああ」

答えると、ケイトはMAに剣を振るった。MAは素早くソレを避け、高く飛び上がって距離を保った。

「私はお前と戦う!」

そういった瞬間、彼女の体を光が包み、同時に俺の体も粒子が覆った。手の平に剣を握っていた剣が少し変わったのに気がついた。それは先程までの、普通の刀ではなく。

柄と刃を繋ぐ部分にライオンの紋章が浮かんでいた。それは勇ましく口を開け牙をむき出し唸っていた。

「…!!」

レオンと、英語で書かれている。あのライオンの、名前か──?

 遠くでMAとケイトが同時並行に走り抜けるのを見て、柄を堅く握る。何かが俺を守っている。そんな気がしてならなかった。

「やっと見つけた…!」

背後で、シュラの声がしたが、立ち止まらなかった。

──もう怖いだとか、そんなものは吹き飛んだ。

今はただ、復讐を誓った。

『ゾロゾロと…食い物が増えたな!』

牙をむき出して笑い、MAはケイトの棘のような斬撃を受け止めた。ギチギチと、エネルギーとエネルギーがぶつかり合う音が聞こえる。昨日ケイトがいとも簡単に殺した獣のことを思い出し、あの攻撃を受け止めるのだから相当強いMAなんだと感覚で分かった。

「く、──っ!」

歯を食いしばり、ケイトは押され気味だった。踏ん張る足と、白い床がこすれ、摩擦が発生する。ケイトは女だ、力勝負では明らかに分が悪い。加勢とばかりに俺はMAの懐に飛んだ。刀を引き、槍のように突き出す。すると貫いたハズの心臓はなく、瞬きをする日まもなくMAの尖った角が一瞬見えた。感覚の問題だ、そう思い、死ぬ気で刀を掲げると、寸分の差でなんとか角を凌いだ。両手で支えるが、凄まじい力に腕が軋んだ。本気で、折れる。奥歯を噛み締めすぎ、歯が欠けると思うとMAは距離を取るように後方へ移動した。

ケイトが横から剣を入れたようだ。剣で切れたのか血が滴る手の平を見て、汗が吹き出るを感じた。ここまで緊張し、死を感じたのは今が初めてだった。肝が冷えるどころではない。すでに冷え切っているが、しかし不思議と怖くないのだ。どうしてだろう、少し遠い位置で笑う半獣が、愛しいほど憎いのだ。MAは自らの爪を尖らせると、ケイトを舐め回すように見た。

『…あまり居ないほど美しい人間だな…食べたら、どんな味がするのだろう?』

そしてグッと、MAが踏み込んだ瞬間、ケイトの刀は弾かれた。鈍い音と共に、ケイトは片手でバック天転をしながら一気に距離を広げるが、MAの方が一秒も二秒も早く、その爪がケイトを捉えた。と、見るよりも早く、俺の足は駆けていた。

『!?』

気がつくとMAの懐に居た俺は、見事に剣でヤツの胸部を貫いた。青い液体が、銀の刀身を伝い滴り落ちる。時間が止まったように、暫し俺とMAはにらみ合ったが、次の時にはMAは力泣くその場に倒れこんだ。

青い液体が流れ出し、見る見る間に足元は青い水溜りと化した。

戦いが終わったことを認識し、朦朧とし始めた意識に、しっかりしろと渇を入れ、急いで親父のそばへ駆け寄る。ケイトは自らも負傷した腕を押さえながら、そっと親父の首に指をやり、すぐにこちらを見た。

「まだ、脈がある!」

「え…」

足音がして、後ろに振り向くとクリスが居た。黒い制服が、白の背景の中でやけに目立つ。

「MA処理完了。直ちに──」

じっとりと、青い瞳は俺と視線を交わし、諦めたようにラジオに呟いた。

「最寄の病院へ、空間移動を頼む」


































ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう