21 脱出(改)
前回までの粗筋
王様を交えワイバーン所有者を巡った争いもひと段落つき、ティアは父親との再会の中でかつての記憶を思い出し、一つの答えを得ていた。
「ティア、ティア、起きなさい、ティア」
気持ちよく寝ていた私を揺すって起こそうとしている人がいる。
さっきまで、とても幸せで、とても悲しい夢を観ていた気がする。
そして何か大切な事に気がついたのに何も覚えてない。ただ何かの手応えだけが残ってフワフワしている。
涙が頬に伝って落ちた。
目を開けると私の肩を揺すっていたのは、お父さんだ。
私は目をこすって涙を拭きながら起きた。
その横には近衛騎士団の若い騎士さんがいる。
「ようやく起きましたか、急いでください、外の様子がおかしいと報告がまいりました、一度騎士団長殿がいる部屋まで移動してもらいます」
お父さんの目付きが鋭くなっている。
部屋の外に出ると、ヒューパ家のトートさんとカインさんがいた、私たちは足早に隣室へ入る。中には騎士団長さんと何人かの近衛騎士団の人がいて、みな緊張した顔で待機している。
最初に騎士団長さんが口を開いてうちのお父さんに話す。
「アルベルト、久々の再会で積もる話はあるが今回は無しだ、外の街の様子がおかしい、我々王家への反乱ではなさそうなのだが、そこのティアの名前を出して魔女を狩れと扇動している者がいるようだ」
……
はいー? ちょっちょお、この世界魔法があるくせに、魔女狩りとか有るんですか? 一発で目が覚めましたよ。
ちょっとばかし恨みを買った私には、心当たりがあり過ぎる。
まあ、常識で考えたらホラの男爵様一味ですかね……それだわ、どう考えても。
せっかく王様に取りなしてもらったのにシツコイね。
「調べてみると、最初に門でティアを襲撃したホラの騎士らしい。王がホラ男爵に問い詰めると、自分の指示ではないと言っているが確信が持てない」
そっちの恨みかー、それにしても魔女狩りといえば火あぶりじゃないですか、冗談じゃない、炎は懲り懲りだ、あんなデタラメな奴らに殺されてたまりますかっての。
「本来なら、ヒューパ家の家臣達と一緒に帰れは良い、だがまだ話し合いは終わってない、ヒューパ男爵アルベルトには、もう少しここに残ってもらわなければならない。
なので、先にティアを脱出させる為に策を考えた。アルマ商会こちらに来い」
あ、部屋の隅っこにアルマ商会さんがいた。
王様との話しが終わったあの後、ワイバーンをどうやって持って帰るか話してたので、私は手を上げて王様にアルマ商会さんを指差し、推薦しておいたのだ。
アルマ商会さんはビックリした顔をした後、悪そうな笑顔で私を見てお礼をしてたな。勿論私は幼女スマイルで返事を返したが。
呼ばれて前に出てきたアルマ商会さんが私たちの前で片膝をつく。
「ティア様、どうかわたくしにお任せください。街から脱出をさせてみせます」
アルマ商会さんは、昨日の私の推薦通り、王様からワイバーンの首都までの運輸と販売を任されていた。
私の脱出の基本計画は、まず先ほど解体をしていたワイバーンを詰めた木箱の一個を空箱にしておいたので、その中に私を入れて街の外まで運ぶ。
そして隊列には、中央近衛騎士団の二人を入れておき、街を出たところで、馬車の一つをそのまま一人の騎士の方が連れて消えてしまう。
この街では騎士が勝手気ままな行動をするのが当たり前なので、誰も騎士がやる事に口を出す者はいないだろう、街の暴徒からは安全に逃れる事ができますとの事。
そして我が家の騎士たちへの監視は厳しいので、騎士ではないムンドーじいじをアルマ商会さんの人夫へ紛れ込ませておく。
近衛騎士が私を下ろしたら、後はヒューパまでムンドーじいじに任される作戦だ。
アルマ商会さんの丁稚達の一部はファベル村での仕事を終え、ホラに戻ってきている。
人数の足らない分は冒険者ギルドから護衛を兼ねて多めに雇ったそうだ。
「大丈夫です、最近のホラは景気が悪く、仕事にあぶれた冒険者がすぐに集まりました。
ただ、一つ気になる情報が。
今朝早く私達が人を集める直前ぐらいに、中級の腕を持つ冒険者5名がこの街の騎士に連れられてどこかへ移動したそうです」
報告を聞く限りでは、すでに街道には待ち伏せがあると考えられ、これを避けるための会議が行われる。
会議の中でムンドーじいじが発言をする。
街道を少し行った先に艀が有るので、そこから渡し舟で川を渡り、南側の村へと続く道から山の中に入り、山道を通ってファベルの村で一泊する。
翌日ファベルから裏道でヒューパに戻るルートが一番安全だろうと、普段狩猟番で近くの山を知り尽くしているムンドーじいじの意見が採用された。
山道を通るなら時間がない、日が暮れると山には魔獣が出る。ムンドーじいじ一人でなら平気だそうだが、私がいるので明るいうちにファベルに着いておきたいそうだ。
私達は早速、脱出の作戦を開始した。
……
「…え、ちょっとこれ狭いんですけど大丈夫ですか?」
箱の中への詰め込み作業をされていますが、私、ちっこいのにそれでも入りにくいです。
門の所で検問されても大丈夫なように、空気穴は開けておくけど、二重底にして私の上にワイバーンのお肉を置くそうです。
昔映画で見たクスリや密輸品の悪徳商人の手口ですね。
さっきからニッコリ具合が深くなってるアルマ商会さん、この手のお仕事に手馴れてる様子ですがもしかして……
命が懸かっているので文句を言うのは、御門違いかもしれませんが、アルマさん、巻き込まれた事へ何か思う事がございませんか? 私狭いの辛いです。
実際に移動を開始してみると、隊商にはエウレカ公国の王家の旗が立てられているし、近衛騎士が二人も付いていたので、街中でも、門の前でも全く誰も近づいても来ませんでした。
私は身動きできないのに、さっきからゴツゴツと箱に頭が当たって痛いです。
この苦労に意味はあんまりなかったとは……
まあ、良いでしょう、街を出てしばらくして突然頭の上の暗闇が開けて空と若い騎士の方が見えます。
「ティア様、お気分は如何ですか」
私に問いかけてくれるのは嬉しいが、実際お肉の匂いとゴツゴツ頭叩かれて馬車酔いしています。
「はい、大丈夫です」
私はやせ我慢を選択しました。
ダメだって言ったとしても、今すぐ移動しないと命に関わるので、文句言う暇はありません。
「ではすぐにこちらへ」
騎士の手に掴まって、ムンドーじいじの馬に乗ります。
「ここまでの道のり、わたくしの為に危険な任務、誠にありがとうございます。」
若い騎士の手を両手で握って、目を見つめながらお礼を言うと、若い騎士は顔を赤くなってしどろもどろになっていた。
……ベック少年ほどではないな。
あ、お礼をしなきゃ、私はポケットの中の魔石を思い出す。
「今のわたくしにできるお礼はこれだけです、こちらを彼方に残ったもう一人の方と分けてください」
雪オオカミの魔石を二つ手渡す。
私はニッコリと笑って手を振って別れた。
あの若い騎士は木の陰で見えなくなるまで手を振ってくれてた。
良い人なんだろうな…
さあ、脱出行だ、お家に帰る。最初の私一人でどうにかしなくっちゃって思ってた時に比べれば、全然ヘッチャラだ。
今はムンドーじいじがいるし、馬のタオスが運んでくれる。
何とかなるさ。