遠い記憶の話。あたしは六歳。ママ、二十九歳。あたしはずっとママが憧れの人だった。みんなに優しくて、友達が多くて、料理がおいしいから。だから、あのときも、たくさんの人がママにお別れを言いにきた。
「ママ、今日は疲れたよね?」
「たくさん、お友だちきたからね」
「うん。愛ちゃんママに、パパのどーりょーの人でしょ、それにママの同級生の由希子ちゃん!」
「よく覚えてるねぇ」
ママ、話し方がいつもよりゆっくりだった。
「ママのお友だちみんないい人だからね、ジュース買ってくれたり、遊んでくれたりしたんだよ」
「そっかぁ。ごめんねぇ、ママが遊んであげられなくて…」
「へーきだよ!みぃはいつもこれ、持ってるの」
「あ、そうなんだぁ」
「うん。ちょっとさびしくなったらね、この日記を見るの!読んであげよっか?えっとねぇ…。『七月十九日。晴れ。美依子。みぃは今日、ママとお家の近くにある公園に行ってきました。公園にはお友だちがたくさんいました。だけどみぃはママと遊んだのが一番面白かったです』」
「ごほっ…げほっ…」
「ママ!?」
「…大丈夫だよ、もっと、読んで?」
「…うん。『七月十九日。晴れ。ママ。ママは今日、みぃちゃんと一緒に公園に行きました。みぃちゃんは友だちの愛ちゃんや奈々ちゃんと遊んで、とっても楽しそうでした。だから、ママたちも一緒に遊んでみました。愛ちゃんママや奈々ちゃんママも、みんなみんな笑っていました。みぃ、また一緒に行こうね』」
「…」
「…あれ?ママ、寝ちゃったのかな?」
それはあたしの勘違い。
「あ、みぃちゃん。ちょっとお姉さんと遊ぼう?」
それからあたしは看護士さんに連れられて、どこかの部屋に連れてかれた。そこでした、ゲームもパズルも、いつもより面白くなくて、あたしは気がついたら眠っていた。
目覚めると、黒い服のパパ。怖い顔をしてた。
あたしはそれから一生分くらい泣いた。
荷物の整理をしていたら、日記が出てきて、あたしはそんなことを思い出していた。ママが悲しんじゃうといけないから、涙は流していないけれど。
「ねぇー、あたしの料理って、おいしいかな?」
「すごく、美味しいと思うよ」
「当たり前じゃーん」
「美味しいですよ」
荷造りを手伝ってくれているみんなが答えてくれた(もちろん、夫が一番初めに答えてくれた)。
「ね、ママ。あたしはママに、なれたかな?」
空に向かってあたしは尋ねてみる。 |