case3 日番谷の受難
やたら断固とした声で松本が言った。
「隊長、そこに直ってください」
「俺が何したってんだ?」
「居直ってくださいとは言ってません」
俺は不承不承松本の前に胡坐をかいた。
俺の人生の中で、コイツに説教食らう場面だけはありえねえと思ってた。
「さて、問題です。隊長は何をしたでしょう」
「ガキのバットをかわして、最後に受け止めただけだろ。他に何かしたか?」
本気で思いつかねえ。松本はハラが立つほど長々とため息をついた。
「ユズっていう一護の妹を助けたでしょ」
「結果的にそうなっただけだろ。大体それのどこが悪いんだよ」
「ここがポイントなんでしょ!妹が助けられてたとき、ジン太は地面に伸びてた。
どれほどジン太のプライドが傷ついたか分かります?この状況」
「大げさだな。何が・・・」
はあっ!
松本がため息を通り越して声を出した。そして肩越しに黒崎を振り返る。
「ダメだわ、この隊長、このテのことにはまるでボンクラ」
「誰がボンクラだ・・・」
「だから!ジン太はユズちゃんのことが好きなんです!
でもユズちゃんは隊長のことが好き・・・魔のトライアングルが形成を」
「・・・乱菊さん。やめてくれよ」
黒崎が頭を抱えるのが見えた。
「・・・」
「ほら、ボンクラじゃないですか」
・・・を並べている俺にむかって、松本はダメ押しのようにボンクラボンクラ、はぁぁ〜ため息でちゃう、とやりやがった。
この女・・・一回くらい畳んどくか。
「で。仮にそうだとして、なんでジン太ってガキが切れてるんだ?さっぱりわかんねえ」
俺の言葉に、今度は松本が頭を抱えた。
「何でわかんないかな・・・
ジン太は、ユズちゃんの前でかっこいいとこ見せたかったのに、ライバル視してる隊長にあんなにかっこ悪い形で負けたんですよ?傷つかないわけ」
「ちょっと待て」
俺は松本の嘆きを途中で切った。
「俺は護廷十三隊の隊長だ」
「・・・はあ」
「百歩譲ってそんなのはどうでもいいとしても、俺は死神なわけだ。
なんでこんな人間のガキと、関わらなきゃならねえんだ」
「いや、それは」
「寝る!」
俺は宣言して胡坐を崩した。
バカバカしい。
ごろりと畳に転がって、もう一度そう思った。
「いいッスよ、乱菊さん。まだ遊子にはそんなのはええよ」
黒崎がいいオニイチャンな顔して言ってる。
しかし、妹の年は気にしても、相手が死神だって言うのはスルーか。
「ダメよ!」
それに対して、松本はやたら力をこめて言った。
「あたし・・・あたし、初恋、かなわなかったの。
だから、やっぱりね・・・昔のあたしと同じくらいの年の子、見てたらほっとけなくて」
「・・・乱菊さん・・・」
黒崎、そんな唐突かつベタな嘘泣きにひっかかるんじゃねえ。流れ的にオカシーだろ。
俺はそっぽを向いたまま言った。
「松本、懐からレンズでてんぞ」
はっ!
松本が懐に手をやって、
「なーんだ隊長、レンズなんて・・・」
言いかけて黙った。
俺と松本の目が合う。
「・・・松本」
「はい」
「こないだ出たボーナスで、お前でぢたるかめら、とか買っただろ」
「発音が変です、隊長」
「黙れ。そしてお前は、それで俺の写真集を、懲りずにまた作って売ろうとしてるだろう」
「すごーい隊長、なんで分かるんですか?」
「やっぱりそうか!!!」
俺は立ち上がり、ずかずかと松本の前まで歩み寄ると、松本の胸元に手をつっこんだ。
おぉ・・・
黒崎が声をもらす。
こいつの胸元はドラ○もんのポケット並みに、いろんなものが突っ込めるらしいからな。
ずい、と俺はでぢたるかめらを引きずり出して、一瞬で氷漬けにする。
おぉ・・・
黒崎がもう一度声をもらす。
器の小っさい男だな。
「あ・・・あたしの・・・」
松本は身を震わせている。
「あたしのデヂタルカメラ!よくも。よくも・・・」
無駄に霊圧があがる。こいつ、まさかとは思うが、まさか・・・
「唸れ、灰猫!」
やりやがった!
俺はすかさず腕を一振りした。その動作で水を呼び出す。
「あぁっ!灰が水浸しに・・・」
「無駄に始解するんじゃねえ!」
「もう隊長と一緒に戦えない!水浸しなんて・・・」
「相性わりい技だよな、お互い」
なんの悪意もあるのかねえのか、黒崎の一言が俺達のやり取りにトドメを差した。
そのとき、バタバタ・・・とすげえ音で廊下を走ってくる音がした。
バッシーン!!
障子が押し開けられたそこには、あのジン太とかいうガキが立っていた。
目を血走らせ、額には青筋立ってるが泣いてるようにも見える。
怒るか泣くかどっちかにしろ。
そいつは、俺のところにズカズカとやってきた。
そして、俺をビシ!と指差した。
「一億歩譲って!お前を俺のライバルと認めてやる!」
へっ?
イラネーとか。何がどうなってそうなるんだとか。
俺が適当な言葉をひねり出す前に、そいつは続けた。
「確かにお前は俺よりちょっとばかし強いかもしれねえ。
身長もたけえしな。でも・・・ぜったい、俺のほうが・・・キン○マはでけえ!!」
「・・・は」
「キン○マのでかさが男としてのでっかさだって、店長が・・・うぉぉっ?」
「た、隊長!卍解はダメです!一護とめてー!」
「ご乱心!ご乱心!」
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一日後。
「・・・日番谷隊長。そこに直りなさい」
「・・・はい」
俺は、現世の浦原商店を全壊した上、氷漬けにした罪状で、総隊長に呼び出されていた。
「で、一体なぜじゃの」
俺は石のように沈黙を守った。それ以外の何ができるってんだ。
「どんな理由があろうが、感情のままの暴挙など、小物のようなことをするでない」
小物。
それはどんな言葉より、俺を脱力させた。
「・・・申し訳ありません」
「うむ。罰として」
そらきた。虚の群れに放り込まれようが、流魂街の荒地に派遣されようがまぁ平気だ。
俺がこの件を頭から消し去ろうとした時。
「浦原商店を修理してきなさい」
「そ・・・」
それだけは勘弁してください、とか、そんなアホな、とか。
およそ死神らしくねえ言葉を、俺は喉の奥で飲み込んだ。
俺の受難は、まだまだ終わりそうにない。というか、始まりだった。
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