case2 ジン太の受難
「・・・てめー、好きな奴とかもういんのかよ!バッカじゃねえの?」
そうは言ってみたが、こいつはまだてんでガキだ。まさか、んなこたねーだろう。
だが。俺が全然考えてなかった顔を、遊子はしやがった。
頬をピンク色に染めやがった!
こっそり読んだウルルの少女マンガに、そういうシーンがあったのを思い出した。
「どんな奴なんだよ」
モノのついでって風に、うまく声は出したはずだ。
「んー、そうだねえ・・・」
遊子は瞳を宙に向ける。
「身長はあたしよりも低いの。髪の毛は逆立ってて・・・声がすごく低くてかっこいいの!」
なに・・・!
俺は衝撃に身をのけぞらせた。
それって、俺じゃねえか!
まて、落ち着け。
俺はこれからとんでもなくモテるはずの男だ。
こんなのは序曲にしか過ぎない。こんなとこで動揺してどうする!
やつはそのまま続けた。
「髪はね、銀色に光ってるの。
目は青緑みたいな、透き通ったスゴクきれいな色。
あたしを助けてくれたの・・・そのときに近くに顔があって。
ホントかっこよかった・・・」
ちょっと待て。
「そ、そいつの、名前は・・・」
少なくとも俺は白髪じゃねえ!
俺はプルプルしながらやっとのことで言った。
まったく、だれだか知らねえが、いらねえことしやがって!ぶっ殺してやる。
「お兄ちゃんの友達みたいなの。『日番谷冬獅郎』って。名前までかっこいいでしょ」
ふーん。俺の名前は花刈ジン太だ。日番谷冬獅郎か・・・
花刈ジン太 < 日番谷冬獅郎 = 名前のかっこよさ。
って・・・んなわけあるかぁ!俺の名前のほうがよっぽどいけてんだよ!
別に、遊子が誰をスキだろうと、知ったこっちゃねえ。
ねえがむかつくんだよ!
「ここで会ったが百年目!」
俺はそいつの前で仁王立ちになり、そう言い放った。
銀髪、青緑の目のガキ。間違いねえ。
こういうときはそういうので正しいんだよな。
あいては呆然としてやがる。そりゃ、俺が担いだ最強バットは只者じゃねえからな。
こんなのを軽々と担ぐ俺は、もっと只者じゃねえ。
「・・・何か用か」
それに対するそいつの返事は、それだけだった。
なんてつまらねえ返事だ。こいつはきっと頭が悪い。
「おい、何やってんだ!」
「やめたほうがいいっスよ〜」
外野がいろいろ言ってるが、この最強バットを担いだオレサマの半径3メートル以内は、いくら店長や黒崎だろうが入ってこれねえはずだ。
「がんばれ隊長!」
ん?聞きなれねえ声はギャルみてえな派手な女だ。
・・・隊長?
あだ名か。
「うるせえんだよ・・・」
茶化された日番谷はため息まじりに言った。
「かかってきやがれ、日番谷!何なら俺が先に!」
あ。
言い終わるまでに殴りかかっちまった。
こういうのは初めっから自分が先に攻撃するつもりでも、一応最後まで言わなきゃいけねえんだよな。
失敗した。
そう考えながら1メートルは俺は跳んだ。
そして最強バッドを大きく振りかぶる。
並みの死神じゃイチコロの、俺だけが扱える特製バッドだ。
それに対するあいつの反応は・・・
当たったか、と思った直前に、ふっと避けやがった。バッドが空を切る。
肩に刀を担いでるくせに、刀を抜く暇もなかったか。
矢継ぎ早に次々とバッドで殴りかかるが、当たりそうであたらねえ。
「・・・っくそ!」
当たりそうってのが余計ハラが立つ。
「いい加減に・・・」
渾身の力を込めて振りかぶった時だった。
角をまがって現れた女の顔に、俺は上空で凍りつく。
遊子!
「・・・えっ・・・」
上空でバッドを思いっきり振りかざした俺に、その場で立ち止まる。
「ばっ、ばか、よけろ!」
叫んだが、ムダだと分かってた。俺の神速バットを避けられるはずねえ。
そのとき。俺は目をつぶった。
が。バッドは振り下ろされなかった。途中で何かで止まったんだ。
「な・・・」
目を開けた俺の目に、遊子の姿は見えなかった。
しゃがみこんだ遊子の前に、日番谷が立ちはだかり、右手の甲で俺のバットを受け止めていた。
――ピクリともしねえ・・・。
そう思った瞬間。俺の体がくるりと宙を一回転した。
「うぇっ!」
そのまま地面に頭から落ちる。
「ひ、日番谷くん・・・」
「また会ったな。なんで俺の名前知ってんだ」
「お兄ちゃんに聞いたの。あたしはユズ」
ちょっと待て、この会話。
なんだ遊子のこのキラキラした顔。
あいつ、地面に転がった俺に見向きもしねえ。
いきなり殴りかかったってのに傷つきもしてねえし、心配もしてねえ。
なんなんだよ。
俺は立ち上がり、
「あ・・・ジン太くん!」
慌てて袖を掴もうとした遊子の手を振り払ってダッシュした。
日番谷冬獅郎。俺に屈辱を与えた男。絶対にゆるさねえ、って思いながら。
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