2 クマさん、少女と出会う
目を開けてみた。
マイホームじゃなかった。(ゲームにインするとマイホームに転送される)
知らない森の中だった。
装備がクマだった。
両手、両足、着ている服。
先ほどのキャンペーンでもらったクマの装備一式だ。
いきなり装備されているとか、なんの罰ゲームよ。
でも、着てみると意外と肌触りがいい。
手を見るとクマのてぶくろはパペットのようだ。
口をパクパクしてみる。
意外と可愛い。
周りを見渡すが誰もいない。
とりあえず、この恥ずかしい格好を見られないですむことに安堵する。
「とりあえず、着替えよう」
装備の変更はマイホームじゃないとできない。
アイテムボックスから転移アイテムを出そうとするがアイテムボックスが開かない。
バグ?
面倒だけど、一度ログアウトしてから、再ログインするか。
「なんで・・・」
ログアウト画面がでない。
仕方ない、少ないフレンド登録からフレンドを呼び出そうとするが画面は出ない。
とりあえず、場所を把握するために、マップの画面を開く。
「あれ?」
マップ画面が出てこない。
「ちょっと、どうなっているのよ」
ステータス画面を出す。
これは出た。
名前 ユナ
レベル 1
スキル 異世界言語 異世界文字
「なんじゃこれ~~~」
アップデートのミスか。
「おい、運営どうなっているんだ。わたしが一年間育ててきたキャラがレベル1とか賠償請求してやるぞ」
いや、金なんていらないからわたしの元のキャラを返せよ。
チロリーンと音が鳴る。
メールの受信の音だ。
運営からごめんなさいメールか、そう思ってメール画面を呼び出そうとするが出てこない。
「どうやって読めと」
そう思ったら、目の前にメール画面が開いた。
差出人 神様
ユナちゃんおめでとう。
アンケートの結果、君は当選しました。
パチパチパチパチ
君がいる場所はゲームの世界ではありません。
わたしが管理する世界です。
つまり、異世界です。
君にはこの世界で暮らしてもらうことになりました。
もちろん、裸一貫では可哀想なのでクマ一式をプレゼントしました。
他にもプレゼントがあるから頑張って探してね。
「新しいイベントかな」
とりあえずわからないので人を探そう。
異世界なんてどこの小説の二番煎じよ。
そんなの現実におきるわけないじゃん。
どこの妄想癖の変態よ。
問題は現在位置がわからないことだ。
レベルも1だし、こんなところで魔物に襲われたら死んじゃうし。
死んだら、マイホームに戻れるのかな?
とりあえず、森を出よう。
でも、流石に武器がないのは困る。
あるのは、パクパクと口が開くクマのてぶくろだけ。
周りを見渡しながら森を歩いているとちょうど良い長さの木の棒が落ちている。クマの口に咥えさせる。
「武器の代わりになるかな?」
手ぶらよりましなので持っていくことにする。
勇者がひのきの棒を装備している気分だ。
木の武器を持ちながら、クマの格好で歩いているとウルフが現れた。
ウルフは初期の街の近くに現れる初心者用の狼型の魔物だ。
とりあえずウルフのステータス画面を確認しようとするが画面が出てこない。
ウルフだって個体差によってレベルは異なる。
弱ければいいのだが、現在の武器がひのきの棒だから倒せるか微妙だ。
せめてもの救いは一匹ってことだろう。
木の棒を剣のように構える。ウルフが真っ直ぐ走って飛びついてくる。
いつも、ゲームでやっているようにちょいっと横に避け、木の棒をウルフの横っ腹に叩きつける。本来持っている剣なら一刀両断だろう。
ウルフは『キャイン』と泣き声を上げると動かなくなってしまった。
予想外に一撃で倒してしまった。
もしかして、勇者のひのきの棒。
棒を天高く掲げてみる。
まあ、冗談は置いておいて。
あれ?
ウルフを見るが変化が無い。
倒したのにアイテムに変化しない。
魔物は死ぬと消えてアイテムを落とす。
ウルフなら肉とか毛皮、運が良ければ魔石とか落とすんだけど。ウルフは消えない。木の棒でつっつくが動かない。間違いなく死んでいるはずだ。
さきほどのメールが現実味をおびてくる。
本当に異世界?
とりあえず、ここから離れよう。
ウルフの死臭を嗅ぎ付けて他の魔物がやってくるかもしれない。
流石にウルフを現実で解体する技術は持っていない。
ゲームや小説みたいにはできそうもない。
ウルフを倒してからしばらく歩くが、森を抜け出せないでいる。
「おなかすいた~」
アイテムボックスも開けないから食料も取り出せない。
いや、ゲームじゃなかったら食料が入っていない可能性も高い。
早く人を見つけないと魔物に殺される前に飢え死にしてしまう。
森の中を長い距離を歩いているがあまり疲労感がない。
このクマの靴のおかげだろうか。
恥ずかしいが便利な靴だ。
「誰か、助けて・・・・」
人の声だ。
危険かと思ったが初めての人の声だ。危険を承知で声がした方へ向かう。
走ると少し開けた場所に出る。
小さな女の子が倒れている。そこに三匹のウルフが襲い掛かろうとしていた。
女の子は腰が抜けているのか立ち上がろうとしない。
わたしは走りながら地面に転がっている野球ボールほどの石を3つ拾う。
黒クマの口にしっかり咥えさせる。
こちらに注意を向けさせるために石をおもいっきり投げる。投げる。投げる。
「あれ?」
石はウルフに当たった。
三匹のウルフは血飛沫をまき散らかして倒れた。
命中するとは思わなかった。
このクマ、命中補正でもあるのかな。
クマの口をパクパクさせてみる。
とりあえず、ウルフは死んだようなので女の子に近づく。
「大丈夫?」
黒髪の十歳ぐらいの女の子に声をかける。
そんなキャラ選択できないからNPCだろう。
「あ、ありがとうございます?」
「なんで、疑問形?」
「わたしを食べますか?」
「食べないわよ」
「くまさんですか?」
自分の格好を思い出す。
頭にかぶっている、かわいらしい熊のパーカー部分をとる。
「これで大丈夫」
「あ、はい」
女の子のステータス画面を呼び出してみようと思うがステータス画面は出てこない。
NPCでもなにかしら情報がでるはずなのに出ないとなると、バグか、本当に異世界なのか。
ウルフの血みどろの死体を見ると異世界の方が現実味が出てくる。
とりあえず、倒れている少女に話を聞くことにしよう。
「あなた一人?」
「あ、はい、お母さんが病気で薬草を探しに来たんです」
「あなたみたいな小さな女の子が?」
「お金がないんです。だから、街では薬草買えないから森に採りにきたんです。そしたらウルフに襲われて」
「街ってことは近くに街があるの?」
うん、良い情報ゲット。
「うん、あるよ。お姉ちゃんはクリモニアの街からきたんじゃないの?」
「ちょっと離れた所から来たのよ。街まで護衛してあげるから街まで案内してくれない」
「うん、いいけど」
「じゃ、行こう」
わたしが歩き出そうとすると、
「お姉ちゃん、このウルフこのままにするの?」
「わたし、解体なんてできないし、こんなの持って帰れないわよ」
「勿体ないよ。ウルフの毛皮も肉も売れるし魔石も安いけど売れるよ」
「あなた解体できるの?」
「うん、できるよ」
「じゃ、お願い。ウルフの売れた金額は折半でどうかな。わたしも助かるし」
「いいの?」
「いいわよ。わたしは解体なんてできないし、街に入ればお金が必要かもしれないから助かるし」
「うん、わかった」
少女は小さなナイフを取り出すと、上手に解体をしていく。
「うまいね」
「うん、たまに仕事でするから」
ほどなく三体のウルフは少女の手によって解体された。
毛皮、肉、魔石と綺麗に解体されている。
荷物は二人で分けて運んでいく。
アイテムボックスが無いのはつらいな。
ゲームなら触るだけでアイテム回収できるのに。
「街は近いの?」
「うん、近いよ。だから、薬草採りに来たんだけど」
「それで、薬草は見つかったの」
「見つけたよ。でも、帰るときにウルフに襲われて」
「それじゃ、今度こそ行きましょうか・・・・・」
名前を呼ぼうとして名前を聞いてないことに気づく。
「フィナです」
「わたしはユナ。それじゃ、フィナ行きましょうか」
しばらく歩くと森を抜け、遠くに城壁が見えてくる。
おお、意外と大きい。
遠くからでも城壁の高さがわかる。
あれなら、魔物に襲われることはないだろう。
街に着くまでの間、フィナに色々聞くことができた。
この世界はわたしが知っているゲームの世界ではなかった。
廃人プレイヤーのわたしが知っている街が一つもなかった。
アップデートによってできた新しい大陸って可能性もあるけど、話を聞くたびにゲームではない理由が増えていく。
街に行けばなにか情報があることを信じよう。
もし、プレイヤーが一人もいなければ異世界だと決めることにする。
街に入るには市民証やギルドカードが必要になるらしい。
わたしは持っていないと言うと、フィナは冒険者ギルドで貰えるよ。と教えてくれた。
でも、街に入るには銀貨一枚と、犯罪の有無を調べられるらしい。
わたしは犯罪を起こしたことはないから、大丈夫なはず。
とりあえず、街の入り口まで距離があるのでステータスを確認する。
あれ、レベルが上がっている。
名前:ユナ
年齢:十五歳
レベル:3
スキル:異世界言語 異世界文字 クマの異次元ボックス
装備
黒クマの手(譲渡不可)
白クマの手(譲渡不可)
黒クマの足(譲渡不可)
白クマの足(譲渡不可)
クマの服(譲渡不可)
おや?
スキルが増えている。
説明文を読む。
クマの異次元ボックス
白クマの口は無限に広がる空間。どんな物も食べる(入れる)ことができる。
但し、生きているものは食べる(入れる)ことはできない。
入れている間は時間が止まる。
ゲーム時代のアイテムボックスをゲットしたみたい。
ゲームのアイテムボックスも食材を長時間入れても腐らなかったし。
そう考えるとやっぱりゲームの中なのかな?
でも、その機能がクマに付いているって。
「ん?」
アイテムボックスも空っぽかと思ったら、お金が入っているみたいだ。
あと紙が一枚入っている。
白クマの口から紙を取り出して読んでみる。
(君が現実世界で大切にしていたお金を持ってきてあげたよ。もちろん、あちらのお金は使えないからこちらのお金に両替しておいてあげたよ 神様)
それはありがたいが、これで異世界の秤の重りが一つ増えることになる。
もし、本当に異世界ならお金は助かる。
この世で一番信じられるのはお金だから。
いくら、入っているか確認したら、とんでもない金額が入っていた。
でも、これって異世界でも一生引きこもれるんじゃない?
とりあえず、街に行ってから考えよう。
ユナ「現実でもゲームでも異世界でもやることは同じ。お金を稼いでのんびりライフよ」