331 クマさん、報告を終える
それぞれが椅子に座る。
「それでユナはどんな仕事をしたんですか?」
「デゼルトの街に荷物を届ける仕事を頼んだだけだ」
国王はあくまで、荷物を届ける仕事を頼んだことを強調する。
まあ、実際にその通りなんだけど。
「デゼルトの街? 湖の水が問題になってる街だよね?」
「知っているのか?」
「うん、でも学園にいる商人の子から、湖の水が少し問題になっているようなことを聞いたぐらいだよ。だから、詳しくは知らないよ」
まだ、大きな問題になっていないけど。噂にはなっていたみたいだ。
「その湖の問題を解決するために、偶然、王都にいたユナに水の魔石をデゼルトの街に持っていってもらった。ユナのクマなら速いからな」
国王はクラーケンの魔石のことは口にせずに、わたしに頼んだ理由を説明する。ティリアもその言葉で納得して、疑う様子はない。
「それで無事に魔石は渡せたのか?」
「渡すことはできたよ。ちょっと、問題はあったけど」
わたしが問題って言うと、国王の顔が変わる。
「なにがあった?」
「とりあえず、バーリマさんからの手紙を読んで。わからないところがあれば説明するよ」
わたしが始めから説明するよりはバーリマさんの手紙を読んでもらった方が早い。書いてある内容は知らないけど、バーリマさんの口調からすれば、今回のことが全て書かれているはずだ。
それに手紙に書かれていないことを話したら面倒になるかもしれない。
わたしは国王にバーリマさんから預かった手紙をクマさんパペットに咥えた手で渡す。国王は微妙な顔で、クマさんパペットから手紙を受け取り、手紙に目を通す。すると、表情が徐々に変わっていく。
そして、読み終わると頭に手を置いて溜め息を吐く。そして、わたしのことを見る。
「もしものことを考えて、おまえさんに行ってもらったが、こんなことになっているとはな」
「なに? なにが書かれていたの?」
国王は無言のまま手紙を差し出すとエレローラさんは立ち上がって手紙を受けとる。そこにティリアがエレローラさんの肩が触れるほどの近くによって、手紙を覗き込む。手紙を読むにつれ、二人の表情が変わっていく。
「あらら」
「本当に?」
「おまえには礼を言わないといけないな」
「届けるのが仕事。向こうでやったのは、わたし個人で勝手にしたことだよ」
「そうかもしれないが、保険としておまえさんを行かせたのは俺だ」
やっぱり、そうだったんだ。
届けるだけなら、わたしじゃなくてもよかったもんね。
「なにもなければ、問題はない。でも、なにか起きていれば、手遅れになるかもしれないし。俺の方から国の騎士や魔法使いを送ることはできなかったからな」
その辺りの理由もバーリマさんから聞いている。
隣の国の問題で国の騎士や魔法使いは送れない。あとは冒険者になるけど、依頼内容によってはランクが高い冒険者でないと駄目だ。
そう考えると、わたしを行かせるのがベターだったんだね。
「ユナちゃん、これに書かれていることは本当なの?」
「手紙の内容は知らないけど。嘘は書いていないはずだよ」
バーリマさんが嘘を書くとは思えない。あるとすれば大袈裟に書かれていることぐらいだ。
「ワームの数百におよぶ群れの討伐に……それに大きなワーム」
「それにピラミッドの地下探索に大きなスコルピオンの討伐……」
「ワームは他の冒険者と戦ったから、わたし1人の力じゃないよ」
わたしは掘り起こしただけだ。大きなワームは魔物一万のときに現れた大きなワームより、小さかったし、邪悪感は感じなかった。1万のときに現れたワームは、もう二回りは大きかったし、禍々しかったように感じる。今回のワームは普通の魔物だった。
それに、過去にブラックバイパーや巨大なワームの討伐は経験をしているから、楽に倒すことができた。
「でも、大きなスコルピオンは一人で倒したのよね」
「まあ、なんとかなると思ったから」
わたしの言葉に呆れる三人。
でも、王国にだって、スコルピオンを倒せる人物ぐらいいるよね?
「でも、地下の探索は、どうしてすることになったの? 書かれていないけど」
水晶板のことは書かれていないみたいだ。なら、わたしも話すことはできない。
「水の魔石の交換に必要なことだったんだよ」
「そうなの?」
「いろいろとあって、水の魔石を交換するには、大きなスコルピオンを倒さないといけなかったの」
嘘は吐いていない。本当のことは黙っているだけだ。
「それで、どうにか倒すことができて、魔石の交換を無事に終えたわけ」
「まあ、おまえさんのおかげで、無事に魔石が交換できたなら問題はない。ギルドカードを出せ」
わたしは椅子から立ち上がり、国王にギルドカードを渡す。国王は机の上にある水晶板に載せると、操作をする。そして、返してくれる。
「依頼料はギルドカードに多めに入れておいた」
「ありがとう」
「おまえさんはそれだけのことをしてくれた」
でも、お金を貰っても使い道は無いんだよね。
今度、何か作ろうかな?
「それにデゼルトの街に貸しができたと思えば安いものだ」
う~ん、国同士の駆け引きに使われた感じがするけど、今回は仕方ない。国王に頼まれたのは、あくまで荷物運びだ。手紙に国王がわたしのことを書いたとはいえ、バーリマさんに頼まれて、依頼を受けたのはわたし自身だ。
断ることはできなかったし、断らなくて良かったと思っている。だから、今回の件で国王に文句を言うつもりはない。もし、知らずに帰って、あとで悲惨な話を聞けば、後悔をすることになったかもしれない。
「それで、確認だが。スコルピオンを見させてもらってもいいか?」
やっぱり、そうなりますか。
「バーリマが承認をしているが、自国の領主ではない。俺が確認する」
「そんなことを言って、本当は見てみたいだけでしょう」
「わたしも見てみたいです」
エレローラさんに突っ込まれ、ティリアが手を挙げる。
でも、簡単に見せてほしいと言われても無理だ。こんな目立つお城の中で大きな魔物を出すわけにはいかない。
「それに、ギルドカードにスコルピオン討伐の承認のサインをすでにしている。おまえに拒否権はない」
なにそれ。
もしかして、わたしが渋ったときのために、先手を打った?
「他の人に見られて、騒ぎになってほしくないんだけど」
やんわりと断ってみる。
お城には多くの人が働いている。見られでもしたら、すぐに広まってしまう。それでなくても、わたしのことは広まっているんだから。
「なら、奥の中庭でいいんじゃないかしら。あそこなら、人は来ないし、それなりに広いでしょう」
「確かにあの中庭なら、関係者以外入ってこないな」
「そんな場所があるの?」
「まあ、簡単に言えば俺たち王族が住む場所だ。昼に清掃も終わっているし、この時間なら誰もいないだろう」
「フローラ様のお部屋の近くの中庭よ。ユナちゃんも見たことがあるんじゃないかしら?」
いつも、寄り道をせずにフローラ様の部屋に行くから、あまり覚えがない。
そして、わたしの了承を得てもいないのに、全員が席を立ち、わたしをドナドナしていく。
わたしは仕方なく、スコルピオンを見せることになる。
通路を進む。確かにこっちはフローラ様の部屋に続く通路だ。途中で、フローラ様の部屋とは違う通路を曲がる。こっちは行ったことがない。そのまま進むと中庭らしき場所にでる。
「ここなら、いいだろう」
「少しだけだよ。他の人に見られたくないから」
「それで、かまわん。確認だけだ」
わたしはスコルピオン大をクマボックスから出す。
「また、とんでもない物を倒したな」
「凄いわね」
「こんな魔物をユナが1人で」
三人はスコルピオンを一周する。「凄い」とか「大きい」とか「硬い」とか言っている。
「甲殻の一部が無いが、どうしてだ?」
「一緒にいた冒険者に譲ったよ。防具にしたいって言うから」
今頃、ジェイドさんたちは王都に到着して、作っているのかな?
いや、日にち的に、まだ王都に来てもいないかもしれない。これは、王都でフラフラしないで早くクリモニアに帰った方がいいかもしれない。
「それで、このスコルピオンはどうするつもりなんだ?」
「どうもしないよ。お金に困ったら売るぐらいかな?」
わたしには防具は必要はないし。使い道は売るぐらいしかない。
肉は美味しいのかな?
「おまえさんが、金に困ることはないだろう。でも、売ることを考えているなら、俺が買い取ってやる」
そういえば、クラーケンの素材も国王が買い取ったんだっけ。
クリフが街や自分の伝で売ると、自分のことを知られ、ミリーラの噂が本当のことになると思って、国王に引き取ってもらったと聞いた。
だから、今はクラーケンの素材はお城のどこかに眠っている。隙を見て、販売するとクリフから聞いている。討伐の噂と素材の出回る時期がずれれば、わたしが討伐した噂も、噂で終わると言っていた。
実際にジェイドさんもクラーケンの噂は知っていても、討伐したのが事実だと思っていなかった。
今回、スコルピオンを売れば目立つことになる。
「そのときはお願いするよ。それじゃ、もう仕舞うよ」
どこで売ろうとお金になれば同じだ。それなら目立たない方がいい。
わたしは国王に頼むと、クマボックスにスコルピオンを仕舞おうとする。
その瞬間、わたしを呼ぶ声がする。
「くまさん!」
声がした方を見ると、そこにはフローラ様とアンジュさんの姿があった。
「フ、フローラ様、危険です」
アンジュさんが慌ててフローラ様を掴んで止める。わたしは咄嗟にスコルピオンをクマボックスに仕舞う。
それを見たアンジュさんは「?」マークを頭に乗せ、キョロキョロとしている。
「いま、そこにいた魔物は?」
「何でもない。危険はない。気にするな」
わたしの代わりに国王が説明をしてくれる。
「それで、どうして、フローラがここにいる?」
「その、わたしがユナさんをお見かけしたことを聞いて、それをフローラ様にお話ししましたら、フローラ様がお部屋から飛び出してしまったのです。申し訳ありません」
アンジュさんは国王に謝罪をする。
どうやら、フローラ様はわたしに会いに来てくれたみたいだ。
でも、よく居場所がわかったものだ。
「くまさん……」
アンジュさんがフローラ様を掴む手を緩めると、フローラ様はわたしに抱き付いてくる。
フローラ様の顔を見ると、満面の笑顔だ。怖がった様子はない。スコルピオンを見ても怖くなかったのかな? それとも間に合った?
「フローラ様。魔物は怖くないんですか?」
「まもの?」
フローラ様は可愛く首を傾げる。
「どうやら、フローラは魔物を見ていなかったみたいだね」
ティリアがわたしたちのところにやってきて、フローラ様の頭を撫でる。
「おねえちゃん?」
フローラ様はティリアがいたことに、今気付いたみたいだ。
どうやら、フローラ様の目にはティリアのことも入っていなかったらしい。そのことを理解したティリアは悲しい顔をする。
「どうやら、姉より、クマの方が良かったみたいだな」
国王が笑いながらフローラ様に近付く。
「おとうしゃま?」
さらに国王がいたことも、声を掛けられるまで気付いていなかったようだ。
「お父様も見えていなかったみたいだよ」
ティリアはお返しとばかりに言う。それに対して国王は微妙な顔をする。
どうやら、フローラ様にはわたししか見えていなかったらしい。そのおかげで、スコルピオンは見ていないみたいだ。
喜んで良いのか分からないけど、これもクマの格好のおかげだね。
それから、わたしはフローラ様の部屋に行くのであった。
最後はフローラ様にドナドナされていくクマさんです。
次回はクリモニアに帰れそうですね。
ブックマーク、評価、ありがとうございます。総合評価10万超えました。
PV1億突破、ありがとうございます。来年になると思っていたら、超えていました。
両方とも少し気づくのが遅くなりました。
これからもよろしくお願いします。