257 クマさん、知らないうちに不幸にしていた
無事にお城の中に入れたわたしたちは、エレローラさんの案内でお城の中を見学する。
綺麗な渡り廊下を通り、お城の中を歩いていく。わたしにとっては見馴れた光景だけど。初めてのシュリはお城を目を輝かせながら見ている。フィナも久しぶりのお城には緊張しているみたいだ。
エレローラさんは前回わたしたちが見学したときと同じところを歩く。見学コースでもあるのかな?
まあ、一般人が入ったり、見たりしたらいけない場所もあるだろうし、ある程度決まっているのかもしれない。
そして、いろんなところを見学して、兵士や騎士が練習している広場にやってくる。
ここで、フローラ様に会ったんだよね。
あのときはいきなり女の子が抱き付いてくるから驚いたもんだ。それがお姫様と来たものだ。フィナなんて緊張で、なにも覚えていないって言うし。懐かしい思い出だ。
広場を見ると、こちらも前回と同様に騎士や兵士が練習している風景がある。剣と剣がぶつかり合い、大きな音を立てている。元ゲーマーとしては剣の練習風景もいいけど。個人的には魔法使いの練習風景を見てみたい。お城に仕える魔法使いの実力が知りたいところだ。
「うん? 今日は第三騎士団の練習だったみたいね」
エレローラさんが騎士たちの練習風景を見て呟く。
そして、目を吊り上げて、少し嫌な表情を浮かべる。
「みんな、他のところに行くわよ」
あまり、見ていないのにそんなことを言い始める。まあ、子供に見せるものでもないから別にいいけど。わたしとしても騎士や兵士の練習には興味はない。
「これはエレローラ殿ではないですか?」
この場から離れようとしたら、40歳ぐらいの髭を生やした男性がニヤニヤしながら声をかけてきた。見た瞬間、生理的に拒否反応を起こした。顔を合わせたくなかったので、クマさんフードを深く被り、フィナとシュリをわたしの後ろに下がらせる。ノアはすでにエレローラさんが自分の後ろに隠している。
「ルトゥム……」
エレローラさんが男を見て、小さな声で名前を言う。エレローラさんの表情は苦虫を噛んだような顔をしている。
「そちらは噂のクマと、エレローラ殿の娘さんですかな」
わたしとエレローラさんの後ろに隠れているノアを舐め回すように見る。
「娘が怖がるから、見ないでもらえるかしら」
「これは失礼。姉に似て可愛らしい娘さんですね」
「ええ、2人ともわたしに似ているからね」
エレローラさんが男の言葉に笑顔で返す。
「それで、エレローラ殿は見学ですかな?」
「ええ、あなたたちの練習の邪魔にならないように、立ち去るところだから、気にしないでもらえると助かるわ」
「いえいえ、ゆっくり見学をしていってください。騎士たちもエレローラ殿に見ていただいた方が練習に身が入りますから」
「気持ちは有難いけど、他の場所も見学をする予定だから、これで失礼させてもらうわ。みんな、行くわよ」
歩き出すエレローラさんにわたしたちは黙って付いていく。後ろを振り返って男を見ると、エレローラさんを睨み付けている表情があった。
「お母様、良かったのですか?」
「ノアは気にしないでいいわ。あなたには指一本触れさせないから」
エレローラさんはノアの頭に手を乗せて、優しく微笑む。
わたしのことも知っているみたいだったけど、気持ち悪い目だった。気になるけど、ここで聞いても教えてくれそうもなさそうだ。フィナたちもいるし、関わらないで済むなら、関わらないでおきたい。
そして、気分を入れ換えるためか、エレローラさんはわたしたちを庭園に連れてくる。
「うわあ、お花がたくさん」
「綺麗です」
「ここで、しばらく休みましょう」
「フィナ、シュリ。あっちに行こう」
「走って転ばないようにするんだよ」
「は~い」
ノアは二人の手を掴むと、奥の方に連れていってしまう。
残ったわたしとエレローラさんは庭園の中央に向けてゆっくりと歩き出す。
「三人ともあんなに楽しそうにして」
仲良くしている三人を見て、微笑んでいる。
「エレローラさん。さっきの男の人は? なにか、エレローラさんに対して態度が悪かったけど」
三人が居なくなったので尋ねてみる。
もし、三人に危害を与えるような人物なら、わたしの敵になる。
「わたし、彼には嫌われているのよ」
それは見れば分かる。
別れ際、エレローラさんを睨み付けるように見ていた。
「やっぱり、貴族の派閥とかあるんですか?」
わたしには分からない世界だ。まして、社会人でもないし、学校にも行っていないから、その手は無関係に生きてきた。まあ、漫画や小説の受け売りだ。
「もちろん、派閥もあるけど、彼の場合は恨まれているって言うのが正しいかしら」
もしかして、エレローラさんが無茶な指示を出したり、仕事をサボるから恨まれているとか?
「たぶん、ユナちゃんが考えていることは、きっと違うからね」
「なにも思っていませんよ」
人の心を読むのは止めてほしい。
「彼、ルトゥム・ローランド伯に恨まれる原因になったのはクリフが原因なのよ」
「クリフ?」
「まあ、元から仲が良かったわけじゃないけどね。少し前になるんだけど。クリフのところで働いていた者がいたんだけど。それが、かなりの悪さをしたのよ。それで、クリフが怒って処刑しちゃったのよね。その殺しちゃった人物が彼の肉親だったのよ。一応、表向きは賊に殺されたことになっているけど。気付かれていると思うわ。それで、わたしも恨まれることになっているのよ」
クリフが殺すなんて想像もできない。殺すってことは、よっぽど酷いことをしていたんだね。でも、相手にとっては肉親を殺されているんだから、恨むのも仕方ないのかな。でも、それって逆恨みだよね。それで、エレローラさんが恨まれるって、違うと思うんだけど。
「ちなみにユナちゃんも、関係があるのよ」
「わたしも?」
あまり、貴族とは関わりを持っていないから、恨まれるようなことをした記憶がない。
貴族の知り合いは、クリフとグランさんぐらいなものだ。
「ユナちゃん。サルバード家のことを覚えてる」
ああ、そんな貴族がいたね。
思い出したくもないけど。
「そのサルバード家の遠縁にあたるのがローランド家なの」
「それじゃ、あのときの息子は」
「ええ、ローランド家に引き取られたわ。そのこともあって、わたしが恨まれることになっているのよね」
「それじゃ、わたしも?」
「う~ん、それはガジュルドの息子次第だと思うけど。ローランド家に引き取られる前に、国王陛下が命令しているわ。今回のことは口外することを禁じる。身内だろうが、誰だろうが話すことを許されていないわ。もし、話したことがバレるようなことがあれば処罰されることになっている。だから、ガジュルドの息子はユナちゃんのことは誰にも話さないと思う。それに、こんな可愛らしいクマの格好をした女の子にやられたなんて、恥ずかしくて言えないだろうし。そもそも信じないと思うわよ。それにガジュルドの息子を引き取ったと同時に自分の領地に送ったそうよ。噂によると、使用人としてね。だから、彼の話は聞いてもいないと思うわ。ただ、手駒として使っていたサルバード家が潰されたことに、フォシュローゼ家が関わっているから、恨まれることになったのよね」
小さくため息を吐く。
「なにか、すみません」
「ユナちゃんは悪くないわ。ミサを救ってくれて感謝よ。それにサルバード家を潰すこともできたしね。それを考えれば彼に恨まれるのは安いものよ。元々、嫌われているしね」
あの件でも関わっているならエレローラさんを恨むのも分かる。
半分はわたしの責任みたいだけど。エレローラさんに迷惑をかけたみたいだ。
「それだけなら、仕方ないんだけど。まだ、恨まれる理由があるのよ。ユナちゃんがクリフのために魔物討伐してくれたのを覚えている?」
「まあ、一応」
1万の魔物を倒したんだ。忘れてはいない。あのときに倒した魔物の一部は、まだクマボックスに入っている。
「あのとき、ルトゥムは功績を立てるために率先して魔物を討伐に向かったんだけど」
エレローラさんがわたしの方を見る。
はい、わたしが全て討伐しました。
「ルトゥムは功績を上げることができずに怒ったわ。怒ったルトゥムはしつこく国王陛下に、討伐した冒険者のことを聞いていたわ。もちろん、国王陛下はランクAの冒険者であるということ以外は答えなかったけどね」
国王、ちゃんと約束は守ってくれていたんだね。感謝しないとダメだね。
今度、邪険に扱わずに美味しい物を差し入れしてあげないといけないね。
「でも、その討伐した冒険者がクリフと関わっていることは気付かれているのよ」
「そうなの?」
「クリフが冒険者ギルドのサーニャに出会ったことは知られているからね」
「わたしも一緒にいましたよ」
「だって、ユナちゃん。当時Dランクでしょう。誰も討伐したなんて思わないわよ。それにローランドは国王陛下から討伐したのはAランク冒険者だと聞かされているし、Dランク冒険者が倒すなんて考えもしないわよ。それに、こんなクマの女の子が倒したなんて思わないわよ」
確かに、Dランク冒険者が1人で1万の魔物を討伐したなんて、普通は思わないよね。まして、クマの格好した女の子が倒したなんて思うわけないか。
「さらに運が悪いことに、最近商売でも失敗しているようなのよね。鉱山で魔物が出現して、鉄鉱石が採れなくなったとき、大量に買い占めたらしいのよ。それで、儲けようとしたらしいんだけど。売り捌く前に誰かさんが鉱山の事件を解決しちゃったみたいなの。鉄鉱石が普通に採れるようになったせいで、かなりの損害が出たらしいわよ」
エレローラさんが笑顔をわたしに向ける。
それって、あのゴーレム事件だよね。でも、それはわたしは悪くないよね。冒険者ギルドの依頼で普通に倒しただけだ。しかも、倒したことになっているのはジェイドのパーティーとバカレンジャーのパーティーの冒険者だ。うん、わたしが倒したことにしなくて良かったね。言ったとしても、信じなかったと思うけど。
でも、クリフが肉親を処刑したこと以外は全てわたしが関わっている。せめての救いは相手がわたしが関わっていることを知らないってことぐらいだ。
「ふふ、でも、ユナちゃんは気にしないでいいわよ。馬鹿が金儲けしようとしたのが悪いんだから。いい気味よ。この話を聞いたときは久しぶりに笑ったわ」
エレローラさんは笑みを浮かべる。
「ユナちゃんのことは関係があるとは思っていないけど。でも、わたしたちの関係者とは思っているわ。もし、あの男が嫌がらせをしてきたら言ってね。わたしも国王陛下も力を貸すから」
「ありがとうございます。でも、今まで、何もなかったから大丈夫ですよ」
何度もお城に出入りしているけど、嫌がらせを受けた記憶はないし、そもそも存在も知らなかった。
今後もなにかが起きるとは思えないけど。せっかくの楽しい学園祭だ。フィナとシュリ、ノアもいるんだから、気に止めておくことだけはしておく。
当時、なにも考えずに書いた設定を使うときが来たw
エンズ・ローランドは孤児院のお金を横領した貴族です。そして、クリフに殺されています。ルトゥム・ローランドは兄です。
ちなみに、その話はユナは聞いてますが、忘れていますw
とりあえず、ユナがしたことで、考えられるだけの全ての不幸を被ってもらいましたw(後付設定ですw)