246 クマさん、学園祭のことを知る
全員、制服を着ている。
学校帰りなのかな?
「ユナさん、どうして王都に? 仕事ですか?」
「違うけど。みんなは、どうしてここに?」
全員で宿題でもするのかな?
ボッチのわたしは友達と一緒に勉強したことは一度もない。
まあ、必要もなかったしね。負け惜しみじゃないよ。本当に宿題ぐらいは一人でできたから必要無かっただけだよ。
「わたしたちは学園祭の出し物を話し合うためですよ」
「学園祭?」
勉強会ではなかったみたいだ。
「今度、学園で学生が出し物をするお祭りがあるんです。それに参加するんですが、出し物がなかなか決まらなくて」
わたしの質問にシアが答えてくれる。
でも、この世界の学校にもそんな学園祭や文化祭みたいなものがあるんだね。
中学時代、引き篭もっていたわたしは、学園祭の知識は漫画やテレビで見たことぐらいしかない。
でも、元の世界の学園祭と異世界の学園祭って同じなのかな?
ちょっと興味があるかも。
「面白そうだね」
「良かったら、ユナさんも見に来ますか?」
「いいの?」
「基本、王都に住んでいる者しか入場できないんですが、関係者なら、呼ぶこともできます」
う~ん、行ってみたいけど、そんな人が多いところにクマの着ぐるみで行っても大丈夫かな?
学園の出し物って勘違いされない?
逆にその方が変に見られないかも?
「それであなたたち、少しは出し物は決まっているの?」
黙って聞いていたエレローラさんが尋ねる。
「それが、みんな意見がバラバラで」
シアが三人を見る。
「それでわたしの家で話し合うことになったんだけど」
「バラバラってことは、いくつかは候補があるってことね」
エレローラさんが全員を見る。
先に口を開いたのはマリクス。
「俺は他のメンバーと一緒に剣の試合がしたい」
「魔法の試合もいいかも」
マリクスとカトレアは剣や魔法の試合がしたいみたいだ。
異世界っぽいけど、危なくないのかな?
「僕は、なにか作って売りたい」
とティモル。
「シアは?」
「わたしは試合でもいいんだけど。それって別にいつも授業でやっていることだから、学園祭でしかできないことがしてみたいと思っている」
「だから、試合をしようぜ。試合なら目立つし、なにも用意しなくてもいいから、楽だろう」
「そうだけど、試合なら、授業でもするでしょう」
「でも、他の人に見てもらえる機会はないだろう」
そんなに目立ちたいのかな。
それならクマの着ぐるみを着るといいよ。とマリクスにアドバイスをしたくなる。
「お店を出して、なにかを売ろうよ」
「なにを売るんだよ」
「それは屋台にあるような物かな?」
「他メンバーがすでに屋台を出すって話を聞いているぞ」
「ええ、美味しい材料のあてがあるとか言っていたわ」
マリクスとカトレアがティモルの案にダメ出しをする。
「マリクスとカトレアは試合形式の見世物で、ティモルはお店。シアは?」
三人の案を聞いて、エレローラさんが最後にシアに尋ねる。
「どっちって言えばお店かな」
「二人はお店じゃ駄目なの?」
「駄目じゃないけど。やるなら目立ちたい。お店だと目立たない」
「わたしは面白いお店なら良いですけど。みんながやっているようなお店なら遠慮したいですわ」
つまり、マリクスは目立つ店なら良くて、カトレアは珍しい店なら良いってことになるのかな?
珍しい物で目立って売れる物……そんな都合の良いものあるかな?
「ちなみにシアとティモルは試合の方はどうなの?」
「やってもいいけど。組む相手次第かな。試合をするのは大概が強い人ばかりだから」
「お店ができないなら、仕方ないと思う」
「つまり、お互いに良いってことね」
なにか、学生四人の話なのにエレローラさんが仕切っている。
もしかして、職業病?
エレローラさんって、仕切ったり、面白そうなことには首を突っ込みたがるタイプだよね。
でも、面倒なことはやらないタイプ。
「それなら、まずはお店で考えてみたら? 試合ならいつでもできるけど、お店を出す経験はできないでしょう」
「そうだけど。ティモルの奴もお店って言うだけで、良いアイディアもないからな」
「それはみんなで考えようって」
「こんな感じで、話が決まらないんです。早く決めないといけないのに」
シアが困ったような表情をする。
「それなら、シアもアイディアを出してくれよ」
「そうですよ。わたしたちはお店でも構わないんですよ。でも、そのお店をなににするかが、決まらないのでしょう?」
学園祭か。参加したことはないけど。出店を出したり、演劇をしたり、音楽をしたりするんだっけ。
でも、さすが異世界、剣術の戦いとか、魔法を使ったイベントとか面白いことをやるんだね。
他の異世界の特有の出し物ってあるのかな?
「ユナさん、なにか良いアイディアありませんか?」
「わたし?」
いきなり、わたしに話が振られた。
「ユナさん、クリモニアでお店をやっているんですよね。なにか、珍しくて簡単で人気が出そうなものってありませんか?」
「シア、それはユナちゃんに頼むことじゃないでしょう」
シアはエレローラさんに叱られる。
でも、簡単に作れて、人気が出そうなお店か。
プリンは作るのに時間はかかるし、卵の問題があるから却下。
ピザは石釜の用意をしないといけないし、教室でお店出すようなら無理だし、なにがあるかな?
「ユナちゃん、そんなに真面目に考えなくてもいいのよ。シアたちの問題なんだから」
エレローラさんの言葉に全員が黙ってしまう。
でも、少しだけ楽しみになっているわたしは考えてしまう。
別に学園祭で考えなくてもいいんだよね。
例えばお祭りとかなら、金魚掬いとか、輪投げに射的にお面? 食べ物なら焼きそば、かき氷、リンゴ飴、たこ焼き、イカ焼き、焼きとうもろこし、フランクフルト…………!!
ああ、忘れていた。
簡単に作れるものがあった。
前にフィナとシュリに作ったことがあったっけ。
二人ともあれは知らなかったけど。この世界にはないのかな?
でも、あの二人は苦労して育ったから、知らなかっただけかもしれない。
フィナたちが食べ物に困らなくなったのは、わたしと会ってからみたいだし。
「1つ、良い案があるけど」
「本当ですか!?」
わたしの言葉にシアが嬉しそうに声をあげる。
「あるけど、それが一般的に知られているか知らないんだけど。もしかすると、みんな知っているかも知れない」
「ユナさん、それはなんですか?」
「ザラメから作るお菓子で、綿のようなお菓子なんだけど。この国にあるのかな?」
「綿のようなお菓子ですか? わたしは知りません。みんなは知っている?」
シアは学生組に尋ねるが全員が首を横に振る。
最後にエレローラさんの方を見る。
「わたしも知らないわ」
エレローラさんも答えてくれるが知らないらしい。
どっちにしろ、このメンバーではあてにならない。
貴族の娘だったり、騎士の息子に、財務関係の息子だ。
一般市民のお菓子のことを知っている可能性は低い。
ここは一般市民の声が聞きたい。
そう、思っていると、ドアが開きスリリナさんがお茶を持って入ってきた。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
「スリリナ、ありがとう」
学生組の前にお茶を置いていく。
「いえ、なにかあればお呼びください」
メイドさんって一般市民だよね。
この中でもっとも、一般市民についてなら信頼できるよね。
「スリリナさん、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
部屋から出ていこうとするスリリナさんを引き止める。
「聞きたいことですか? わたしにお答えできることでしたら、構いませんが」
「ザラメって砂糖で作った綿のようなお菓子って知っている?」
「綿のようなお菓子ですか?」
スリリナさんは首を傾げて考え込む。
そんなに考えることかな?
「ちょっと、存じ上げませんね」
「なら、大丈夫かな? スリリナさんの話も聞きたいから、一緒にいてもらってもいいですか?」
「奥様」
スリリナさんがエレローラさんを見る。
「構わないわよ」
エレローラさんの許可をもらったので、クマボックスから綿菓子機を取り出す。
「ユナさん、これはなんですか?」
「綿菓子機だよ。これで綿のようなお菓子を作るんだよ」
これを作るのに意外と苦労した。
お店でザラメを見付けたとき、綿菓子が作れると思ったけど、なかなか上手に作れなかった。
でも、苦労した結果、綿菓子機が完成した。
ただ、苦労して作ったはいいけど、一回しか使われることがなかった。
だって、綿菓子って飽きるんだもん。
綿菓子はたまに食べるから良いものであって、毎日食べるものではない。それだけは言える。
次にわたしはお店で買ったザラメを取りだし、綿菓子機の中心の円形になっているところに入れる。
「それ、普通のザラメよね?」
「クリモニアでも王都でも普通に売っているものですよ」
見付けたのは王都だけど。あとでフィナにクリモニアでも売っていることを教えてもらった。
甘いお菓子を作るときに使うらしい。
「これでお菓子が作れるんですか?」
「まあね」
綿菓子機にある魔石に魔力を込めると、中央の火の魔石が熱を出し、ザラメが入った中心部分が高速に回転し始める。
すると、中心の円の横の穴から白い綿のような物が出始める。
「ユナさん! なにか出てきました!」
「これが綿菓子だよ」
どんどん、白い綿が出てくる。
おっと、見ている場合じゃない。それに割り箸じゃなくて、木の棒を用意するのを忘れていた。
クマボックスから数本の木の棒を取り出す。
そして、その一本を握ると、グルグルと回しながら綿を棒に纏わりつかせる。
始めは苦労したけど、今では少しは上手に作れるようになった。
綿菓子はどんどん大きくなっていく。
「ユナさん、凄いです」
「どんどん、大きくなるわね」
こんなものでいいかな。
綿菓子機を止める。
お祭り屋台で売っているような綿菓子が完成する。
若干、形が悪いのは仕方ない。
なかなか、上手にできないんだよね。
「できたよ」
みんなは驚いたようにわたしと綿菓子を見ている。
「どうしたの?」
「いや、不思議だったから」
「ユナさん、これは魔法ですか?」
「違うよ。砂糖のお菓子だよ」
シアに綿菓子を差し出す。
「本当に綿みたいです」
「本当ね」
全員が綿菓子を見ている。
「ユナさん。これはどうやって食べるんですか?」
貴族のお嬢様はかじったりはしないよね。
「手で一口サイズに千切って食べればいいよ」
「手ですか」
「もしかして、貴族は手で食べるの駄目だった?」
「いえ、そんなことはありませんが」
シアは綿菓子を見つめると、指で千切って口に入れる。
「あまい……」
「まあ、砂糖だからね」
それ以外の材料は使っていない。
「シア、わたしにも頂戴」
シアはエレローラさんに綿菓子を差し出すと、綿菓子を千切って口に入れる。
「本当に甘いわ」
「シア、わたくしにももらえる?」
「俺にも」
「僕も」
カトレア、マリクス、ティモルの3人が綿菓子に興味を持つ。
シアが綿菓子を差し出すと3人は同様に千切って口に入れる。
「一瞬で口に溶けるわ」
「不思議だな」
「うん、でも美味しい」
試食をした五人は初めて見るようだ。
「スリリナさん、こんなお菓子なんだけど。普通の人は食べるのかな?」
シアがスリリナさんにも綿菓子を差し出すと、千切って口に入れる。
「いえ、このようなお菓子は知りません。見たことも食べたこともありません」
「なら、大丈夫かな? これを学園祭で売ったらどうかな? 売れると思うんだけど?」
わたしの問いに学生組がお互いの顔を見る。そして、全員がわたしの方を見る。
「マリクスが言う目立つこともできるし、カトレアの珍しい物を売る。ティモルのお店がやりたいって意見も入っていると思うけど」
「ユナさん、とってもありがたいんですけど、いいんですか? こんなことを教えてくれて」
「販売すれば間違いなく売れると思う。でも……」
シアとティモルが未知のお菓子に戸惑う。
別にたいしたお菓子じゃないし。毎日食べるものでもない。
お祭りに食べるからいいんだ。小学生低学年の、お祭りのときに食べた記憶がある。
「ユナちゃん、わたしが言うのもあれだけど。お店を出した方がいいんじゃない?」
「このお菓子はお祭り用だから、商売をするつもりはないですよ」
「お祭り用? そうなの?」
「もし、気になるようだったら、製造方法は黙ってくれればいいし」
エレローラさんはわたしの言葉を聞くと学生組に目を向ける。
「あなたたち、秘匿することはできる? もし、できないようなら、わたしが許可を出さないわ」
「エレローラさん?」
どうして、学生の学園祭にエレローラさんの許可が必要になるのかな?
たかが綿菓子だよ。
「わたしはやってみたい。だから、誰にも言わないよ」
「僕も」
「わたくしもですわ」
「……俺も誰にも言わない」
全員がエレローラさんの指示に従う。
「わかったわ。ユナちゃん、悪いけど、この子たちに教えてあげてもらえる?」
そんなわけで学園祭の出し物は綿菓子になり、作る練習が始まった。
でも、なぜにエレローラさんが仕切るの?
遅くなって申し訳ありません。
活動報告に3巻の書籍情報載せました。
よろしくお願いします。
ってことで学園祭編が始まります。