221 クマさん、エルフの長に会いに行く
明けましておめでとうございます。
今年もクマ共々、よろしくお願いします。
わたしとサーニャさんは朝食を食べ終わると、この村の長であるムムルートさんのところに向かう。
サーニャさんは結界についての話を聞くために、わたしはクマハウスの許可をもらうために。
外に出るとサーニャさんに気付いた人たちが近寄ってくる。
「サーニャ、昨日帰ってきたそうだな。そっちの子がクマの格好をした女の子ね」
わたしの方を見るので、軽く頭を下げて挨拶をする。
「クマはいないんだね」
「あれは召喚獣なので」
そんな村の人たちと挨拶をしながら、ムムルートさんの家に向かう。
ムムルートさんの家はサーニャさんの家からそれほど離れていない場所にあった。
家の大きさはサーニャさんの家とさほど変わりはない。
でも、住んでいるのは祖父母の二人だけと言う。
「お爺ちゃん、来たよ」
サーニャさんはノックもせずにドアを開けて家の中に入っていく。
いいのかなと思いつつも、わたしも家の中に入る。
家の中からは反応がない。でも、サーニャさんは勝手に奥の部屋に向かっていく。
田舎だとこんな感じなのかな。とりあえず、わたしも付いていく。
奥の部屋に行くとムムルートさんが大きな敷物の上に胡座をかいて座っていた。その横には女性エルフが座っている。
「サーニャか、それと昨日のクマのお嬢ちゃんも一緒か」
「お婆ちゃん、ただいま」
お婆ちゃんと言うが、お婆ちゃんって年には見えない。40代ってところだ。
お婆ちゃんはサーニャさんが来たことに嬉しそうにしている。
「おかえり、そっちは噂のクマのお嬢さんだね」
「ユナです」
軽く頭を下げて挨拶をする。
「本当にクマの格好をしているんだね。それじゃ、わたしはお茶の用意をしてくるわね」
お婆ちゃん(には、全然見えない)は立ち上がって、奥の部屋に行ってしまう。
「それで、どうしてクマのお嬢ちゃんが一緒にいるんだ?」
わたしはムムルートさんに会いに来た理由を説明する。
「この村に住むのか?」
「ユナちゃんは移動式の家を持っているのよ。それを置かせてほしいみたい」
とりあえずは一時的に置かせてもらうつもりだ。永久的に置かせてもらうには理由付けが難しい。
住むわけでもないのに家を置かせてほしいとは言い出せない。
「サーニャのところでは駄目なのか?」
「駄目ではないんだけど。家があると色々と便利なんです」
結局、昨日はクマフォンを使えるタイミングが無く、フィナに連絡することができなかった。
それに自分の家のお風呂じゃないと落ち着かないのもある。
だから、できればクマハウスを建てたい。
「村の端でも、結界の隅っこでもいいんですが、置かせてもらえませんか?」
わたしのお願いにムムルートさんは顎を擦りながら考え込む。
個人的には村の中でなく、結界の隅の方が望ましい。もし、半永久的にクマハウスを置くなら目立たない場所の方がいい。
でも、それは先の話になるので、今は設置だけの許可をもらう。
「お爺ちゃん、お願い。ユナちゃんにはいろいろとお世話になったの。ユナちゃんのことはわたしが保証する。もし、ユナちゃんが村に迷惑をかけるようだったら、わたしが責任を持つわ」
信用してくれるのは嬉しい。わたしだって、エルフたちに迷惑をかけるつもりはない。
できれば友好的に仲良くなって、恒久的にクマハウスを建てる許可が欲しい。
「わかった。ただし、村に滞在をする間だけだぞ」
「お爺ちゃん、ありがとう」
どうにか、設置の許可はもらったけど、滞在期間だけだ。
サーニャさんがお願いして、やっと滞在期間中だから、今の感じからすると長期に家を建てるのは難しいかな。
「ありがとうございます」
許可が降りたので一応、お礼を言う。
「それで、どこに建てればいいですか?」
「迷惑にならないところなら、どこでもいい。ただし、近隣の許可はもらうように」
「はい」
わたしの話は終わったので、お礼を言って部屋から出ていこうとしたがムムルートさんに止められる。
「お茶も用意している。それに王都でのサーニャの話が聞きたい。サーニャとの話はすぐに終わるから待っていてくれ」
「いいんですか? これから、大事な話をするのではないのですか?」
「大丈夫だ。わたしたちの話を聞いても、クマのお嬢ちゃんでは理解はできない」
それって、わたしがお馬鹿さんって意味なのか、それともエルフに伝わることだから、理解ができないってことなのかな。
まあ、いてもいいならいることにする。
結界の話が聞けるのは楽しみだし。
サーニャさんのお婆ちゃん(見えない)がお茶と果実を持って来てくれて、頂きながら話を聞くことにする。
「ソレデサーニャ、オヌシハドコマデキイテイル?」
「ルイミントオカアサンカラキイタテイドダケド」
うん? いきなり2人の会話が聞き取り難くなった。
ちゃんと、耳掃除はしているんだけどな。
意味は無いけど頭を振る仕草をしてみる。
「ソウカ、これは一部の者しかしらないことだが、かなりの魔物が結界の中に入り込んでいる」
「そうなの!?」
ちゃんと聞こえる。
帰ったら一応、耳掃除が必要かな?
でも、やっぱり魔物が入り込んでいるんだね。
「ああ、だから、ラビラタたちが警戒をしている。おまえたちが帰ってきたときも護衛をしていたんだよ」
ああ、わたしが怪しいからじゃなかったんだ。
それじゃ、付け回されて気分が悪いとか言ったのは悪かったかな。
いや、言ったのはサーニャさんで、わたしじゃない。
「そんなに危険な状況なの?」
「下級魔物が入り込む程度だ。それよりも上の魔物は入り込んできていないが、結界は弱まっているから、時間の問題だと思っている」
下級魔物よりも上ってどの辺りを言うのかな?
オークあたりになるのかな?
「それで、結界が弱まった理由はなんなの? あと100年は平気じゃなかったの?」
ムムルートさんは首を横に振る。
「わからない。神聖樹になにかあった可能性がある」
神聖樹、なにそれ、世界樹みたいな木は。ファンタジーみたいな話が出てきたよ。
見てみたい。でも、駄目なんだろうな。
「神聖樹、確認の方は?」
「おまえも知っているように、神聖樹の中にはわしら血族しか入れない。わし、アルトゥル、サーニャ、ルイミン、ルッカの5人しかいない。ルッカは子供だ。ルイミンにはまだ任せるわけにもいかない。だから、おまえを呼び寄せた」
前に話していた人数の三人と関係があるのかな?
そう考えると、不便な結界だね。
まあ、亡くなったりはしないとは思うけど、全員が亡くなったらどうなるのかな?
「明日、三人で確認しに行く。だから、準備だけはしておいてくれ」
「了解」
サーニャさんは頷く。
「それで、なんでクマのお嬢ちゃんを、こんな遠くのエルフの村まで連れてきたんだ」
「わたしたちエルフが住んでいる場所が見たかっただけみたいだよ」
「疑うわけではないが、本当に大丈夫なんだな」
疑われているのかな?
見た目が怪しいものね。
でも、普通、本人がいる目の前で話をするかな。
「ユナちゃんは見た目は変わっているけど。とても良い子だよ。わたしも何度も助けられているし、ルイミンもお世話になっているわ。ここに来たのは本当に興味があっただけみたいよ」
「そうか、おまえが言うなら間違いはないな」
「うん、信用していいよ。ただ、注意した方がいいこともあるわ」
「注意だと」
ムムルートさんの目付きが変わる。
サーニャさん、何を言うのかな。そんなことを言ったら、怪しまれるじゃない。
「ユナちゃんは非常識の塊だから、行動の一つ一つに驚かされるわよ」
サーニャさんは笑いながら答える。
そんなに非常識なことをしているかな…………思い浮かべてみると……しているかも?
「非常識か。気を付けよう」
そう言うとムムルートさんはわたしの方を見る。
「長々と二人で話をしてすまなかった」
「ユナちゃん、ごめんね。二人だけで話しちゃって」
2人が謝罪をする。
「大丈夫だよ」
せめて、わたしの話をするなら、わたしがいないところでやってほしかったぐらいだ。
あと、わたしが聞いてもいい内容なのか疑問に思ったぐらいだ。
他のエルフが知らないことを聞いてしまった気がする。
この村の住人じゃないから、気にしていないのかな。
「でも、ユナちゃん。驚かないのね」
「なにが?」
「普通、エルフ語を話すと、みんな驚くんだけどね」
「…………」
今、なんとおっしゃいました。
エルフ語と言いましたか。
「基本、村でも標準語で話すんだけど、人に聞かれたくない話をする場合はエルフ語を使うのよ」
「村のことだから申し訳ない」
「…………」
つまり、二人はエルフ語で会話をしていたと。
そのため、二人はわたしに会話の内容が聞かれていないと思っていると。
これって、スキルの異世界言語のせいだよね。もしかして、異世界言語ってエルフ語も理解できるってことになるの?
だから、ムムルートさんは話を聞いても理解できないと言ったわけか。普通の人間がエルフ語を理解しているとは思わないから。
これって、理解していない振りをした方がいいよね。
「それで、クマのお嬢ちゃん。王都でのサーニャの様子はどうなんだ。しっかり、働いているのかい」
それから、ムムルートさんや、お婆さんのベーナさんに王都でのサーニャさんのことを聞かれるので話すことになった。
そのたびにサーニャさんが「やめて~」と何度、叫んだか分からない。
やっと、このネタが出せたw
異世界言語、これを考えたとき、他の種族の言葉はどうなるかなと思って、書いていました。
これは一定水準の言語としていますので、魔物や動物などの言葉は理解できません。