192 クマさん、料理人2人とお出かけする
グランさんはアイアンゴーレムを玄関のところに置こうとしたが反対者が多かった。
「お父さん、玄関だけは止めてください。初めて見る者は驚きますから」
「それがいいんじゃないか」
「ダメです。もし、玄関に置くと言うようでしたら、ユナさんに持ち帰ってもらいます」
他にも反対意見が出たため、グランさんは渋々と玄関に置くのは諦める。
そして、話し合いの結果。アイアンゴーレムは2階の中央通路に設置されることになった。
まず、お客様に簡単に見られないところであり、見せたいときは2階の階段を上がれば簡単に見せることができるためだ。
それならと皆が納得した。
そして、なぜか設置の役目はわたしの仕事になった。
「そんな重い物、簡単に動かせない」
と言われたら行うしかない。一度クマボックスに仕舞って、2階に上がったところの通路に設置する。
うん、格好いいね。
この鉄の質感が良い。土ゴーレムは脆く見えたり、綺麗じゃなかった。
シルバーゴーレムとか、ゴールドゴーレムがいたら3体を並べて飾りたいところだ。
ミスリルゴーレム(ハリボテ)は有ったんだから、いてもおかしくはないはず。
まあ、飾るだけなら、メッキでもいいかもしれない。
パーティーも終わり、ゴーレムの設置を終えたわたしは部屋に戻ってくる。
部屋に戻ってくると早々にドレスを脱いでクマの着ぐるみに着替える。
やっぱり、着ぐるみは落ち着く。そう考えている自分が恐ろしい。昔は恥ずかしかったけど。クリモニアの街が受け入れ始めているから、気にもならなくなっている自分がいる。
クマの着ぐるみが恋しくなるって、やっぱり呪いの防具だったかもしれない。
普通の呪いの防具は外せない物が多いけど。これは装備者本人が求めてしまうから質が悪い。
クマの着ぐるみに着替え終わったわたしはドレスをどうしたらいいかノアに尋ねる。
洗って返すにしても、ドレスの洗い方なんて知らないし。クリーニング屋があるわけでもない。知らないだけであるかもしれないけど。
でも、返そうとするわたしに、ノアは反することを言う。
「ドレスはユナさんに差し上げます」
こんな高そうなドレスを理由も無く貰うわけにはいかない。
「貰えないよ」
「いえ、交換です。そのドレスとくまさんのぬいぐるみと交換です。絶対にくまさんのぬいぐるみを下さい」
つまり物々交換ってこと。
先に支払っておけば、絶対にぬいぐるみを渡さないといけなくなる。
ぬいぐるみをプレゼントするのは何も問題はないけど。このドレスを着る機会はあるのかな?
「フィナも差し上げますから、ぬいぐるみはお願いしますね」
フィナは一生懸命に断ろうとするが、ノアは引かない。
「わたし、着る機会がないから。貰っても」
「フィナはミサのパーティーに出れて、わたしのパーティーには参加してくれないの?」
「そ、そんなことは……」
「なら、わたしのパーティーのときに着てくださいね。もし、サイズが合わなくなったら言ってください。こちらで調整しますから」
フィナもどうやら逃げ道を塞がれて、ドレスを貰ったみたいだ。
でも、そのパーティーにはわたしも参加するのかな?
パーティーが終わった翌日、朝早くからクリフとエレローラさんが部屋にやってくる。
簡単に言えば今後の予定だ。
クリフは3日後に出発するから、適当に過ごしてくれと言われた。
エレローラさんは適度に仕事をしてから帰るそうだ。
「ノアが3日後に帰るなら、わたしもその日に帰ろうかしら」
エレローラさんはしっかりと仕事をしてください。
そんな訳で帰るのは3日後になった。
「それじゃ、わたしは出かけてくるね」
「はい」
フィナたちに見送られて部屋を一人出る。
今日は久しぶりにフィナたちとは別行動になる。
フィナとノアはミサに庭にある花壇の花を見せてもらうことを約束をしたそうだ。わたしも誘われたが、今日は断って、食材の探索をすることにした。
玄関に来るとゼレフさんとボッツさんの姿があった。
「ユナ殿、お出かけですか?」
「そうだけど、ゼレフさんたちも?」
「はい、ボッツに街を案内してもらうことになりました」
「それで、クマの嬢ちゃんは1人なのか?」
「あの子たちは今日はミサに花壇やいろいろと見せてもらうみたい。わたしは一人で街の探索をしようと思ってね」
「なら、ユナ殿。わたしたちと行きませんか?」
「おい。ゼレフ。このクマの格好した嬢ちゃんと一緒に歩くのか!?」
そんな言い方をしなくても、確かにクマだけど。
でも、久しぶりの反応だ。
「でも、なんで嬢ちゃんはそんな格好しているんだ? 昨日の格好はマトモだっただろう。中身もそれなりなのに」
「昨日、見てて分かると思うけど、このクマはアイテム袋になっていたり、いろいろとあるのよ」
詳しいことは濁して説明をする。
「確かにあんなに大きなアイアンゴーレム。あと王都からパーティー用の食材も嬢ちゃんのアイテム袋に入れて持ってきたんだったな」
「それに、ボッツ。ユナ殿にお礼をしたかったのでしょう。街の案内ぐらいしてあげたらどうです」
お礼? ボッツさんにお礼を言われることしたっけ?
「……わかったよ。それでクマの嬢ちゃんはどこに行きたいんだ?」
「食材を見たり、時間があれば冒険者ギルドに行こうと思っているけど」
「そういえば、おまえさん、本当に冒険者なのか? ゼレフから聞いたが信じられん。まだ、料理人と言われた方が信じられる」
まあ、クマの格好だし、冒険者だとは思わないよね。
「まあ、いい。食材なら俺たちも行くところだ。案内してやるよ」
断る理由も無かったし、向かう先が同じなら断る必要はない。冒険者ギルドに行くようなことがあれば別れればいいし。
ゼレフさん、ボッツさん、わたし。珍しい組み合わせで屋敷を出る。
「クマの嬢ちゃん。今回はゼレフを連れてきてくれてありがとうな。おかげであの貴族に大きな顔をさせないですんだ」
ボッツさんが改めてお礼を言う。お礼ってそのことだったんだね。
パーティーは見ていないけど。みんなの話を聞くと、とんでもない貴族だったみたいだね。
「それにしても、どこであんな料理教わったんだ? プリンにケーキに生クリームだったか? ゼレフが言うにはもっと、美味しい料理を知っているって言うし」
「ボッツ。ユナ殿には聞かない約束ですよ」
「そうだったな。でもな、料理人として気にならないわけがないだろう」
「気持ちは分かります」
「でも、ゼレフは教えてもらったんだろう?」
「はい。わたしは教えてもらいました」
なぜか、ゼレフさんが少し自慢気に言う。
教えた理由を問われれば、フローラ様のためと答える。フローラ様がなるべく、食べたいと思ったときに食べてほしいと思ったから、ゼレフさんに作り方を教えた。
でも、そんなことを知らないボッツさんは悔しそうにしている。
そして、歩いている間もわたしの作ったプリンやケーキの話になっている。
「なんだ。王都にお店を出すのか?」
「ええ、ユナ殿の料理は今のところ知られていないようなので、わたしの管理の下で、お店を出すことになりました。だから、その店で働く者には作り方は教えていますよ。ボッツもお店で働きますか?」
「いや、俺はグラン様に恩義があるからな。拾ってくれた恩を返さずに行けない」
ボッツさん、見た目と違って、しっかりしているんだね。
「作り方、教えようか?」
「いいのか!?」
「別にいいけど。いくつか、約束を守ってほしいけど」
「約束?」
「他人には教えないこと。お店を出してもいいけど。しばらくは止めてほしい」
「しばらくとは?」
「王都のお店ができて、落ち着くまでかな? その辺はゼレフさんと相談かな」
「そうなると、第二店舗になりますね」
「お店を作るお金なんて無いから、安心しろ。それに約束は守る。契約書も書くぞ」
「契約書はいらないけど。あと最後にもう1つ。一番大事なこと」
「これ以上に大事なことがあるのか?」
人に教えない。店を作らない。これ以上に大事なことはある。
「ああ、なるほど。確かにグラン殿のところで働くなら大切なことがありましたね」
ゼレフさんは気付いたようだ。
「ゼレフは分かるのか?」
「わたしも約束させられましたからね」
「それほどの重要なことが……」
「あるよ。ミサが欲しがっても毎日は作らないこと。特にケーキは糖分が多いから、7日に1回、多くても2回かな」
これだけは譲れない。
あんな可愛い子が、太ったら可哀想だ。何よりも健康に悪い。
「……そんな下らない」
「くだらなくないよ。女の子にとっては大事なことだよ。将来、ミサが太って婚約者ができなかったらボッツさんのせいだからね」
「うう、そう言われると、大事なことだな」
「ボッツさんが、いつまでグランさんのところにいるか分からないけど。いる間はちゃんと食事の管理はしてあげてください。ミサが食べたいと言っても、毎日作ったりしないでくださいよ」
「わたしもフローラ様に作らないように言われましたよ」
「分かった。俺も約束しよう。ミサーナ様が作ってほしいと言っても、毎日は作らないことを」
作り方はしばらく滞在することになっているゼレフさんが教えることになった。
そして、市場的なところに来て、いろいろと見て回る。
「歩いているときも見られていたが、人が多いところに来るとさらに視線が多くなるな」
確かに買い物に来ている人やお店の人たちに見られているね。
クマと言う単語が聴こえてくる。
近寄ってきて、触ったり、何かを仕掛けてこない限り、気にしないことにする。
ボッツさんも料理を教えてもらうことになっているので、わたしに対して文句は言ってこない。
仕方なさそうにお店の案内をしてくれる。
お店に売っている物はクリモニアと然程変わらない。
あまり、クリモニアと離れていないからね。もう少し、気候が違う場所に行かないと変わった物は見つからないかな。
たまに元の世界でも見たことが無い物もあるが、食材の先生に聞いていく。
「あれは甘酸っぱい果物です。イチゴの代わりに入れても美味しいかも知れません」
「確かに、大人が食うには良いかもな」
「あれは、甘いですから、もっと甘くなりますね」
うん、勉強になるね。
「おじちゃん! そこの箱全部頂戴。そっちの果物もお願い」
「ユナ殿?」
「クリモニアにも売っているかも知れないけど。探すのが面倒だからね」
「だからって、多くないか?」
「孤児院の子供たちのお土産になるから大丈夫だよ」
「孤児院?」
そういえば知らなかったよね。
「わたし、孤児院の経営みたいなことをしているからね。その子供たちへのお土産だよ」
「おまえさん。そんなことまでしているのか?」
ボッツさんは驚く。
「まあ、成り行きでね」
「嬢ちゃん。どこかの貴族様か?」
「違うよ。普通の一般人だよ」
「普通ね」
疑うように見る。
元の世界じゃ普通の一般人だったから嘘は吐いていない。
品物の代金を払うとお店のおじさんは驚いた顔をする。まあ、こんなに大量に買うのは珍しいだろう。
決して、わたしの格好に驚いたわけじゃないはず。
そして、市場を一回りして、適度に買い物を終える。
ボッツさんはケーキやプリンの作り方を教わりたいようで帰ろうかと言い出す。
それに対してゼレフさんは了承する。
「ユナ殿はどうしますか?」
「冒険者ギルドに寄ってから、帰るよ。ボッツさん、ゼレフさんありがとうね。勉強になったよ」
「それは何よりです。今度はわたしが王都の穴場の場所を案内してあげますよ。いろんな場所から来た珍しい物が売っている場所があるんですよ」
なにそれ。凄く気になる。
ゼレフさんと約束をして、二人と別れて一人で冒険者ギルドに向かう。
そろそろ、ボッツさんの話だとこの辺りだと思うんだけど。
わたしがキョロキョロと辺りを見渡していると、
「くぅーん、くぅーん、くぅーん」
白クマさんパペットからそんな音? が聞こえてくる。
クマフォンの音だと気付くのに数秒かかった。
クマボックスからクマフォンを取り出すと、
「もしもし」
『ユ、ユナ、おねえちゃん……ミサ様が……』
「フィナ、フィナ、どうしたの! 返事をして」
『…………』
返事はない。
わたしはグランさんのお屋敷に向けて走り出した。
バカ息子が動きましたw
まあ、大きな裏設定とか、陰謀とかは無いので、淡々と終わるかと思います。
ちなみにクマフォンは神様のスキルから作った物なので、クマボックスからも聞こえます。