182 クリフ、パーティーに参加する (クリフ視点)
ユナがパーティーに参加しないのでクリフ視点になります。
ユナのおかげで料理人の確保ができた。
しかも、連れてきたのが王宮料理長だ。いったいあのクマは何を考えているんだ。王宮の料理人ならどうにか理解はできる。それが連れてきたのが一番偉い料理長だ。普通なら有り得ない。
出発したのが3日前の夜だ。あの召喚獣のクマがどれほどの速さか分からないが、王都に到着してすぐにお願いをしないと駄目だろう。いくら、エレローラの口添えがあったとしても、許可が下りるとは考えられない。
国王様に事前に連絡をしないで会う。料理長の貸し出しをお願いする。すぐに許可が下りる。食材は王宮から運んでくる。至れり尽くせりだ。
いったい、どうすれば国王様がそんなことをしてくれるんだ。不可解過ぎる。
後日、エレローラに詳しいことを聞かないとダメだな。
クマが行動すると好転もするが、同時に面倒ごとも持ってくる。
感謝はするが、全面的に感謝ができないのはそのせいだろう。
でも、連れてくるなら一言相談をしてほしかった。グラン爺さんも俺同様に頭を抱えていた。
エレローラが関わっているなら、一度国王様に顔を出して礼を言わないといけないだろう。それはグラン爺さんも同じことが言える。
後のことを考えると頭が痛くなるが、最高の料理人を連れてきてくれたことには変わらない。
今はこのチャンスを上手く活かすことを考えるべきだ。
いかにパーティー参加者をこちらに取り込むかが勝負になる。
グラン爺さんやレオナルドの奴が商人たちに根回しをしているが、芳しくないみたいだ。
現状の街の状態を比べれば誰しも弱い方には付きたくない。
でも、十年来のグラン爺さんにお世話になっている者も少なからずいる。その辺りから少しでも取り込んで、パーティーのときに、こちらに力があると思わせないといけない。
なるべく、多くの中立派を取り込みたいところだ。
会場には早目に入場して、参加者たちを待つことにする。メインはあくまで、グラン爺さんたちであり、今回は俺はファーレングラム家の補佐をすることに徹する。
俺は会場が全体的に見える位置に移動する。
時間になると参加者たちが徐々に集まってくる。
近隣の貴族から商人。街の有力者たちだ。
会場入りする入り口の方を見ているとヒキガエルのような顔をした男が入ってくる。ガジュルド・サルバードだ。今回のグラン爺さんの敵だ。
そのガジュルドの側にはユナたちに喧嘩を売った息子もいる。娘たちに喧嘩を売った話だけを聞いても殴りたくなってくる。ガジュルドの身内は二人だけだ。奥方は数年前に亡くなったと聞いている。
ガジュルドが会場に入ってくると、すぐに近寄っていく者がいる。ガジュルド側に付いている商人たちだろう。媚びを売るように、頭を下げている。
あのように隠すこともしないでガジュルドに付く馬鹿は怖くはない。一番怖いのは味方だと思っていた人物に裏切られることだ。
こちらの情報はガジュルドに流れるし、当てにしていた数も減ることになる。
なによりも疑心暗鬼になってしまう。
そんな相手がいないことを祈るばかりだ。
もちろん、グラン爺さんに挨拶をしてくる者も多くいるが、今のところパーティーに呼ばれた礼節みたいなものだ。勝負はパーティーが始まったときだろう。
グラン爺さんが挨拶をしているとガジュルドが近付く姿が見える。
「この度は50歳の誕生日おめでとうございます」
ガジュルドがゲスな笑みを浮かべながら挨拶をする。
よく、こんな奴の相手を今までしてきたと思う。グラン爺さんは人が良いのか、危機感がないのか。
「ああ、良く来てくれた。料理も用意しているから楽しんでいってくれ」
「王都の有名レストラン、元副料理長の料理を楽しませてもらいます」
お互いに挨拶をするが、グラン爺さんの手を見ると強く握りしめている姿がある。
その気持ちは分かるが、ここで喧嘩をするわけにはいかない。
ボッツを怪我をさせた人物が、ガジュルドの関係者だという証拠は無い。
人通りの少ない場所で襲われたため目撃証人も見付かっていない。
疑わしくても、こちらから訴えることはできない。今は我慢をするしかない。それがグラン爺さんは悔しいんだろう。
そろそろ開始の時間になる頃、グラン爺さんと息子のレオナルドが耳打ちをしている姿がある。
「何かあったのか?」
気になったので尋ねてみる。
「数名来ていない者がいる。それもわしに好意的に思っていた者たちだ」
「来てくれると約束してくれました」
「ガジュルドか?」
「証拠はない。確認を取りたくても、今は時間がない」
脅迫、または買収されたのかもしれない。
でも、証拠は無い。ただ、グラン爺さんに好意的だった者が参加していない事実が残る。
今は来ていない者のことを考えている時間はない。パーティーが始まる時間になる。
グラン爺さんは時間になるとレオナルドを連れてパーティーの挨拶をする。
「この度は忙しい中、わしの誕生日パーティーに参加していただき、ありがとうございます」
グラン爺さんの挨拶が始まる。だが、グラン爺さんの挨拶は短い。
簡単な出席のお礼の言葉と息子の挨拶をして終わる。
「料理も用意していますのでゆっくり楽しんでください」
グラン爺さんとレオナルドの挨拶が終わると料理が運ばれてくる。
立食パーティーだから、1人ずつには配られない。
それぞれのテーブルに料理がメイドによって並べられていく。
さすが、王宮料理長だ。見た目も匂いも美味しそうだ。
メイドの1人が飲み物を運んで来るのでコップを受け取る。
料理が並び、パーティーが始まると、参加者たちは楽しそうに会話を始める。
知り合いに挨拶をする者、グラン爺さんに挨拶をする者、サルバード家に挨拶をするもの。
そして、俺に挨拶をする者。
「これはクリフ殿、お久しぶりです」
「国王の誕生祭以来ですね」
近隣の1つの貴族だ。俺に挨拶を終えると、次の相手に挨拶に向かう。
基本、中立の立場だ。ファーレングラム家にもサルバード家にも一歩引いて観覧している。取り込めればいいが、難しいだろう。それはサルバード家も同様だから、お金などで動かない分、信用ができる。
グラン爺さんの方を見るとレオナルドと奥方が1人1人に挨拶に回っている。
見る感じ好感触は多いが、実際は分からない。
あとはグラン爺さんとレオナルドの交渉力が問われる。
俺がすることはファーレングラム家に付いていることを示して、グラン爺さんの交渉を有利に進ませるぐらいだ。
現状で俺の名前にどれほどの影響力があるかは、分からないが、無いよりはマシだろう。
挨拶も一通り終え、娘を見ると。ミサーナと仲良く料理を食べている姿がある。
ノアにはミサーナの側にいるように言ってある。サルバードのバカ息子が近寄ってくるかもしれない。ノアがどれほど役に立つかは分からないが、ミサーナを1人にさせておくよりはいい。
そのガジュルドの息子は他の子供を三人ほど連れて料理を美味しそうに食べている。
ガジュルドの息子がなにかをしてくると思ったが、今のところ杞憂に終わっている。
本当はユナに側にいてほしかったがパーティーの参加を断られた。
まあ、あの格好で参加すれば逆に絡まれる可能性の方が高い。
そもそもあいつはあのクマを脱ぐことはあるのか?
どうも、クマのあのイメージがこびり付いてしまって、想像ができない。
息子の方は大人しくしているが、父親のガジュルドの方を見ると、かなりの人数が挨拶をしている。
思っていたよりも数が多い。この様子を見れば中立派もサルバード家に寄るかもしれない。
こうなる可能性があったから、グラン爺さんにサルバード家を参加させない方がいいと進言したが、すでに招待状を送ったあとだから遅かった。
でも、招待状を送る前に少しは考えてほしいものだ。
「たとえ、呼びたくなくても、同じ街の領主だ。呼ばないわけにはいかないだろう」
それを適当な理由を付けて参加させなければいいんだ。
身内だけの小さなパーティーにするとか、いろいろあるだろう。
「周辺の貴族やクリフ。おまえさんも呼ばないといけなかった。なのに、サルバード家を呼ばない理由にはならない」
分かるが、納得はできない。
失敗すれば、このパーティーで勢力の構図ができてしまう。
今までは噂などで、中立派だった者も、このパーティーの構図を見ればどっちに付けば利益があるか、見た瞬間に分かってしまう。
もう、パーティーは始まっている。すでに呼んでしまったことに文句を言っても仕方ない。逆にファーレングラム家に好意的に思っている者が多いことを見せ付ければいい。
パーティも中盤になり、新しい料理が運ばれてきたときだった。
「もう、我慢ができない。なんなんだ。この料理は!」
声がした方を見るとガジュルドが怒鳴り声をあげていた。
「ファーレングラム家はこのようなマズイ料理をパーティーに出すのか!」
ガジュルドの大きな声のせいで、会場は静まり返る。
さっきまで美味しそうに食べておいてよく言ったものだ。
でも、このままガジュルドに喋らせるのはマズイことなのは確かだ。
「わしが用意した料理は口に合わなかったか?」
グラン爺さんがガジュルドに話しかける。
「ああ、美味しくないな。噂だと王都の有名なレストランの副料理長をしていた者の料理と聞いていたのに残念だ。それとも、違う料理人が作ったのかな?」
ゲスな笑みを浮かべる。
その気持ち悪い笑みを見ただけで、料理人のボッツが怪我をして料理が作れないことを知っているとわかる。証拠は無いが、ボッツを襲ったのはガジュルドだということは確信した。
「確かに料理人は怪我をして、別の料理人に作らせておる。でも、ボッツに負けず劣らずの料理人に作らせている」
「ほう、違う料理人か。だから、こんなにマズイのか」
スープを一口飲んで、不味そうな顔をする。
「確かに、美味しくないですな」
「ええ、味付けが二流、三流の料理人でしょう」
ガジュルドに合わせるように取巻きも料理にケチを付け始める。
先ほどまで美味しそうに食べていただろう! と声に出してやりたいが、あまりにもユナの予想通りになっているから、怒りも湧いてこない。
パーティーが始まる前にユナが可能性の1つに言っていた。
料理にゴミや虫を中に入れて文句を言ってくるとか、美味しい料理を美味しくないと言ってくるとか、いろいろとパターンがあると言っていた。
貴族のパーティーでそんな卑劣なことをする話は聞いたことはない。
普通はしないだろう。美味しい料理を美味しくないとか、他から見ればおかしいのはマズイと叫んでいる方だ。パーティーに不手際があった場合はそこを責める場合がある。でも、王宮料理長が作った料理だ。ガジュルドでもそんなことはしないと思っていた。
一応、ユナに対策法を聞けばゴミや虫を入れる場合は見張るしかないそうだ。
ゴミや虫を出した場所を確認して、証拠を押さえる方法。これはゴミが1つだった場合は無理だそうだ。
でも、この方法は無いと思った。貴族のガジュルドがゴミや虫を持ち歩くとは思えない。今回のパーティーには護衛やお付の者は参加できない。とユナに言うと、「なら、料理を貶す方法だね」とユナは言っていた。
どこで、そんなことの知識を得たと聞けば、物語の話ではよくあることだと言われた。
ユナはいったい、どんな本を読んでいるんだか。
でも、これほど美味しい料理をマズイとは良く言えたもんだとガジュルドに感心する。
普通なら周りがガジュルドがおかしいと思うが、数名同調する者も現れ、本来作るはずだった料理人が作っていない話を聞けば、グラン爺さんに落ち度があったと思われても仕方ない。
ガジュルドの目的はグラン爺さんを陥れて、パーティーを中断させるつもりなのかもしれない。
ここで、中止になればパーティー1つできない貴族となる。世間体が悪くなる。
パーティーはおもてなしができなければ失敗になる。
それにしてもこのタイミングで行うのか。
この時点ですでに目的の人数を取り込んだんだろう。
このまま中止になればグラン爺さんが話し合うのは難しくなる。
でも、これもユナの想像通りだ。
だから、対応策も存在する。
ユナ曰く、料理を作ったゼレフさんに登場してもらえば終わりとのことだ。
でも、普通に登場してもらうのではなく、演技をある程度してもらわないと駄目とのこと。
その話を聞いていたゼレフさんは「面白そうですね」と言って快く引き受けてくれた。
その後にユナがゼレフさんに演技指導をしていたが、どこであんな知識を手に入れてくるんだか? 不思議なクマだ。
「この程度の料理しか作れない者に、パーティーの料理を作らせるとはファーレングラム家も地に落ちたもんだな」
その言葉に笑う者もいる。遠くから見ている者は、どうしたらいいのか分からず、成り行きを見守っている。
そんなとき、待機をしていたのか、ゼレフさんが入ってくる。
その顔が笑っているのは気のせいだろうか?
勝手に墓穴を掘る貴族。テンプレですねw
次回、ゼレフさん視点?