161 クマさん、ケーキの作り方を教える
王都にお店の出店も決まり、嬉しそうにするエレローラさん。
そして、ケーキの作り方を実際に作ることで、ゼレフさんに教えることになった。
過去にプリンのレシピを渡したが、作るのに何度か失敗したそうだ。日本のレシピ本みたいに写真付じゃないから、上手く伝わらなかった部分もあったみたいだ。だから、今回は作りながら教えることになった。
「それじゃ、今から作ろうか」
「よろしいのですか?」
「ケーキも食べ終わったみたいだしね」
みんなのお皿の上に乗っていたケーキは綺麗に消えていた。
それに、ここを離れる理由を作ってくまきゅうを王妃様から奪還したいところだ。王妃様はケーキを食べている間もくまきゅうを膝の上に乗せたまま離さなかった。
くまきゅうを救い出すため王妃様を見ると、くまきゅうを抱き締めながら優雅に紅茶を飲んでいた。その膝の上ではくまきゅうが目を潤ませながらわたしを見ている。
今、救い出してあげるから待っていてね。
くまきゅう奪還作戦を行うために王妃様に声をかける。
「王妃様、これからゼレフさんにケーキの作り方を教えることになりましたので、くまきゅうを……」
「話は聞いていたわ。わたしが抱えていくから大丈夫よ」
王妃様はくまきゅうを抱いたまま立ち上がる。
え~と、なにが大丈夫なのかな? どういうことなのかな? もしかして、付いてくるの?
「あまり、ユナとゼレフの邪魔をするなよ」
「邪魔はしないわ。味見をするだけよ」
この王妃様、食べる気でいるよ。しかも、味見って王妃様がするようなことじゃないよ。普通は毒が入ってないか、毒見係りが食べてから王族が食べるものじゃないのかな。
まあ、あくまで、わたしの王族の知識だけど。
「わたしもあじみする~」
王妃様がそんなことを言うから、フローラ様までそんなことを言い出す。
そんなことでいいのか。この王族たちは。
それに、フローラ様はすでにケーキを2つ食べているでしょう。さすがに、小さい子がケーキを3つは食べられないと思うんだけど。
「それじゃ、俺は仕事に戻る。ユナ、ご馳走になった。今回も美味しかった」
国王は席を立つ。
できればくまきゅうを返すように王妃様に言ってほしいんだけど、国王は行ってしまう。
「それじゃ、わたしはお店の準備に取りかかるわね」
エレローラさんが国王の後を追う。エレローラさん、仕事はいいんですか? と言うツッコミはしない。あの人は本当にいつも、なにをやっている人なんだろう。
「ほら、ユナちゃん。行くわよ」
わたしがエレローラさんのことを考えていたら、王妃様に肩を叩かれた。
行きますけど。それよりも、王妃様。くまきゅうを返してください。
わたしの願いは届くこともなく、王妃様はくまきゅうを抱いて歩き始める。くまきゅうが王妃様の肩に頭を乗せて悲しそうにわたしの方を見る。救い出せなくてゴメン。
厨房に到着すると、ゼレフさんがドアを閉め、鍵をかける。
えっ、どういうこと?
「漏洩防止のためです」
わたしがゼレフさんの行動に疑問に思ったことを答えてくれる。
「ユナ殿から教わった料理を作るときは誰も入ってこないようにしてから作ってます」
「他の料理人の人はいないの?」
厨房は入ってきたわたしたち以外いない。
「ここはわたしの厨房ですから、他の料理人はいません」
もしかして、王族の料理に毒が入れられたりしないためかな。
厨房に人が沢山いたら、誰が毒を入れたか分からない。だから、安全性を考えて料理長以外はこの厨房に入れなくしているのかもしれない。
「それに、ここはユナ殿の料理を作るために作られた厨房です。原則、わたし以外の者には使わせませんので」
とんでもないことを言い出したよこの人。
普通、王族のために料理を作る場所ですとか言わない? それがわたしの考えた料理を作るために作った厨房とか言い出した。
もしかして、レシピの漏洩を防ぐためにわざわざ作ったの? だから、今までレシピの漏洩は無かったのか。
でも、普通、わたしのレシピの漏洩より王族の命の方が優先順位は高いと思うんだけどな。
まあ、この話は気にしないでおこう。
わたしはクマボックスから必要な食材や道具を取り出す。わたしが作りながら説明して、ゼレフさんがメモを取るって感じで進んでいく。たまに質問を受けるが作りながら説明する。
フローラ様と王妃様は見ているだけで楽しいのか、わたしが作る様子を見ている。
作っている途中で、庭園の片付けを済ましたアンジュさんが合流し、問題なくケーキ作りが進む。
「なるほど。そうやって作るんですか。それにしてもユナ殿は手際がいいですな」
「そう?」
「その若さで凄いと思います。わたしのところにいる部下と比べても遜色がありません」
「部下と同じじゃダメなんじゃ」
「そんなことはないです。一応、王族や貴族の料理を作る者が集められているんです。だから、皆、それなりの料理人ですよ」
部下と言われると見習いってイメージがあるけど、お城で働く料理人は違うのかな?
とりあえず、凄いのか凄くないのか、分からないところだけど。でも、褒めてくれていることだけは分かった。
「クマさん、すごいの?」
フローラ様が尋ねてくる。
「ええ、凄いですよ」
「そうね。凄いわね」
ゼレフさんと王妃様がフローラ様の問に答える。
「クマさん、すごい!」
「そんなことはないですよ」
わたしはスポンジケーキを焼いている間に作っていた生クリームが完成したので、スプーンで生クリームをすくってフローラ様の口元に運んであげる。フローラ様は小さな口を開いて食べてくれる。
「おいちい」
スポンジケーキも完成したので、イチゴを挟んだり、生クリームを塗る。そして、最後にイチゴを乗せてショートケーキが完成する。
「綺麗ね」
「おいしそう」
「ユナ殿、ありがとうございました。凄く勉強になりました」
「イチゴは季節ごとに違う果物と交換してみてね。合う合わないがあるから、その辺は自分で調べてみて」
「はい。どのような食材が合うか、いろいろ作ってみます」
「それじゃ、味見をしましょうか」
王妃様が完成したケーキを見て、そんなことを言い出す。
確かに作ったからには食べないといけないけど。お腹に入るのかな。まあ、庭園で食べてから時間も経っているから大丈夫かな。
フローラ様も喜んでいるみたいだし。
「それではわたしがお茶の用意を致します」
アンジュさんが申し出てくれる。
「ゼレフさん、お皿とフォークをお願いしていいですか?」
わたしがお願いすると、ゼレフさんはすぐに準備をしてくれる。
「料理長に指示をだすクマさん。もし、ゼレフの部下が見たら驚くわね」
王妃様が笑みを浮かべながらそんなことを言う。
確かに、ゼレフさんってお城の料理人の中で一番偉いんだよね。
見た目と行動で、そんな感じはしないけど。
ゼレフさんはそんなことは気にせずにお皿とフォークの準備をしてくれる。
わたしはゼレフさんが用意してくれたお皿にケーキを切り分けて載せる。フローラ様のお皿には通常の半分の大きさに切る。食べ過ぎると、夕飯が食べれなくなるからね。
「アンジュさんもどうぞ」
わたしは初めからアンジュさんにも食べてもらおうと思っていた。それはゼレフさんも同様だったのか、ちゃんとアンジュさんの分のお皿とフォークがあった。
「わたしには先ほど頂いた物がありますから」
まだ、食べていなかったんだね。
「あれはお子さんに食べてもらって、アンジュさんはこれを試食してみて」
確か、フローラ様と同い年の子供がいるんだよね。
「よろしいのですか?」
「いいよ」
「アンジュも一緒に食べましょう」
「アンジュ、たべよう」
「今後のために感想をお願いします」
「皆さん、ありがとうございます」
紅茶(フローラ様はミルク)も全員に行き渡り、作ったケーキを試食することになった。
そして、このとき、くまきゅう奪還のチャンスが訪れた!
この厨房には椅子が一つしか無かった。その椅子はフローラ様がわたしのケーキを作る作業を見るために使っていた。そして、今はケーキを食べるために使っている。だから、フローラ様以外は全員が立っている状態だ。テーブルがあるとはいえ、片手でくまきゅうを抱き抱えたまま食べるのは辛い。
王妃様はケーキを食べるためにくまきゅうをテーブルの隅に座らせた。くまきゅうが王妃様から離れた瞬間だった。
くまきゅうがわたしの方を見る。王妃様を見るとケーキを食べているところだった。わたしはくまきゅうに向かって頷く。
くまきゅうはゆっくりと動きだし、王妃様がケーキを食べている隙にわたしの方にやってきた。王妃様はくまきゅうの動きに気付いたが、すでにくまきゅうは手が届かない位置に移動していたため、見送る感じになった。
「ユナちゃん。くまきゅうちゃんを」
「大丈夫ですよ。わたしが抱いてますから、王妃様はケーキを試食してください」
王妃様はケーキを食べながら、残念そうにくまきゅうを見る。そんな顔をされても渡しませんよ。くまきゅうはわたしの腕の中で嬉しそうにしている。
今日は一緒に寝てあげないとダメだね。
試食会も終わり、ゼレフさんの質問にも答え、今日はこれで終了となった。
王妃様がずっとくまきゅうを見ていたけど、気に入ったのかな。
確かに肌触りが良くて可愛いけど。
くまきゅうの身の安全のために王妃様にもくまきゅうのぬいぐるみが必要かな?
ぬいぐるみをシェリーに頼むときは何個か頼むことにしよう。