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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、誕生日会に参加する
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155 クマさん、ケーキ屋さんの開店準備をする

 エレナさんの家族からも許可がおり? うちのお店で働くことになった。

 とりあえず、エレナさんに覚えてもらうことはケーキ作りだ。

 そして、ケーキ作りを始めて3日目。


「ユナさん。疲れました~」

「手を休めないでください」

「腕が痛いよ。疲れたよ~」

「手が止まってますよ」

「モリンさーん。ユナさんが苛めます」

「ちゃんとやりな。蹴り飛ばすよ」

「うう、はい」


 モリンさんに言われて仕事を始めるエレナさん。

 こんな姿をエレナさんの両親が見たらどう思うだろうか。

 泣きながら家に連れていかれるエレナさんの姿が想像できてしまう。

 まあ、確かに料理作りは疲れるし大変な作業だ。

 わたしは滅多に作らないから気にならなかったけど、卵など掻き回すと手首や腕が疲れる。

 うん、違うかな。わたしはクマの着ぐるみのおかげで疲れないのかな?


「エレナさん。それじゃ、これを使ってください」


 クマボックスからハンドミキサーもどきを出す。


「ユナさん、なにこれ?」

「掻き回す魔道具かな。これで楽になりますよ」


 ゴルドさんに作ってもらった。握るところに魔石が埋め込まれていて、魔力を流すことによって回転するようになっている。

 エレナさんをお手伝いしている子供たちが大変そうだったから作ったものだったのに。エレナさんはわたしから受け取ると、説明をする前に使い始める。


「なにこれ。こんな便利なものがあるなら、早く出してくださいよ~」


 嬉しそうに使いだすエレナさん。これなら、両親が見ても真面目に仕事をしているように見えるかな。

 お手伝いしている子供たちにもハンドミキサーモドキを渡してあげる。

 練習をするため大量のケーキができあがる。そのケーキは孤児院に持っていき、試食という名の処理を、子供たちにしてもらっている。

 練習で作ったとは言え、味の方も好評のようだ。

 あとは作る速度が上がれば問題は無くなる?

 

「ユナちゃん。ちょっといいかい?」


 エレナさんの特訓はモリンさんに任せて帰ろうとしたら、モリンさんに引き止められた。


「なんですか?」

「このケーキはこの店でだすのかい?」

「そのつもりだけど、ダメですか?」

「いや、店が大混雑しないかねと思ってね」

「なりますか?」

「現状でも、混み合っているからね。あのケーキの美味しさだからね」

「そうなると、他にお店を作らないとダメですか?」


 他の場所に店を作るとエレナさんを管理する人が居なくなってしまう。


「作らないのかい? てっきりユナちゃんなら作ると思ったんだけど」

「モリンさんが2人いれば作るんですけど」


 わたしはケーキを作っているエレナさんを見る。

 エレナさんは基本、真面目だ。やるときはやる。でも、先程みたいに『疲れた~』『腕が痛いよ~』とか言いだすことがある。

 エレナさんのご両親の言葉じゃないけど、たまにお(ケツ)を叩かないといけない。その役目をモリンさんにやってもらおうと思っている。なのに、別の場所にお店を作ってしまったら、エレナさんのお(ケツ)を蹴る人が居なくなってしまう。

 それにケーキと一緒にプリン、クッキー、ポテトチップス、などのお菓子類も一緒に販売をしたい。

 両方の店で作ると二度手間だし、片方の店だけだと、食べたいお客様が困ることになる。

 そう考えると、増築かな?

 お店の隣に建物を作って、キッチンを繋げる?


「ユナちゃん。なんなら、二階を使ったらどうだい?」

「二階ですか? でも、二階はモリンさんたちが使っているじゃない」

「寮があるんだろう? 一度挨拶で見に行ったけど、わたしたちがあそこに住めば問題はないだろう」

「でも、あそこの部屋はここほど広くないよ」

「ここの部屋はわたしたちには広すぎるよ」

「わたしもいいですよ」


 側で話を聴いていたカリンさんも頷いている。


「本当にいいの? なんなら、モリンさんのために家を建てますよ」

「それは嬉しいね。でも、あの寮でいいよ。孤児院も近くにあるからね。料理を子供たちに教えるのにも便利だしね」



 モリンさんは店が終わった後、たまに子供たちに料理を教えている。それを考えると寮に住むのも悪くはない考えだ。


 モリンさんの案を採用することになり、二階をケーキ屋さんにすることになった。お店を新装開店するために次の週の定休日から一週間ほど休みにすることにする。

 トラブルにならないように事前に告知は忘れない。


 休みに入るとエレナさんとケーキをお手伝いする子供たちは寮のキッチンで練習を行うことになり。モリンさん、カリンさんは引っ越しの準備をする。

 わたしは二階の家財道具を片付け、柱を気にしながら壁を取り壊す。

 壁が無くなると広いワンフロアが出来上がる。

 三階はないので、屋根裏を倉庫として活用する。

 一階のキッチンと行き来できるように階段を作る。そして、二階にもキッチンを作る。これで、エレナさんの監視をモリンさんに頼めるね。


 それからミレーヌさんとティルミナさんにはテーブルや椅子、キッチンに必要な物を頼む。

 さすがと言うべきか商業ギルドのギルマスのミレーヌさん。時間が無いのに手配をしてくれる。これが、ギルドマスターという権力なのか。

 これはミレーヌさんには1週間、ケーキの食べ放題チケットでも渡した方がいいかな。

 食べ過ぎて太るのはミレーヌさんだし。


 お店の改築はほどほどにして、細かいところはティルミナさんにお任せする。

 困ったときのティルミナさん頼りは便利だ。

 

 わたしは冒険者ギルドに向かい、ルリーナさんとギルに護衛の依頼をお願いする。

 トラブルは少しでも減らさないとね。依頼料は食事食べ放題で手を打つ。

 ゴルドさんのところでシュリのナイフの受け取りも忘れない。

 王都のガザルさんに頼んだナイフも出来上がっている予定だが、今は必要はないので、取りには行っていない。

 それに他にも優先的に行く場所はある。

 それはお店が開店して、騒ぎそうな人物のところに行って先手を打つことだ。


「ユナさん、お久しぶりです。どうしたんですか?」


 ノアのお屋敷に行ったら、メイドのララさんに部屋に案内され、待っているとノアがやってきた。


「今日はノアに新作のお菓子の試食をお願いしにきたのよ」

「試食ですか!?」

「今度、お店で出す新商品だよ」

「もしかして、プリンみたいな美味しい物ですか!?」


 目を輝かせるノア。


「ちょっと違うけど。美味しいと思うよ」


 コンコンとドアがノックされる。


「失礼します」


 ララさんが飲み物を持って部屋に入ってくる。


「ララさんも味見をお願いをしてもいいですか?」

「わたしもですか?」

「味の感想は多い方がいいからね」

「ですが、わたしは仕事中ですので」

「ララさんも一緒に食べようよ」

「ですが、ノアール様」

「いいから、いいから」


 ノアはララさんを引っ張り、隣の椅子に座らせる。

 二人の前に3つのケーキが並ぶ。一応試食用として小さくしてある。何個も食べられる人はミレーヌさんぐらいだ。


「それじゃ、二人とも。感想を聴かせてね」


 わたしはララさんが入れてくれた紅茶を飲みながら二人を見る。

 わたしは食べないよ。

 って言うか。実際、しばらくはケーキは見たくない。

 見るだけで胸焼けするよ。

 ケーキはたまにだから良いものであって、毎日はいらないよ。


「美味しいです」

「本当です。とても美味しいですね」

「今度、店で出すから、よろしくね」

「はい、絶対に買いに行きます」

「甘さとか、食感とか大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「そうですね。わたしは飲み物が欲しくなりますね」


 確かにそうだ。

 うちの店の飲み物ってどうなっていたっけ。

 新作のパンとかは味見したりするけど、新作の飲み物は飲んだことがない。


「ララさん、ちなみにこの紅茶は高いんですか」


 自分が飲んでいる紅茶を聞いてみる。


「はい、最高級の紅茶になります。特別に失礼があってはいけないお客様用です」

「冗談?」

「ふふ、どうなんでしょうね」


 笑って誤魔化すララさん。


「えーと、それじゃ、これってわたしが買うことはできる? 高級じゃなくてもいいんだけど。逆に安い方がお店に出しやすいからいいんだけど」

「安い紅茶は品質が低く、美味しくありませんよ」

「まあ、その辺は試飲してみるしかないかな」


 わたしが今飲んでいる紅茶が店で出せればいいんだけど。


「それにユナ様、紅茶を淹れるにもそれなりの技術が必要になりますよ。素人の方がやっても美味しくなるとは」


 テレビの特番でもそんなことやっていたっけ。いろいろあるんだよね。温度とか、茶の量とかお湯に浸ける時間とか、その他にもいろいろと。ティーバッグじゃないんだもんね。




 そう考えると、お店で出すのは難しいかな。

 どうしようかと悩んでいると、ノックせずに人が入ってきた。


「クリフ様!」


 ララさんはすぐに立ち上がって頭を下げる。


「申し訳ありません」

「ララさんはわたしが試食をお願いしたんだから、怒らないでよ」

「そんなことで、いちいち怒らん。執事のロンドは分からんがな。それでなにを食べているんだ?」


 テーブルに乗っているケーキを見て尋ねる。


「今度、お店で出す食べ物だけど」

「美味しいのか?」

「とっても美味しいです」

「はい、甘くてとても美味しかったです」


 ノアとララさんが答える。


「甘いものが大丈夫なら、食べる?」

「ああ、頂こうか」


 ララさんは椅子に座るクリフに紅茶の用意をする。

 綺麗な動きだね。紅茶を淹れる動きに、無駄がないように見える(素人目だけど)。


「美味しいな」

「甘くない? 一応、今度甘さ控え目のケーキも考えているんだけど。今は基本になるケーキを試作中なんだけど」

「甘いと言われれば、甘いが、美味しいな」

「甘いから、口の中を綺麗にしてくれる紅茶を用意したいと思ったんだけど。ララさんに聞いたら高いって言うし、淹れるのも難しそうなんだよね」

「紅茶が欲しいのか?」

「贅沢を言えば安くてある程度の美味しさがあると嬉しいかな」

「我が儘な奴だな」

「わたしのお店は一般の人のためだからね。あまり、高くしたくないのよ」

「あれだけ、美味しいんだから、金持ちだけを相手にしてもいいんじゃないか」

「美味しい物を食べる幸せは、皆でわけあうものよ。一人で食べても美味しさは半減するよ」


 引きこもり経験者は語る。


「もし、ノアとケーキを食べに行って高いから1人分しか買えなくて、一人だけ、ノアの前で食べたら美味しいと思う?」


 クリフは一瞬考えて、すぐに答えを出す。


「嫌だな。俺は食べないでいいから娘に食べさせる」

「でも、今の気持ちをノアにも感じさせるんだよ」

「そうだな。おまえさんの言いたいことはなんとなくわかった」


 わたしは感心したようにクリフを見る。


「なんだ、その顔は」

「ちゃんと、答えてくれたなーと思って。お金ならあるから、2つ買うとか、お金が無ければ食べに来ないとか、言うかな~と思ったから」

「バカにするな。質問の意図ぐらいわかる。だが、お前さんの言いたいことは分かった。うちが取引をしている商人を紹介してやる。味は保証するが値段の交渉はそっちでしてくれ」

「こういう場合、クリフが口添えをして安くしてくれるものじゃない?」

「わかった。一応しておくが、あまり当てにするなよ。商人なんてなにを考えているか分からないんだからな」

「うん、ありがとう」


 とお礼を言って、もう一つのお願いをする。


「それと、もう一ついいかな」

「なんだ?」

「ララさんに紅茶の淹れ方の講習会をしてもらえないかな?」

「わたしですか!?」

「葉が良くても淹れ方一つで味も変わるでしょう? だから、ララさんにうちのお店のみんなに紅茶の淹れ方を教えてもらえないかなと思って」

「ララか。確かにララが淹れる紅茶は美味しいな」

「クリフ様……」


 ララさんがクリフの言葉に感動している。


「わかった。いいぞ」

「お願いをしておいて、あれだけど。ララさんのお仕事とか大丈夫なの? ララさんの時間を取って、仕事量が増えて大変なことにならない?」

「その辺の調整は執事のロンドに任せるから大丈夫だ」

「それなら、いいかな。それじゃ、ララさん、お願いしますね」

「はい。美味しい紅茶の淹れ方をしっかり教えます」


 試食をお願いしに来たのに、予定外の紅茶をゲットできてラッキーだ。

 後日、ララさんがお店まで紅茶の淹れ方を教えに来てくれることになった。



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― 新着の感想 ―
ケーキを食べて太る事よりも虫歯を気にした方が良いよね パティシエは職業柄、虫歯になりやすいみたいだしね
[一言] 元の世界の中世ヨーロッパはそうだったかもしれないけど、この世界では冒険者向け宿屋レベルでも普通に男女別の個室型共有浴室があったりするので、上下水道が意外としっかりしてそうな感じに思えます。 …
[一言] 貴族の屋敷に於いて屋根裏等の上層階は基本使用人達が使っていますね。  理由として中世の時代背景で水回りが上層階に整備出来なかった事です。  トイレも上下水の設備が整うまで上層階に配置できませ…
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