133 クマさん、クマさん食堂を始める
シェリーが拐われて、数日が過ぎた。
店の準備も進み、開店に向けて、みんな頑張っている。
わたしも頑張っているよ。
店の外にクマを作ったり、店の中にクマを作ったり、店の外にクマを作ったり、店の中にクマを作ったりしたよ。大事なことだから、2回言ったよ。
入り口の前には食堂と分かるように、デフォルメされたクマがお皿とフォーク、スプーン、箸などを持ったクマを設置。さらに魚料理がでるお店と分かるように魚を咥えたクマを設置した。
内装は男性客が多くなると見越して、『くまさんの憩いの店』とは変えてある。
柱にはリアルクマが彫られている。
格好良さ重視だ。
参考にしたモチーフは蜂の木で出会ったクマ。
うちのくまゆるたちを参考にすると可愛くなってしまうためだ。
食材の現状はミリーラの町からお米も届き、魚介類も大量に冷凍保存されている。
エレゼント山脈の山頂付近で手に入れたスノーダルマの氷の魔石が役に立っている。
山が高く普通の冒険者では取りに行けないのが難点だ。
北に行けば雪も多く、簡単に入手できるらしいけど。わたしにはくまゆるとくまきゅうがいるから、山脈も簡単に登っていける。あの山を一般人であるラーニャさんたちが越えようとしたのは無理がある。
だから、今までミリーラの町とクリモニアの街の交流が無かったわけだ。
今はトンネルも完成し、交流も増え始めている。
そんなエレゼント山脈で手に入れた氷の魔石を、ミリーラの町の商業ギルドに渡してある。
無料で貸し出す代わりに、運賃を割引させてもらい、魚も優先的に回してもらうことで契約した。
そのことを後で知ったミレーヌさんは商業ギルドが不利過ぎる契約に怒っていたが、トンネルの件を持ち出すと静かになった。
一応、トンネルはクリフが管理することになっているが、商業ギルドも一枚噛んでいる。
通行料の一部は貰うことになっているが、長い目で見れば運賃の割引程度なら安いものだ。
商業ギルドは魚介類の販売、塩の販売を行っていく。さすがに塩は国王の下、クリフの指示によって行われるらしいが、商業ギルドの利益が出るのは間違いない。
塩がどのように作られるのか、細かい方法は知らないが、やり方によってはキツイ労働になるってファンタジー小説や漫画に描写されているものがあった。
だから、塩の話を聞いたとき、ミリーラの町の住人に迷惑が掛からないようにと伝えた。
もし、酷い状況が起きたら。
「自然崩壊でトンネルが埋まるかも」
と、クリフの耳元で囁いてあげた。
わたしとしてはミリーラの町の住人に迷惑が掛かってまで、お店を開くつもりはない。
クリフも分かっているようで、快く頷いてくれた。
お店の名前は『くまさん食堂』に決まった。
ミリーラの町から来た女性たちはわたし同様にネームセンスが無かった。
捻りがないと言ったミレーヌさんに関しては、考えてなかったと言い出す始末。
「わたしの役目は考えることでなく、みんなの案から決めることだから」
と言い訳をする。
もっとも、わたしも人のことは言えない。名前は考えていなかった。思いつかなかったが正しいかもしれない。それ以前にアンズが考えた『くまさん食堂』でいいと思っている。シンプルで分かりやすい。
だから、わたしは『くまさん食堂』に1票入れた。
アンズはもちろん、他のメンバーも『くまさん食堂』に入れた。
ほぼ、全員が『くまさん食堂』に票を入れたためお店の名前は『くまさん食堂』に決まった。
ミレーヌさんも反対することも無く、看板も作られることになった。
エプロンはシェリーによってクマのエプロンが完成した。よく人数分、短期間に作り上げたものだ。
エプロンは店で働く5人分だけでなく。応援に来てくれるニーフさんとアルンさんの分も用意され、さらに店で働くことになっている孤児院の子供たちの分も作られていた。
裁縫屋の夫婦もシェリーの速さには驚いたらしい。
さらに、シェリーが作ったのは、刺繍だけではなく、エプロンの作製も手伝ったらしい。
そのことで、シェリーは裁縫屋の夫婦に腕を認められ、今後、裁縫屋で仕事をすることになった。仕事は刺繍だけでなく、服の作り方や、いろんなことを学んでいくらしい。
未だに自分に自信がないのか『わたしが……』と呟いている。
でも、母親から教わったことが、認められて嬉しそうにしていた。どこまで、頑張れるか分からないけど、裁縫屋で仕事を頑張っていくことに決めた。
そのことでわたしにお礼を言われたが、わたしはなにもしていない。全ては、シェリーの実力と頑張りが認められたのだ。そのことをシェリーに伝えると、嬉しそうに微笑んでくれた。
お店も開店を迎えるにあたって宣伝をした。ミレーヌさん、ティルミナさんの宣伝。そして、なによりも、『くまさんの憩いの店』での試食会をおこなった。
アンズが魚を捌き、魚料理を試食してもらう。
さらに、お米でおにぎりを作ったり、タケノコご飯を作ったり、いろんな種類の炊き込みご飯を作って試食してもらう。
醤油を使った料理も複数作り、最後には鍋料理を作って『くまさんの憩いの店』に来店したお客様に配った。
損して得取れ、とことわざがあるぐらいだ。
いくら、美味しくても、未知の料理にお金は出しにくいものだ。でも、無料で食べて、美味しければ、次はお金を払って食べに来てくれる。さらに食べたお客様が美味しいことを広めてくれれば大成功だ。
一度食べてもらえさえすれば、アンズの料理は認められると思っている。
開店当日はお客様も多く。大繁盛だった。
試食会のおかげでクチコミは広がり、大勢のお客様が来店した。
人気料理は意外にもお米。炊き込み系が人気あった。
次は醤油関係になる。醤油が口に合ったのか醤油の味付けの料理の注文が多かった。醤油に惹き付けられて、魚介類も好調に注文が多くはいった。
一日が終わってみれば、お店の中は死屍累々の状態だった。
当日は孤児院のお手伝いをしているニーフさんとアルンさんも手伝いに来てくれたが、あまりの忙しさに、テーブルの上に倒れている。
もちろん、わたしも手伝ったよ。
入り口の前に立って、騒ぎそうな人物を威嚇した。もちろん、わたし一人じゃない。『くまさんの憩いの店』のときと同様に、ルリーナさんとギルにも手伝ってもらった。
お礼は料理1週間分で契約した。
そんな、3人の冒険者(着ぐるみがいる)? が入り口に立っているので、騒ぐ者もいなく、大きな混乱は無かった。
「疲れた~」
「死ぬわ」
「こんなに忙しいなんて」
「お給金の値上げを要求したいわ」
みんながわたしの方を恨みがましい目で見る。
そんな目で見られても困る。
初めに言ったはずだ。アンズの料理は美味しいから人気がでるはずだと。
でも、試食会が予想以上の反響を呼んで、大変だったのは事実だ。
「恨むなら、アンズの料理が美味しいせいだからね」
子供たちは疲れているが楽しそうに会話をしている。
どうやら、体力は子供たちの方があるみたいだ。
ほとんどの子が、鳥小屋のお手伝いや食事の時間になるとリズさんと一緒に孤児院の食事を作ってきた子たちだ。
孤児院にいる料理班から、5人も引き抜いてしまったから、リズさんには悪いことをした。
でも、店が落ち着けばニーフさんとアルンさんは孤児院の仕事に戻ってもらうつもりでいる。
「それで、アンズ。お店はやっていけそう?」
「始めは不安だったけど。こんなにわたしの料理を喜んで食べてくれるなんて嬉しいです」
「多すぎて大変だったけどね」
「まあ、初めは珍しく、店から遠くても足を運んでくれるけど。魚、お米の流通ができたから、いろんな店で食べられるようになるよ。そうなったら、お店も落ち着くと思うけど。そのときこそ、味勝負になるから、アンズの腕の見せ所だね」
「がんばります」
アンズは疲れきっている顔で元気に返事をする。
この調子ならお店は大丈夫かな。
アンズ編終了です。
書籍化祝いとして、VRMMO編の『くまクマ熊ベアー』のプロローグを書いてみました。
外伝みたいなものです。
相変わらず、プロットもなしに思いつくまま書いてます。
気になる方は読んでもらえると幸いです。
http://mypage.syosetu.com/507429/
本編は鉱山編になる予定です。
もし、更新が止まったらごめんなさい。