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蒼い騎士の帰る場所

作者:コトオト
よくある身分差モノを書きたくて。
 聖都は、帰還の宴に華やいでいた。
 国境付近に現れた魔物の集団を、派遣された王宮騎士団が退けたからだ。
 統制がとられていた魔物は、聖都国境付近の村を襲い、瘴気をまき散らし、人々を恐怖に陥れていた。その勢力は膨れ上がり、いつしか一つの部隊を作り上げ、聖都の王宮を狙うようになった。
 その魔物を蹴散らし、聖都の危機を救ったのは王宮騎士団のひとつの部隊。その団長が纏う色から〝蒼の騎士団〟と呼ばれている。
 民は喜んだ。これで、理性を失った魔物から襲われる恐怖もなくなる。夜に怯えることもなくなる。瘴気に当てられ原因不明の病に倒れた患者も徐々に回復し、被害も少なくなるだろう。

 聖都は、歓喜に包まれていた。




 歓迎の雰囲気もようやく落ち着く兆しを見せているようだ。
 それでなくても、聖都の片隅、王城の外れにある通称〝辺境の温室〟と呼ばれるここは、人々の喧噪を遠く感じることができる。
 それでもこの数日は、聖都全体を包んだ歓迎と歓喜の声に巻き込まれてはいたのだけれど。

 温室に植えてあるさまざまな植物の園。その一つ、人の背丈と同じくらいの木をかき分け、赤々と育った丸い木の実に手をかける。
 この実は魔法薬の材料となるものだ。そのまま食べれば軽い幻覚症状を呼び起こす不思議な果物。その効能を使い、いくつかの果物や薬と混ぜれば幻覚薬や麻酔薬になるが、ゆえに果汁の扱いには注意しなければならない。手につくぐらいなら問題はないのだが、口に入ったりすると症状を引き起こしてしまう。
 扱いを慎重に、けれど慣れた手つきで収穫できそうな実を鋏で切り取っていった。仕事自体は別段珍しいものでもなく、彼女にとっては日常そのものだ。
 歓喜に沸く祭りの日であろうと、植物の世話は欠かすことができない。こうした世話を怠ると、不思議な力を持つこれら魔性植物は、瞬く間に枯れてしまうのだ。



「――相変わらず大変そうだな」

 ふわりと空気が動いて、自分のものではない別の声が聞こえた。生い茂る緑と、ぽつぽつ覗く赤色の垣根の中へ、親しんだ深い青色が紛れ込んでいた。
 目を見開いて、それから目を細め、ゆるく首を振る。一連の動作をしている間に傍に来た青年を見上げ、ぽつりと返答した。
「そうでもないわ、これが仕事だもの。それに結構、楽しいよ?」
 ふぅん、と興味のなさそうに相槌を打ち、蒼色を持つ青年は無骨な己の指を木の実に伸ばした。
 剣で鍛えられた騎士の掌。今は籠手などの甲冑を外したシンプルな格好をしているが、やや鋭い蒼の瞳と、黒にも見える深い青の髪は隠しようもない彼の素性を表している。
 とがった顎と通った鼻筋。これといった表情を浮かべていないのが惜しいと評価されるくらい、笑みを浮かべれば女性などコロリと落ちてしまうだろう美丈夫が、すぐ傍に立っていた。
――歓迎の宴から抜け出してきたのだろうか?
「エオは、どうしてここに?」
「挨拶」
 短く答え、彼はむすりとした表情を崩さぬまま、傍らの彼女に視線を向けた。
「長旅から帰ってきたというのにねぎらいの言葉ひとつ寄越さない薄情な幼馴染の顔を見に来た」
「……期待に応えられたかしら?」
「概ね」
 昔から感情が乏しいと評価されてきた蒼い青年が、分かりやすく仏頂面をしている意味が理解できた。彼女は苦笑を浮かべる。
「……仕方ないじゃない。私は下っ端の魔法使い。かたや聖都を救った勇者様。王宮の宴で気軽に話しかけられる身分じゃないわ」
「その宴すらすぐ帰ったろ」
「……良く見てるのね」
「分かるさ。何年の付き合いだと思ってるんだ」
 彼は、聖都の王と姫の隣で、他の仲間と共に大きな広間を見下ろしていたはずだが。
 幼馴染とはいえ、身分の違いから同じ大広間でも許された場所が違う。あのバルコニーから良く自分を探し出せたものだと妙に感心する。
 自分の持つ人より色素の薄い髪は、その色だけで存在を希薄にする。特にああいった華やかな場所では。
「人が多くて、酔いそうだったの」
 宴から早く辞した理由を、そう話す。
 酒を持ち寄り、誰もかれもが皆笑顔だった。楽しそうだった。喜んでいた。
 その中で辛気臭い自分の顔は、相応しくない。
「……――リアム」
「なぁに?」
「……、いや」
 何かを話しかけようとして、結局それを止めたらしい蒼の青年は、ひとつ息を吐いて言葉を胡散した。
 その視線が目の前の赤い実をとらえ、果実を軽く撫でる。
「それで、何をすればいいんだ?」
「手伝ってくれるの?」
「一人じゃ大変だろう。ここは広い」
 呟く彼の横顔には感情もなく、面倒臭そうに答えるだけだ。彼女はわずか眉を寄せる。
「疲れているんでしょう? いいわよ、そんなの」
「疲れてない。十分休んだ」
 三日三晩華やいだ国全体の祭りだが、その間ずっと英雄たちがいたわけではないという。それもそうかと結論付ける。長旅で疲れた騎士団一行を終わりのない祭りに引きずり込むなど、恩をあだで返すようなものだ。彼らは早々に凱旋を切り上げ、湯を浴びて眠りにつき、一部の者を除いて帰りを待つ者の元へ帰還させたという。
 だが、彼はその〝一部の者〟に入るはずだが。
「じゃあ、こんなところで道草してていいの? いろいろ忙しいんじゃない?」
「……口実だ」
 その言葉に成程と思う。儀式だの謁見だの宴だのに振り回された勇者様がつかの間の脱走ということなのだろう。
 無骨な幼馴染は昔からかしこまった席が苦手だった。
 剣の腕を磨き、やがて王宮騎士となった後でも、謁見や他国への待遇の後ではやけに疲れた顔で帰ってきた。

「それじゃあ、傷のついたやつをもぎとって。果汁が体に入ると幻覚症状を起こすから、扱いには注意してね」
「あぁ、わかった」
 いかなる理由はあれど、休憩の場としてここを選んでくれたに違いない。身分差のある幼馴染の顔を見に来てくれたのも、彼の用事の一つ。
 気にかけて、安らぎを与えることができているのなら、素直にうれしい。






 しばらく無言で、けれど穏やかな気持ちで作業をする。渡した鋏が枝を切る音が二つ分、ぱちりぱちりと、音を奏でていた。
 こっそりと隣の青年を見る。
 相変わらずの仏頂面は、最初の頃よりはだいぶなりを潜めていた。機嫌が直ったらしいが、元来持った性格上、これが限界のようだ。
 そんな変わらない姿が嬉しくて、けれど同時に胸を突くような痛みを覚える。


――――育ったのは、山奥の穏やかな村。村人が助け合いながら暮らす、辺境の村だった。
 けれど彼にとっては退屈だったのだろうか。
 村を出て、世界を見てみたいのだと言い、有言実行の彼はそのまま聖都へ向かった。
 それに無理やり付いてきたのが自分だ。
 幼心に離れたくなかった。その気持ちは小さいころから彼女の秘密だった。


 聖都にて、彼は剣の道を、彼女は薬草を専門で扱う魔法使いの道を選んだ。
 魔法使いとはいえ、王宮魔道師とは違い大掛かりな魔法を使えるわけではない。来る日も来る日も植物と戯れ、小さな薬を作り出す彼女とは裏腹に、彼は天賦の才能を開花させた。
 小さな村とはいえ自警団があり、村の子供は剣を習う。その中でも村一番と評された彼の剣は聖都でも発揮され、とんとん拍子に出世、聖都を守る王宮騎士の一人として名をはせるようになった。
 そのころにはもう、隠しようもない身分の差が出来上がっていたのだけれど。
 それでも彼は暇を見つけては、ここ、王城の片隅に足を運んで彼女を見つけてくれた。
 そして今回――見事彼は役目を終え、帰還。英雄となる。


 王宮騎士就任の儀、選定の儀、出発――帰還し、王と共に姿を現した蒼の青年。
――知っているけれど、知らない青年が、そこにいた。


 そのことがひどく――寂しかった。




 小さいころは穏やかな気持ちだった。
 年を重ねるごとに欲張りになった。
 けれど、彼にとって自分は妹みたいなものなのだ。
 公の場所で、知らない青年の姿を見つけるたび、離れていこうと思った。離れなければと思った。けれど彼は、昔と変わらない関係を、ずっと続けてくれた。
 ……そのことにほっとして甘えていたけれど、そろそろ頃合いだ。

 彼は、――エオは、姫との婚約をするらしいと、そう聞いたからだ。










「…………どうした?」
 ふいに彼がそう呟いた。蒼の瞳がこちらを見下ろしている。知らぬ間にぼんやりしていたようだ。
「なんでもない」
 宴の間で危うく見せるところだった陰鬱な表情を、この場で悟られるわけにはいかない。この気持ちは自分の勝手であって、彼には関係のないことだから。
 ゆるく首を振り果物を手に取るけれど、隣から発せられる無言の圧力に手を止めた。
 ……どうやらまた機嫌を損ねてしまったらしい。
「……植物ってなに考えてるんだろうなぁって、思ったの」
 仕方なくそう話すと、彼は少し首を傾げた。
「どういうことだ?」
「だってもとは自然のものだったのに、人間の手にかかって望まない変化をされて。手入れをしてやらなきゃ育たないし、言葉を使わなきゃ届かないし」
 話をそらすために使った話題だが、こっそりどこかで感じていた思いでもある。
 少しだけ、隣の彼が笑う気配がした。
「魔法使い様の言うことじゃないな」
「魔法使いって言っても私は薬師みたいなものよ。王宮魔道師様とは違う」
「そろそろ、弟子を卒業して独り立ちすると聞いたが?」
「……誰から聞いたの?」
「それにリアムの作る薬は丁寧で効果も抜群だと、そう聞いてる」
「……それも誰から聞いたの?」
 答えない蒼の青年は、久しぶりに見る薄い笑みを浮かべていた。
 確かに、近年になってようやくリアムは満足のいく魔法薬を作れるようになり、そこそこ良い評判ももらっている。特に隠しているわけではないのでどこかの噂を聞いたのだろうが、まさかそんなことまで耳に入るとは。
 蒼の青年は頭上の果物に手を伸ばす。視線を向けないまま、こう言った。
「――リアムと同じだろ」
「……は?」
 思わず口をついて出た言葉に眉をしかめて、珍しく砕けた声でこちらを向く視線を慌てて逸らす。
「年月をかけなければ成長しない」
「……、エオ!」
 とたん、眉を吊り上げる。
 その通りだが、言われると腹が立つものだ。
「それに言葉がなければ届かない」
 ぽすんと、二人の間にある籠に果物が落ちる。
 どういうことだと眉を寄せると、すいと視線が落ちてきた。
「リアム。俺は少し怒っている」
「……」
「もう一度言うぞ。俺はここに、ねぎらいの言葉ひとつ寄越さない薄情な幼馴染の顔を見に来た」
「……」
 ひとつ瞬きをして――彼はようやく、大きな使命を終えた後だと、気が付いた。



 華やいだ功績の陰に隠れた、過酷な任務。
 命の危険すら伴う、もしかすれば生還すら危うかったその使命を終え、彼はここに帰還した。
 そのことを――忘れていた。




 恥ずかしくなる。そうだ、確かに嬉しかったのだ。最初は。
 良かったと、無事で良かったと何度も思った。エオの率いる騎士団が選ばれたと聞いたときは胸が潰れそうだった。何度も泣いた。何度も願った。無事で。どうか、無事で。
 勝利の吉報を聞いたときは崩れ落ちそうだった。良かったと、心の底から喜んだ。
 けれど――帰還を待つ間、聞いてしまったのだ。今回の功績を称え、王から直接彼に言い渡されるだろう。〝麗しの姫〟と評された、この国の美姫との婚約を。
 そのことを聞いた瞬間真っ暗になり――バルコニーでその姿を見た瞬間、並ぶ二人を見た瞬間、安堵と、絶望感が襲った。
 誰もが感嘆の息を漏らすに相応しい、そんな姿だった。

「……――そうね」

 勝手に振り回されたのは自分だ。
 気持ちに振り回されて、一番肝心なことを忘れていた。
 彼は、青年は、エオは――想像もできない過酷な場所から、帰ってきてくれたのだ。
「……――ごめん。少し、どうしたらいいか分からなかったの」
 嬉しくて、悲しくて、ぐちゃぐちゃで。大切なことを忘れていたけれど、今ならまだ、やり直せるだろうか。


 向き直ると、静かな瞳で見下ろされる。その目を見つめ、笑った。鼻の奥がツンと痛んで、変な顔になってしまったけれど、それでも目を見て伝えたかった。
「……おかえり。お疲れ様、エオ」
「……――ただいま」
 蒼い青年が、安心したように目を伏せた。
 深い息を吐く。肩の力が抜けたようだった。











「……別に、今まで通り、いつも通りに迎えられても構わなかったんだがな」
 ぽつりと、彼はそう言う。
「変わらないことが嬉しくて――俺がここを離れてしまっても、リアムは変わらずここに居てくれて。話しかけてもいつもと変わらず返してくれて、それはそれで嬉しかったんだけどな」
 最初の態度のことを言っているらしい。やや拗ねたように、蒼の青年は目を細める。
「これでも大変だったんだ」
「……はいはい」
 つい、子供をあしらうように返してしまったのは昔からの癖か。
「はい、じゃない。リアムの言葉が一番落ち着く」
「……はいはい。ありがと」
 一瞬ドキリとするものの、そのままいつも通り流してしまえるよう踵を返す。
 果物を入れた籠はちょうどいいくらいまで溜まっている。一度、アトリエまで戻らなければならない。
「……ほら見ろ。やっぱり一緒じゃないか」
「何が?」
 振り返ると、蒼の青年は呆れたように顔を上げた。
「むしろ植物の方が賢いな」
「……何よ」
「リアムは言葉を伝えても、届かない」
 どことなく馬鹿にされたようで、少しかちんとくる。持ち上げた籠をそのまま、くるりとエオを振り返った。
「何が言いたいの」
「分からないか?」
「……」
 まっすぐに見つめてくる濃蒼の瞳を見ていられず、ぷいと視線を逸らした。
 胸の高鳴りを、顔を逸らすことで誤魔化す。
「分からないわ」
 帰還して早々喧嘩などしたくはないが、どことなく苛立ちを押さえきれない。
 人の気持ちも知らないでと、言いたくなる。
「……そういう思わせぶりなこと、言わない方がいいわよ」
「なに?」
「婚姻を控えた身で、本当ならこんな風に二人きりになるのも避けた方がいいのに」
 きょとん、とする気配がした。
「婚姻? ……リアムが!?」
「なんでそうなるの!?」
 見当違いの方向に叫んだ青年を、思わず振り返って突っ込みを入れた。心なしか血の気の引いた顔をする幼馴染を睨み付ける。
「アンタが! 姫と! 結婚するんでしょうが!!」
「俺が!? ……どこからそんな、」
「城内はその噂で持ちきりよ。……何、王様から聞いていないの? ……だとしたらごめんなさい。近々そういう話が来ると思うけれど」
 目を見開いた青年は、そのままゆっくり頭を抱えた。「……だから早く行けって言われたのか」などぼそぼそと呟きながら、どことなく疲れたようにため息を漏らすその姿を、訝しげに見つめる。
「結婚はしない。そういうことを言われても、俺は姫様とは結婚しない」
「……、でも、それは、」
「確かに名誉なことだ。姫様は美しいし、王は賢王で、常に民のことを考えてる尊敬すべき方だ。俺の地位も今より上がって、揺るぎないものになるだろうさ」
 青年は首を振る。それからゆっくり顔を上げた。
「でも――俺は、駄目なんだ」
「……エオ?」
「俺が欲しいのは、地位よりも安らぎだ。名誉だとか、功績だとか、立場だとか、そういったもので俺を見ない、ありのままの俺を見てくれる――俺が、俺でいられる場所がいい」
 言い切るその表情に迷いはない。
 ただまっすぐに見つめられ、戸惑う。どこか居心地が悪くなって目を逸らすと、
「――リアム」
 いつのまにか近寄った蒼の青年に手を取られ、びくりと体が強張った。
 足元に、軽い音を立てて籠が落ちる。
「城を出ると、聞いた」
 誤魔化しは許さないとでも言うように、籠を離した手を握りしめられる。
 固い声と近い位置に息を呑んだ。
「本当か?」
「……もう、本当に。誰から聞いたのよ」
 けれど、その正体はなんとなく察した。そのことは自分の師匠以外まだ話していないことだった。
 王宮の片隅に植物園を立て、人払いをし〝辺境の温室〟と呼ばれるまでになり、研究に励む変わり者の魔法使いは、意外と弟子思いだったなとぼんやり思い出す。
「……城下に店を構えようかな、と思って。師匠はこの城から離れられないから、そのぶん師匠の技術を人の役に立てたい」
 〝辺境の魔法使い〟と呼ばれる薬師の王宮魔道師は、王宮との契約を得て人の役に立つ薬を次々生み出している。それゆえに外に出ることは滅多にない。もともと出不精らしいので、それに関して本人は不満もないらしいが。
 けれどリアムは違う。王宮で力をつけ、ライバルを蹴散らし、王宮魔道師を目指すのは向かないと思っていた。それよりも王宮ではなく、もっと身近な人のために得た知識を生かしたいと。
 そして良い機会だと思ったのだ。幼馴染の婚姻の話を聞いたときに。
 わだかまる胸の思いを消化するのに――この幼馴染から離れるのに、良い機会なのではないかと。
「……そうか」
「うん」
 まだ願望でしかないけれど、自分の道が決まったように思えた。それにはとてもとても痛い思いをしなければいけないけれども。
 触れた手に力が籠るのが分かる。彼もまた、別れを惜しむ気持ちを持ってくれているのだろうか。
「なら、俺も出るか」
「………………はい?」
 だが次の瞬間、思い切り顔を上げて眉をひそめた。目の前の青年はいつもの無表情に戻っている。
「リアムが城を出るなら俺もついていく」
「アンタ何言ってんの!? そんなことできるわけないでしょっていうか、自分が何言ってるか分かってんの!? 寝言は寝てから言いなさい!」
「お前こそ分かっているのか? 俺の言ったこと。俺が欲しいと言ったもの」
 ぐいと掌を引き寄せられ、思わず足元の籠を避けようとバランスを崩し、そのまま肩を掴まれ顔を覗き込まれる。吐息が触れそうな近さに思わず赤面した。
「ちょ、近いって!」
「リアムがいると思ったから、ずっと頑張ってこれたんだ。お前が変わらなかったから、俺は俺でいられたんだ」
 蒼の瞳がすぐ近くから、まっすぐ見つめられて息を呑む。捕まれた手と、肩が熱い。
「……エオ」
「あいにく、」
 その瞬間、にやりと口元が上がり、不敵な笑みに目を奪われた。
 その瞳が爛々と輝いている。まるで獲物を見つけた肉食獣のような。
「離す気はない。覚悟しろ、リアム」
「え、ちょ、きゃあッ」






























 それから。
 聖都の片隅に、小さな薬屋が開店するのはもう少し先の話。
 薬屋の扱う商品は良く効き、また店主の笑顔も魅力とあって瞬く間に評判となるが、もうひとつ。


「やっほー頼まれてた薬草持ってきたぜーって……また来てんの騎士団長様」
「俺の勝手だろう。お前こそまた来たのか魔道師団長」
「お前と違ってオレはちゃんとした依頼なの。冷たくない? かつて一緒に魔物の軍勢と戦った仲間に対して冷たくない?」
「過去は過去だ」
「すっげ軽い扱いされた! ひっで! ……あ、店主こんにちは。これ、頼まれてた薬草と〝辺境の魔法使い〟様からのお土産。また遊びに来いってよ、なんだかんだ寂しそうだったし」
「……その割には俺に会うたび切りかかってくるぞ」
「複雑なオヤゴコロってやつでしょ。それよりもほら、帰るぞ? 休憩終わりだろ? 今頃副団長がお前探して駆け回ってんじゃないの?」
「……面倒臭い」
「仕方ないだろ。どっかの誰かさんがしょっちゅういなくなるから大変なんだよ。さて、それじゃ店主、こいつ連れて帰るよ」
「おい、引っ張るな。……仕方ない、また夜に来る。くれぐれも知らない奴には注意しろよ、特に男」
「オカンかお前は。……まぁ心配な気持ちも分かるけど、お前みたいな有能な奴に辞められるのはまだ困るんだよね。ごめんね店主」
「まったくだ。……なんだその顔」
「……いや、うん。お前変わったなぁと思って」



 店は王宮の要人たちの御用達で、特に騎士団長はお忍びでよく来店するという。その噂は用心棒と店主の虫よけも兼ねているらしい。



「……下らないこと言ってないで、もう行くぞ」
「そうだね。それじゃ店主、何かあったらいつもみたいに通信球で呼んでね。また来るよ、それじゃ」
「行ってくる」



「……――うん。いってらっしゃい」


 小さな薬屋は、今日も平和に、蒼い騎士の帰る場所を護っている。



「ってゆーかさ、お前らいいかげん結婚しないの?」
「……まだ待って、だと」
「…………あー、なるほど。ある意味、魔物より強敵なんじゃない?」




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