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Chapter:04 理解
Episode:31
「いま、切るから」
 箱が開けられて、中から出てきたケーキに、ナイフが入れられる。けど、なぜか二切れだけしか、シルファ先輩は切らなかった。
 少しの間があって、タシュア先輩とシルファ先輩の視線が合って……やっと、もう一切れが出される。タシュア先輩がちょっとだけ面白くなさそうなのが、なんだか可笑しかった。

「さ、食べるといい」
「ありがとう、ございます……」
 とても凝ったケーキだけど、何が入ってるのかはよく分からない。でも、とってもおいしそうだ。
 ひとかけら、口に運ぶ。

――この味。

 忘れていた記憶が、蘇る。あの時と同じ香り、同じ味……。
「どうした?」
 急に食べるのをやめてしまったのを、心配してくれたんだろう。シルファ先輩が声をかけてくれたけど、あたしは答えられなかった。
 涙がこぼれそうになる。

「大丈夫か? どこか痛いのか?」
 問いに首を振って、やっと答えた。
「これ……まえに、兄さんと……」
 シルファ先輩が、はっと息をのむ。

 あとは言葉にできなくて、止まらない涙を必死にぬぐった。
 いつだったろう? 思いもかけずこれと同じケーキを手に入れて、兄さんと二人で食べたのは。
 でも、もう二度と……。

「――その、すまなかった」
「別にシルファが謝ることではないでしょう。悪意があったわけではないのですから。
 ですが、偶然とは不思議なものですね」
 予想もしなかった言葉に、驚いて顔を上げる。
 タシュア先輩と、目が合った。
――何かを奥底に秘めた、紅い瞳。

 それが一瞬だけ、優しいものになる。
 瞬間、理解した。同じなのだと。
 違う時間、違う場所で、でも同じものを見てきた人。この学院でただひとり、「あれ」を分かっている人。
 先輩のその瞳に、また涙があふれる。シルファ先輩が「大丈夫だ」と言うように、あたしの頭を撫でてくれた。

 多分かなり長い間、泣いてたと思う。けどシルファ先輩だけじゃなく、タシュア先輩も何も言わずに、待っててくれた。
「さて、長居をしてしまいましたね。帰ることにします」
 やっと泣きやんだあたしを見て、タシュア先輩が立ちあがる。



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