ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
Chapter:04 理解
Episode:27
◇Sylpha
 大き目のドーナツ状の型から、いい匂いが立ち上っている。砂糖と、オレンジの匂いだ。
 きちんと冷めたのを確かめてから、型に沿ってナイフを入れると、高さのあるドーナツ型のケーキが現れた。それを三段に切り分けて、一番上を型に戻す。

 これとは別に途中まで作っておいた、オレンジのムースをその上に入れ、真ん中の段を戻し、またムースを重ね、最後に三段重ねになった。
 あとは冷やして、飾り付けるだけだ。
――食べられると、いいんだが。

 この新作のケーキは、あの金髪の子に持っていくつもりだった。
 なんというか、あのまま放っておけない。
 気になってあとから、いろいろあの一緒にいた少年に聞いてみたのだが……どうもタシュアのやったことが、クリティカルヒットしたようだった。偶然いろいろな条件が重なって、精神的に追い詰めてしまったらしい。

 タシュアに悪気はない。彼はいつもああだし、あれでもいちおう筋は通っている。
 あの少女が追いかけられたというのも、元をただせば無防備さゆえだ。図書室の件も理屈だけなら、あの子のほうが不用意だったと言うべきだろう。
 だがそうだとしても、私には少しだけ、やりすぎなように思えた。どれも小さい子にはありがちなことだし、その場で柔らかく教える方法だってある。
 まぁそれをやるようでは、タシュアではないのだが……。

 ともかくこのままにしておいたら、あの子はいずれ、ここに居られなくなるだろう。それがいちばん、私には苦しかった。
 私は生まれてすぐ両親が亡くなり、親戚じゅうを次々とたらい回しにされた。どこへ行っても居場所はなくて、いつも息をひそめて隅に居た。
 目立たないように。見つからないように。追い出されないように。
 だからこの学院へ来たとき、心のどこかでほっとしたのだ。やっと自分の居ていい場所が見つかった、と。

 金髪の子のことは、詳しくは知らない。だがやはり何か事情があってここへ来て、やっと落ち着いたらしいことは分かる。だから、他人事に思えなかった。
 あの、おびえきった表情が忘れられない。
 たしかにシエラはふつうの学校と違って、それなりの危険も厳しさもある。だが、あんなふうにおびえる場所ではないはずだ。少なくとも私は、ここへ来て初めて、居場所を見つけた。
 だからあの子にも笑顔はムリでも、せめて落ち着いてここで過ごしてほしいと思う。

 ただあの金髪の子は、あまり具合がよくないらしかった。そうでなくても弱っていたのに、まだ冷たい海に落ちたのがまずかったらしい。高熱が続いて診療所に入院したままだと、同じクラスのディオンヌが教えてくれた。
――このケーキで少しでも、元気になってくれるといいのだが。
 そう思いながら、冷やす間に片づけをし、簡単なクッキーを焼き、飾りつけ用の道具や材料も揃える。


Web拍手 ←Web拍手です

FT小説ランキング  毎日OK:FT小説ランキング“ルーフェイア・シリーズ”に投票
 順位だけ見たい方はこちら

NEVEL Ranking  月に1回:NEWVELランキング“ルーフェイア・シリーズ”に投票


◇イラストいろいろです。随時募集中です♪◇
シエラ学院制服  Blue Ocean  ルーフェイア・シリーズ

自サイト美術室はこちら
掲示板はこちら。お気軽にどうぞ♪


筆者サイト
↑筆者サイトへ
最新話へのリンク、改行なし版等があります


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。