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Chapter:03 恐慌
Episode:26
「ともかく学院に戻りましょう。二人とも、そこの荷物をお願いします」
 連絡船にかけあって臨時で本島まで行ってもらい、ルーフェイアを診療所へ引き渡した時には、すでに陽は傾きかけていた。
 ちなみにタシュアとイマドの二人がムアカ――この若い女医は意外にも、こういうことだと厳しい――にこっぴどく怒られたのは、言うまでもない。
 もっともイマドはともかく、タシュアはこたえた様子などまったくなかったが。

「やれやれ、とんだ騒ぎでしたね」
 まるで無関係のことに巻き込まれたといわんばかりのタシュアに、ついにイマドは噛み付いた。
「――もとをただせば、先輩のせいですよ!」
「どういう意味です」

 問われて、少年はことの顛末を話し始める。
 野外実習の時のこと、その晩寮で倒れたこと、そしてとうとう食べるものさえ、吐いて受け付けなくなってしまったこと……。
 だが、タシュアは平然と返した。
「それがどうして、私のせいになるのです?」

 正直な話、心外でしかなかった。タシュアにしてみれば、ことさら何かをしたつもりはない。たしかにルーフェイアを追いかけたり、背後を取ったりしてみたが、目の前にそういう状態で居たから、というだけの話だ。
 何がそんなに彼女を怖がらせ、あそこまでにしたのか、まったく理解できない。

 ただタシュアにも、少女が精神的に危険な状態にあるのは分かった。その辺から推測するに、こちらの何かに対して恐怖を抱き、過剰反応したようだ。
(それにしても、予想外でしたね)
 シュマー家のグレイス姓を名乗るルーフェイアが、まさかこれほど脆いとは思わなかった。シュマーの名に、惑わされたのかもしれない。

 後輩がさらに続ける。
「先輩なら、あいつがなんでここへ来たか、分かるんじゃないです?」
 その言葉に、タシュアは思う。
(私だけ、でしょうね)
 あの場所に何があるのか知っているのは、ここの生徒では、自分とルーフェイアの二人だけだろう。
 忘れたくても忘れられない、忘れるわけにいかないものしか、あそこにはない。

「だからせめて今くらい、そっとしといてやってください」
 なおも何か言おうとする後輩との間に、シルファが割って入った。
「イマド……だったか? あとは私が、よく言っておくから。だから、あの子のところへ……行っては、どうだろう?」
 シルファの提案に、まだ言い足りなさそうだったが、イマドは軽く頭を下げて去った。やはりルーフェイアのことが、気になるのだろう。
 彼が行ったのを見届けて、シルファが口を開いた。

「まったく。だから言ってるだろう、いつも言いすぎだと」
「ふつうはあの程度で、あんなふうになったりしませんよ。脆いにしても度が過ぎます」
 タシュアが即座に言い返す。
 もっともシルファは慣れっこで、さして気にする様子はなかった。

「だがああいう子が居ても、おかしくないだろう? いろいろなのだし」
「確かにそうですがね」
 そうは言っても、それで引き下がる彼でもない。
「あとできちんと謝ったほうが、いいんじゃないか?」
「事実を指摘しただけで、謝るようなことはしていませんが」
 やれやれ、という顔でシルファが軽くため息をつく。

「ともかく、その……ケリだけは、つけたらどうだ? あれではタシュアの顔を見るたび、また同じことになると思う」
「ですから、どこに付けるケリなどあると言うのです?」
 なおも言い切るタシュアに、こんどこそシルファが諦めのため息をついた。


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