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Chapter:03 恐慌
Episode:25
◇All
「いやぁっ!!」
 叫びを聞いて、イマドは振りかえった。
 目に入った光景に、愕然とする。
 ルーフェイアとシルファと――タシュア。
 そしてルーフェイアは、海へと落ちるところだった。だがあの精神状態で落ちたら、まず助からない。

(なんでだよ!)
 この成り行きに、イマドはかの先輩を絞め殺したいところだったが、まずはともかくルーフェイアを助けにに走る。
 が、さらに早く動いた影があった。

「タシュア先輩?!」
 長身の青年は即座に上着を脱ぎ捨てると、鮮やかに海へ飛びこむ。
 ざんっ、と音がして、水しぶきがあがった。
 やや遅れて、イマドとシルファが埠頭へと駆けつける。

「タシュア、大丈夫か?」
 シルファが声をかけたときには、もうタシュアは少女を抱えて水面に頭を出していた。
「イマド、学院に連絡してください。それからシルファ、手を貸してもらえますか?」
 てきぱきと指示を出し、シルファの手を借りながら海から上がる。
 瞬間、青年は怪訝な表情をした。

 水の浮力がなくなったというのに、ルーフェイアは想像以上に軽かった。この身体のどこにあれほどの戦闘能力が秘められているのかと、不審に思えるほどだ。
 このくらいの年齢――たしかルーフェイアは11歳――にはもう、タシュアやシルファはそれなりの体格に成長していた。だがこの少女はどう見てもまだ、子供でしかない。
 そっと横たえてやると、少女が激しく咳き込んだ。

「どうなんだ?」
 シルファが聞いてきた。その声に心配の色がにじんでいる。
「詳しくはわかりませんが……少なくとも呼吸はしていますから」
 びしょぬれのまま、咳き込む少女の背をさすりながら、タシュアは答えた。
「気を失ったせいで、さほど水も飲んでいないようですし、まぁ大丈夫かと」
「そうか」
 シルファがほっと息を吐いた。
 だがタシュアはまだ、応急手当の手を止めない。

「どなたか毛布を貸していただけませんか?」
 言いながら少女の服を緩め、気道を確保する。
 ここへ来てようやく、ルーフェイア瞳が焦点を結んだ。
「あ……いやっ!」
 とっさに逃げ出そうとするが、今度はタシュアも予測済みだ。払いのけようとした手をうまく捕らえ、少女の身体を押さえつける。

「そんなに怖がらないでください。別にとって食べたりはしませんから。
――息は苦しくないですね?」
「あ……はい……」
 まだ怯えながらも、ルーフェイアは返事をした。いくらか理性を取り戻したようだ。
「そうですか。さぁ、これにくるまって」
 誰かが持ってきてくれた毛布で、こわばらせたままの身体を包んでやる。本当なら濡れた服を脱がせた方がいいのだが、ここでそれをやっては、いくらなんでも可哀想だろう。
 そこへようやく、イマドが戻ってきた。

「先輩、学院に連絡――ルーフェイア、だいじょぶかっ?!」
 その瞬間の少女の変化は、劇的だった。
「――イマド!」
 少年の方へ手を伸ばす。同時にその身体から緊張が抜け、表情も安心しきったものになった。どうやらルーフェイアにとって、この少年はどんな精神安定剤より効果があるようだ。
 抵抗をやめて扱いやすくなった少女を、抱き上げる。



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