6*怒り
「代表、着いたようです」
「そう、誰かに言って出迎えさせて。ソラくんをボクの所に連れて来るように、って伝言もよろしく」
「分かりました」
退治屋本部の最上階。
そこは退治屋の代表が、常に日常を過ごしている場所である。
代表と言われるからにはこの退治屋で一番偉く、皆を統一出来る存在であるのだが。
茶髪、青眼。
そんな彼の顔には、代表者の自覚がないような笑みが浮かんだ。
「これから、面白くなるかな?」
* * *
「ねぇ、あれ……」
「フェイトさんだわ!!」
フェイトがある大きな部屋に入ると、中には五十人近くの人の存在があった。女性も多く、フェイトが入ったと同時に騒ぎ出したのだ。
「ちょっと、フェイトさんだよ、フェイトさん」
「やっぱり雰囲気が違うわ」
小さな呟きが重なって、正確な言葉にはなっていない。フェイトより大分後方を歩いていたソラが部屋に入った時には、いつの間にかミネルの姿は消えていた。フェイトが居れば騒ぎになる事を、きっとミネルは分かっていたのかもしれない。
自分がここに入っていいのかと、ソラの足は進まずにいた。
「ソラ?」
ソラが付いて来ていないのに気付き、フェイトが後ろを振り返る。女性達は相変わらずフェイトを見ていたので、ソラは少しホッとした。ただフェイトがソラの方へと向かって来た為、女性達の視線が移動してきた。それ以上に、男性達が痛い程にソラに向けて来ていた視線に気付くべきだった。
「なーに緊張してんだよ、いつも通りにしてればいいんだって」
ソラを安心させるかの様に、フェイトがソラの頭をクシャクシャと撫でた為にソラはいつものフェイトを感じる事が出来た。
「フェイト」
突然名を呼ばれたフェイトの手が、止まる。
睨むように相手を見ながら、フェイトはそれは嫌そうに言葉を紡いだ。
「……何だ、クエイル」
銀髪、深緑と青のオッドアイを持ったフェイトにクエイルと呼ばれた長髪の男は、フッと鼻で笑った。
「ソラを迎えに来たんだ」
「何?」
「代表に頼まれているんでな」
クエイルがソラの手を掴み、そのまま歩みを進めようとする。しかしその先には、フェイトの腕がそれを阻止していた。
「ソラはおれが直接代表の所に連れて行く。余計な事はするな」
二人の眼は暫し睨み合う。フェイトは力強くクエイルの手をソラから引き剥がした。
「余計な事? 頼まれたと言 「おれが連れて行くと言っただろう……?」
いつもの穏やかな顔とは一変した表情。怒りを明らかに露にするような、鋭く冷たい瞳、低くなった声。
ソラはこんなフェイトを見た事はなかった。こんな険悪な雰囲気など、フェイトはソラの前で見せた事がなかった為だ。
「……やはり、優れていても甘いのは変わらんようだな」
「黙れ、お前のような奴にソラは任せられない」
ソラにもすぐに分かった、フェイトが怒っているだけではないと。普段人嫌いを見せた事のないフェイトが、クエイル嫌っている。
「忠告する。おれの怒りが完全になる前に、ここから立ち去った方がいい」
「だから 「煩い、早く立ち去れ」
遂にはフェイトがクエイルの胸ぐらを掴む。クエイルの長い銀髪が地面に向かって緩く垂れたと同じくらいに、周りが騒つき出した。
フェイトがまさかここまでの行動に出ると思った者はいなかったのだろう。
そこで誰もが感じたはずだ。
フェイトをこれ以上怒らせてはいけない、と。
クエイルは引けを取る事なくフェイトを睨み続けていたが、それにフェイトが呆れクエイルの胸ぐらから手を離すと、すぐにその場から立ち去った。
「フェ、フェイト、さん?」
ソラが戸惑ったように、フェイトの名を呼ぶ。ソラの声にフェイトはソラに焦点を合わせる。
近付いて来たかと思えば、慣れた手付でまたソラの頭を撫でる。その顔は先程とは違い、ソラに笑いかけてくるとてつも無く優しいものだった。
「何だ? ソラ」
ソラが口を開きかけた、その時。
「おかえり」
小さく、けれど確かに耳に入って来た声。
ソラもフェイトも、当然その場に居る全ての者の目線がそちらに動いた。
そこに立って居たのは、
「ソラくんを連れてくるように頼んだのに、遅いから態々ボクが出向く事になっちゃったじゃないか」
フェイトと同じ茶髪、そして綺麗な透き通るような青眼を持った青年だった。
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