5*退治屋本部
「ミネルさん?」
「そうよ、よろしくね」
ミネルが握手を求めて右手を出したので、ソラは素直に握手をする。
「ソラ、出掛けるから着替えて来い」
フェイトに体を動かされて、半ば無理矢理ソラはリビングから追い出された。ソラを追い出したにも関わらず、リビングでは暫し沈黙が続いた。先に口を開いたのは、ミネルだった。
「ソラは師匠に似てる」
「ああ。とはおれ達が言っても、ソラは父親と母親の顔を虚ろにしか覚えていないようだから、全然自覚はしてないみたいだけど」
「すっごく似てるわ、似すぎてる。見てると師匠を思い出して、こっちが悲しくなる」
何かを言おうとフェイトが口を動かすが、言葉は喉に詰まって声にはならない。仕舞には、変人を見るような目でミネルに見られてしまう始末。
「あんたは昔から、どこか他の人とは違って変だわ」
冷たくミネルに言い放たれても、フェイトは微動だにもしなかった。けれど、憂いのある表情が顔を覗かせる。
「オレもミネルさんに賛成」
気配がまるでなかった。
驚きを示した二人が声の方を向けば、ラフな格好に着替えたソラの姿があった。
「気が合うわね、ソラ」
「そうですね」
「……ひでいな、二人とも」
ソラもミネルも、フェイトの言葉は完全無視。そんな事は気にも止めなかったようで何かを思い付いたフェイトは突如立ち上がり、引き出しから一枚の写真を取り出した。
「ソラに、これを」
写真に写っていたのは、三人。右側にフェイト。左側にはソラと同じ青髪、紫眼の男性。そして真ん中は優しげな薄ピンク色をの髪をした、髪が肩くらいまである女性。
三人共、とても幸せそうな顔をしている。
「それがお前の両親だ。この写真はおれ等が退治屋に入ってすぐの、ソラがまだ生まれていない頃のものだけど」
――これが。
すげく、懐かしい。間違いなくこの感じは知っている。小さな頃に、確かにこの感じに触れている。
「これ、」
「ん?」
「貰っていいの?」
「ああ、ソラの為の写真だからな」
「……ありがとう」
ソラが、笑った。
ソラの笑顔を見て、フェイトは不覚にも安心してしまった。
サタンに襲われ、両親の居なくなった真実を知ってしまって。最近の出来事は、ソラを苦しめる一方でしかなかった。普段ただでさえ、フェイトは家に居ない事で寂しい思いも辛い思いもソラにさせてしまっている。だからこそ、偶に見せるソラの笑顔は、フェイトの心の支えであり安心の素だった。
「そろそろ、行くわよ。いつまでもこんなとこにいたって仕方ないな」
「そうだな、ソラ先にミネルと外行ってろ」
「はーい」
フェイトに素直に返事をして、ソラはミネルの後に付いて行った。大切そうに写真を持ったまま。それを見計らって、先程写真を出した引き出しを再び開く。取り出したのは、一冊のアルバムだった。開いた最初のページには、ソラへと渡した物と同じ写真。
「懐かしいな……」
次のページを捲れば、フェイト、シルダ、そして赤髪の人物。
フェイトにとって大切だったかつての親友二人と撮った、最初で最後の写真。しかしそれを見たフェイトは直ぐにページを前に捲り直した。ソラとの両親と撮った写真に触れ、心から祈った。
「ソラを守ってやってくれよ、シルダ、ケール」
ソラに危険が降りかからないようにと。
* * *
「遅いわ、何やってるのよ、あんた」
「ああ、悪い」
フェイトが外に行くと、ミネルに凄い形相で睨まれた。遅いフェイトが明らかに悪かったのだか、フェイトはいつものごとく気付いてはいなかった。
「早くしなさいよね」
見覚えのある車。運転席には見覚えのない顔。多分新しく入った退治屋だろう。
「ソラは?」
「もう乗ってるわ」
ミネルは呆れたげに、車の助手席に乗り込む。フェイトもシェルに手を振って、ソラの隣へと座る。
ソラは何だか落ち着きがないようだった。それもそのはずで、ソラはこの付近にしか出掛けた事がなかったのだ。フェイトがソラを大切に思えば思う程、ソラの、ソラの自由は制限されてしまっていた。
「シェルはいいの……?」
「シェルは大丈夫だ。一人で行ける」
フェイトにそう言われると、ソラはそっかと言って納得した。それから黙ってしまったソラは、いつのまにか眠りについていた。
出発から二時間あまり。
大きな三十階建てのコンクリートの建物を前にして、車は止まった。森の木々に囲まれている為、あまり目立った感じにはみえない。フェイトに体を揺るがされて、ソラは起こされた。
「ん……」
「着いたぞ」
ゆっくりと体を持ち上げ眠そうに目を擦っていたソラだったが、外の建物が気になったのか直ぐ様フェイトを押し退けて車から降りた。
「でっかい」
建物を見上げたソラの第一声はそれだけだった。
フェイトやミネルには慣れたものでも、ソラにとっては初めてのものだった。たまたま目の合った車の運転手に軽くお辞儀をして、ソラはフェイト達の後を急いで付いて行く。
建物の中は、冷たく不気味な空間だった。人の気配は感じられるが、何故だか寒気が走った。
「お疲れ様でした、ソラ」
「シェル? 早いね、もう着いたの?」
「はい、アンジェですから」
ニコニコとシェルは笑って言うが、よく意味が分からなかった。そこでフェイトとミネルに聞きそびえた事をシェルへと問う事にした。
「ねー、シェル」
「何でしょうか、ソラ」
「ここってさ、何処?」
「……フェイトから聞きませんでした? ここは退治屋の本部ですよ」
連れて来るなら説明してあげて欲しかった、とシェルは心の中で秘かにフェイトを軽蔑した。
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