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返信━misumi━
 
 ━君は、誰?・・・━

 初めての返信に書けた言葉は、たったコレだけだった。
 
 昨日の夜はあんなに最悪な気持ちだったのに、いつもと同じ様に朝は来て、いつもと同じように家を出る自分がいる。これは最早、『自分』であって自分ではないのかも知れないとさえ思う。
 知らない内に誰かと入れ替わっていて、本当の自分はココではない何処かにいるような・・・自分の人生を生きている感覚がしない。
(・・・実際、俺の為の人生じゃないし・・・)
 心の中でそう悪態を吐いて、深澄は駅への道を歩いた。人通りの少なくない住宅街を抜け、整備された歩道を歩く。その足取りは軽いモノではない。
(・・・メンドクサイよな・・・ホント) 
 自分で選んだ学校だ。そこに文句を言うつもりはないし、勉強も嫌いではない。何が面倒臭いのかと言えば、好きでも嫌いでもない同級生に会うのが一番厄介だった。
 
 その時、不意に携帯が揺れたような気がして、深澄はコートのポケットからストラップのない無機質な携帯電話を取り出す。紺色の味気ないボディが丁度掌に収まり、深澄は無造作にそれを開いた。
 画面にはメールどころか着信さえない。ただニュースのテロップが流れて行くだけで、変化のない待ち受け画面を見つめ、深澄は溜息を吐く。
(・・・気のせいか・・)
 少し残念な気持ちで携帯を閉じると、取り出した時と同じようにコートのポケットに突っ込んだ。
「・・・・」
 不意に立ち止まり、深澄は俯いたまま言葉を失った。
 らしくもない自分の気持ちに戸惑う。自分が何を期待しているのか、その思いに気がついて彼は眉を顰める。
(今・・・何を思った?)
 立ち止まった自分の横を人が通り過ぎても、深澄はその場から動けなかった。それほどにショックな出来事。自分が・・・他人から齎される何かを待つなど有りはしないと思っていたのに、今確かに彼は「メール」を待っている。あの「メール」を。
 
 溜息が零れる。微かに苛立つ自分の髪を掻き上げると、深澄は何事もなかったようにまた歩き出した。電車に揺られ、窓の外の景色を見送る。そこに意識は向いていない。
(・・・どうかしてる)
 自分に困惑しながらも足は動き、いつも通りの通学路を通って学校へと辿り着いた。違うのはいつもよりも遅い登校時刻という事だけ。
 門を潜り、辺りを見回す。
 門の前は沢山の人と声で溢れているのに、その殆どが一度見かけた事があるかないか分からないような人物たちで居心地が悪い。そう思って、足早にその場を後にした。

「おはよう、崎本君」
 教室の入り口で友枝とすれ違う。彼女はあの出来事の前と変わらない笑顔で声をかけてきた。
「おはよう」
 愛想もなく義務的な挨拶を返すと、そのまま自分の席に腰掛ける。またつまらない一日の始まり。
 退屈な時間。
 やがて始業を告げるチャイムが鳴り、ざわついた教室内が静寂へと戻る。外は良い天気で、冬の陽光は優しくて・・・教師の話す内容を聞き流しながら、深澄はただ違う事を考えていた。
(いくらなんでも、短すぎたか・・・)
 何通ものメールの返信が、たった一行にも満たない言葉では要領も得ないだろう。今更その事に気がつく。だからと言ってどうすることも出来ないのだから、相手の返信を待つしかない・・・・どんなメールを返してくるのか、正直にいえば少し楽しみでもあった。
 

 そんな事を考えながら上の空で一日が過ぎて行く。
 そして不意に携帯が揺れたのは、昼も過ぎた5時限目。今度こそ間違いなく揺れていた。
「・・・」
 教師や周りに悟られないように、そっと隠して携帯電話を開く。
 ━新着メール 1件━
 画面には確かにそう表示されていた。期待と、不安で恐る恐るメールを開く。そして。
 
 
『キミ思い、
 淡い期待に染められて、
 応えを待った、時は過ぎ。

 ただ思う、
 貴方を「月」と呼ぶのなら
 礼を尽して、仰ぎ見る。

         yoshika 』

 中には、いつものように「詩」が載せられていた。内容はこうだ。
 『返事が返ってくるのを期待して、貴方の事を想った時は過ぎました。名前も知らない貴方の事を、まるで手の届かない「月」と思って呼んでいいのなら、感謝とお詫びの気持ちを込めて、あの「月」を見上げています。』
 予想外の返信に、向こうも戸惑っているのが分かる。それでも、期待以上の返事だった。
(普通に返信されてもつまらないからな・・・)
 深澄が欲しかったのはただのメールではない。
 ただつまらない自己紹介や詮索のメールが返ってくるようならば、それきりだと思っていた。その予想に反して、相手は分かりにくい「詩」に気持ちを込めてきた。好感触だと言っても良い。
(『yoshika』・・・・か)
 記載された名前を見ると、ローマ字で「よしか」と書かれている。相手はやはり女らしい。
 メールの内容に満足そうに口元に手を当てると、深澄は返信ボタンを押す。そこに躊躇いはない。
 

 昼下がり、授業の声を遠くに聞きながら深澄は2通目の返事を打っていた・・・。
長い・・・・(:_;)
深澄の方も朝から書いていったら限がなくなりました(-_-;)

とりあえず、良佳と同じところまでは進んだけど・・・。
中々思い通りにならない深澄です。まるで嘲笑われているかのよう(>_<)

次話で30話目になります。
まだまだ頑張ります(^^ゞ
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