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彼女のため息
「いってきます」
玄関で鏡をチェックして靴を履いた。

髪の毛―今のところ大丈夫。
タイも曲がってないし、スカートもうん、平気だね。

駅までの道のりを慎重に自転車を漕いだ。
あんまり飛ばして髪の毛はねちゃったら恥ずかしいもんね。
というわけで、いつもより20分も早く家を出てしまった。

当然の事ながら、いつもより早く駅に着いてしまう。
一本前の電車にも乗れてしまう時間だった。
だけどそれじゃあ意味がないもんね。
どうしよう、ちょっと緊張してきたかもー。
ホームに下りる前にトイレの鏡でもう一度髪の毛をチェックした。
うん、これならばっちりだよ。
知らぬうちに顔がにやけている私。
危ない人みたいだった。

いつものように列に並んで電車を待った。
その間、携帯をパカンと開いてみる。

――おはよう、今起きたとこ!今日は天気がいいね――

今朝届いた浅野君からのメール。
絵文字もなにもなく、至ってシンプルなメール。
だけど、こんな風にメールをもらえるとは思わなかったから、すっごーく嬉しかったんだよ。
でもそれに対してどう返信すればいいか悩んでしまって結局何も返せなかった私。
きっと桜に知られた馬鹿にされる事間違いないとみた。
学校行くまでには返信しなくっちゃだ。

ホームに降りて一本電車を見送った。
この時間、中学の同級生もちらほらいて、久しぶり!なんて言葉を交わして、慌しく電車に乗っていったりした子もいた。
少し早いだけで当たり前だけど人の顔ぶれも違うもんだ。

初めて列の先頭に並んだ気がする。
線路の先に電車を見つけて”そわそわ”しはじめる。
いつもと何一つ変わることのない風景だけれど、私の気持ちは別のところに飛んでいってしまっているようだった。
電車に乗り込んで特等席の位置をキープ、それは反対側のドアの前。
押されてカエルにならないように、ちょっと端っこによるようにして足を踏ん張った。
結構これが大変なんだよね。
電車が動き始めると車掌さんだろうか、”なるべく車両の中ほどにお進みください”なんてアナウンスが流れていた。
大変なのは重々承知なんだけど、浅野君に近づけるこの位置は絶対譲れないもんね。
一駅、一駅浅野君のいる駅に近づいて行く。

私は学校に通っているのに、まるで彼に会うことが一番の目的みたいだよ。

そして、彼のいる駅へ到着。
うん、今日もぴったり正面だったって当たり前か!
ばっちり、目が合った。
彼は優しく微笑んで”おはよう”と声こそ聞えないけれど、私に向かって言ってくれる。
私は思わず頬が下がり、同じように”おはよう”と声に出さずに挨拶した。
たった数秒のすれ違い。
一気に押し寄せる人の波に負けないようにポールを掴んで彼を見るんだけれど、やっぱり恥ずかしくって。
あっという間に電車が動き出してしまった。

朝の一大イベントの終了だった。

あんなに楽しみにしていた電車だったけれど、浅野君のいるホームを通過した時点からまたあの嫌なラッシュ地獄に早変わり。
単純な自分に思わず笑ってしまった。

そして、いつもと同じ通学路。
一人で歩くその時間、私はさっきの浅野君の顔を思い出してしまった。
今日も朝からかっこよかったなぁと。
そうだ、メールの返信打たなくちゃだ。
悩みに悩んだ結果
―今日も天気がいいですね♪何処かに出掛けたいくらいです―
と入れてみた。

本当に今日は天気が良かった。
こんな日に浅野君と何処かに出掛けられたら最高なのになぁ。
流石にそこまでは入れられなかったけれどね。

私のにやけた顔はどうやら教室まで直らなかったようで。

「にやけ過ぎ」

と桜に言われてしまった。
だってしょうがないじゃん!心の中で叫んでみたけれどこっそりほっぺをつねって見る私。
こんなことをして元に戻るとは思えなかったけれど、一応ね。

「何してるんだ。」
怪訝そうな声に振り向くとそこには大山が立っていた。

「顔の体操です。」
というと

「お前って」
とそこで言葉をぶちきる大山。

ちょっと気になるんですけど―
でもどうせ変な奴とかだろうな、聞かないほうが身のためか。
私はにこっと笑って見せた。
大山が一瞬ひるんだのは気のせいかな?
笑い顔にひるまれる私って……
本格的に顔の体操でもしなくちゃか?

私の隣で桜と大山が

「「出たよ、お得意の百面相が」」

なんて言っているのも気づかずにいる私だった。

現国の時間はすっごく退屈だったりする。
なんせ先生の声が小さくて、子守唄みたいに聞えるのは私だけじゃないはず。
その証拠に、あそこにもそこにも船を漕いでるのがちらほらいたりして。
私は近づいてくる眠気を必死で追い出そうとするのだけれど、それは容易な事じゃなかった。
他の事を考えよう、他の事。
といっても、今の私の頭の中は浅野君でいっぱいだったりするんだよね。

浅野君かぁ

付き合えたことで浮かれまくっていて、今までは考える余裕がなかったけれどずっと引っかかってることがあるんだよね。
今でも思い出すと涙が出そうだけど、あの時あのホームで浅野君と会ったときの事。
浅野君の隣にはすっごく可愛い女の子がいて。
あの子は浅野君の事、”圭吾”って呼んでたよなぁ。

今でも気になっているあの子の存在。
浅野君―圭吾―

呼び名一つで動揺してしまう私がいる。
彼女とはどういう関係なんだろう……

浅野君が私の事を好きだと言ってくれはしたのだけれど。
まだお互いにそれほど知らない私達。
私がそんな風に他の女の子のことを気にするって分かったら、嫌われちゃったりしないかな。
当分聞けないよなぁ、ってよりこの先も聞けないだろうな。
私はこっそりため息をついた。













こっそり、初めてしまいました続編を。
更新はゆっくりかもしれませんがお付き合い下さると嬉しく思います。
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