女神聖祭
————女神聖祭とは。
四半期に行われる豊穣の感謝祭・謝肉祭とは違い国——聖王国ビクトリアの事を指す——が動く時、大きい変化を迎える時に行われる催しの事である。数ある祭りの中でも、群を抜いて古く、聖王国が出来た時に行われた女神聖祭が人類史上最も古い催し物と記録に残っている。
長らく行われなかったこの女神聖祭。
急ピッチで準備をし、RIO時間約一ヶ月程で開催に至る事が出来た。
一ヶ月で全て各国の人が集結するお祭りの開催だって?
ゲームだから出来た事である。
奔走してくれたセバスチャンには大きくお礼を言わなければならないな。そして、セバスに従い彼がログアウトしている時に上手く纏めてくれた"あの青年"にも、大きな感謝と神の祝福を。
この世界に住む人や、プレイヤーも巻込んだこのイベントは、ギルド福音の女神とブレンド商会(アラド公国含む)、流通国ローロイズとの共催になっている。今の教団は第五都市の復旧と枢機卿のゴタゴタでそんな余力無いからな。
ローロイズはどこから突っ込んできたんだっけ。そっか、ある特殊な物をウチのギルドと開発していて、今回それを有効活用するべくとかそんな流れで関わって来たんだっけ。あの女王。
協賛してくれたのは、鍛冶の国エレーシオ・魔法都市アーリア・デヴィスマック連合国・その他諸々である。
ってかさ。
俺は知らなかった事なんだけど、女神聖祭の規模がどんな規模か判断突くかな?
単純にお祭りってその街や市全体でやる物だと思うじゃんよ。
国を挙げてのお祭りでも、その国の重要都市でやるもんだと俺は思っていたのだが……。
どうやらこの女神聖祭は、中央聖都ビクトリアのみならずにその回りを取り囲む七つ都市も含めての開催になるんだとか。
流石最古の祭り。
サイコ過ぎだろ。
流石に七つ都市全部使った祭りになるなんて思っても見なかった。精々中央聖都のみだろうと思ったが、それだけ人類にとって非常に特別な物らしい。
お陰で第五都市の復旧を任せていたギルドリヴォルブの方々がてんてこ舞いになっていた。ウチのギルドは開催の準備に追われていた物でね。
でも、鍛冶の国から派遣されたドワーフとリヴォルブと独自に繋がっていた巨人族の方々が建設作業に当たってくれていたお陰で、見違える程に様変わりしている。
街毎の移動手段も、アラドの走竜車やローロイズの飛竜船を配備。そして魔法都市からポータルの提供も受けていたりと、様々な国が優先的に協力してくれたお陰で開催へと至る訳だが。
少し疑問が残った。
エリック神父は今回の開催に対する声明を各国各地で行うべく移動移動の繰り返しだったのだが、そのついでに始まりの国ジェスアルへと開催報告をする為の書類を作っておいてほしいと頼まれた。
随分と懐かしい名前が出たな。
始まりの国ジェスアル。
報告をしに行かなければならないなんて、一体どういう力関係なんだと疑問に感じたが、俺の脳裏に運営の二文字が過った瞬間考えるのを止めた。
あまり深く突っ込まない方が良いだろう。経済活動も何もかもプレイヤーやこの世界の人々に委ねてもらっているからな。詳しく調べた所で、返答があるかどうかも判らないし。
いや、この運営だ。
確実に無いだろう。
物のついでに空鯨を一体借り受けて、そのまま私物化できないかなとエリック神父に依頼してみたのだが、当日帰って来た返事は出来ないとの事だった。
だがしかし。
公認イベントとしてHPに載せても良いなら一体のレンタルは構わないと。
まさかの返事来ちゃったよコレ。
そしてこの返事へ了承後に公式HPをチェックしてみると、由々しき文字で『女神聖祭が今…始まる』と言う告知がなされていた。
アップデート前の前夜祭を楽しんでね。と。
お陰でプレイヤー陣の中では、まさかのアップデートが公式告知されていると。コレは超巨大アップデートなのではないかと。
そう言った噂がながれ中央聖都の人口密度は加速的に上昇して行った。アップデートと教団の関係性が疑われ、それを探るべくプレイヤー達の多くが教団に入信したんだとか。
やったね。
一杯儲がでるね。
と、言う訳でオリンピックさながらの超大祭が今始まろうとしている。
『この放送は、魔法都市とローロイズ、ブレンド商会の協力の元に制作された映像魔道具によって生放送されています。これを通して私の声も貴方達に届いているという事ですね。———どうも、法王のエリックです』
エリック神父が開催前に挨拶をする。
それほども長くない挨拶だった。
俺が民衆に交じってエリーに手を引かれて出店や人が密集する広場を人ごみをかき分けて移動していたのだが、メイン広場の上に設置されたモニターにエリック神父が映った途端に、人ごみの流れが止まった。
皆一様に画面に釘付けとなる。
もちろん俺も。
そうか、こうして集まった人は外からの人で、エリック神父を見た事が無い人が多いのか。現法王ってだけで凄いありがたい存在なんだもんな。
そりゃ釘付けになる。
「ありゃ、孤児院に居たおっさんじゃねーか」
「私はあの人が子供達に釣を教えてる所を見てたから漁師かと思ってた」
「ままあれ! さんたのおじさん!」
ぽろぽろと彼と似た人物を見たという声が上がり始める。
あんた、なにやってんだよ。
ずっこけそうになりながらも、ホクホク顔のエリーに支えられて持ち直す。
『Battle of Crusadersを勝ち上がった者は、次代の英雄になる。是非ご参加をお待ちしております。優勝者には地位でも名誉でも富でも何でも手にする事ができますので』
なんてお茶目に言っていた。
お茶目に言っていたが、その内実は時期法王としての器を探す為であろう。
そんなのどうでも良いから。
俺はクロスたそを認めてほしいのである。
俺は今猛烈に燃えている。
燃えているぞ。
言葉が終わった後に、『うああああああおおおおお!!!』と国中から叫び声が上がるのが判った。なんだかんだこの世界の娯楽と言えば、こういうのしか無いからな。
皆でトトカルチョでもして遊ぶんだろう。
「師匠! アレデス! 海牛ケバブ!」
「それもいいけど、俺は大型回遊魚のにぎり寿司が食べたいなぁ。丁度釣王が生きの良いの水揚げしたから食べに来てって言ってたし」
「ムカッ! 釣女の話は今シナイ! だって明日から試合ばっかりでまた急にいなくなっちゃうんデショウ? 確り肉を食べてくだサイ!」
それもそうか。
ってか本当に生きの良いのを食べたかったらローロイズに直接向かえばいいしなぁ。体力作りの為に肉食べて備えよう。
「ムフフ〜♪」
「おい、ちょっ! わかったから走るなって!」
俺の右手を強引に引っ張りながら、いつもと少し違う水色の服をヒラヒラさせて走り出した。
まぁ最近全然構ってなかったしな。
たまにはこういうのもありだろう。
補足的な何かを挟みました。
イベント毎ではしっかりエリーがデート権をかっさらっています。
まぁなんだかんだやる事やってんだと。