国境の寂れた教会で
俺達は更に北進する。
アラド公国を北に進路をとり、国境の砦を抜け『泉の国ヴェントゥ』へ行くべくラルドの引く竜車に乗って、快走していた。
泉の国って一体なんなんだろうか。
泉の中に国があるのかな?
泉の国ヴェントゥ…。
泉の国ベントー…。
新幹線乗ってたら関西辺りで売ってそうだな。
くだらない事は置いといて。
アラド公国の広大な耕作地域へ流れる川の水は、そのヴェントゥの泉の水だとかなんとか。
と言う事は、航路でヴェントゥまで行けるのかな。
船、乗ってみたいな。
だが、俺達にはラルドが居る。
ラルド、今日もお前の走りは最高だ。
ハイヤー!ラルド!北へ全力全身だ!
そう言えば、ブレンド商会からの情報によると、この走竜種達。そこそこ繁殖成功実績が貯まって来たからアラド公国の商品として売り出そうという計画が上がっているらしい。
今までは高価な贈り物の際と、騎竜部隊でしか使われてなかったそうだ。
ブレンドが販路を手掛け出してから、こんなに早く商品かするなんてな。
まぁアラド公国に進出して来たプレイヤー達のお陰で、草原竜の被害が治まっているらしいからな。
そういう都合の良い状況が重なって開けた道なんだろうか。
最近のブレンド商会の進歩が目覚ましい。
さすが、神と対等に取引する男(自称)である。
国境の砦へ続く分かれ道で、直線ルートを塞ぐ兵士によって、俺達は迂回ルートを選択する事を余儀なくされた。
なんとも、旅商人のキャラバンが盗賊に襲われたらしい。
※この世界でキャラバンとは商人旅団のことです。
物資は飛び散らかり通れる状態じゃないらしく、現状維持のため道は封鎖されているそうだ。
御愁傷様です兵士さん。
兵士さんは迂回ルートを教えてくれた。
幾分遠回りになると思うが、竜車での行動ならそう変わらないらしい。
兵士達もあたりを捜査しているが、盗賊団が出るかもしれないから気をつけてくれだそうだ。
盗賊団ね。
規模が判らないが、キャラバンを襲撃できる盗賊か。
想像するだけでも結構な人数が居そうだな。
警戒する必要は十分ある。
話しを聞いたセバスは、ランドに警戒して進む様に言いつけ、同時に俺とユウジンでも周囲を警戒しつつ迂回ルートを進んで行った。
で、案の定だ。
今俺達は、その盗賊団に追われている。
数がそこそこ居るな。二十人くらいか?
ぶっちゃけラルドがいるから振り切れると思っていたのだが、奴らはキャラバンから馬を強奪していたらしい。
キャラバンの印を付けた馬に乗った盗賊が何人か後ろから追って来ている。
鬱陶しいな。
「ユウジン!」
キャビンの窓を開けて、見張り番としてセバスの隣に座っていたユウジンの名前を呼ぶ。
彼は立ち上がり、キャビンの屋根に登った。
よく立っていられるな。
結構な速度で結構な揺れなのに。
俺も窓から身を乗り出してクロスを握る。
「飛剣」
「聖十字」
お互い遠距離技を飛ばす。
ってかユウジン、お前やっぱり遠距離技も持ってたんだな。
斬撃を飛ばしているが、彼は常に世界樹刀を握っているので、当たった相手はただ気絶するだけだった。
「師匠、師匠の技はユウジンさんの斬撃で掻き消えまシタネ」
「うっさい」
最前線を走っていた馬が転び、それに続き後続も転んで行く。
落馬ってすごく痛そうだ。
一先ずこれで安心だと思う。
盗賊達を尻目に俺達は道を先に進んだ。
迂回用の道は、しばらく使われてなかったのか、でこぼこしていて進み心地が悪かった。
振動がもろに伝わって来て、凪が窓から吐いた。
ってか、さっきの戦闘でも凪が魔法使ってれば即行だったのだが、案の定、馬車の中では真っ青な顔して横になっていた。
不運な事は続く。
ついに車輪が取れた。
荒い道を結構な速度で走ったからかな。
ってかメンテナンスしてなかったからな。
完璧にゲームの世界だと油断していた。
「申し訳ございません。私の管理不足です」
セバスが皆に謝る。
いやセバス、そんなに謝らなくてもいいんだよ。
あ、ロールプレイだったな。
ちょうど近くに教会らしき建物が見えたので、盗賊から身を隠すついでに馬車の修理を行うそうだ。
俺も礼拝しよう。
凪の世話をエリーがしているので、今回は一人である。
古びたドアノブを手に持つと、風化で壊れた。
…これ、礼拝してる途中で崩れないよな?
進むと礼拝堂がある。
中は意外と立派だった。
柱にはひびなどが入っているが、これなら崩れる心配は無さそうだった。
この様子じゃ、女神像もしっかり残っていそうだな。
有りと無しじゃ、礼拝のテンションが変わって来るから。
そこは譲れないのである。
だがそこにある像は女神でなく大鎌を持ったガーゴイルの石像だった。
真ん中に一体ではなく、左右に一体ずつの二体である。
女神像がある筈の場所には、何も無かった。
不気味過ぎるだろ。
宗教戦争でもあって、大昔に廃れた別宗教の教会なのかな?
とりあえず女神像が無い。
なんてこった。
でもそんな時にはこれ。
偽女神像さんの出番である。
俺はリュックの口を目一杯広げて、割と大きな女神像を取り出す。
そして真ん中に置く。
すると。
『我が主を驕るのは誰だ』
『この法力、あの女か』
『いや、この魔力は矮小な人族ぞ』
『ではあの女の差しがねか』
ゴゴゴゴゴ。と石像が動き出す。
ボロボロと石が剥がれる様にガーゴイル達はその姿を露にした。
これはヤバイな。
とんでもない悪意と魔力をヒシヒシ感じる。
ってかもしかして貴方達の神様をここに安置してた感じ?
まじで?
それは謝るから元の位置に戻ってください。
お願いします。
『あの女の使いには死を』
『永遠の苦しみを』
ですよねー。
俺は、女神像を即行でリュックの中に仕舞うと、ガーゴイル達の攻撃を転がる様に躱し、教会の出口に駆け出した。
「おい! 今すぐ逃げるぞ!」
「一体何があった!」
ユウジンが駆けて来る。
「別宗教の教会で、大鎌を持ったガーゴイルが襲って来た! セバス竜車は?」
「もうすぐ準備できます!」
教会の柱が、壁が崩れている様な音がする。
ガーゴイル達が迫って来ている音だろう。
車輪の修理は終っていた。
後はラルドを繋いで、逃げるだけだ。
戦う選択は?
何かあんな巨大な物二体も相手できない。
流石にユウジンでも無理だろう。
凪だって本調子じゃない。
俺が女神像を置かない限り出現する事は無い魔物だと思う。
ユニーク武器で召還される魔物とか。
勝てるわけないじゃないか。
決闘とかでもないし無理はしない。
鉄則だ。
「戦わないのか?」
ユウジンは暢気な声で言う。
その瞳には静かな闘志が宿っていた。
なら木刀を戦闘用の刀に持ち替えてから言ってくれませんかね!?
バトルジャンキーか!
「へっへっへ! 貴様らやっと見つけたぞ! さっきはよくやってくれやがったな」
間の悪い事に盗賊も来た。
めんどくせー!
「これは俺も厳しいな」
「だから! 早く! 行くぞ!」
もう女性陣二人は竜車に乗せてある。
セバスも準備ができているようで、俺はセバスの隣の御者席、ユウジンはキャビンの上に飛び乗った。
逃げようとした所で盗賊達が竜車に接近して来るのをラルドが蹴散らしてくれた。
ナイスラルド!
だが、進行方向にも盗賊が待ち構えていた。
「遠さねぇぞ! その竜と竜車、女を置いて殺されやがれ!」
くそ!強行突破しかないかな。
そう思ったと時、後方の教会の方からも凄まじい崩壊音が聞こえ、羽をはためかせたガーゴイル達が、俺達の目前に飛来した。
「お、お頭ァッ—————助けグプュ!!!」
「なんだぁ!? 何なんだこれハッ—————ケヒッ!!」
蹂躙だ。
着地と同時に真下に居た盗賊達はぐちゃぐちゃに潰されてしまった。
風船が弾ける様に血の飛沫が周囲を染めて行く。
セバスでも目を背ける程の光景だった。
「キュロロロロロ…」
ラルドが怯えた様に鳴きながら俺を見る。
お前でも怖いか、前に進めないのか。
……そうか。
「はは、倒すしか無いみたいだな。楽しくなって来たぜ」
「……だな」
「なんだ? 不満か?」
「いや、逆だ。これほどまでに腹が立つのも初めてだ」
「ノリノリじゃん」
こいつら、人を嘲笑う様に殺しやがった。
水たまりで遊ぶ幼児の様に、血溜まりでまだ息のある盗賊の頭を踏みつぶして遊んでいる。
純粋に悪意に対して怒りが芽生えた瞬間だった。
隣でユウジンが楽しそうに俺を見ている。
俺の心境は全然楽しくないけどな。
『脆い、下等な種族ぞ』
『人間は美味くないから好かん』
「鬼闘気!」
「降臨!」
俺達二人は初めから全開である。
二人で相手をしてる間にセバスには避難してもらう。
セバスとエリーには凪の事を頼む。
頭がやられて一目散に逃げて行ったとは言え、まだ残っている盗賊が居るかもしれないからな。
ってかユウジン、冷静になってお前を見たら。
湯気出てんだけど、上着脱ぐな。
『世界樹の鬼の匂い』
『何故こんな所に』
『その法力はやはりあの女の』
『仕留め主への手みやげに』
「倒してから言え聖十字」
相手のペースに付き合ってる暇はない。
そういえば、十字架持ってなくても降臨状態なら聖十字飛ばせる様になった。遠距離って良いね。
ユウジンも斬撃を飛ばしている。
普通に大鎌で弾かれた。
…弾かれただと!?
牽制だからいいけどね。
大振りの大鎌が襲う。
軌道が読みやすいので簡単に避ける。
まずは武器を奪ってしまえ。
鎌なんて刃がついてない部分はなんら問題ない。
鎖も分銅もついてないしな。
気をつけるのは長い尻尾の不意打ちだな。
『小賢しいことを』
『我が鎌を弾くとは』
ユウジンは鎌と打ち合っていた。
遊んでんだろ…。
俺はそんな余裕無いからな、制限時間もあるし。
聖書さん、クロスたそ、魔力ちゃん。行くぞ!
初手は石像の腰に飛びつく。
ロッククライミングの要領で顔面を目指し登って行く。
こういう手合いには攻撃できる所からって言うけどさ。
こっちは素手だからね。
一撃で仕留めれそうな所を狙うよ。
叩き落とそうとしてきた腕を避ける。
だが、尻尾がすぐ飛んで来て弾き飛ばされた。
あの尻尾がくせ者だな。
千切れないかな。
俺は尻尾の付け根に聖十字を当てる。
『ゴガアアアアア』
千切れた。ってか、硬いのは外側だけで、中身はしっかり生き物してんのな。
で、千切れた所が焼けただれている。
そういえばDUOも殴ったら効いていたな。
弱点か!
そうかそうか弱点か!
「おまえも楽しそうだな! まずは羽を落としちまえ!」
ユウジンはそう言って目の前のガーゴイルをまっ二つにした。
終ったか、彼の相手していたガーゴイルは、尻尾、羽、両腕が切り落とされていた。
部位破壊報酬貰えるぞ。
『馬鹿な!? ぬぅう!』
邪魔な羽を落とそうとすると、降臨状態が終ってしまった。
時間切れか、仕方ない。
もう結構弱ってるし、ヒール聞くだろうし。
なんせ二対一だからな。
『フン。今ので仕留めきれなかったのが貴様らの運の尽き』
そういってガーゴイルは翼を翻す。
『我が主は決してあの女の使者を生かしてはおかぬ。精々死の恐怖に怯えていろ』
捨て台詞を吐くと、凄い勢いで飛び去ってしまった。
いや、極論を言うと、プレイヤーだから死ぬ恐怖とか無いんですが。
まぁいいや。
「何だったんだ」
判らない。
何かを呼び覚ましてしまったという事は確かである。
悪い事じゃないと良いけど。
確実に悪い事だな。
疲れた。
よし、最後にもうひと仕事だ。
俺は死んでしまった盗賊達を崩れてしまった教会跡地に埋葬した。
盗賊達は悪党だったとは思うが、なんだかやるせない気分になった。
騎竜アップデード(笑)
『大草原を駆け抜けろ』(笑)
ノーマルプレイヤーも新たな時代の幕開け。
リアルスキンモードプレイヤーも新たな物語の幕開け。