ブーム?
現実世界では日曜日も終わり、月曜日だ。
エリーからメールが来ていた。
『御飯食べさせてください私はお腹がすいています』
何を言っとるんだこいつは。
『ログイン時間は21時で良いか?』
『はい』
返信早い。
確か、エリーの通う高校って、龍峰学院だっけ。
母校じゃねーか!
まぁいいや、今日は早めに終ったし、ログインするか。
ログインした。
決闘大会は、なんだかんだ拘束される事が多かったので凄く疲れた。
素晴らしく楽しかったけどね。
と、ここでログアウト前の状況を整理する。
たしか、依頼報酬。貰ってた。
サマエルの件ね。
エリック神父から許可証書を頂いた。
中央聖都ビクトリアの大教会の資料室などの施設を利用できる証書である。
俺の為に一筆書いたんだと。
そんなもんで機嫌なんて直さないんだからね。
ありがとうエリック神父。
で、そう言えばだけど。
凪も魔術クラスで優勝していた。
まぁ世界大全なら勝ち確実だろうがよー!
未だ、リアルスキンモードでは魔法と言う物がイマイチ良く判っていない。
念話、念動、鑑定、空間拡張。
俺が魔術として使えるのは、この4つだけだしな。
法力?
あんなもんストリ○トファイターのガイ○みたいなもんだよ。
ソニック○ームとサマーソ○ト。
俺はAGIが低過ぎるから素手相手なら基本待ちだ。
凪が貰ったアイテムは、希少アイテムの融合術式概論だった。
因みに魔術クラス、武技クラスはレベルがそこまで高くならないし人が集まらない為に、優勝準優勝までしか出なかったらしい。
ケチ臭いな。
彼女はレポートを融合術式概論を世界大全に吸収させていた。
どんどん強くなってるな。
名前を聞く感じ、後が容易に想像できるぞ。
あとはこれからの進路だな。
図書館に行くのは金が勿体無いから、ヨゼフ氏に頼み込んで地図を見せて頂いた。
素晴らしく精巧な地図だな。連合国内版だけど。
ってかこれ見せちゃダメな奴でしょ。
もっとこう、おおざっぱな奴でいいですよ!ヨゼフ氏!
で、地図を見た結果。
進路は一旦、アラド公国へ戻る事を決めた。
連合国の北には大きな山脈があったからだ。
馬車で山越えは不可能だな〜。
時間に余裕があれば、やってみんない事も無いけど。
でも麓には、ヨゼフさんの故郷があるらしい。
行ってみたいな巨人族の集落。
何食ってあんなにでかくなったんだろうな。
進路は、ヨーザン州から西に向かいアラド公国の国境の砦へ。
無事に入国を果たした。
進路はそのままアラド公国中央都だ。
中央都に入ってみたら意外な光景に驚かされる。
プレイヤーも、NPCもみんなリュックを背負っていた。
まるでこれが今期のトレンドなのよ?とでも言わんばかりの状況である。
まさかここまでとはな!
恐るべし。ブレンド商会。
なんかシステム的な補助が入ってるのかな。
リュックがあるだけでアイテムインベントリ拡張機能とか。
そう言う機能がない限り、プレイヤー達は使わんだろうに。
もしかしたら、この中にもリアルスキンプレイヤーが混ざっているかもな!
一般街のブレンド商会に向かう。
貴族街とか息詰まるしな。
もう北まで来てるのか、ノーマルプレイヤーのトップレベルっていくつだ?
そういえばロバストさんに聞いておけば良かった。
ん?ノーマルプレイヤーに念話って届くのだろうか?
試してみよう。
『ロバストさーん、聞こえていて、もし念話魔法を持っていたら返答おねがいします』
話しかけて思い出したけど。
初めてユウジンに話しかけた時は返してくれなかったな。
多分念話の魔法を習得していないと、返答できないんだろうか。
ありえるぞ。
んで、しばらくして返って来た。
『急にびっくりすんじゃねーかクボ! お陰でボーナスポイントを幾つか魔術に振っちまったぜ』
『返ってきてよかった。これでノーマルプレイヤーの方々とやり取りが出来そうですね。ハザードさんも取得すれば話しかけてくるんじゃないですか?』
『ん? お、おう。そうか、そういうことか。へへ。教えてくれてありがとよ』
『で、本題なんですが、今のトッププレイヤーのレベルっていくつですか?』
『俺のレベルでいいなら教えてやるよ。53だ』
『・・・・・・・・・・』
『わかんねーのか…。俺もそこそこ廃ってるプレイヤーだからよ。これでもまだ高い方だ。あとは攻略最前線組のみんなだが、あいつら勝手に世界に散っちまったらかなんの情報もねぇよ』
『そうなんですね。今アラド公国に居るんですが、プレイヤーが思ったより多かったので、驚いていたんですよ』
『あぁ、北の国か。ハンターランクD以上じゃないと行けないはず…。あれ、なんか王都出身の人達はEランクでも行ける様になってんじゃん。どうなってんだ』
『知らぬ間にイベントが進んでいたんですかね。ありがとうございます。私たちもRIO時間で数日ほど滞在する予定なので、また』
『おう、行く用事が出来たら連絡するぜ』
ふーむ。
何イベントが起きたんだか。
謎だ。
まぁいいや、とりあえず商会へ向かう。
で、出て来たら、ホクホク顔の皆である。
俺以外な。
くそっ!それでも多少なりのお金が手に入ったから嬉しい。
ってか、俺ってお金使ってたっけ?
今思えば借り物貰い物のオンパレードな気がする。
まぁいいや、補給する。
竜車のワゴンに必要な資材を詰め込んで行く作業は、セバスが行っていた。
俺はもちろん教会へ。
隣にはエリーが居る。
決闘大会で負けたのか相当悔しかったのか、彼女はより一層鍛錬に励む様になって行った。
ならばアラド公国なんかより、他の国が良かったかもしれないな。
良い狩場がある国はどこだろうか?
前にも言ったと思うが、アラド公国は草原、平原、耕作地域ばっかりなので、国境側に行かないと魔物をあまり見かける事が無い。
まぁその点、物資、食料は豊富に揃うんだけどね。
朝市も、あるらしいので明日の朝一番で向かおうと思う。
セバスを連れて。
魔力ちゃんもクロスたそも聖書ちゃんも、決闘大会はよくがんばってくれた。
雪精霊も交じって彼女達は礼拝中気持ち良さそうに飛び回っている。
礼拝が終ったら、アラド中央都を歩く。
そう言えば、すぐ草原竜だったり、イベントだったりでしっかり中央都を見て回っていなかった気がするので、少しブラブラするのも良いだろう。
「師匠、あそこ寄ってみまセンカ?」
エリーが俺の手を引きながら喫茶店へと進んで行く。
喫茶店ロイヤルブレンド。
系列店かよ。
入ってみると意外と人が居た。
内装はお洒落だし、高品質の割には安くて満足できた。
ブレンド商会の商品作り恐るべし。
最近では、エリーとこうして寄った町中の喫茶店を廻るのが定番となっている。
ちなみに、結構な頻度でケーキだったりスイーツを食べていた彼女は一時期ふっくらしていたが、ゲームの世界でも太るんだなと指摘すると。
より一層祈りと鍛錬に励む様になっていた。
なので最近の彼女は若干の筋肉質である。二の腕とか。
ただ最近、鍛錬のしすぎで耳が少し潰れて形が微妙に変わってしまったのが悔やまれる。
ヒールやリカバリーでも治らないので、高位の回復系魔術を覚えたら直して上げよう。
間に合えば良いんだけど。
優雅にお茶を取った後、時間が余ったので凪の所へ行ってみた。
彼女は全ての財を魔術関連の書物の収集に費やしている。
もともとハマり出したら止まらない性格だったのかな。
今までは、何したらいいか判らない、とりあえず慣れてるから縫い物でもやっとくわ。
っていう感じだったが、今ではある種誰よりもこの世界の知識にくわそうだ。
リアルでも学校の図書室、図書館に籠って、オカルト雑誌だったり専門雑誌だったりを読みふけっているらしい。
なんかすごいな。
そしてだ。
一般街を歩いていると見つけてしまった。
エリーが発見したんだよ。
俺じゃない。
女性用下着専門店『キヌヤ』である。
絹で作られた女性用ショーツを販売しているお店だ。
RIOの世界には無いデザイン。
それは現実世界でのものだった。
エリーは大喜びである。
ああ、やっぱりストレスは溜まっていたのかね。
因みにこの世界は男はヒモパン。
女性はドロワーズもしくははかない。
ただし一人だけフンドシスタイル。
ヒモパンっていっても、女性がはくヒモパンじゃなくて。
麻でできた紐付きハーフパンツの紐を腰で縛ってるだけ。
そんだけだ。
ノーマルスキンプレイヤーはインナー標準装備だが、リアルスキンモードはない。
自分で買ってはけってこった。
せめて女性プレイヤーにはその辺のサポートくらいあっても良いと思う。
運営よ、何故作らなかったのか。
その謎は今解けた。
お前らで作れってことだな。
『キヌヤ』で売られている下着は絹地のヒモパンである。
この世界の女性もいよいよヒモパンデビューなのか。
冗談だ。
お洒落で、女性が好きそうなデザインが多いな。
だが、お客さんが全然居ない。
「あら? めずらしいわね。お客さんかしら?」
茶髪を後ろで束ね、メガネをかけた女の人が店の奥から出て来る。
なんだっけ、あの髪型。フィッシュボーン?魚の骨みたいなやつ。
「あ、お邪魔しています」
「あら、神父様が綺麗な女性を引き連れてこんな所へ。どういった御用で?」
少し笑いを含んだ声で返された。
た、たしかに。
「ワタシが連れて来マシタ。どうしてもここのショーツが欲しクッテ」
「珍しいわね〜。ひょっとして貴族かしら? お偉いさん?」
もし、俺達がお偉いさんだったらあんたのその態度はマズいと思うけど。
「いいえ、たぶん貴方と同じ、リアルスキンモードのプレイヤーですよ」
「わぁ! 初めて会ったわ! お仲間さんだったの?」
そんな感じで握手を求められる。
こっちの世界で遭遇したリアルプレイヤー二人目だ。
聞く所によると彼女もVRゲームは初めてらしく。
興味本位で手を出してみたそうだ。
俺と同じ境遇…!
だが俺と違ったのは、彼女はしっかりゲームについて前知識を持っていた事。
ローブなど、服飾装備の生産職だったら知識を活かして楽しくできそうだと思ってやってみたのだが、この世界の下着の在り方に絶望し、店を構えるに至ったらしい。
リアルでも女性用下着のメーカーに勤めてるんだって。
向こうでもパンツ。こっちでもパンツ。御愁傷様。
で、なんとか個人店を開くまでに至ったそうだ!
だが、いざ店を作ってみたが、誰も買ってくれない。
彼女はマーケティングと言う物を疎かにしていたんだな。
この世界は、はかない。もしくはドロワーズだ。
絹のパンティなんてなんか贅沢そうだし、一般街で店を構えても売れないだろう。
貴族街の連中は、貴族街でしか買い物をしないしな。
「それなのよ〜。大きなミスよ〜。でも高くても物は良いのよ? 私は丹誠込めて作ったんだから」
このままでは店舗の家賃すら払えなくなってしまうそうだ。
貯蓄を切り崩し、この世界での生活を成り立たせているらしい。
いや、最悪ハンターに戻ればいいと思うんだが。
「そんな自己破産な真似できるわけないじゃない!」
彼女のプライドが許さない様だった。
「あ、そうだ神父様。あなたの教会でこれ使ってくれないかしら」
「あ、私は旅の神父なので、所属してないんですよ」
やんわりお断りしておく。
これ以上教会とのコネクションが強くなってたまるか。
でもなんとかして上げたいな〜。
どうしたら良いんだろう。
「師匠、これはセバスに任せるべきデス」
確かにそうだな。
俺達は基本、こう言った交渉になる物はセバス任せである。
俺がやると、足下を見られるもしくは、譲歩してしまう。
ユウジンがやると、脅迫になる。
凪は興味ない事は興味ないらしい。
基本的にエリー、またはセバスが請け負っている。
うん、任せよう。
しばらくしてまた訪れてみると。
彼女の店はブレンド商会と提携し、安価で高品質を掲げて大売り出しセールを行っていた。
『神父の護衛騎士愛用の下着』
『ブレンド商会は画期的なデザインを貴方へ』
『絹100% 着け心地はよろしくてよ?』
といった幟が掲げてある。
おい!
神父の護衛騎士愛用の下着って何だよ。
リュックブームからの、ヒモパンブームがアラド中央都で巻き起こるのであった。
ちょっとずつノーマルプレイヤーとリアルスキンの垣根を超えて来ましたよ。
ちなみにノーマルモードプレイヤーでもこの景品のユニーク・レアアイテム達はちゃんと使えますよ〜。
説明が変わってるだけで。
VIT+50とかSTR+50。重量200とかそんな感じでアイテムステータスだけ書いてます。ちゃんと鑑定すれば物語が出ます。
する人はあまりいませんが。
神父様は、パンツ職人と出会った。
セバス「私のプレゼン能力は世界一」