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今回は少しだけ笑いを含んでます。
たぶん。
毎回のことですが更新スピードが遅くて申し訳ありません汗
自殺屋
作:桶十芭



Case4-5+選択


どのくらいの時間が経っただろうか。
外はすでに暗闇に包まれている。
男が店の奥に姿を消してから、三冊目の本を読み終わった。
おそらく、今は深夜。青年は、そこで初めて腕時計を忘れたことに気づいた。
店内に時計はない。
「どうしよう……帰ろうかな。」
読み終わった本を棚に戻し、ソファに戻る。
すると、どこかで鈴の音がした。
昼間に聞いたものと同じ音。
青年はきょろきょろと周りを見回した。
しかし、なんの気配もなく、鈴の音がするどころかなんの音もしない。
青年が不思議に思って首を傾げていると、足元に何か温かいものがぶつかった。
心臓が急激に速くなる。
その温かいものの方からチリンと鈴の音が聞こえた。
次いで、高い鳴き声。
「……猫?」
青年の足元にいた温かいそれは、小さな黒猫だった。
漆黒の体、金色の鈴が付いた赤い首輪。漫画か小説にでも出てくるような猫である。
青年はほっと胸を撫で下ろし、その黒猫を抱き上げた。
両手の上に乗ってしまうほど小さな子猫である。
「なんだお前、飼い猫か?」
その問いかけに、猫はにゃあと一声答えた。
それと同時に、店内に明かりが灯った。
青年が反射的に振り返ると、そこに男が立っていた。
昼間と変わらぬ出で立ちである。
男は青年の手の上に猫を見つけると、にこりと微笑んで歩み寄った。
「鈴の音が聞こえると思ったら、やはり来ていたんですね、ポチ。」
「…………ポチ?」
どこに犬がいるのだろうと青年はしばらく辺りを見回し、それがこの黒猫の名前なのだと気づいた。
猫にポチとは、一体どんなネーミングセンスなのだろうかと少し笑ってしまう。
「この子、ここで飼っているんですか?」
青年の問いに、男は黒猫を抱きながら一度頷いた。
「飼っているというより、棲みついてしまったのです。もう六年くらいここにいますね。」
六年という年月を、青年は疑問に思った。
少なくとも六年生きている猫が、こんなに小さな体なのだろうか。
青年が猫を見つめていると、男が口を開いた。
「この子は、成長が止まってしまったのです。一生このまま、小さな弱い体のままで生きなければなりません。走ることも満足にできないのです。」
成長が止まってしまう病気。"成長ホルモン分泌不全低身長症"と言っただろうか。
もっともそれは人間の病気としての呼び方で、猫の場合の病名は知らない。
青年がどこかで聞いた情報を思い返していると、男がカウンターに座り、猫の頭を撫でながら話し始めた。
「回虫という寄生虫がいます。それが体の中に寄生し、成長障害を引き起こすのです。この病気は、胎盤感染がほとんどです。生まれたときから、自由に走り回れないという辛い一生を背負って生きている。辛いことでしょうね。……ですが、犬や猫、動物達は自殺はしません。どんなに辛くとも、最後まで生きて、寿命を迎えます。なぜだと思いますか。」
青年は、首を振って答える。
「知らないからです。人間と違って、動物達は自殺という方法を知りません。本能で生きていますから。人間は他の生き物よりも遥かに多く複雑な感情を持ち、頭脳を持っている。だからこそ、自殺というものを知っているのです。そして、選ぶこともできます。生きるか、死ぬか。動物達は生きることしか知りません。それはいいことなんでしょうか、悪いことなんでしょうか。」
青年は、男に撫でられて喉を鳴らす猫をじっと見つめた。
『生きることしか知らない』
なんだか少し、悲しくなった。
この猫のように、死ぬ方法を知らず、苦痛に耐えながら生きることがはたしていいのか悪いのか答えは出なかった。
「選択することができる我々には、わかりませんね。選べない、ということがどんなことなのか。ですが、選択できるからこそよく考えて選びましょう。結果を急ぐことはありませんから。」
男の言葉に、青年はゆっくりと頷いて答えた。
「さて、本は読めましたか。」
「はい、三冊。今日はもう帰ります。また明日来ますね。」
「わかりました。暗いですからお気をつけてお帰りください。」
男が立ち上がり、ぺこりと頭を下げると、青年の意識がそこでぷつりと途切れた。












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