昔々、宇宙には星と銀河を創る神々の住む場所があった。
星を生む、星を創るというのは暇を持て余した神々の一種の娯楽であり、また神としての地位を示す、その手腕が試される修練の場所でもあった。神々の間では、銀河を彩る生きる者の居ない死が蔓延する星ほど『良い星』と讃えられ、生命が誕生してしまうような恵み豊かな下劣な星を『悪い星』とした。
神々は日々、自分達の娯楽と地位向上のために喜んで死の星を創り続けたが、その中に一人、死の星を創ろうとして何度も失敗した落ちこぼれの神が居た。神々達は、余りにその落ちこぼれの神が不出来な星を創り続けるので、神々の住む場所から追放した。良識ある神々達は、落ちこぼれの神に言った。
「落ちこぼれのお前が、銀河に綺麗な死の星をあげるまでは帰ることを許さん。命を誕生させぬように気をつけて星を創れ」
神々の住む場所から追放された落ちこぼれの神は、黒い宇宙に抱かれながら非常に落胆した。と、同時に沸々と湧き上がる苛立ちがあった。何故自分だけがこんな事になってしまったのか、その他の神々への純粋な怒りは、銀河に一つの爆発を生み出した。いつまでも絶えず消える事の無い炎の渦の星の誕生だった。
だが落ちこぼれの神は、まだ苛立ちを抑え切れなかった。思わず巨大な腕と足を宇宙の真ん中で上下左右に振るわすと、銀河に浮かぶ小さな原石が落ちこぼれの神の近くへ吸い寄せられるように集まり、それが互いにぶつかり合って銀河に散らばった。比較的丸みを残した原石は、炎の渦巻く星の近くに寄ると、浮き上がる熱の波に焼かれながらも、合間を量るように直列に並んだ。
数万年後。落ちこぼれの神は、いつまでも落胆している場合ではないと、その日決起した。そうだ。銀河に輝く死の星を創りさえすれば、もとの神々の住む場所へと帰れるのだ。全知全能たる神にとって、それは難しいことではない、むしろ簡単な事ではないか。そう思った神は、炎の渦巻く星を中心に『死の星』を創ろうと必死になった。
落ちこぼれの神が、必死に創る死の星の海は、意外にも順調だった。
銀河の中心点である炎の渦巻く星が、全ての原因だった。近づく星は焼け焦がれ、遠い星は凍りつき、何もしなくても宇宙に煌く死の星が出来上がる。これには流石の落ちこぼれの神も喜んだ。今まで失敗ばかり重ねていた自分に、これほど上手い死の銀河を創れる能力があったとは。神は自惚れた。その自惚れがいけなかった。炎の渦巻く星と直列に並ぶ、八個の星に命の基が芽生え始めたのだ。
「どどどど、どうしよう。このままじゃ神々の場所へと帰れない…」
神の焦りは、冷や汗を滴らせた。
するとどうだろう。垂らした焦りの冷や汗は、炎の渦巻く星から七番目と八番目に近い星に降りかかった。芽生えそうだった生命の基は、大量の汗に流されるように消えてゆき、宇宙に放り出された生命の基は、その育みを遮断され消えていった。
「おおお、なんたる偶然。はぁぁ、しかしあと六つ」
神は死の星を創らんと、ため息混じりに作業を続けた。
だが、呼吸の度に繰り返される、その神のため息は、いつの間にか炎の渦巻く星に届き、炎の渦巻きから出る巨大な風となった。すると、炎の渦巻く星に一番近い星と二番目に近い星に吹き付ける気体の分離した粒子を含んだ熱風が、生命の基を吹き払い、銀河の遠くへ消えて行く、熱砂の風と供に二つの惑星を死の星へと変えた。
「またまた偶然だ。うーん。しかし手ごわそうだな、よし。次は力ずくでいこう」
神は炎渦巻く星から五番目と六番目に近い星を、生命の基が付かぬ様に両手に掴んで力いっぱい振り回した。するとどうだろう。五番目の星は、神の手の些細な震えによって眠っていた火山が噴火し、生命が育たない巨大な磁力の塊となった。神が動いた事によって、惑星の周辺に輝きを隠すような大きな石ころが近づいたが、死の星のためには仕方ないと、神は断念した。六番目の星はガスばかりの星だったので掴みにくかったが、五番目の星とは逆に、星から噴出した塵やガスが、神の手によって上手く纏められ、偶然にも綺麗な輪を作った。
生命の基が芽生えた星もあと二つ。
落ちこぼれの神は、ここで怠惰な気持ちになった。「今まで偶然に消えていった生命の基だ、別に今やらなくてもいい」と、少し運動して疲れたので眠りについた。神の眠りは、時間という概念を超越するほど長い。星の誕生から、再び数万年の年月を重ね、神は深い眠りから覚めた。起き抜けに気になっていた二つの星を見た。
「な、なんだって!まだ死んでないじゃないか!」
神は、その光景に驚いて惑星に頭をぶつけてしまった。
惑星は神の一撃を受けて、崩壊し、神の憤慨する呼吸に運ばれて隕石群となった。大きな流星のような星の残骸は、あたかも狙ったかのように炎の渦巻く星から四番目に近い星に降り注いだ。隕石が星の表面を破壊してゆく。芽生えた命は降る石のつぶてに消えて、死の共鳴が四番目の星を砂の星に変えてゆく。またもや偶然にも、四番目の星が死の星となった。
「や、やったぞ!残るは一つだ!わはは!だが見ろ!もう風前の灯だ!」
神は、最後に生命の残った三番目の星を指差しながら喜んだ。
地表は海に覆われ、陸地もそれほど無い青き星に、四番目の星を死の星へと変えた隕石の残りが向かってゆく。これならば、すぐに死の星になる。これでやっと、自分の念願であった銀河全体を死の星で埋めるという計画が遂行できた。これでやっと神として認められる。指を指されるような落ちこぼれで無くなる。ああ、あの懐かしき神々の場所へと帰れるのだ。落ちこぼれの神は、歓喜の声をあげ、眉を垂らすと、ひどく上機嫌な面持ちだった。
「あら、あなたも、やればできるじゃない」
その時だった。
気に入りの女神が、神の場所から落ちこぼれの神を迎えに来ていた。落ちこぼれの神は、喜び勇んで女神の顔に近づいた。高潮する己の達成感を、今目の前に居る女神にも伝え、浅ましくもその唇を奪おうと飛びついたのだ。だが、急に女神に接近してきた落ちこぼれの神の顔は、お世辞にも美意識に足りるものではなかった。女神はボサボサ髪にクレーターのような顔面と、一滴の水も通さない砂漠のような唇を見て、恐怖に慄いて落ちこぼれの神の頬に強烈な平手打ちを食らわせた。
「ふごごごっ…」
バチーンと大きな音と供に、落ちこぼれの神の体がグワンと宇宙に揺れる。
するとどうだろう。炎の渦巻く星から三番目の惑星に向かっていた隕石の群れは、女神の平手打ちの衝撃と、落ちこぼれの神が漏らした鼻息で、吹き飛んでしまった。神は強烈な一撃を受けて、そのまま気絶すると、起きる頃にはまた数万年の時が流れていた。
「ああああああ!」
落ちこぼれの神は、ついにやってしまった。
炎の渦巻く星から三番目に近い星に生命の誕生を促し、育みを止める事が出来なかった。また汚らしい命の生まれる星を創ってしまったのだ。失敗を悔いる神の脳裏には、二つの陰があった。プイッと顔を逸らして神々の場所へと帰ってゆく女神の後姿と、ついに死の星に出来なかった憎たらしい三番目の星。落ちこぼれの神は、悲嘆にくれながら、渋々この銀河の製作を諦めると、また他の死の銀河の製作へと向かった。
落ちこぼれの神が失敗した、この炎渦巻く星から三番目に近い星の名前は、後にそこに誕生した生命によって『地球』と言われるようになった。
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