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針秘めた女

作者: めらめら

 夜が更けて、高架を渡る列車の騒音も静まってからしばらく経つ。

「ふー、いかんいかん!今日も飲みすぎたわい」

 僧服を着た大柄な壮年の男が一人、静まりかえった商店街を千鳥足で歩いて行く。

 かなり酒を飲んでいるみたいだ。


「ん……!」

 男が、こっち(・・・)を向いた。暗い道端に独り佇む、あたしの姿に気付いたらしい。


「こんな夜中まで……たった独りでここに……」

 男があたしの方に歩いてきた。痛ましげな顔であたしに声をかけて来る。

 仄暗い狭間の世界で身動きのできないあたしには、昼も夜も大した区別はないけれど。


「お願い、いいから、むこうに行って……」

 あたしは貌を上げ男を見つめ、どうにか口を開いて男に頼んだ。


「何を言う! ここで会ったのも何かの縁。憚り乍ら、愚僧が成仏を御手伝い致そう」

 そう言って男は、数珠を握って二言三言念仏を唱えると、あたし向かって、


「喝!」


 男の強烈な『念』が、あたしを打った。

 でも……そんな力ではあたしを覆う闇は晴れない。


「ばかな! わしの力が及ばぬとは!」

 男が驚愕の声を上げる。


 ざわざわざわ……


 突然、あたしの中で何かが蠢いた。


  餌ダ……餌ダヨォ……!


 路地に伸びたあたしの影から、黒髪の間から、ブレザーの内から、蒼白い爪先から、闇色の線虫が無数に湧きだして、歓喜の声を上げながら男の身体を絡め取る。

「物の怪! お主! そのような者に囚われて!」

 男があたしを見つめて悲痛な声を上げる。でももう遅かった。


「ぎゃああああ!」

 男の断末魔。何万もの蟲達が、男の身体に食い込むと、瞬く間にその血を、肉を、じゅるじゅると吸い干していく。


 ああ……あたしは誰にも聞こえない嗚咽を漏らす。


 あたしの魂を囚えた魔は、口が奢っている。『力』を持ったヒトの血肉しか好まないのだ。

 あたしは男の干からびた残滓から貌を背ける。もうないあたしの瞳から、闇間に溶ける緋色の涙。

 この男も、あたしを『見る』ことは出来ても、あたしを縛った魔を祓う程の力は無かった。


 でも今はただ、待つしか無い。

 いつか、本当に『力ある者』が現われて、あたしの魂を解放してくれるその時まで……

 あたしは今日もこの闇に佇んで、あたしを『見つける』誰かを待っているのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 怖い怖い怖い。 描写が詳細でおどおどろしいです!
2019/03/06 07:41 退会済み
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