§21 慙愧の念
それはもう随分と前、私が入院していた時のことです。特に悪性と云うことでは無かったのですが、結構な苦痛と不快感が伴なう状態でした。
気を紛らわすため昼夜ネット小説を読んでいました。こういうときは目一杯の長編が、大長編が良いのです。
「小説家になろう」で「ほのぼの」とした感じの大長編のシリーズを探し出しました。そのお陰で結構苦痛を誤魔化すことが出来ました。
読み進めて行く中で、作者が心無い人達の書き込みで深く傷ついていることを知りました。ですが読み続けていた私はただ読むだけで、作者に対して何も行動することはありませんでした。
作者の悲痛な叫びを私は無視していたのです。
落ち込みながらもその作者はお話を更新して呉れていました。
やがて治癒した私は退院するのですが、その後は溜っていた実生活に追われ小説のことは殆ど忘れていました。
ある日思い出し、お話の続きは……と、探してみるとその後しばらくは更新を続けていたようですが、私が再訪したときにはもう更新されることは無い状態でした。
合計で100万字を超える作品を送り出して呉れた作者は失意の内に筆を執ることを止めてしまっていました。
私は恩知らずの薄情者です。
辛いときに苦痛を和らげて呉れた恩人に何ら報いることなく見殺しにしてしまったのです。今もその跡を、作者の痛みを確認することが出来ます。
この駄文を綴るその一因となる私の後ろめたい過去です。もう、あのような振舞はしたくない。その跡を見る度に私はその思いを深くするのです。