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ごみ箱

作者:うぐいふみ
 地方都市の郊外で小さな敷地に事務所を構える、とある会社に勤めていたときのこと。
 お茶出し当番のその日、朝一番にポットにお茶を溜め、お茶っ葉を捨てようと勝手口のベランダに出た私がごみ箱のフタを開けると、子猫が一匹入っていた。
 何の変哲もない水色のポリバケツのなか、猫の体は完全にごみに埋もれていて頭部だけがのぞいている……。
 何とも言えない不安な気持ちになる。
 まず、生きているのか死んでいるのか判然としない。見えている部分には何の異常もなく眠っているようにも見えるが、じっと観察していても固く目を瞑ってぴくりとも動かない。
 もしかしたら精巧に作られた置物が捨ててあるのかとも思ったが、入社して5年余り、毎年年末には大掃除をし、決算の時期には棚卸しも手伝っている自分でも社内でこんな置物は一度も見かけたことがなかった。それに、毛並みなどやけにリアルで、本物にしか見えない。呼吸をしているようでもないし、死んでいるように見えるのだが、だとしたら何でこんな所でこんなふうに死んでいるのか見当もつかない。
 事務所の裏手は何年も前からただ整地してあるだけの、普通の民家に囲まれた雑草だらけの空き地になっていて誰でも自由に出入りが出来、そこから平屋建て事務所のベランダに侵入すること自体は特に難しくはない。けれども、猫を捨てるためにわざわざ余所様のベランダに忍び込むなどという行為は、それだけでも常軌を逸している。
 同僚に知らせようとも思ったが、もしかしたら事務所の人間が故あって(一体どんな理由なのか。それを聞くことも恐ろしい気がした)捨てたのかもしれないし、何となく話題にしてはいけないような気がして思い止まった。 
 生きているのか死んでいるのかもわからない生き物をごみとして出すという後ろめたさを感じながら、結局黙ってフタを閉め、私はいつものように仕事に戻った。
 その日はごみの日ではなかったため、ごみ出しは翌日以降に持ち越された。翌日の当番は私ではない。

 だが、翌日以降も、いつまで経ってもそのことについて口にする者はいなかった。

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