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sparking!

作者:柚木あずさ
 くそっ。どうすりゃいいんだ!
 初めから分かっていたはずだった。このミッション、手間取れば窮地に陥るということくらい。所要時間を少しでも削るため、精神を極限にまで高めて作業に取りかかっていた。まさか、それがあだになろうとは。
 手先にばかり集中してしまうがために他への注意力が格段に低下してしまったのだ。
 人体を利用した、巧妙なワナ。ほんの少し動くだけでも、身じろぎのひとつでさえ命取り。身動きしたその瞬間、電流が全身を駆け巡る。冬だというのに、額に汗がにじむ。
「くっ……俺としたことが……」
 だから正座なんて慣れないことするべきじゃないんだよ、本当にもう!
 集中できる気がするから――ってカッコつけたのが悪かったんだ! ああ、出来ることならば1時間前の自分の頭をはたいてやりたいッ。
 涙目の我が眼に映るは念願のギガントロボ・コスモフォーム1/144モデル。しがない学生宅リビングの卓上に舞い降りた巨大人型兵器(1/144モデル)は、散っていた残骸を見下ろし悠々とティッシュ箱の上に鎮座する。あたりに漂う接着剤の匂いの向こうに、激戦の舞台が確かに見えた。
 こんなことになるなら休憩をしっかりとって足を伸ばすようにしてれば良かった。悔やんでも悔やみきれないとはことことだ、ちくしょう。
 いつまでもこうやっているわけにはいかない。行くも地獄、戻るも地獄。されど今現在の状態を保持するのも辛い。この中腰の姿勢は確実に体力と精神力を削っていく。強行突破を試みて、ゆっくりと体を休ませるのも手だ。
 やってやろうじゃないか。
 大きく息を吸い込み、腕に力を込めた。
 ――その時。
 ぞぞっと背筋に怖気が走った。殺気にも近い、しかし負の感情の一切を排した、獲物を狙う純粋な視線。彼奴はハンターとしては未熟と言わざるを得ない。気配を隠しきれていないのだから。
 しかし今は、その幼さが心臓をザリザリとへつっていくような恐怖として迫ってくる。何も知らないが故の無邪気さ、いや、知っているゆえの残酷さかもしれない。
 いたぶるかのようにじりじりと迫る気配が、真綿のようにゆるりゆるりと喉元を締めつけていく。
 体温が1、2度下がったような気がした。
 耳殻が捕らえた敵機の第一声が脳内をひっかきまわす。
「――ッちょ、いいか、来るなよ! 絶対だぞ!」
 警告。敵機、尚モ接近中。
 頭の中を警告ランプがくるくると回り続けていた。
 敵機から発せられた第二のシグナルが鼓膜に突き刺さる。
「にぃ〜」
 我が家のアイドルにしてマスコット、湯たんぽ兼セラピストである愛猫・イチゴだ。
 くりっとした瞳をきらきらと輝かせ、甘えるように小さく鳴きながら、殺人兵器と称して過言でもない愛くるしい表情をふりまく。小さな4つの足と尻尾とをぱたぱた動かし、もつれるように、転げるように、飼い主(=俺)のもとへと走り出す。
 ああ! いつもなら、いつもなら!
 抱き上げて、その小さな身体をあますとこなく撫でつくしてやるというのにッ!
「イチゴ、良い子だから! お願いだからこっちに来――ッ」

 その日、イチゴは生まれて初めて獲物をしとめることに成功した。






うっかり足をしびれさせたときの絶望感と後悔って半端ないです。
痛いわけじゃない。命にかかわるわけでもない。けれどなんか怖い。

ミッション、電流、ワナの三大噺でした(3単語とも本文に含まれています)
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