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妄想の類ですので、見解に大差小差ありましょうが、どうか寛大な目で読んでやってください。
ホリディ
作:藤田迷路


 いつからだっただろう。 夢を追うのがこんなにも苦しくなったのは。 誰かに見られるのがこんなに辛くなったのは。
 僕は薄暗い四畳半の部屋の天井をただ見つめていた。枕に頭が吸い付いたようで、寝付けないのに起きられそうもない。
 視界の端には闇に溶けるようなダークグレーのリクルートスーツが、僕の抜け殻のように吊されている。
 周りに舞い込む朗報を聞くたびに自分への信用がなくなっていく。いや、最初から自分への信用なんかなかったのかもしれない。
 他人に自分の存在そのものが否定されているようで、全ての事が疎ましく、憎悪さえ覚えた。誰も僕を認めてはくれないんだ。
 唯一の味方のようにさえ思っていた彼女にも、先月僕から別れを告げた。 彼女に当たってしまうことが理由のひとつでもあったが、不様な姿を晒している惨めさに自分が耐えられなかったのが一番大きい。
 何もかもが上手く行かない。頑張れば頑張るほど空回り。 きっと頑張っても頑張らなくても結果は変わらないんだ。それならいっそ止めてしまおう。 そうして僕は眠れる気配もないまま、今こうして枕に頭を沈めている。
 ふと視線を向けた窓辺には、彼女が別れ際にくれた花が(しお)れてうな垂れているのが見えた。 彼女を嫌いなったわけではなかったので大事に育てていたつもりだが、どうやら水の遣りすぎが原因らしい。 花すら満足に育てられないことに自嘲すると共に、期待をかけられて、その重荷に耐え切れず壊れてしまった自分の姿を映しているようで呆れて笑えた。
 窓の向こうは生憎(あいにく)の雨模様。天気さえ僕を笑うように闇に音を立てている。
 自分が思い描いていた理想は別に高望みをしていたつもりはない。でも、叶う夢でもなかったみたいだ。
 周りは夢を持てだとか、夢のためになんて言うけど、夢に裏切られた僕はどうしたらいいんだ。 もう、夢は瞼の裏だけでいい。そう割り切って瞼を閉じた。
 だが、気が付くと夜はまた朝に繋がり、自分が止めた世界で雨音の中にスズメの声を聞いている。
 薄目を開けて見た枕元の時計は電池が切れていて、針は十時二十六分で止まっている。今何時なんだろう。気になったが、もう休むと決めたんだ。自分に言い聞かせるように改めて瞼を閉じた。
 瞼の裏に見つけた理想郷には、失敗も、後悔も、挫折も、涙も、花も枯れない。
 だが、どうしてだろう。ずっと眠れない。 寝ようと焦れば焦るほど頭は冴える。もがけばもがくほど巧く行かない自分と同じだ。
 (うれ)うことなど何もない。この理想郷に身体を()かせば心地よい眠りに就ける。 でもまた、こうしてスズメの声を聞いているのは何故だ。
 明るくなった窓の外に動き出した町の音が聞こえ始める。遠くで錆びた自転車のブレーキ音が聞こえる。 いつもなら、そろそろ玄関を出なければ間に合わない時間なんだろう。身体に染み付いた感覚が時間を教える。 身体が僕の意志に反して起きようとする。眠りたいのに身体は正直に僕を(はや)し立てる。
 再度見た窓辺からは厚い雲間からの陽光が差していた。小さな陽だまりにも花はやはりうな垂れていた。だが、よく見ると枯れたはずの花はまだ僅かに蕾を残していた。 枯らしてしまったのに、誰の力を借りるでもなく花は自らの力で咲こうとしていた。
 …そうだ…。
 花は誰かに見られる為に咲くんじゃない。咲くことが花にとっては当たり前で、ありのままの姿なんだ。
 僕は僕にウソをついていた。自分を認めていなかったのは他人じゃない。自分自身だったんだ。僕は自分を信じられてなかったんだ。 本当の僕は起きようとしている。それを邪魔していたのは他の誰でもない、僕だったんだ。
 巧く行かない日々も、僕は生きたがっているんだ。失敗したって、後悔したってまた歩き出せばいい。 窓の外の町の時間が進み出す。自分が止めたつもりの世界は、自分だけを置いて今も進み続けている。
 (はた)から見れば僕は既に遅刻なのかもしれない。でも、誰に何を言われたっていい。遅刻だっていい。これは僕の物語だ。 夢は逃げたりしない。逃げたのは自分なんだ。誰かの期待(リクエスト)に応えなくたっていいんだ。
 不意に枕が頭から離れた。打てなかった寝返りも打てる。
 起きよう。
 改めて時計を見る。やはり時間は十時二十六分のまま。時計の電池も買いに行こう。僕の時間を動かすんだ。
 誰かに見られるため、認められるために僕は生きているんじゃない。ありのままでいることが自分の目指していた姿だったんだ。
 彼女がくれた花が僕に教えてくれた。 確かシンビジウムって言ったな。それも買いに行こう。今度は決して枯らさないから。

 僕は電池を買った帰り道、花屋の前で足を止めた。花屋の店先、たくさんの花の中に小さなシンビジウムが並んでいた。 他の花には花言葉のプレートが提げられているが、シンビジウムにはそれがなかった。
 僕はそれを一鉢買うと店員に聞いてみた。

「この花にも花言葉はあるんですか?」

「はい。花にはそれぞれ、その花に因んだ花言葉がございます」

「じゃぁ、この花の花言葉は…?」

「シンビジウムですね。シンビジウム、花言葉は“飾らぬ心”ですよ」

 …僕はゆっくり笑った。



<了>


ご精読ありがとうございました。
正直、小説とは言えない代物になってしまいました(汗)。80%は実体験によるものなので、もはやエッセイですね。
少し『Title of mine』と重なるとこもありますが、『Title of mine』はまた何らかの違う形で作品に出来ればと思ってます。

しかし、自分は一人称でしか書けないと痛感です。心情を書こうとすると三人称では限界を迎えてしまうのが今の私の力です。要修業です…。


人によって曲の捉え方は様々あります。
ですが、この小説がアナタの描く『ホリディ』と同じであれば嬉しいなぁ。













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