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  酔狂学園伝 作者:留龍隆
(〜行事は裏方によって健全が保たれる〜)
 深夜徘徊。それが昌たちにピタリと当てはまる言葉だった。しかも舞台は学校。不審なこと極まりない。しかしそこは評議会の活動、なんら問題はなさそうだった。
 一方、立夏は辺りを見回して「管理委員」と呼ばれる人々を探した。どんな人物がいるものなのか興味があったのだ。そして、それは案外すぐに見つかった。黒いジャージに身を包み、襟を立ててマスクをしている。顔全体を覆うマスクは目しか見えておらず、表情を読むこともそれが誰なのかもわからなかった。
 「十二時の鐘が鳴ります。今ここに来ていなかった評議会役員の生徒があるクラスは挙手を願います」
 昌たちは向井も含めて全員集まっていたが、一年生の三十クラスの中にはいない生徒のあるクラスがいくつかあった。すると管理委員の三年生(らしき人)は挙手をしたクラスの生徒に欠席理由を聞いて回る。やがて、全員に聞き終わったところでまた前に戻った。
 「では、正当な欠席理由のなかった一年、四、九、十二、十三、十七、十八、二十、二十五、二十九、そして二年、五、七、九、十一、十四の組は、行事などで稼いだ点数から「遅れた分×5」点を引いていきます。文句は受け付けない」
 厳しい答え。そして誰も逆らえない。昌たちは、管理委員が汚い役ばかりやるために嫌われ者、と言われている所以がわかった気がした。そして恐らく、こうした行動から嫌われ、日常の生活で生徒からの反感から来るいじめなどがないよう、覆面をして顔をわからないようにしているのだろう。そして、顔がわからないので日常の中で見張られていることにも気づけない。
 「では、チームを組んでもらう管理委員を、1クラスにつき1〜2名配備する。任務は不正を働く者の摘発。では検討を祈る」
 昌たちのチームには一人、男の管理委員が配備された。「よろしく」と言ったきりなにも言わず、さして仲間意識も持たずに仕事をしていることがうかがえた。
 「しかし、広い校内では全学年の評議員が集まっても、まだ足りないくらいだな」
 「うん。1クラスに五人の評議員で、管理委員が1〜2。大体六人として、クラス数は一学年に三十・・・そして三学年だから、6×30×3=540か」
 昌が学校の広さにびびっていると、俊一郎はパパッと人数の計算を済ませた。
 「普通の学校なら一学年の人数くらいだね!」
 「多いです・・・・」
 立夏と千代は辺りをキョロキョロと見回し、敵がいないか確認しながら進んでいる。しかし、パソコンにハッキングするなら少なくとも無線RANがあるところでもなければ、敵がいるということはないだろう。
 「アホねえあんたたちは。というか、こんな見回り無駄よ無駄」
 そこで向井が話しに嘴を突っ込んできた。
 「なにが無駄なのさ」
 俊一郎が言い返すと、向井は鼻で笑ってこう言った。
 「あのねえ、評議会にもスパイはいるのよ。そいつがこの前の評議会で『もうすぐ見回りがある』なんて聞いておいて、仲間に言わないはずがないでしょう!つまり、今見回りをしても恐らくどのスパイもかからないわ。一人だって校内にはいない」
 それだけ言うと向井は、昌たちがあまりにも無知であることを笑い、また黙った。
 「・・・・うるさいぞおまえら。任務がある以上敵の有無に関わらず仕事をするんだ」
 管理委員の男は短くそう伝えるとまたも押し黙った。
 「はいよ・・・」
 
 見回りの結果は向井の予測通りだったスパイは一人も捕らえられず、眠い目こすって二時間半もの間延々と歩いただけだった。評議員の生徒は愚痴を垂れながら下校の支度をし、昌たちもその流れに乗っかって帰ることにした。が、俊一郎と立夏は最早体力の限界見極めたりといった感じで、足腰立たなくなっていた。よって、昌は二人を部屋に泊め、立夏をベッドに、俊一郎を敷いた布団に寝かせると、自分はその辺で雑魚寝をすることに決めた。千代は恥ずかしがって泊まらず、自宅まで帰るというので送っていった。
 「ふわああ・・・・大和田はさ、今日の見回りどう思った?」
 「いや、その・・・わたしたちは、陽動に使われたのではないか、というのが本音で」
 陽動、か。多分な。昌の考えもそうだった。評議員も使った大規模捜索の後で、ちまちまと管理委員が生徒を捕らえる。
 「つまり、近いうちにまた今度は管理委員だけで抜き打ち調査をする、と」
 「そうでしょうね・・・もしかしたら今頃、かも知れませんで」


 向井は焦っていた。帰ったことを確認したはずの管理委員が約百名、校内を巡回していたのだ。向井はスパイ。見つかることは‐。
 「くそっ・・・」
 勿論、向井は見つかるわけにはいかなかった。何人かの仲間と共に、この計画を進めてきたのだ。失敗は許されない、つかまれば終わりだ。向井は、情報を密告リークするために評議会内に潜入させられたスパイだった。そして、その情報で仲間の窮地を救い、計画を徐々に上へと押し上げていたのだ。
 「ここで捕まっちゃなんにもならない・・・っ」
 向井の家は裕福ではない。だから、できる限りたくさんの、それも太いコネを持つ学校に入らなければならなかった。それが梅沢学園大学。そのエリート教育は一切の門外不出を義務付けられる代わりに、多すぎるほどの恩恵を与えられる。一流企業。事業家としての立ち上げ。全て、梅沢なら可能だった。それが貧しい一家を救える希望だった。
 「それなのに、なんで・・・・・・」
 捕らえられた向井は、半べそをかきながら椅子に縛られ、周りを管理委員に囲まれていた。
 「これが何かわかるな?向井緑」
 管理委員の一人が注射器を手に取った。
 「・・・・自白剤」
 「その通りだ。出来れば使いたくはない。なれば問うしかない。・・・仲間は誰だ?」
 仲間。なかま。ナカマ・・・・・明かしたからとて何になろう。自分の退学は決定しているに決まっている。そして、明かせば凡倉行き程度で済み、明かさねば自白させられ仲間もろとも二度と高校にも入れないだろう。それどころか就職すら危うい。
 「仲間、は・・・・・」
 それでも、言えない。奇妙なことだが、この一ヶ月ほどの間、共に作業をしてきた同志に対して向井は信頼と友情すら感じることがあった。それを壊すのは・・・怖かった。
 「言わないか。まあいい。ならば、おまえという一人の生徒の記録がこの学園から抹消される」
 その程度ですむなら御の字だ、向井はそう思った。
 「そして、おまえには世のため人のため役にたってもらう。献血。臓器。なにもかもが他の人の手に渡る。おまえに残されるのは僅かな脳細胞一欠けらくらいだろう。全身、学園が『寄付』という形で病院に売る」
 「なっ・・・・!!!」
 「そしておまえは行方不明。親や兄弟は泣いて悲しむ。永遠に帰ることなき娘、姉を待ちながらな・・・」
 向井は顔面蒼白になり、吐き気を催しながら必死で抵抗した。
 「そんなこと」
 「出来るな」
 管理委員の一人が向井の腕にナイフを刺していた。中から真っ赤な血が噴き出し、向井は瞬間的に顔を逸らした。
 「・・・・あ、あっ、!!仲間はっ、仲間のことは言うから!!仲間は、二年三組の大竹千恵美、一年五組の前園健太、一年十五組の刈谷祥子!!やめて、お願い、ナイフが、あ、」
 ほほう、という顔をした管理委員は、ナイフを向井の腕から除いた。そして、向井に覆面越しの笑みをかける。
 「よく言ってくれた。腕はなんともないぞ。赤インキがでるバネ仕掛けで引っ込むナイフだ。これで君も解放。凡倉高校で楽しくやるといい」
 言われた向井はというと、はっとした顔で腕を見やる。腕は、肉に傷一付いてはいない。
 「騙し、たの・・・」
 泣き叫んだ後の向井は、非難がましい目で管理委員を見つめた。しかし管理委員の連中はそんな向井を面白がって笑い、馬鹿にした。
 「おまえ、これで仲間と顔を合わせられない、そう思ってるだろ」
 「なぜうちの高校はこんなことも行われているのに生徒同士での恨みあいがないのか。教えて欲しいかい?」
 「それはね、君の前にそこに座った人も、君のことを自白したのさ。人間、恐怖には勝てない。逃れるためなら醜いことも平気でする。信じあう気持ちなんざ漫画だけだ」
 向井はうなだれた。自分は裏切り者。そして自分も裏切られていた。その事実こそが最強最悪の罰だった。
 「な?この学園で不正なんて考えられないだろう?」
 
 
 昌は千代を送った後で、自分の腕時計を見た。三時。こんな夜中まで評議員は大変だ。
 「さっさと帰って寝るか。学校の仕事のくせにとんでもなく疲れる」
 部屋に戻った昌は俊一郎の布団をかけ直し、立夏がすやすやと寝息を立てている横で、床に座して眠りについた。そしてそのまま時間は過ぎ、朝の七時半。
 「オラー、飯だぞ昌ー・・・・・来いよ」
 母、泉が昌の部屋に起こしに行く。そこで見たのは寄り添い固まりあって眠る三人だった。
 「泊まっていったのか」
 泉はそう呟くと下に引き返し、盆に載せた朝食を二階に運んだ。
 「遅刻するよ」
 泉がそう言うと昌たちはむにゃむにゃと言って起き上がり、顔も洗わずに朝食をぱくついた。昌はくせっ毛がさらに寝癖を帯び、俊一郎は顔に枕の皺がついている。立夏は女の子であることとか考えていない感じで、左の頭の上で一つだけ作ったシニョンが崩れていた。そこから普段伸びているはずの三つ編も解け、寝起き全開である。
 「しゃきっとしろ、高校生!」
 泉の掛け声にふわーい、と返事をする三人。外に迎えに来ていた千代に気づくのは十二分後。
ちょいとシリアス。学校の裏の顔。


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