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  酔狂学園伝 作者:留龍隆
(〜行事に際して評議員は個個の仕事を果たすべきである〜)
 「広い・・・・・なんだここ」
 昌たちが辿り着いた(不必要なほどに校舎が広いためこんな表現があっているだろう)そこは、まるで縮小した国会であった。半円状に議員席があり、中央には校長が座ると見られる立派な席も見える。しかし、ここは本当に学校だろうか、と唖然としている昌たちをよそに、向井はただ一人冷静というかなんというか、物怖じしていなかった。
 「あんたたち、この程度で驚いてるの?」
 向井は眼鏡に手をかけながら小ばかにしたように笑う。
 「そりゃそうだよー。こんな設備を生徒のために造るなんて、普通なら絶対にないねえ」
 俊一郎は風にもなびかない短髪を大きく振りながらそう言った。背の低い俊一郎には、通常規格のサイズである昌たちよりもさらに大きく、評議会場がそびえたっているように感じた。
 「えと・・・みなさん、こちらで。一年二組はここの席です」
 千代が席をいち早く見つけ、四人に来るよう促した。しかし、向井にはそれすら気に食わないらしく、親切で席を見つけてくれた千代にむかってちっ、と舌打ちをした。ここにきて、さきほどから向井の態度が気に食わなかった昌が、向井に聞こえるか聞こえないかの音量で呟いた。
 「・・・・・心の醜さが顔面に反映されてるな・・」
 「なんですって・・・?一般入試で入ってきた負け組みのくせに、なに言ってんのよ」
 向井は昌の悪口を、一つ残らず耳に納めていた。そして口から罵詈雑言をほとばしらせ、昌に前言撤回するよう指示した。
 「負け組みはこれだから。わたしはね、あんたらが外の阿保が集まるような中学校に行ってるときから、ここの中学で誠実かつ高尚な教育を受けていたの。あんたらみたいに外の学校で情けない稚拙な教育を受けていた連中に、わたしの悪口は言わせない」
 つまるところ、向井が初めから不機嫌だった理由は、昌たちが中途入学組で大した頭も持ち合わせていない自分よりも格が下の人間だと決め付けていたから、らしい。
 「くだらねえ。外でもここでも何も変わらないだろう。人の親切ないがしろにしといて、そんなえらそうなこと言うな。大和田に悪いと思わないのか」
 「そいつこそ、変わり者だわ・・・大和田、あんたは中学からここにいるじゃないの。そんな連中と付き合い深めて、楽しい?ああ、そうか。あんたはそうだもんね。生徒の中で」
 「うるさいな。もう黙れよ。俺、こういうのが一番苦手だ。自分中心他人は下。天上天下唯我独尊ってやつか。こんなのと評議員やる、こっちの方が頭狂うわ。失せろ」
 昌は話途中だった向井の言葉を遮り、向井を罵った。昌は、言葉の暴力のみなら女が相手でも容赦はしないタイプだった。
 「この・・・・低俗な世界でなにを見てきたのか、この、ゴミ」
 「黙れって言ったろ。おまえこそ自分の世界のみで生きてきたんだろ、カス」
 二人が今にも取っ組み合いの喧嘩をやらかしそうになったところで、評議会場内のスピーカーから音が鳴り響いた。
 ≪ポーン。今から、本年度の第一回、評議会を始めます。評議員の方は着席して、それ以外の方は速やかに退出してください。ポーン≫
 最初と最後のポーン、は金物で出来た空洞状の物を叩いた音だった。その音が合図になったかのように、昌と向井は構えを解き、席に着いた。互いに端と端に座り、間に残った三人が入った。一触即発の二人は、今後顔を突き合わせてもずっと、この先一生今のままだろう、と互いに思っていた。
 ≪校長先生、来場≫
 スピーカーから声が流れ、続いてなぜか音楽が流れた。・・・・ロッキー?
 「えー、みなさん、静粛に」
 校長はそう言って議員席に現れた。が、登場の仕方はこれまで生徒達が見た「人間の登場シーン」の中でも秀逸だった。なぜか中央議員席の床が二つに割れ、奈落の底から校長が現れたのだ。なのに「静粛に」と言うとは・・・生徒のざわめきはこの登場の仕方と登場のテーマソングこそが原因とは思わないのだろうか。
 「・・・校長って、変、だよな」
 昌が何気なく言うと、横三人が一斉にうなずいた。
 「ただいまより、本年度第一回の評議会を執り行う」
 「きりーつ」
 校長の一番近くにいた高校三年生が、マイクで全員に号令をかける。どうやら高三がここでは最高学年らしい。昌、俊一郎、立夏の三人が辺りを見回すと、端の方には学生服姿の中学生も見えている。行事が関係するのは中学でも同じらしい。そして、それを統率する評議員が必要となる点も。
 「れーい。ちゃくせーき」
 「大学生はいないのかな?」
 立夏が評議会場に一人の大学生も見受けられなかったことで、周りに尋ねる。当然、向井は反応する気もなさそうなので、千代が答えた。
 「大学生はいません。この国トップの教育は、ムダを除いた完璧なる教育なので。・・・・ああ、スパルタとかじゃあありませんよ。現に、勉強が苦になったりする大学生は一人もいません。完璧なる教育とは、ノイローゼなども引き起こさない、ということなので」
 「勉強が辛い人、いないの?わたしだったらどうだろう・・・」
 立夏がうーんと悩むと千代は笑って、
 「そんな考えも吹き飛ぶような勉強なのでしょう。そして、卒業後は超一流の人間に早変わり。一流企業に入る人あり、美術芸術などの分野での成功者もあり。まあ、例外もなくはないですが・・・」
 と言った。が、立夏にはどうにも最後に呟いた「例外」が気にかかった。
 「例外って、なに?」
 「・・・・・梅沢学園大学部で、どんな勉強方が行われているのか知る者は、実際に通っている人とそこで教えている教師しかいません。どうやったらこんなエリートを生み出す教育が出来るのか、気になる人は大勢います。・・・勅使河原さんがもしその『大勢』の中にいたとすれば、どうやって探ろうとしますか?」
 「学校に行ってる人に訊く?」
 「もしくは教師、卒業者に尋ねるでしょう。しかし、話す人はいません。それが、入学の際に唯一約束させられることなので。そして、その禁を破った人はいません」
 「破りたくならないのかな?縛りがあったら、わたしはすり抜けてみたくなるけど」
 ここで千代は一旦間を置いた。話すべきか話さざるべきか、と逡巡した様子だった。
 「破るバカはいないわ。あんたなら関係ないかもしれないけど、いや、入学することを前提に話しちゃダメね。あんたみたいの、入る資格がない。勅使河原、破ることは死を意味するのよ」
 向井は中央議席に陣取り評議員の歴史について話を続ける校長から、目を離すことなく言った。立夏はというと、ほほー、と言って感心している。最初の一文と最後の一文しか頭に入らなかったかのようだ。
 「・・・・・死?」
 俊一郎は呆けた表情で聞き返す。
 「そ。テレビクルーの取材に応じた卒業生が死んだこともあったわ。特番で生放送の最中にね。それくらいのことを平気でするのが、梅沢学園大学部の裏の顔。ま、あんたらは心配することないわ。特に、その馴れ馴れしい奴。うざったいのよ」
 向井が立夏を指差して言うと、千代が静かに怒った。
 「・・勅使河原さんの悪口はやめてください。向井さん、一般入学のなにが悪いんで?」
 千代は向井に反抗した。すると向井のいる方向からビキっ、と音が鳴る。青筋が浮いた音ではない。向井が握り締めた議員席の「一年二組」と書かれた立て札の悲鳴である。
 「大和田。わたしは中途入学だからこいつらを嫌ってるんじゃない。こいつらが、こいつらだから嫌いなの」
 「人を好き嫌いするのは勝手です。わたしも貴女が嫌いですし。でも、わたしは、貴女がこの人たちを嫌うのを黙って見ていたくない」
 すると向井はハッ、と笑った。今度は呆れや嘲笑から来るものではない。憐みをかけたような乾いた笑いだった。
 「やっぱりね。・・・あんたは、のけ者が好きなんだ」
 向井がそう言って今度は嘲笑う。そこで、校長から注意が入る。
 「君達。真面目に評議する気がないのかね」
 「そんなことはないですよ、校長。ただ、この人たちがわたしに突っかかってくるんです」
 向井はすらすらと四人への反撃を読み上げた。校長はふうむ、と唸り、四人に注意した。
 「評議中にそういうことはいただけない。評議員の資格を取り消すぞ」
 それだけ言うと校長はまた話を続けた。これでもただの変人、というわけでもなく、一応真面目な教育者の一人なのだ。
 「では、続ける。みんなには手元にある評議員証を見てもらいたい。銀色のカードだ」
 昌たちが手元を見ると、そこには五枚の評議員証が輝いていた。銀のプレートには黒字で「評議員」と書かれており、裏面には様々な規約が細かい字でびっしりと書かれていた。
 「それを使って皆には評議活動をしてもらう。知っての通り、評議員は表立った動きをする軽度の行事違反者に罰を与えることが出来る。しかし、最近では裏の方で行事に細工をする者も多くなってきた。そこで五年ほど前から『管理委員』という形で、強化された取締を行うこととなったわけだが、残念なことに管理委員は優秀な者にしか頼むこともできず、人数が少ない。中には管理委員にスパイを送り込む輩さえいる。そこで、だ。君達評議員に管理委員くらいの働きをしてもらうことになり、特典として少し力を上げることになった」
 生徒はまたもざわめく。しかしこのざわめきは予期していたのか、校長は生徒が落ち着きを取り戻すまで待った。
 「・・・少々、評議員の力の行使の範囲を広げさせた。中、高、大の校長で話し合い、決まったことだ。変更はまずない。えー、どんなことが出来るようになったかというと、まず図書館などの学園施設の24時間利用可、コートなどの部活以外での使用の優遇、食券の値段8%OFF,などなど・・・・その代わり、君達には今まで管理委員がしてきたような危険な任も多くなる。くれぐれも用心してほしい。では、次の評議会は二週間後だ。そのときにまた新たに指示を言い渡すことになる。では、気をつけて帰るように・・・・・」
 ウイーーーンと音がして、校長は登場時と同じに奈落の底へと消えていった。近くで生徒が噂していたが、校長室はこうした評議会場などの全ての部屋に通じているという話である。
 「ふん、車に轢かれてしまいなさい」
 向井はそれだけ言い残して去った。悪口ともボケともとれる向井の言葉をかみ締めながら、昌たちも帰り支度をした。
 「昌吉〜」
 立夏がカバンを片手に昌に話しかける。
 「なんだ?」
 「今日、遊ぼう!」
 「・・・無理!」
 またか、という表情で昌がはねつけると、立夏は悲しそうに目を伏せた。
 「なんでー。いいじゃん昨日も良かったんだから!」
 「昨日来たからいいだろ。今日はダメだ」
 「ケチー・・・じゃ、俊ちゃんの家行こう!」
 立夏は切り替えも早く俊一郎に詰め寄った。昌はそんな立夏と俊一郎を見てあーあ、と苦笑いした。しかし俊一郎は素早く、
 「いやです」
 と返した。笑顔だったが、何か変なものを感じる笑みだった。ところが、この突っぱね方がいけなかった。立夏はぐす、と言ってぶつぶつ言い始める。
 「「やばい!!」」
 二人が同時に叫ぶ。千代はわけがわからず首を傾げる。
 「なにがやばいんで?」
 「立夏ちゃんはさ・・・・・いっぺん切れると手が付けられない。泣く、喚く、怒る。僕らが昔喧嘩したとき、その状態になって苦労した・・・・」
 俊一郎が遠い目をして語り始めるが、残念ながら時間はない。立夏爆発まで秒読みがスタートしている。
 「わーー!!わかった!!来ていいから。ね!!」
 俊一郎が慌てて言うと、立夏は顔を上げてえへへ、と笑った。
 「あ、ちくしょ、ウソ泣きか」
 俊一郎は短髪をかきむしり、その様子を眺めていた昌が同じくボサボサ髪をかきむしりながら肩をポンポンと叩いた。
どうも。ゴールの見えない話を書いてます。アニメとか学園物を見てて思いついたような話なんで。こんなんでも書きます。(こんなものでも、と困難でも、をかけた)・・・すいません。つまんないですね。何はともあれ私の妄想は膨らみ、話は続きます。なにとぞよろしく。では次回〜


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