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  酔狂学園伝 作者:留龍隆
 バトルものって難しい。でもまァ、漫画とかだと作画がきついけど、小説だと・・・・・・描写が難しい。絶対どういう戦闘か伝わってねーだろーなァ。
(〜行事は、他者との戦いで自分を磨く物である〜)
 あれは誤解だ、なにもなかった!と説明しても、誰が信じようか。千代も俊一郎も昌のことをなにか汚いものでも見るかのような、訝しげ〜な目で見つめていたし、立夏の父である亮韻、そして母の美津子にいたっては「「娘をよろしく。アレコレしといてポイ、はないよな?」」と手の骨をぱきぱき鳴らしながら脅しをかけてきた。精神的に参った昌は、隣で平然としていつも通りに歩く立夏を見て、また溜め息をついた。
「なに?どうしたの昌吉?」
 熱がなくなったら昨日の記憶も飛んだらしい。白身?抱き合う?なんのことです?と、全く話が通じないのだ。昌はまたもふかーく、ふか―――――く溜め息をついた。
「覚えられてないのが悲しいんですか?昌吉さん」
「記憶が飛ぶような酷いことをしたんですか・・・・・・昌さん」
 俊一郎と千代は昨日からずっとこの調子だ。昌を信用していない。
「なんにもしてないって。そんなに立夏に魅力はない」
「ひどっ!!昌吉、そんな言い方ないでしょ!!」
 思わず叫ぶ立夏。
「・・・・・・おまえ、やっぱ覚えてるんじゃないのか」
「なんのこと?」
 とぼけたフリをしているのか、ホントに覚えていないのか。昌はわからない問いに悩み、うーんと呻いた。
「多分、覚えてる部分と覚えてない部分があるんでしょうねえ。ところどころ単語には反応を示してますから」
 俊一郎はそう言って笑い、昌の肩を叩いた。その肩には、黒檀製の木刀がさげられている。
「大会、手は抜かずにいきましょう。泉さんに当たるまでは」
「だな」
 そして二人はがたがた震え始めた。一応今朝、泉に大会に参加するかを聞いてきたのだが、無言で槍を手にしたので二人は何も言えなくなったのだった。
「刃物もアリ、っていうのが面白いですねえ。ま、僕もアーミーナイフは持ってきたんですが」
 俊一郎はごっついナイフを取りだすと、表面についた赤黒い汚れを見て、慌てて鞘にしまった。しかし三人ともそれを見逃さず、俊一郎を言及した。
「それって・・・・・・血だろ!!」
「大根切ってたら自分の手を切ったんですって・・・・・・」
「そんなナイフで大根切るはずないんで」
「他に包丁無かった」
「ていうか、なんでそんなもの持ってるの?」
「・・・・・・・・・・・・ノーコメント」


 学校に着いた三人は、改めて大会の規模を思い知った。わらわらと群がるように集まった生徒、高等部中学部入り乱れての大人数。数え切れない人数に圧倒されながらも、昌と俊一郎は自分の組を探した。
「お互い健闘しようじゃないか」
「僕と当たるまで来るのは、以外と簡単だと思いますがねえ」

「「ま、あいつには勝てないだろうけど」」

 はもった二人は、それぞれの会場へと向かった。聞くところによると参加者は二百人ちかくいて、二十人ごと十のブロックに分けられるそうである。昌達評議会の人間は、その中に紛れ込んで不正を働く輩を検挙することが仕事となる。立夏と千代は救護室で負傷者の手当てにまわっているが、そちらもそちらで大変そうだ。
「ま、二十人中の一人を勝ち取るのくらい、訳ねーな」
 昌は肩にしょっていた黒光りする「最高級本黒檀製長木刀」を構えると、最初の対戦相手に向かい合った。坊主頭の巨漢で、手には赤樫製のこれまた木刀が握られている。
「ようにーちゃん、骨粉にされたくなかったら、そこから降りな」
 低い声で脅し文句を呟く。しかし、昌はあの泉と暮らしているのだ。言葉などよりも怖いものがこの世にいくらでもあることを知っている。
「降りねえ」
「後悔する」「月並みな台詞どうも」
 早口で割り込むと、坊主頭の額に青筋が浮いた。そこで、試合開始のドラが鳴る。
 
 ゴッ
 
 鈍い音が一つすると、坊主頭は地に伏せった。倒れた坊主頭の後ろには昌が立ち、袈裟切りをしたあとの木刀をブン、と振って鞘に収めた。慌ててカウントをとる審判、しかし既に坊主頭に意識はなく、肩には大きなあざが出来ている。
「安心しろ峰打ちだ・・・・・・これ言ってみたかったんだけど、木刀じゃ峰も刃もないな」
 恐怖に煽られる同ブロックの選手達。結局、昌の前に立った選手は皆同様に倒れていき、最後の方の選手達にいたっては棄権を申し出るほどだった。
「トーナメント進出、千種昌選手!!!!」
「らくしょう」

 ところかわって俊一郎。こちらも木刀を構えていたが、小太刀の、しかも二刀だった。
「まあ、メリケンばっか使うわけにもいきませんしねえ。長い得物持った奴とやり合うには、これくらいは使わないと」
 少し伸びてきた髪を後ろでちょんと結ぶと、眼鏡をかけて相手をじっと見据える。ちなみにこの眼鏡、実は伊達だてである。ストリート時代の自分を知られた場合、それだけで戦意喪失されてつまらないことになるのが嫌だからである。
「ファイトッ!!!!」
 試合開始。俊一郎は仕掛けない。ゆらりゆらりと上体を揺らしながら、肘を曲げて構えた二刀の切っ先と相手の目線を結ぶ。眼鏡の奥に闘志を燃やし、制服を脱ぎ捨てた服装は、全身黒のジャージ。
「血が付いても目立たないからねえ」
 ぼそっと呟くのと、相手が釘バットで突っ込んでくるのとほぼ同時だった。おそらく、最後に相手選手の耳に残ったのはこの言葉だったろう。構えた二刀は交差され、両側から相手の喉を潰した。はさみの如く最小の力で振るわれた二刀は、相手の意識を奪い去った。
「勝者、渡辺俊一郎!!!!!」
 わ―――――っと沸く観衆。しかし俊一郎は観客など見ていない。見ているのはただ、昌との戦いのみ。
「さて、この調子でいきましょう」
 俊一郎、トーナメント進出。
 
 救護室。
「わあーっ!!!もう、なんでこんなに負傷者が多いのっ!!!」
 白衣に着替えた立夏と千代の二人は、大忙しで包帯、ガーゼ、オキシドールやもろもろの薬品を取り扱っていた。石垣麻衣子女医を筆頭に保険(健)医集団が控えていたが、骨の折れるもの腹を刺されたもの指がとんだもの、と、大量に負傷者が運ばれてきて対処は追いつかないくらいだった。
「これは打ち身。これは打撲、なに?主のそれはただの切り傷だぞい!!!そんなんで来るでない!!!なに?『麻衣子先生に手当てしてほしい』我輩はな、ダンナと患者以外にはそういうのは受け付けておらん!!!なに?『そういう言い方がまた堪らない』真性のヘンタイが!!!罵倒されて十分回復しておるではないかこのマゾ!!!『Mは痛めつけられると回復するんです』・・・・・・いっぺん地獄を見たいか小僧・・・・・・」
 大忙しである。特に麻衣子女医は。
「でもここで仕事をしてるといいこともあるんで」
 千代が生徒の一人に包帯を巻きながら呟く。一つにしばった髪と白衣は妙にマッチしていて、立夏の脳裏に『ナイチンゲール』という言葉を浮かび上がらせたが、オキシドールをすり込むように「塗っている」のを見て、思い直した。相当な激痛だろう。
「いいことなんて殆どないよー」
 事実。白衣目当ての生徒を抑えるために評議会メンバーどころか管理委員達戦闘のプロが駆り出されているほどだ。いやらしい視線はそこかしこから白衣を狙っている。
「いや、昌さん達が負けたら、すぐにわかるじゃないですか?まあ簡単には負けないと思うんで、いいですが」
「昌吉って強いよね〜、泉さんには負けるけど。でも昌吉、昔わたしと喧嘩したときは負けてたけどな・・・・・・」
「立夏さん、どんなバカ力ですか」
 驚いた千代は負傷した生徒に塗っていた軟膏を、生徒の目にいれてしまった。恐ろしくしみるこの軟膏、目に入った生徒は激痛のために下心も何もかなぐり捨て、目を洗いにお手洗いへと走っていった。
「千代ちゃん、注意散漫」
「あ、すいませんで」
「わたしに謝っても・・・・・・」
「主ら、仕事しっかりせんかい!!!!」
 坊主頭の肩の骨折を治療していた麻衣子女医が、顔を上げて立夏たちに檄を飛ばす。しかしその間も手はしっかり治療をしており、もう縫合にさしかかっていた。
「ったく、学校で手術するとは思わんかったぞい・・・・・・」
 手術出来てしまうあんたもすごい、と立夏たちは思ったが、あえて口にはせずに作業に打ち込んだ。
 
 
  昼休み

 ブロックを勝ち抜いた昌たち、十人の選手がトーナメントに進出をはたした。無論、泉の名前もそこに載っていた。二人は何度も目をこすりながら泉の名前を確認し、よよと泣いて震えた。
「はい、お昼ご飯」
 言いつつ立夏はもうパクパクと口に運んでいる。卵サンド。
「たまご・・・・・・ふふっ」
 意味ありげに笑った俊一郎は、自分もそれを口に運ぶ。
「っていうか立夏、おまえ人に食べるよう薦めながら、自分が食うって何事だよ」
「だってさ・・・・・・むぐ、なんか救護室の仕事大変なんだよ。負傷者は多いし、白衣目当ての生徒も多いし。人、人、人でごった返して、もう何がなんだかわかんないんだよー」
「そうです。しかも手術してる部屋もあるし・・・・・・血は苦手なんで、ああいうのは勘弁してほしいんで」
 二人は愚痴を言い終わると、また食事を再開した。昌と俊一郎はもうほぼ食べる物がないのに気づき、近くに出ていた屋台まで食べに行った。生徒達の商魂たくましさが伺えるこの屋台、大会にあわせて設置され、中々に売り上げは好調のようだ。
「すいませーん、ここの屋台はなにを」
 屋台ののれんをくぐった昌と俊一郎は、そこにいた泉の姿を見て絶句した。
「いらっしゃーい。二名様。身内割引は一切いたしませんのでご了承ください」
「なんでいるんだよっ!!!!」
 髪を天辺てっぺんにまとめてヘアネットをかけている泉。中華系の服とズボンを着て後ろには十文字槍が置いてある。しかしそこは、ラーメンの屋台。服装も一応あってはいるのだが、いかんせん表情がデフォルトで眠たげな泉は、点数が−5くらいされそうだ。
「なんでって、儲けるチャンスだろーが・・・・・・チャンスに飛びついたから、この大会にも出るんだ。じゃ、なんにします?塩ラーメンがお勧め」
「とんこつチャーシュー多めで」
 俊一郎がオーダー。
「ただいま塩ラーメンがお勧め」
 値段表の最上段に位置する塩ラーメン、クロアチア産の岩塩使用、と書いてある。昌は(我が母ながらうそくさい・・・・・・っつーか絶対うそだ)と思った。
「とんこつチャーシュー」
「ただいま塩ラーメンがお勧め」
 表情を変えずに連呼する泉。
「とんこつ・・・・・・」
「ただいま塩ラーメンがお勧め」
「・・・・・・わかりました」
 折れた俊一郎。千五百円という異常な額を支払う。
「お客さんその2、あんたも塩だったよね」
「頼んでない。オーダーしないし」
「クーリングオフなし」
 表情を崩さない。昌も折れる。
「まいどー」
 結局塩ラーメンを腹に入れ、千五百円払って泉の店を後にする昌と俊一郎。しかし(あのマイペースには勝てる気がしない)と、二人共弱気になってしまった。恐るべき敵、塩ラーメン。
 
 
 休憩は終わった。いよいよ本戦。そこそこの猛者が集まる中、昌と俊一郎は一番に当たった。
「さあ、始めましょうか。昌、僕は手を抜きません。たとえ後に泉さんと当たるとしても、逃げません。・・・・・・いきますよ」
 呼び方が「昌吉さん」ではなく「昌」に変わったことに気づく昌。俊一郎の、迷いを断ち切るための一つの区切りなのかもしれない。
「こっちこそ。よろしくな、俊」
 昌も昔、ストリートに居た頃の俊一郎の呼び名に変える。俊一郎もそれに気づき、ふっと笑う。そして、審判の開始の合図が入る。
「それでは第一戦目を始めます!!レディー・・・・・・ファイトッ!!!!!」
 先ほどのブロック戦の際に互いの出方は読みあっている。よって、昌はわざと俊一郎の得意な後の先をとらせてやった。つまり俊一郎はカウンター重視、昌は自分から仕掛ける速攻が得意だった。
「おりゃあっ!!!!」
 袈裟切り一閃。しかし俊一郎は先ほどまで戦っていたような奴らとは格が違う。二刀で受け流され、俊一郎の右半身が昌との間合いに入った。しかし昌の木刀は長刀、対する俊一郎の木刀は小太刀である。間合いに入られたら、短い方が有利――――
「うぐっ」
 そこで昌は右手を放し、左手のみで木刀を手前に引き、唐竹割りで向かってきた俊一郎の右の小太刀を受けた。左が続いて突きを放ってきたが、足を擦りつつバックステップで離れる。
「へえ。超回避能力ですか」
「足捌きがなってない、っていっつも母さんに叱られるんでな」
 腕の動きと同時に足運びをする。滑るようななめらかな動きは緩急をつけることでさらに動きを読みにくくする。昌が毎日のように行っている母・泉との戦いで習得した技だった。
「僕とは正反対だな・・・・・・いくよ」
「来いよ」
 言うが早いか突っ込んでくる俊一郎。意外な行動に仰天する昌。いや、「いくよ」と言っているのだから向かってくるのは明白だったのだが、カウンター重視で試合を進めてきた俊一郎の行動が、ここにきて一変したために驚いたのだ。
「昌、僕がここまでカウンター重視で戦っていたのは、わざと昌に戦い方を見せるためだよ。・・・・・・ストリートでは、『早く』『確実に』強い一撃を浴びせないと勝てない。つまり、先手必勝。それが僕の」
 上に振り上げた二刀が、十字に交差される。俊一郎は、空中に飛び上がっていた。

「本当のスタイルだ!!!!!」
 
 叩きつけられる二刀。ほぼ同時に伝わった二連撃に、昌の腕がじんと痺れる。
「ちなみに、僕は昌のような地に足を擦らせた回避はしない。空中戦が得意なのさ」
 一歩退いた俊一郎は、下から切り上げる。脚力を最大まで溜めて、飛び上がる力を利用した一撃。昌と違い低身長で、身長差がある俊一郎だからこそなし得る技。
「がっ!!!」
 脇腹に喰らって呻く昌。俊一郎は続けざまに左の小太刀を振るい、昌の右腕に当てようとする。しかし、昌は前に倒れこむようにして避ける。
「うっ」
 倒れこんだ体勢を使い、体当たりする。息が詰まって声を上げる俊一郎。そこですかさず木刀の柄で腹に当身を食らわせる昌。柄頭つかがしらは腹の真ん中に当たり、そのまま倒れこむ力で地面と柄に腹が挟まれる。
「ぐはあっ!!!!」
 口と目を思いっきり開き、叫び声をあげる俊一郎。昌がダメージを与えたことを確認して退く。すると昌の足に、俊一郎の小太刀が叩きつけられた。
「うごおっ!!!!!いってえ!!!!!」
「まだトドメも刺してないのに、何離れてんだ・・・・・・まだ続けられるぞ」
 立ち上がり、審判を振りほどく俊一郎。深呼吸を二、三して息を整えると、また小太刀を構える。
「よし・・・・・・さあ昌、続きといこうじゃないか」
「・・・・・・おう」
 二人はまたも切り結ぶ。
 続く。次回!乱戦の中に飛び込んできた立夏!天敵を前に逃げ回る昌!呆気にとられる俊一郎の隙を突いて後ろからナイフでグッサリな千代!こうご期待!なんてことは絶対にない、次回。
 昌VS俊一郎決着。追い込まれる戦いの中で開花する新たな昌の能力。第二段階セカンド・ステージへと登りつめる激戦。こうご期待ではまた次回〜


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