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ラブカクテルス その41
作:風 雷人


いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?

わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前はポイント減税でございます。

ごゆっくりどうぞ。


私は取り付けられた機械を見ながら思った。
いよいよだ。
今年度より、新しく法律が改正されて、それが明日から施行される。
それがポイント制課税の導入だった。
そのポイントとは、幾つもの項目で成り立ち、家庭内では良くあることに対して、細かく設けられている、分かりやすく言えば普段失いかけている良い行いを正した事に対してのご褒美みたいなもの、と言う定義で発表された。
しかし本当のところは、国が抱える借金、つまりは国債をどうすれば帳消しに出来るかの、苦肉の策だったことは言うまでもなかった。

そのポイントを具体的に挙げれば、家族全員が朝九時までに朝食を採れば、5ポイントの減税。十時までに家族全員が朝食を採ればポイントはなし。でも、十時までに家族全員が朝食を採れないと、5ポイントの増税になった。
他に、家族同士の会話が一時間で2ポイントの減税。逆にそれ以下なら2ポイントの増税。
生活ゴミが一週間で小さい指定の袋一つなら、1ポイント減税。それ以上なら2ポイント増税。
歯を磨く時、体を洗う時に、水を垂れ流していれば5ポイントの増税。などなど。
それらは、各家々に付けられたこの機械が、コンピューターと連動して審査し、税務署のマザーコンピューターへと送るシステムとなって、取り付けは義務付けされたが、タダだった。
プライベートの侵害になるとの声も多かったが、機械は色々なセンサーで判定を行い、それで出たポイントの数値だけが、マザーコンピューターに送られるとの説明で、その問題はさらりと解決。
その他に、沢山の不満が出たものの、結果が良い行いに繋がる訳なのだからと、反対派は思ったより大人しく引き下がった。
しかし、これは私達主婦にはチャンスだった。
いかに少ない夫の収入を手元に残せるかを、自分達の行いで何とか出来るのだから。
私はその項目をプリントアウトして、冷蔵庫と、トイレの壁、そして居間に、簡単そうなものに赤ペンで印をして貼り出した。
そしてその晩、家族を揃えて会議を開き、事の重大さを夫と、長女、長男にしつこいほど熱く語り言い聞かせた。
家族はあまり乗る気を見せなかったが、夫にはこずかいアップ、子供には月に一度の外食を約束して、目に輝きのスイッチを入れることに成功したのだった。

翌朝、私はいつもよりも一時間早く起きて、嫌がる夫を無理矢理連れてジョギングに出た。
これはかなりの高ポイントで、消費した体力の量が審査の対象となる。従って、走れば走るほど減税に繋がるのだったが、いきなりのハードワークはかなり体に無理を掛けるので、初日は1km程度で済ませることにした。
しかし久しぶりに走ってみて分かったが、朝方のジョギングとはいいものだ。
清々しく気持ちいい。しかもポイントに繋がるのだから言うことはない。
これから毎朝やろうと、夫に言うと、夫もまんざらでもない顔をした。

当然朝食は八時までに全員が食べて、それぞが出掛けて行ったが、大事な事を言い忘れていた。
それは挨拶だった。
一日に使う朝昼晩はもちろん、いただきますや、ご馳走様、おやすみなさい、そしてありがとうと、お困りですかは、かなりの高ポイントだったのだ。
夫と子供に腕時計式のポイントカウンターを着けさせて、それらを言わせる。そんな大事な事を告げずに外に出させてしまった。
私は大急ぎで家事を済ませ、買い物袋を下げると、ポイントカウンターを腕に着け、いつも昼ドラを見ている時間に買い物へと走り、誰か困った人はいないか、何かありがたい事をされないかと、ドキドキしながら町を歩いたのだった。
しかし、案外そんなチャンスは転がってはなく、それでもありがとうを二件と、どうされましたかを一件獲得した。
だが、重大なことが分かった。それは町中の人がライバルだと言うことだった。
年金暮らしの老人と、二十歳前までの若者、子供以外は全員がライバルなのだった。
そんな中でのこの獲得ポイントは、初日ながらいい成績だと、それに気付いた後、自分で自分を誉め讃えた。

クタクタになって帰ってからも、手作り料理はやはりポイントが高く、しない訳にはいかなかったが、帰って来た長女が手伝ってくれたおかげで、美味しい夕飯ができた。
私は自然と口からありがとうと言えた。
確かにポイントに繋がることではあったが、それを素直に言える自分が、不思議と素敵だと思えた。

家族が揃い、テレビを消して食事をしながら会話が弾んだ。
こんな風な食卓を囲むのは、思い起こせば何年ぶりだろう。
夫もまんざらでもない顔をして、やっぱりこういうのもいいものだと言った。
この頃親離れしだした子供達も、今夜はよくしゃべり、私が知らないような学校事情なんかも、普段では垣間見ない様子も、笑ったり、叱ったりしながら、食べながら行儀が悪いのが分かっているにも関わらず、顔をほころばせて楽しんだ。
そして食事が終わり、子供達が部屋に引き上げようとした時、時計をみると、会話を始めて一時間と四十五分だった。
私は、子供達と夫を無理矢理引き留めて、あと十五分会話に付き合うように言った。
しかしそこは思春期の子供と、仕事疲れした夫。なかなかうまくはいかなかった。
それでも私は思った。
無理をしないで出来る事から始めればいいんだ。つまりは日々精進である。
私は寝る支度を済ませると、ポイントカウンターを覗き、今日の減税ポイントはいくらかを見た。
初めてのポイントは42ポイント。
まぁまぁな数値だ。そして夜に夫婦の営みを1ラウンド行えばっと。
私は夫が寝ないうちに床へと急ぐのだった。


それから一年が経ち、いよいよ納税日を迎えた。
町はかなりの盛り上がりで、まるで昔行われていた町内くじ引き大会のノリだった。
税務署にはバルーンが浮かび、一番の減税ポイント獲得者には、なんとキャンペーンにつき、南の島国旅行をペアで招待されるとあり、税務署前には行列ができていたくらいだった。
私達も、かなりの気の使いようで事を進めてはきたが、やはり旅行券の獲得まではいかなかった。
しかし結果は残り、来期からは夫のおこずかいアップと、週に、いや、ニ週間に一度の外食は出来るくらいの結果に、夫はまんざらでもない顔で、また来期も頑張ろうと、かなりの意気込みを見せた。
子供達は、外食は半年に一度でいいから、テレビをつける時間を増やしてほしいと提案してきたが、それはかなりポイントへの影響が出ることになるため、却下。
すると、それならと、子供達もこずかいアップを求めてきたため、しぶしぶ承諾したのだった。
しかし、一年を通してこの政策が行われた結果、町は人々の触れ合いに満ち、昨今増えていた犯罪なども激減。
人々は健康と環境に目を向け、家族はしっかりした絆で結ばれたのだった。
そしてそれはだんだんと定着していくことになり、ポイント目的だった行いも、礼儀という常識になっていった。


どうだ、大臣。わしの執った政策は。
一石四鳥か、五鳥か、十鳥か。わはははは。
はい、素晴らしい結果にございます。国民は健やかに過ごし、とても温かな社会になりました。ですが、
ですが?何か問題でもあるのか大臣。

はい。実は、国の財政が、破綻いたしました。

結局人も国も金がないと動かないのか。
トホホっ。

おしまい。


いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。














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