明るいね――彼と向かい合って、それから
プツッ、と音がして、あたしの部屋の蛍光灯が突然切れた。
「あっ」
ソファに並んで座っていた彼と、天井を見上げる。丸い蛍光灯。そう言えば、この前から、円の一部が黒ずんでいたのを忘れていた。そろそろ切れる頃かとわかっていても、まだ使えると思い、ついそのままにして。
暗くなった室内は、壁際で音を出しているテレビの明かりだけになった。
「蛍光灯の替え、ある?」
「たぶん」
こういう時は、彼の背が高くて助かった。取り出してきた替えを渡すと、彼は手早く交換してくれた。
「スイッチ、入れてみて」
「うん」
部屋に再び明るさが戻る。なんだか前よりも明るい。
「うわ~、明るいね」
白い光が室内を満たす。想像以上の明るさに、まぶしさすら感じる。切れた蛍光灯は、かなり黒くなっていたから、やっぱりさっさと取り替えるべきだったのかもしれない。
再びソファに彼と並んで座り、なんとなくクイズ番組を見る。ふと気がつくと、彼はテレビを見ずに、あたしの顔ばかりじっと見ていた。
「なに?」
二人掛けソファ。すぐ横に彼。手を延ばせば届く。延ばさなくても、ちょっと体を傾ければ、肩が触れ合えるほど近くて。
心臓が速くなり始める。まだキスすらしたことがない、付き合い始めのあたしたち。部屋に彼が上がってきたのも、今回でまだ二回目。
そんなに見ないで。もしかして、こういう状況って、かなりやばいんじゃ……
二人きりのあたしの部屋。
今から、彼があたしを押し倒して、ああなって、こうなったら……どうしよう。
彼は、黙ったままあたしの顎に手をかけた。
ああっ、これって。これって!
あたしの血液が急速に高温になっていく。
きゃ~もうだめえ。あたし、このまま流されそう。
彼が顔を近づけてくる。
目を閉じなきゃ。こういう時って、目を閉じて待てばいいんだよね? キ……キスするんだよね? 今からあたしたち、初キス……
「……」
目を閉じて彼の唇を待つ。
「……」
あれ?
想像していた感触がいつまでも来ないので、薄く目を開く。すぐそこに彼の顔がある。彼は、軽く微笑んでいた。
やだっ、恥ずかしい。
彼はあたしの顔に見とれている。顔が熱くなり、耳たぶまで赤く染まってしまっていることは隠せない。彼は気が付いているに決まっている。気絶しそうなほど、あたしが緊張していること。
彼は、あたしの顎に手をかけたまま、ははっ、と笑った。
「おまえさ」
「ん?」
「明るい光の下でよく見るとさ……」
あたしは、うっとりと彼の顔を見つめ返した。かわいいじゃん……って言ってくれるのかな。
「俺たちって、今まで昼間から会ったことがなかったからさ、気がつかなかったけど」
彼は、あふれてくる笑いをかみ殺すような声で言った。
「おまえの眉毛って、よく見るとつながってるんだな」
即刻、彼を部屋から叩き出し、あたしの短い恋は終わった。
(了)
お読みいただき、ありがとうございました。
お題「あかるいね」は、三里アキラさまのブログ「ノンタイトル」の中の、創作家さんに10個のお題よりお借りしました。