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第73話:イモータリッティー教団

 チーキン山脈、自由国家ハーメルン領にあるその山脈は別名『竜の巣』と呼ばれていた。チーキン山脈には多くの竜種が生息しているが、竜種最弱と言われるアースドラゴンでもランク6。並みの者が山脈に足を踏み入ればどうなるかは、火を見るより明らかだった。

 そんな危険な場所を鼻歌交じりに歩く1人の男が居た。頭から生えている耳、立派な尻尾、その風貌から男の種族は狼人と推測できた。

 男の鼻がピクピクと反応する。


「出てきなよ。オイラの鼻は誤魔化せないよ」


 男がそう言い放つと、木々の間から体長12メートルはあろうかという竜が飛び出してきた。特徴的な赤い鱗、火竜だ。火竜が男を見る眼は完全に獲物を見る眼だったが、男は慌てる様子もなく背中に背負ったハンマーを肩に担ぐとニヤリと嗤う。

 男が自分に怯えるどころか不敵に嗤ったことに、生まれてから強者として過ごしてきた火竜のプライドが刺激され、口から火が漏れ出る。


「ヘッヘッ、火トカゲが一丁前に怒ってるよ。オイラ、ビックリ」


 火竜は激昂し、その体躯では考えられないほど素早い動きで右手を振り下ろすが、既に男の姿は無く地面に大きな亀裂を残す。


「其の身に付けるは鉄、身体を蝕むは鋼、其の重積に頭を垂れろ『鈍重』」


 男の詠唱により放たれた付与魔法第3位階『鈍重』により火竜の動きが鈍くなる。しかし腐っても竜種、戦意が落ちるどころか更に高まっていく。

 火竜の口内に火が溜まっていく。火竜の持つ最大の武器、火の息吹を放とうとするが男の動きは速かった。男は一瞬で火竜の懐まで潜り込むと、右足目掛けてハンマーを振り下ろす。火竜は自身の強靭な肉体と強固な鱗であれば耐えられるとふんだが、その考えは甘かった。

 男の持つハンマーは『鋼竜のハンマー』、竜種の中でももっとも硬い鱗を持つ竜の素材で作られていた。振り下ろされたハンマーは容易く火竜の右足を砕く。


「カガガッッガギャアア゛ア゛ッ」


 火竜の悲鳴が辺り一面に響き渡る。地面でのた打ち回る火竜が、自分の足を砕いた男を探すと火竜の顔に影が差す。火竜の頭上で男が嗤っていた。


「オイラに掛かれば火竜といえどもこんなもんだな」


 男は槌技『圧潰』で火竜の頭部を砕くと、地面には血の花が咲く。


「ヘッヘッ、汚い花だ」 


 男は火竜にはもう興味はないとばかりに、鼻歌を再開して歩き出す。







「やあやあ~皆さん。もしかしてオイラが最後かな」


「遅い! 新参のお前が最後に来るとはいい度胸をしている」


「年長者を待たせるとは感心せんなぁ」


「ぷぷ~ゴーちゃんいけないんだ~メリちゃんもおじいちゃんもプンプンだよ」


 先程、火竜を完膚なきまでに叩き潰した男と同一人物とは思えないほど、男は謙って頭を下げていた。

 男達が居る場所はチーキン山脈の奥深く、辿り着くには数多の竜種を掻い潜らなければ来れない場所だった。


「ヘヘッ勘弁して下さいよ。こんな危険な場所に来るだけでも大変なんですよ。オイラ頑張ったんですよ」


「危険な場所? ここがか? かわいい愛玩動物しか居ないぞ」


 女は竜人族特有の鱗の生えた尻尾を、不機嫌そうに地面に叩きつける。女の周りにはアースドラゴン、火竜、鋼竜などが大人しく従っていた。いや、よく見れば竜達は震えていた。その姿に狼人の男は内心、「化け物が」と呟く。


「ゴーちゃん、仮にもイモータリッティー教団の死徒が、この程度で危険なんて言っちゃダメなんだよ~」


 エルフの女が明るい口調で話すが、竜人の女は不快感を隠さない。


「然り。しかしゴーリアは死徒になったばかりでもある。赤手のそこまで怒るでない」


 ドワーフの男が場の空気を収めようとするが、竜人の女は怒りが収まる気配はない。


「こんなカスが私達と同格の死徒か? 舐めてんのか」


 竜人の怒気に竜達の震えがますます強くなる。それもそのはずだった。竜達の後方には山のように積み上げられた同胞たちの躯があったからだ。躯となった竜は竜人の女がたった1人で撲殺したものだった。


「ヘヘッ……メリットの姉さん、そんなに怒らないで下さいよ。それで死徒になったオイラの初任務を教えて欲しいな」


 ゴーリアは少しでもメリットと呼ぶ竜人の怒りを鎮めたいのか、謙りながら話を進める。


「ゴーちゃんのお仕事はね。人間の男の子を連れて来るんだよ~」


「へ? 死徒のオイラが人間の子供を? 冗談ですよね」


 ゴーリアの右手に握るハンマーに力が籠もる。


「ふむ、その人間の少年は黒髪に黒い瞳をしておる」


「黒髪に黒い瞳……」


「更には聖ジャーダルクがその少年を狙っているという情報も入ってきておる。

 黒い髪の人間などそうそう居らんからのぅ。十中八九――」


「ここまで言われれば、お前みたいなカスでもわかるだろう。

 あのクソみたいな国が動いてんだ。邪魔する奴等は皆殺しにして、さっさとガキを拐ってこい」


「人間の男の子はね~ウードン王国の都市カマーってところに居るんだよ? ゴーちゃんの足なら一週間もあれば着くかな?」


 ゴーリアは右手に込めていた力を抜いていく。最初は死徒となって初の任務が人間のしかも子供の誘拐と知り、怒りで頭の中が真っ赤になったのだが、聖ジャーダルクが絡んでくるのなら話は別だ。思う存分暴れられるだろうと、これからのことを考えると思わず笑みが浮かぶ。 


「それでは任務も伝えたし帰るとするかのぅ」


「ゴーちゃん、初のお仕事頑張ってね。メリちゃん、トカゲさん達はどうするの?」


「あ? いらね。欲しけりゃアーゼロッテにやるよ」


 メリットはそう告げると帰って行った。


「可哀想なトカゲちゃん達。私がちゃんと後片付けするから安心してね?」


 竜達はメリットが居なくなった今、自分達を脅かす者は居ないと判断し立ち上がりアーゼロッテを睨みつける。


「ふむ、所詮はトカゲか戦力差もわからんとは」


 ドワーフの男は結果が分かっているのか首を振りながら歩き出す。


「えへへ~、一緒に殺してあげるからね?」


 アーゼロッテは頬を赤くしながら笑みを浮かべ、竜達に右手をかざす。次の瞬間、数十メートルに渡って地面に雷が降り注ぐ。

 放たれた魔法は第5位階黒魔法『迅雷』、しかも詠唱もなく一瞬で発動したことから詠唱破棄と判断できた。

 高い魔法耐性を誇る竜達が、為す術もなく雷に身体を貫かれていく。黒焦げとなった竜達の姿に満足したのか、アーゼロッテはスキップしながら去って行った。

 1人残されたゴーリアは、その光景に誰に聞かれるわけでもなく呟く。


「化け物どもめ……」

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