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第35話:野良パーティー

 聖国ジャーダルク、レーム大陸にある大小様々な国の中でも一際大きな国のひとつ。光の女神イリガミットを信仰している。王族より教王が権力を持っており、国を支配・運営しているのはイリガミット教である。


 ジャーダルク宮殿の一室で1人の男が読書をしていると、ドアをノックする音が聞こえる。


「入りたまえ」


「失礼致します」


 入室して来た男は、イリガミット教のローブを着ていることから信者だとわかる。


「報告を聞こうか」


「ハッ! まず大司教ステラ・フォッドが進めている計画ですが、順調に進捗しており対象者ユウ・サトウは予定通り人間を憎んでいます」


「そうか、ではそろそろ戦闘技術を教えることになりそうだね」


「はい、予定では1年間を精神支配・調整に、次の1年間で戦闘技術と召喚魔法を教え込むことになっています」


「ふむ、それにしても月に1回しか接触することができないのは面倒だな」 


「仰るとおりです。しかし派手に動けばかの大賢者に感づかれる可能性があります」


「本当に忌々しい奴だよ」


 男はそう言うと本を閉じる。報告をしていた信者も、思わず怯えるが引き続き報告をする。


「続きまして連合の件ですが、こちらに関しても順調に進んでおり、セット共和国・デリム帝国に関しては前向きに検討して頂いています。あとは教王様と相手方の王が会談をすればほぼ確定かと」


「ん? 自由国家ハーメルンは?」


「ハーメルンですが……金銭面で少し揉めています」


「っち……薄汚い商人共め。まあいいよそっちは私が何とかするよ」


「教国大司教様、ありがとうございます」


 イリガミット教団は上から教王・枢機卿・教国大司教・教国司教・都市大司教・都市司教・大司教・司教・主席司祭・司祭・助司祭長・助司祭・見習いと続いていく。

 この男はイリガミット教団でいえば、上から3番目に偉いということになる。


 その後も続く報告に、もう興味はないとばかりに読書を再開し始める。






 

 俺達は、現在ゴルゴの迷宮地下9Fに居る。あれから連日迷宮に潜っている。

 普通は1週間に1~2回ほどで潜ればいい方で、連日迷宮に潜るなんて気が狂っているそうだが、回復・消耗品は全て自前で用意できるので、連日潜っても翌日には全回復している。

 相変わらずジョゼフのおっさんは付いて来ているが、どうやら対象は俺のみらしい。


「ごめ~んね」


 そう言うと、ニーナがサラマンダーの首を刎ねる。サラマンダーも全身を鱗で覆われているのだが、ニーナはこの前の魔力の応用で武器に魔力を纏わせて攻撃している。接近戦では武器に魔力を纏わせて、中距離では魔力の糸を使って攻撃をしていた。

 魔力を纏わせた武器は切れ味が増すようで、ゴーレムも大した抵抗がないように切り裂いていた。俺の魔法剣より、こっちの方が使えるような気がしてならない。


「何だよその掛け声は」


「えへへ~口癖みたいになったね?」


 どうやら自然に出るようになったみたいで、ニーナも恥ずかしいみたいだ。


 その後ろでサラマンダー2匹を、風の魔法でズタズタに切り裂いているレナ。

 こいつもレベルが15まで上がってMPに余裕が出てきており、魔法をバンバン使用している。体力も少しはましになってきて、以前のように地下3Fで息が切れることもなくなった。


「……余裕」


「調子に乗るな。んじゃ帰るぞ」


「「ボスは?」」


「もう少しレベルが上がってからだな。

 あと、今日は鍛冶屋のおっちゃんの所に頼んでた装備を取りに行くから」


 まだ時間は昼前だ。以前はニーナとレナがここまで来るのに10時間は掛かっていたが、今では4時間もあれば辿り着く。ボスと戦うにはまだ不安要素があるので、レナのレベルが20を超えたあたりで考えている。


「私も23にレベルが上がったけど、最近上がりにくくなってきたんだよね~」


「確かに急に上がらなくなってきたな。もう少しレベルが上がればもっと下の階層に行くから我慢しろ」


「……私の実力なら、もう問題はない」


 レナが調子に乗っていたので、チョップをかましておいた。涙目でこちらを睨んできたものの、油断が命取りになるのが冒険者だ。


 それにしても、ニーナとレナの魔物を倒す速度が上がった為に、俺がスキルを奪う余裕が無くなってきた。サラマンダーからは優先して、『MP回復速度上昇』を奪っているが、『火耐性』『精霊魔法』に関しては、奪う前に倒されることが多くなってきた。

 スキルに関しても、レベル6になってからは上がらなくなってきた。奪った際に上昇しているのは実感できるのだが、レベルは6のままだった。どうやら6と7に大きな壁があるのかもしれない。


「おっさん、俺達はもう帰るぞ」


「なんでわかんだよっ!」


 ジョゼフのおっさんは前回俺にバレていたので、今回は装備を変えており、黒子の衣という全身黒尽めの服を着ていた。効果は上位探査・索敵LV5までを無効と表示されていた。


「この装備にいくら払ったと思ってんだ」


 おっさんの泣き言ほど醜いものはない。俺がおっさんのストーキングに気付いていたのには理由がある。ニーナの魔力を糸のように使っているのを見て、俺も応用させてもらった。

 魔力を俺を中心に蜘蛛の巣状に広げる。あとは魔力の糸に接触した人・物が俺には手に取るようにわかるという訳だ。魔力の糸自体は大してMPを込めていないので、レナでも気付いていない。技の名前は『天網恢恢』と名付けたが誰かに教えることはないな。


「うるさいおっさんだな」


「ジョゼフさん、がんば~」


「……死ね」


「ひでえ……」


 毎回ジョゼフに対するレナの一言はきっつい。1度怒らせると根に持つタイプなのかもしれない。


 その後ニーナとレナは素材の売却にギルドへ、俺は鍛冶屋のおっちゃんのところへ向かった。


「おっちゃん、居る?」


「おお、待ってたぞ。ほら、この装備を見ろ良い出来だろう」


 鍛冶屋のおっちゃんはイメージ通りの装備が出来たのか、興奮して店の奥から装備を抱えて持って来る。


オーガブーツ(5級):魔法耐性上昇

オーガの靴(5級) :魔法耐性上昇

 

「へへ、どうだ? オーガ(亜種)の皮を贅沢に使った一品だぞ!」


「おっちゃんこれって……」


「気付いたか? オーガの皮は元々魔法耐性を持っているからな、スキル付与しなくても最初から魔法耐性のスキルが付いているんだよ」


(う~ん、喜んでいいのか悪いのか……スキル付与はできないのか)


 オーガの皮で造ったシャツ・ズボン・ホットパンツも受け取る。


「おう、これはサービスだ」


 おっちゃんはそういうと帽子を被せてくる。


「それは試作品なんだが、帽子は火喰い鳥、鋼蜘蛛の糸で造った一品物だ。

 付属で付いてるメガネは虹色亀の純度の高い甲羅で作って、目を保護するようになっている」


 試作品と言ってたので名前はないようだが、見た目は飛行帽にゴーグルが付いた物だ。


「かっこいいな、いくら?」


「サービスだって言ってるだろうが、まあ今後も俺のとこで買い物をしてくれや」


 おっちゃんはサービスだと言っていたが、物を見る限りタダであげるような物ではなかったので、この前の冒険者達の壊れた武器・防具と、迷宮で手に入れたサラマンダーの鱗と皮を渡した。これでまた武器と防具が造れるぜと言いながら、おっちゃんは店の奥へ行ってしまった。俺以外の客が居るのか心配になってきた。





  


 

 ギルドで素材を売却したニーナとレナは、ユウが来るまでクエスト掲示板などを見ながら時間を潰していた。


「アースドラゴンの討伐、金貨100枚だって! これだけでレナの学校のお金貯まるね」


「……竜種は金額に見合うだけの強さがある」


「そっか、竜種は最低でもランク6の魔物だもんね」


 雑談をしているニーナ達に、3人の冒険者が声を掛ける。


「ねえ、今からゴブリンジェネラル討伐クエストを受けるんだけど、一緒にどうかな?」


「俺達はこう見えてもクラン『赤き流星』に所属してるんだぜ。知ってるでしょ? 都市カマー最大のクラン」


「……知らない」


 レナの反応に思わず乾いた笑いで応える冒険者達だが、諦めるつもりはないようだ。

 エルフの冒険者がニーナの手を握りながら、話し掛ける。


「今回のゴブリンジェネラルは名前付きで、討伐だけで金貨10枚ですよ。魔玉と素材を売れば更に上乗せも!」


 以前、冒険者達に襲われそうになった経験のあるニーナは、手を振り払って愛想笑いを浮かべる。


「う……私はユウとレナ以外とはパーティー組まないからごめんね」


 ニーナに拒絶されたエルフは見るからに落胆したが、他の二人はまだ諦めていないようで勧誘する。


「そう言わずにさ~これをきっかけに、もし無所属なら俺達のクランに来ない?

 俺達は将来有望なルーキーだからさ、今から仲良くなっておいた方がいいよ」


「そうそう! それに他のパーティーに参加すれば良い経験になるよ」


「……良い経験になる?」


「そうだよ! 色んなパーティーを経験すれば、様々な状況に対応できるようになるし。

 今居るパーティーにだって貢献できるよ」


「……行く」


「えっ、レナ本当に言ってるの?」


「そうこなくっちゃ! お姉さんも来るよね?」


「私は行かない」


 しばらく粘ってみたが、ニーナの意思が変わらないとわかり冒険者達はレナと一緒にクエストを受けにカウンターへ向かった。


「ニーナちゃん~こんにちは」


 そんなやり取りがあったとも知らずに、ラリットがいつものようにニーナへ挨拶する。


「ラ、ラリットさん」 


「どうかしたのかい?」

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