第32話:初迷宮③
オーガ達の皮を剥いでいく。オーガのスキル『皮膚硬化』は奪っていない。
何故なら、オーガの皮は素材として高値で買取される。その理由として、『皮膚硬化』のスキルを持っているオーガの皮で防具を作成すると、高い防御性能を発揮する。
(このオーガの皮で、鍛冶屋のおっちゃんにシャツとズボンでも造ってもらおうかな)
先程の冒険者達は、何故か若干引いたような顔で先に進んで行った。それにしてもオーガ(亜種)含む3匹の剥ぎ取りは時間が掛かり、すでに1時間ほど経過した。
その間に血の匂いに釣られてポイズングリズリーが襲い掛かってきたが、瞬殺してスキル『毒耐性LV1』を奪っている。
オーガの剥ぎ取りも終わり、迷宮を進んで行く。途中で宝箱を発見するが、開錠スキルがない為あきらめる。迷宮で出現する宝箱は、鍵の掛かっている物と掛かっていない物に分かれる。鍵の掛かっていない物は、そのまま中身を手に入れることができるが、掛かっている物を開錠スキルなどを使わずに力尽くで開けると、宝箱ごと消える。鍵だけではなく罠も掛かっている宝箱もあるが、高レベルの迷宮ほど宝箱から良いアイテムを入手できるのだから、迷宮では開錠スキルを持っているジョブが優遇される。
(さてと……)
「おっさん、スケベなだけじゃなくて覗きの趣味もあったのか?」
俺が誰も居ない空間に問いかけると、そこからジョゼフが少しだけ驚いた表情で現れた。
「いつから気付いてた?」
ジョゼフは灰色のクロークを着ている。クロークを異界の魔眼で見る。
隠者のクローク(5級):探査魔法・索敵LV3まで無効
「俺の仲間にスト……隠密が得意な奴が居る。朝から付き纏ってたようだが何か用でもあるのか?」
「次はボス部屋だからな、止めようと思ったんだが……小僧、昨日より強くなってないか?」
昨日のリベンジを考えるが、おっさんの強さは半端じゃないので今はまだ止めておく。
「用が終わったなら行くから」
後ろでおっさんが、「今日はボスを倒したら帰れよ」と言っていたが、最初から10Fまでクリアしたら帰るつもりだった。あんまり遅くなるとニーナに何を言われるかわからない。
しばらくすると、開けた部屋に到着する。台座には水晶が設置されている。
(確かこれに触れて移動と、念じればボス部屋にいけるはず)
ボスが居る階層は通常とは違い、水晶による移動になる。階段があればボスは居ない。水晶があればボス部屋、非常にわかりやすい。
再度、付与魔法を更新してから水晶に触れる。移動と念じると一瞬頭がクラッとし、気付くと今までで1番広い部屋に居た。
(この一瞬の間にボスに攻撃されたらどうするんだろうか……)
部屋を見回すと魔物の姿は見えず、人間の死体が5体ほど転がっていた。
損傷が激しく骨だけの死体もあった。比較的ましな死体に目をやると、先程の冒険者達とわかった。
「ホギャッ」
猿の鳴き声みたいな方向を見ると、6匹の魔物が出現していた。
さっきまでは索敵で探知できなかったので、冒険者が侵入すると一定時間後に出現するのかもしれない。
猿の魔物達のステータスを確認していく。一際でっかい2mほどの猿がボスのようだが、他の1.5mほどの猿の中にも名前持ちが居た。
名前 :グビドア゛
種族 :大魔猿
ランク:4
LV :28
HP :886
MP :234
力 :493
敏捷 :303
体力 :408
知力 :60
魔力 :189
運 :30
パッシブスキル
敏捷強化LV1
腕力強化LV3
アクティブスキル
闘技LV2
死霊魔法LV1
固有スキル
なし
名前 :ビドア゛
種族 :魔猿
ランク:3
LV :26
HP :647
MP :177
力 :385
敏捷 :212
体力 :306
知力 :56
魔力 :124
運 :26
パッシブスキル
敏捷上昇LV3
腕力強化LV2
アクティブスキル
闘技LV2
黒魔法LV2
固有スキル
なし
伊達にボスを名乗っていないステータスだ。ランクも4と、今日出会った魔物の中で1番高い。魔猿は俺が1人なので舐めているのか、嘲笑を含んだような鳴き声で近付いてくる。ムカついたのでフレイムランスを、魔猿の1匹へ放つと。
「ギキッ!?」
驚いてくれたようだが簡単に躱される。魔猿達がお返しとばかりに、ファイアーボールを唱えて一斉に放ってくるが、こちらもファイアーボールを展開して放つ。
俺のファイアーボールは魔猿達のファイアーボールを貫通し、魔猿達に向かっていく。
同じ魔法で打ち負けるとは思っていなかったのか、魔猿の2匹がファイアーボールを喰らう。
「ボギャア゛ア゛ッ!!」
俺と魔猿では同じファイアーボールでも中身が違う。まず込めている魔力は倍は違う。しかもファイアーボールを普通に放つのではなく、回転させて弾丸のように放っている。
ファイアーボール1発では死ななかったので、止めにフレイムランスを2本ずつ転げまわっている魔猿に放つ。フレイムランスで胸や腹部を貫かれると、しばらく暴れていたが息絶える。
他の魔猿に再度ファイアーボールを放つと、名前付きの魔猿が黒魔法の1つ『アースウォール』で土の壁を構築、俺のファイアーボールが防がれる。その後ろで大魔猿は戦いに参加せずに、ホギャホギャ吠えながら興奮して観ている。
名前無しの魔猿2匹が敏捷を活かして接近してくる。爪で攻撃してくるが黒曜鉄の大剣で受け止めスキルを奪い、剣技『瞬閃』で倒す。残りの1匹は一瞬で仲間が倒されてビビっていたが、スキルを奪って魔拳で風を纏ったパンチを顔に叩き込むと、目玉が飛び出しそのまま絶命した。
(格下なら余裕を持ってスキルを奪いながら戦えるんだよな)
名前付きの魔猿が慌てて大魔猿の方を見るが、手を貸す気はないようで逆に吼えられて戦うように促される。
「ギギィィ……」
魔法戦では敵わないと理解しているのか、先程の魔猿達と同じように接近戦を挑んでくる。さっきのお返しに黒魔法『アースウォール』を魔猿の下から放つ。慌てて躱した魔猿だが隙ができたのを見逃すほど甘くない。魔拳を足に纏い蹴りを放つ。下から下腹部めがけて、思い切り蹴り上げる。
込めた魔法は土だが硬さか重さが増したのか、すごい威力だったみたいでゴムボールのように吹っ飛んでいく。天井と地面に何度も叩きつけられ、魔猿は立ち上がろうとするが、力尽きその場で倒れた。
やっと大魔猿も状況が理解出来たのか、憤怒の表情で吼えている。
大魔猿から魔力が立ち上り、聞いたこともない呪文を唱える。すると死んでいた冒険者達が立ち上がり始めた。