第30話:初迷宮①
修練場に行くと、何人かの冒険者達がグループになってお互いにスキルの練習に励んでいる。
ニーナとラリットは端っこの方で練習していた。何やらラリットが熱心に技を見せながら熱弁している。
最初は渋っていたのにどういった心境の変化だ。
ニーナもラリットの技を見た後に、続いて模倣して技を放つ。その際に牛みたいな胸がブルンブルン動いている。
「なるほど、お人好しではなく」
「……ただのスケベなおっさん」
俺とレナの言葉に、ラリットがビクッと反応する。
「ユウ~、ラリットさんがね『暗殺技』だけじゃなく『短剣技』も教えてくれたんだよ~」
「ほうっ」
「……死ねばいい」
「お、お、俺は純粋にニーナちゃんに、スキルの使い方を教えてただけだぞ! それより昨日はあの後どうなったのか教えてくれ」
どもりながらラリットは言い訳する。いつの間にかニーナをちゃん付けで呼ぶ仲になっているとは。しかも強引に話題を変えてきたな。
「あの後は修練場でボコられただけだよ」
「何っ!? まさか……俺のニーナちゃんもか!」
「いつからニーナがお前の物になったのかは知らんが、ニーナもやられてたな」
「ジョゼフさんは強過ぎだよね~」
「……変態が強いと手に負えない」
巨乳好きのおっさんはほっといて、俺達はDランク『ゴルゴの迷宮』へ向かう。
都市カマーから東に3km程進むとある最下級の迷宮だが、初心者冒険者の多くがここで命を落とす。何しろ出てくる魔物は最低でもランク3だ。田舎でランク1の魔物を相手に無双をして、調子に乗った初心者冒険者達は、大した情報も仕入れずに迷宮に挑みそのまま死んでいく。
「初めての迷宮、楽しみだね~」
「……私の魔法で余裕」
「言っとくけどな、最下級の迷宮とはいえ状態異常の攻撃をしてくる魔物や、魔法を使ってくる魔物も出てくるんだから油断するなよ」
「わかってるよ~」
「……私には油断はない。余裕しかない」
こいつら……大丈夫か。迷宮の情報をニーナ達に伝えながら進んでいると、ウードン王国の宮廷魔術師が張った結界が見えてくる。これは迷宮の魔物が地上に出て来られないようにするためのものだ。
入口には冒険者、商人、付与士が居る。
冒険者は待ち合わせをしている者や、ギルドで溢れてここでパーティーに拾って貰おうとしている。商人はここで冒険者相手にアイテムを売っている。
勿論、街で買うより値段はふっかけている。
そして付与士だ。迷宮に挑むにあたり、優遇されているジョブがいくつかある。所謂、ヒーラー:回復魔法を使える者。斥候職:罠の発見、解除や宝箱の開錠。そしてバッファー:ステータスを強化できる付与士だ。
「ポーション、マナポーション、転移石の買い忘れはないかね~」
商人が冒険者達に声を掛けている。値段を聞くと街で買う値段の1.2~1.5倍だ。
足元を見るにもほどがある。転移石とは迷宮に必須のアイテムで、使うと地上に戻ってこられるアイテムだ。錬金術ギルドが技術を独占しており、値段も1個、銀貨5枚だ。取り敢えず1個はすでに購入して持っているが、いつか自分で作成したい。
「おい、そこの嬢ちゃん達、強化魔法はいらねえか?」
入口に居た付与士が話し掛けてくる。どうやら俺ではなくニーナをパーティーのリーダーと思っているみたいだ。ニーナが困った顔でこちらを見るので対応を代わる。
「どんな付与魔法がある? あと値段は?」
「へへ、筋力・敏捷・体力の強化にHP・MPの上昇魔法があるぜ。
値段は1つの魔法に付き銀貨1枚だ。おっとボッタクリとかいうなよ? これで命を救われたっていう冒険者も多いんだぜ? あと効果だがな、1時間は持続するぜ」
強化魔法1個掛けるだけで銀貨1枚か。ボロい商売だな。
「俺に今言った付与魔法を全部掛けてくれ」
「お前さんだけでいいのか?」
「ああ、早速掛けてくれ」
付与士のおっさんに銀貨5枚を渡し、強化魔法を掛けて貰う。
強化魔法は全てレベル1だったが、効果は3~5%の上昇と驚きの効果だ。
迷宮に入ると、覚えた付与魔法をニーナとレナに掛ける。
「わぁ~付与魔法ってすごいね~」
「……さっきので覚えた?」
よく考えれば、付与魔法を使った時点で2ndジョブが付与士ってバレるから、レナが付いて来ようが関係なかったと気付いた。それにしてもレナは見た目とは違い勘が鋭い。
『ゴルゴの迷宮』は地下30Fまである。仕入れた情報によると地下10F・20F・30Fと10の倍数毎に、ボスと呼ばれる名前付きの魔物が出現するそうだ。
ギギギッ……
鈍い音がし視線を向けると、2m程の土で出来た人形『ゴーレム』が現れた。
ステータスを見る。
名前 :***
種族 :ゴーレム
ランク:3
LV :18
HP :322
MP :16
力 :264
敏捷 :3
体力 :∞
知力 :1
魔力 :9
運 :8
パッシブスキル
なし
アクティブスキル
なし
固有スキル
なし
体力の表示はゴーレムなので無限なのだろう。ランク3の魔物だが特にスキルもなしで、動きも遅いので俺から見れば雑魚だ。
「俺はしばらく見てるから、お前達だけで倒してくれ」
「うん、わかった」
「……我が魔法の威力を知るがいい!」
ゴーレムが腕を振り回すが、あまりにも鈍い。ニーナは余裕で躱しその瞬間に攻撃をするが、土とはいえゴーレムだ。硬いみたいで深くまで刃が通らない。
するとレナがウォーターボールで、ゴーレムを水浸しにする。
「……ニーナ、もう一度」
シュッ!
今度は、深く切り裂きニーナの攻撃を何度か受けると、ゴーレムは倒れた。ちゃんと考えながら攻撃しているな。
「レナ、かしこい~」
「……当然の結果」
いつもの如くレナがドヤ顔したので、イラっとした。