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第17話:自称天才魔術師①

 ウードンの王道。ウードン王都を中心に四方へ伸びている王道である。この王道ができたおかげで、旅人の生存率は飛躍的に上がった。


「ねぇ、なんで馬車に乗らずに歩いてカマーまで行くの?」


 普通は金を出して馬車に乗るのが一般的だ。馬車に乗るメリットは速い・安全がメリットだ。馬車には魔物よけの魔法が掛かっており、弱い魔物は近づいてこない。徒歩で行けば10日は掛かる都市カマーまで、馬車なら3日もあれば着く。


「理由はいくつかある。1つ目は俺達自身の特訓だ」


「特訓? 訓練じゃなくて?」


「訓練は終わりだ。これからは更にキツイ訓練……そう特訓をする。

 ニーナもそこそこ強くなってきたし、俺もレベルが上がってステータス・スキルが増えたから、鍛え直さないとこの先戦う魔物との戦闘で苦労すると思う。現に山間の洞窟に居たオーガ(亜種)1匹に俺は手こずった」


「え!? あのオーガ(亜種)と戦ったの!?」


「1発喰らっただけで両腕が折れた。頭に喰らってたら死んでたな……」


「えぇっ!!」


 ニーナはユウがたった1人でオーガ(亜種)と戦ってたのにも驚いたが、今まで戦いで怪我をしたことがなかったユウが、怪我をしたことに更に驚いた。

 ニーナは大丈夫と心配そうにユウの身体を触る。


「おい……何してる?」


「怪我が大丈夫か心配してるんじゃない……」


「俺は両腕が折れたって言ったはずだ……折れた腕もとっくに治ってる。

 それになんで尻を撫でたり揉んだりしてるんだ」


「ケチッ! 1日1回位、触っても減るもんじゃないでしょうが!」


 などと意味不明なことを言いながら、名残惜しそうに尻から手を離す。


「もう1つの理由が、王都に近づくにつれて魔物は強くなっていくんだろ?

 特訓しながら魔物の強さに慣れていかないと、いきなり強い魔物と戦って死ぬとかアホらしい」


「うん、大きな街とかは迷宮の近くに造られているからね」


「なんで迷宮の近くに街を造るんだろうな?」


「それは恩恵が大きいからに決まってるよ~」


 ニーナが当たり前みたいに言っている内容だが、まず迷宮には魔物が湧く。

 通常の繁殖とは違い、アンデッド・デビル・悪霊・蟲・竜・天使等、原因は解明されていないが無限に湧く。それら魔物の素材からは様々な武器・防具・装飾・魔具が創られる。

 更に迷宮内では宝箱も湧く。宝箱が湧くという表現はおかしいかもしれないが、実際に目の前で沸くのを何人もの冒険者が見ているそうだ。ランクの高い迷宮からは国宝級と呼ばれるアイテムが出ることもあり、宝箱1個から十代掛かっても使い切れないほどの資産を築いた冒険者もいるそうだ。


「それでも魔物に襲われることもあるだろう」


「それ以上に恩恵の方が大きいんだよ~」


(そういうもんなのか)


「それにしても、あんまり魔物に出くわさないな」


「伊達に王道って呼ばれてないよね」



 その日は夜まで魔物に出会わなかった。


「今日はここで野営するぞ」


「ごはんごはん~♪」


 王道の側で野営する。野営といってもテントなどないので焚き火位しかない。

 ご飯は干し肉とばあちゃんの作り置きしてくれてたパンだ。


「やっぱりステラさんのパンはおいしいね……」


 ニーナもばあちゃんが亡くなってまだ立ち直っていないからか、涙目になりながら食べている。


「ああ、パンはそこまで日持ちしないから、明後日くらいまでには食べないとな。ご飯を食べ終わったら特訓するから」


「えぇ! こ……この暗闇の中、特訓するの?」


「暗闇だから特訓になるんだろうが、ニーナ、全力でスキルも好きなだけ使っていいぞ」


「むっ……これでも最初の頃より強くなってるんだよ。でもユウの剣術の方が……」


「安心しろ俺は剣は使わずに素手と魔法で戦う」


「素手と魔法……剣は使わないの?」


 俺はロングソードを抜いてニーナに見せる。


「うわぁ……ボロボロ……どんだけ使い込んだらこんなになるの?」


 ニーナの言うとおり、この前の山間の洞窟での戦いで、ロングソードはボロボロになっていた。


「カマーに着いたら買い換えるから、それまで持てばいいんだよ」


「カマーなら王都並に良い装備があるからね~」


 都市カマーが王都並に武具が充実しているのには理由がある。

 王都にはA・C・Dランクの迷宮がある。それに対して都市カマーにはBランク迷宮『腐界のエンリオ』、Dランク迷宮『ゴルゴの迷宮』がある。

 近くに二つの迷宮があることから冒険者に人気があり、需要と供給から武具店も集まり、田舎から一旗あげようと、冒険者の多くがデビューするのが都市カマー。


「装備は勿論購入するけど、1番欲しいのはニーナが言ってた」


「「アイテムポーチ」」


「だよねだよね~アイテムポーチは冒険者に革命を起こしたからね!」


 興奮するニーナだが、それもそのはず。アイテムポーチは魔法の効果が掛かった袋で、通常では考えられない程のアイテムが入る。また重量自体も変わらず、冒険者には欠かせない装備品の1つである。


「よし、お喋りはこの位にして特訓を始めるぞ」


 焚き火から少し離れて対峙する。


「いつでもいいぞ」


 その瞬間、ニーナの短剣が迫る。


 ビュッと音とともに俺の顔の横を通り過ぎる。


「ニーナ、手加減しなくていいぞ。怪我しても俺は回復魔法が使える」


「うぅ……」


 ニーナは不安なのか手を抜いているのがわかる。こちらから大丈夫と思わせる

必要があるか……周囲にファイアーボールを5個ほど展開する。


「何それ!?」


 ファイアーボールを1個ニーナへ放つ。


「きゃっ」


「ニーナ、目を瞑るな。お前は魔法に慣れてないからな。俺は魔物と戦ってばかりで対人戦が少ない。これはお前の特訓でもあるけど、俺の特訓でもあるんだからな」


「わかったよ~」


 やっと納得したのかニーナも本気になる。鋼鉄のダガーと鋼鉄のナイフを右手と左手に持つ。ニーナの短剣術はLV3、短剣二刀流はLV1、それぞれの効果が上乗せされると思うので、こっちも油断はできない。


「おっ」


 一瞬でニーナが懐に潜り込んでくる。ファイアーボールを放つ間もなかったのは、それだけ疾かったからだ。武器無しで躱すのは容易ではなく、少し焦ってしまった。


「クリティカルブロー!」


 ニーナが短剣技LV1のクリティカルブローを放つ。


「また声が出て……」


 右手で放ったクリティカルブローを躱し、注意しようとした瞬間に、今度は左手でクリティカルブローを放ってきた。しかも左手のクリティカルブローは魔言を唱えずに。


「ぐっ!」


 闘技を全開でなんとか躱しファイアーボールを放つが、すでにニーナは距離をとっていた。


「えへへ~驚いた?」


 ニーナがすごいすごい? と言いながらいつものドヤ顔してるのでイラッとした。


「ふ……ふ~ん、1発目をわざと声に出して2発目のフェイントに使うなんてやるじゃないか」


 内心、自分が考えもつかなかったスキルの使い方に嫉妬してしまったが、表面にはあまり出さずにファイアーボールを数十個展開する。


「ちょ!!」


 その日の特訓はファイアーボールでニーナを追い掛け回すことで終了した。




「おはよう」


「……おはよう~」


 ニーナがまだ眠そうに目を擦る。


「昨日、寝てないでしょう?」


 特訓のあと焚き火を消さない為と、急激に上がった『索敵』スキルの為に寝れなかった。まず夜は魔物の行動が活発になるので、俺の索敵スキルに引っかかる引っかかる……スキルをうまくコントロールできなかったので、警戒して寝る暇なんてなかった。


「索敵スキルのレベルが上がって、まだ慣れていないから慣れる為にもいいんだよ」


「私にも索敵スキルはあるから寝た方がいいよ」


「今の内に慣れておかないと、カマーに着いた時に地獄だからな」


 都市カマーは10万人以上の人口が居るそうなので、索敵スキルに慣れておかないと文字通り発狂してしまう。


 ニーナが心配そうにこちらを見ながら歩いているが、問題ないと伝えると渋々納得する。


 1台の馬車が横を通り過ぎる。中には冒険者らしき者が5~6人ほど。馬車が数十メートルほど先で止まる。


「なんだ?」


 馬車から少女が降りてくる。馬車の中に居る男共が何やら嘲笑しながら叫ぶ。


「お~いポットちゃん、戻っておいでよ~」


 その声にその他の冒険者たちも一斉に嗤い出す。


「……いい」


 ぼそりと少女が話すとそのまま馬車は行ってしまった。


「ポットちゃんってなんだ?」


「私に聞かれてもわかんないよ~」


 気にせずその少女の横を通り過ぎる。見た目は10~12歳位か。

 金髪のショートヘアに杖・ローブを着ている。いつもの癖でステータスを見てしまう。


名前 :レナ・フォーマ

種族 :人間

ジョブ:魔術師

LV :7

HP :21

MP :67

力  :1

敏捷 :3

体力 :2

知力 :23

魔力 :44

運  :16


パッシブスキル

詠唱速度上昇LV1


アクティブスキル

白魔法LV2

黒魔法LV2


固有スキル

なし



(ふ~ん、魔術師か・・・それにしても体力なさ過ぎだろ)


「……あなた達」


「なになに?」


 無視すればいいのにニーナが反応する。


「……ツイている」


「ニーナ、相手するな行くぞ」


「……私は天才魔術師」


「魔術師なんだ!」


「おい……」


「……一緒に行ってあげる」


 変な奴に出会ってしまった。

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