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第165話:惡

 都市カマーに長年住んでいる者ですら存在を忘れている地下道を進んでいくと、錆びた鉄の扉が見えてくる。扉を開ければ、そこがニーナの秘密の隠れ家である。最近争いごとでもあったのか、部屋の中は乾いた血が所々こびりついていた。埃の積もった机の他になにもない部屋であったのだが、今は奇妙な物体、いや生き物が佇んでいた。見れば見るほど奇妙な生き物であった。体長一メートルほどで、顔にはあるべきはずである目、鼻、耳がない。あるのは大きな口だけで横一文字に結ばれ、全身を覆う毛はどこかゴルゴの迷宮に生息するベナントスに似ていた。

 今まで微動だにせず佇んでいた生き物が、左右にゆらゆらと身体を揺すると、横一文字の口が大きく開く。開いた口から二人の人物がくぐり抜けでてくる。一人は男、イリガミット教のローブ、それも紫色の刺繍がほどこされていることから、男が教国大司教の役職についていることがわかる。もう一人は女、メイド服姿であることから男の従者であるのであろう。


「上手くいったようだ」


「ここは?」


「都市カマーで二百十七番が使っている隠れ家だよ」


「では、聖国ジャーダルクと都市カマーまでの数千キロにも及ぶ距離を繋げたと?」


「そのとおり。この魔物は、私がベナントスを改良したもので、雌雄一対の魔物だ。お互いの口内が通じており、行きたい場所にどちらかを置いておけばあとはこのとおり。この前フフにお願いして置いてきてもらったんだ」


 男は自慢気に語り、アイテムポーチから服を取り出すと着替えていく。メイドがローブを受け取り、着替えの手伝いをしていく。男は最後に狐の面を被る。ほんの僅か、長年男の従者をしているメイドだけが、男から漏れだした殺気に気付いた。


「ドゥラランド様、本当にお一人で行くのですか?」


「ああ、二人と話をするだけだからね。それにしても……あの頃と違う面とわかってはいても、面を被ると昔を思い出してしまうね」


「ドゥラランド様……」


「では行ってくるよ。憐れな生贄と落ちぶれた英雄に会いに」




 剣閃――振るわれた剣の軌跡が光り輝く軌跡を残す。一度、二度、振るわれる度に美しい剣閃が軌跡になって残った。エルフの少女が振るう剣は、見るものを魅了する舞いのようにも見えた。見るべき者が見れば、剣を振るうエルフの少女が都市カマー最強候補の一人である、『剣舞姫クラウディア・バルリング』と気付いただろう。


「はっ!」


 クラウディアが気迫を込めた声を発する。剣舞の終了とともに、クラウディアの長い髪がふわっ、と拡がり、頬を伝う汗が宙へ雫となって飛び散る。


「どう?」


 クラウディアは木の影で寝転がっている男、ジョゼフへ目配せをする。しかし、当のジョゼフは全く見ていなかった。クラウディアの美しい顔が引きつる。


「見てなかったの? 私の美しい剣舞をっ!」


「見てた。相変わらず暑苦しい剣舞だった」


 ジョゼフの横に座っている黒を基調としたゴシック調の服を着ている少女が、代わりにとばかりに応えた。ショートカットの銀色の髪にクラウディアとは対照的な、出るところは出ている体形であった。この寡黙そうな少女こそ『魔剣姫ララ・トンブラー』。その証拠に、小柄な少女には不釣り合いな禍々しい気を放つ魔剣グラムが立てかけられていた。


「あんたには聞いてないのよ! この根暗バカっ!!」


「この程度で怒るなんて胸と一緒で心もちっちゃい」


「は、はあぁっ!? だ、誰が小さいって!? 普通ですからー。私の胸はエルフの中で普通ですー」


「それは嘘。エッダの胸は大きい」


「エッダの胸が異常なのよっ! あんな腹黒エルフと比べないでもらえる!」


「今度エッダに会ったら、クラウディアがエッダのことを腹黒って言ってたって伝えよう」


「や、やめてよー。言ったら怒るからねっ!」


 二人の口喧嘩が煩くて、昼寝をしていたジョゼフは不機嫌そうに背を向ける。


「ジョゼフ、私の声聞こえてるんでしょっ! 私の剣舞はお金を払ってでも見たいって人は多いのよ」


 クラウディアのヒステリックな言葉が頭に響くのか、ジョゼフは屁で返事をした。


「ちょっ!? 最低ねっ!」


「オナラでへー。ぷぷ、クラウディアにはお似合いの返事」


「な、なにをー!」


「お前ら、うるせえ。ここはユウの屋敷なんだからな。剣を振るうのはいいが、木とか花を傷つけんじゃねえぞ? あとで俺が怒られるんだからな」


「エルフの私が無闇に木や花を傷つけるわけないじゃない。ジョゼフのばーかっ」


「エルフは傷つけないかもしれないけど、クラウディアならありえる」


「あんたねっ! さっきからー、もう怒った! そのケンカ買ってあげるわ!!」


「さっきから怒ってるくせに」


 ユウが居ない間、暇で暇で仕方のないジョゼフは、ユウの屋敷で時間を潰すことが多かった。どこで聞きつけたのか、クラウディアとララがいつの間にかジョゼフの後をつけては、毎度のケンカをするのである。だらけたいジョゼフからすれば、悪夢以外の何物でもなかった。

 さらにジョゼフを憂鬱にさせるのが――


「ジョゼフ、いつになったら私とその、あれよ。け、けけ、結婚してくれるのよっ!」


「ぷぷ、ジョゼフがぺったんこのクラウディアと結婚するわけない。ジョゼフは私みたいな豊満な女性が好き。それにジョゼフも私も魔剣を使う。相性が良い」


 ララが胸をこれ見よがしに持ち上げてクラウディアを挑発する。確かにララは出るところが出ているのだが、背が小さくどこか滑稽であった。


「ぺぺ、ぺったんこのっ!? この……言わせておけばっ! ジョゼフが、あんたみたいなちんちくりんを好きになるわけないでしょうがっ!! 大体それだったら、聖剣と魔剣を使うジョゼフと、精霊剣を使う私の方がいいじゃないっ!」


「うるせえっつってんだろうがっ! 大体なんで俺がクラウディアと結婚することになってんだ?」


「ふふーん、光栄に思うことね。エルフの王族である、このクラウディア・バルリングと結婚できるんですからね!」


 話が通じないクラウディアに、普段は傲慢不遜なジョゼフも頭が痛くなってきたのか、もういいやとばかりに昼寝を再開する。ジョゼフの横にララが当然のように添い寝して、それを見たクラウディアが激高する。


「あんたねー! 誰に断ってジョゼフの横で寝てんのよ! わ、わわ、私だってまだそんなことしたことないんだからねっ!」


「羨ましいならクラウディアもすればいい」


「そ……そんな……まだ結婚もしてないのに……は、はしたないわ。ジョゼフはどう思う? やっぱりこういうことは結婚してからよね?」


「どうでも――誰だお前?」


 ジョゼフの視線の先には狐面を被った男、オリヴィエ・ドゥラランドが立っていた。ジョゼフ、クラウディア、ララ。三人の強者が、揃って目の前にいるドゥラランドの接近に気付かなかったのだ。


「いや、もっと早く声をかけようとしたんだが。はは、あまりにも楽しそうだったものだからね」


「俺は誰だって言ってんだ」


 ジョゼフの手には聖剣聖炎(ホーリーフレイム)、魔剣氷魔(アイスデビル)が握られていた。そんなジョゼフの姿にクラウディアとララは驚く。ジョゼフが最初から聖剣、魔剣を持って相手を威嚇する姿など、見たことがなかったからだ。


「そんな怖い顔で睨まないでほしいな。これでも根は小心者でね。

 遅くなったが、私はイモータリッティー教団第十三死徒……ナナシとでも呼んでくれたまえ」


「死徒に十三番目がいたなんて初耳だぜ。大体お前、人族だろうが。それで邪教の幹部様が一体何の用だ?」


「ユウ・サトウと君に話があって来たんだが、どうやらユウ・サトウの方は留守のようだ」


 ユウの名前が出たことで、ジョゼフの剣を握る手に力が篭もる。


「ちょっとっ! あんた何なんのよ! ジョゼフを怒らせないでよね」


 クラウディアが鼻をふんっ、と鳴らしながら、ジョゼフの前に出ようとするが、それをジョゼフが許さない。


「ん? 君は……ヨダンの大樹海、エルフの姫君クラウディア・バルリングじゃないか。そちらは魔の祝福を受けしララ・トンブラー。なぜこんな場所に? ああ、そうか。君達は第三次聖魔大戦でジョゼフに助けられていたね」


「ちょっと!? なに? なになに? あんた……ストーカーって奴ね! ジョゼフ、こいつ、きっと私のストーカーよ! ジョゼフに用があるっていうのも、きっと美しい私を寄越せっていうつもりなのよ!! 怖い、怖いわー」


 クラウディアが態とらしく驚きジョゼフの腕に抱きつく。ふざけた態度とは裏腹に、クラウディアの手はいつでも剣を抜いてナナシを斬りつけれる態勢であった。同じく、普段であればクラウディアの言葉にツッコミを入れるララも、先ほどから一言も喋らず手は魔剣の柄にかかっていた。


「ストーカー呼ばわりは酷いな。簡単なことだよ。第三次聖魔大戦では私の息がかかった者達が、各勢力の動向を見張っていたからね。それにしてもジョゼフ、君は本当に弱くなった。魔王を倒した際に呪いでも受けたのかい? それとも敵を討って腑抜け――」


 ナナシの言葉が言い終わるよりも先に、ジョゼフの左右同時に放つ炎と氷を伴った斬撃が、ナナシを斬り裂いたのだが。


「ええっ!? なんで無傷なのよ? 今、斬ったわよね?」


 クラウディアの言うとおり。ジョゼフの放った斬撃がナナシを斬り裂いたはずなのだが、ナナシは無傷のまま、何事もなかったかのように立っていた。


「人の話は最後まで聞くように教わらなかったかい?」


「そりゃ悪かったな。俺は人の言うことを聞かないガキだったからな。お前のその力、前に似たようなのを見たことあるぜ。お伽噺の勇者と同じ固有スキルか、面倒な奴だな」


「私の用はジョゼフ、君がユウ・サトウから手を引くことだ」


「ありゃ俺のお気に入りなんだよ。お前らが手を引け」


「君じゃ彼を守れない」


「黒の聖女を崇拝する邪教がよく言う」


「邪教じゃない。イモータリッティー教団こそ正義そのものだ。はっきり言って、君にユウ・サトウの周りをうろちょろされると面倒なんだ」


 ジョゼフの全身から殺気が溢れ出す。ジョゼフを中心に殺気が渦巻き、周囲を重苦しい空気が覆う。


「もう一度言う。弱くなった君じゃ彼を守れない」


「はあ? 弱くなってちょうどいいくらいなんだよ。俺は最強だからな」


「よく言う。たった一人の息子すら守れなかった(・・・・・・)男が」


 ジョゼフの身体から溢れ出ていた殺気が消え去った。次の瞬間――


「ひっ」


 思わずクラウディアの口から悲鳴が漏れた。鬼のような形相をしたジョゼフが立っていたからだ。


「もういっぺん……もういっぺん言ってみろ」


「何度でも言おう。最強が聞いて呆れる。息子一人守れなかった男が、どうやって――」


 ナナシの頭部に鬼気を纏ったジョゼフの一撃が振り下ろされる。


「やれやれ。本当に人の話を聞かない男だ。それが噂に名高い聖魔氷炎剣か……確かに噂に違わぬ剣だが、噂以上ではないな」


 ジョゼフの手には赤と青が混じりあった一本の大剣が握られていた。聖剣聖炎(ホーリーフレイム)と魔剣氷魔(アイスデビル)が融合した聖魔氷炎剣こそ真の姿であり、強力無比な威力を誇る大剣であるのだが。


「それにしても。教主(・・)殿、来なくていいと言ったはずですが?」


 ナナシは自分の背後に立つ人物へ、振り返らずに声をかけた。


「帰りが遅かったので来ました。話し合いと聞いていましたが? 私には争っているように見えます」


 心外ですとばかりに傘を持つ女性はナナシを見詰めた。金色の髪に金色の瞳、着物という珍しい服よりも、女性から生えている九本の尻尾に、クラウディアとララは目がいく。


「なんだそりゃ?」


「こちらの傘は蛇の目傘といいます」


「傘で……俺の攻撃を逸らしたのか?」


 納得できないジョゼフであったが、確かにナナシの頭部目がけて振り下ろした聖魔氷炎剣を、傘で逸らされたのだ。否、攻撃を逸らしたばかりか、威力を完全に相殺されたのだ。


「ちょっとジョゼフの攻撃を防いだくらいで調子に乗らないでよね! 今日はちょっと調子が悪かっただけなんだから」


 クラウディアが怒るフリをしながら、精霊剣の柄に手をかけようとするが、その手をララが止める。


「な、なによ?」


「だめ。負ける」


「私が狐人なんかに負けるわけないでしょ!」


「狐人じゃない。あれは……魔物」


 ララの言葉に、クラウディアは改めて教主と呼ばれた女性を見詰める。その美しい外見とは裏腹に、内包された莫大な魔力がクラウディアの魔眼に映る。


「別に争いに来たわけじゃない。ユウ・サトウから手を引くだけでいいんだ。それになにもタダでってわけじゃない。対価を払おう」


「対価だ?」


「そう、対価だ。ジョゼフ、勇者と共に魔王を討って気が晴れたか? 君も薄々気付いていたんじゃないのか? 本当の(かたき)は別にいると。知りたくないか? 誰が君から息子を奪ったのかを?」


「本当の敵だと?」


「そうだ。遥か北の大地、自由国家ハーメルン内の小さな村パンドラで顕現した災厄の魔王が、正反対の南の地であるデリム帝国内で暴れる。作為的なモノを感じないか? 当時、デリムセブンソードの力は絶大だった。君を筆頭にセブンソードを擁するデリム帝国の勢いに周辺諸国は抗うことができず、デリム帝国は勢力を拡大し続けていた。さあ、ここまで言えばある程度予想はつくだろう? 真の悪は魔物か? それとも三大魔王か? 顕現した魔王か? 違う! 人こそ悪なのだ。人の悪意には際限がない。さあ、私の言うことを聞くんだ。私こそ正義だ」


 クラウディアとララは不安そうな顔でジョゼフを見詰めた。ジョゼフの過去を知っているだけに、ナナシの提案をジョゼフが受けてしまうのでないかと思ったからだ。


「なに言ってんだ。私こそ正義だ? バカじゃねえの? 敵を教えてやるだ? 大きなお世話だ。俺を誰だと思ってる。お前みたいな胡散臭い奴に教えてもらわなくても、自分で見つけてぶっとばしてやる。バーカ、バーカ!」


 ジョゼフの返答を予想していたのか、ナナシは特に落胆した様子もなく笑みを浮かべた。クラウディアとララは、いつものジョゼフに戻ったことに安堵する。


「私の言ったことが信じられないか? まあいい。いつでも気が変われば、イモータリッティー教団の者に伝えてくれ。君なら容易く信徒を見つけることができるだろう。

 一つ良いことを教えよう。ユウ・サトウだが、このままだと十年、いや五年と持たずに死ぬぞ」


「あいつが死ぬわけないだろうが。見逃してやるからさっさと失せろ」


「ユウ・サトウの瞳を見てみるといい。その際瞳の色について質問すれば、面白い反応が返ってくるだろう。私だけが彼を助けることができる」


 これ以上は話しても無駄と判断したナナシが去っていく。教主と呼ばれた女性はジョゼフ達に一度軽く頭を下げると、ナナシを追いかけるように駆けていった。その姿は教主と死徒、逆の立場のようであった。


「あいつら、大したことなかったわね! ララはビビッてたけど、私が本気出せば瞬殺よ!」


「私は冷静な判断をしただけ。クラウディアはおバカさん」


「な、なにをー!」


「クラウディア」


「ん? なによ。ジョゼフ、まさかあの程度の奴らにビビったの?」


「俺がビビるか。目の病気で死に至るようなのはあるか?」


「う~ん、目の病気はいくつか知ってるけど、死ぬようなのは聞いたことはないわね」


「瞳の色か……」




「で、それでみすみす逃げられたのかい?」


「逃げられたんじゃねえ。見逃してやったんだ」


 ムッスの館の一室で、食客として世話になっているムッスへ、ジョゼフは今日の出来事を話した。ユウのことは伏せておきたいジョゼフであったが、お喋りなクラウディアがすでに全て話しており、ジョゼフの話も別視点から状況を把握したムッスの要望によるものであった。


「それにしても正体不明のイモータリッティー教団の教主が女性だったとはね。あっ、中身は狐の魔物なんだっけ?」


「俺の剣を簡単に逸しやがったからな」


「尾が九本って拙くないか? 大昔に三国を滅ぼした化け狐の尾が七本だか八本だったはず。それに十三番目の死徒か……」


 ムッスはチーズを載せたビスケットを口へ放り込み、塩気の利いたビスケットとチーズの酸味を咀嚼し味わうと、ワインで流し込んだ。空いたグラスにヌングが新しいワインを注いでいく。その様子にジョゼフが唾を飲み込む。ジョゼフはユウの屋敷以外では酒を飲んでいないのだ。酒好きなジョゼフにとって、今の状況は生殺しである。


「ありゃ本当は逆なんじゃねえか?」


「逆?」


「どう見ても教主の方がナナシって死徒に気を使ってたぞ」


「人族なんだよね?」


「ああ、狐の面を被ってたが人族で俺より年下に見えたな」


「クラウディアから聞いたけど、変わったスキルを持っているそうじゃないか。それにユウの瞳についても、ジョゼフの口から聞きたいな」


「あんのお喋りエルフが、全部喋りやがってっ!」


 扉の向こうでガタッ、と何かが倒れる音が聞こえ、そのあとにバタバタと誰かが走り去っていく音が聞こえた。ムッスは苦笑いし、ヌングは思わず笑みがこぼれた。


「昔戦った魔物が似たようなスキルで俺の攻撃を防ぎやがったな。その魔物はスキルで結果を消しやがったから、面倒だったな。お伽噺の勇者も似たような力を持ってたそうじゃねえか。なにかを代償に消す固有スキル『消去』だったか? ナナシってのも同じようなスキルだな。斬った手応えはあったのに無傷だったぜ。

 ユウの瞳は俺の方が聞きたいくらいだ。今度あった際に確認するが、瞳の色が変わる病気に心当たりあるか?」


「残念だが、病気についてそこまで詳しくはないんだ。でも、ナナシって死徒はユウとジョゼフに用があったんだろう? イモータリッティー教団が絡むとなれば、相手は聖ジャーダルクの可能性が高い。それに気になることがある」


「なんだよ? 勿体つけずに言えよ」


「前に僕がニーナに注意するように言ったのを覚えているかい?」


「そういやそんなこと言ってたな」


「僕の固有スキル『天眼』の能力は知っているだろう?」


「知ってるよ。糞の役にもたたねえ適当な未来が、勝手に視えるんだろ?」


「む……なんてことを言うんだい。確かに自分の意思で見ることはできないが、適当な未来じゃないぞ。僕が思うに未来は常に変化してるんだ。だから僕が視た未来もまたありえた未来なんだ。話が逸れたが、前にニーナに注意するようにって言ったときにも視えていたんだ。ニーナがユウを殺している未来がね」


「ほらみろ。やっぱり糞の役にもたたねえ未来予知じゃねえか! どこをどうすればニーナがユウを殺すんだよ。ほんっ……と! 使えねえスキルだよな」


「むむ……そこまで言うことはないじゃないか! 僕はありえるかもしれないって注意を促してるんだぞ! あっ! ヌングも笑ってないで主がバカにされてるんだよ? 怒るところだろ?」


 ムッスは目の前で大口開けながら笑うジョゼフの姿が腹立だしいのか、一気にワインを飲み干しヌングにおかわりを催促する。ヌングはふぉっふぉと笑いが堪えきれぬか、珍しく身体を震わせながらワインを注ぐ。その姿にまたムッスの顔が真っ赤に染まっていくのだった。

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