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第150話:乱入者

 ナマリの躰を覆う黒いスライム達が支配権を巡って争っていた。

 一匹目、兇獸ボラモブラン。腐界のエンリオ40層を支配していたアンデッドの獣。生者であろうが死者であろうが、視界に入るもの全てを殺し尽す。腐界のエンリオを探索する冒険者は出会わないことを神に祈りながら41層を目指す。

 二匹目、同族喰いのメィフェントン。腐界のエンリオ50層を支配していた。同族を食らい続けた結果単一種となる。瘴気を常に纏い近付くだけで生者は精神を蝕まれる。

 三匹目、腐敗のドンドコラポォ。腐界のエンリオ最下層を支配していたアンデッド。強力な暗黒魔法を使いこなし、高い物理耐性と魔法耐性を持ち、通常攻撃でダメージを与えることは難しいだろう。

 四匹目、惡竜ヴェギュリェーン。悪魔の牢獄49層を支配していた竜。同族からも忌み嫌われるほどの残虐性。屈強なAランク迷宮の魔物達ですら姿を見ただけで逃げ去るほどの強さを持っている。


 ナナは自身と融合した聖獣ワォンラァンの力を使いながら、四匹の黒いスライムをコントロールするが、ナマリの感情に引っ張られるように四匹は力を解放しようとする。


「戦わないよ?」


 アーゼロッテの言葉にナマリは呆気にとられる。それと同時にナナは支配権を奪い取り黒いスライム達の暴走は寸前で止められた。


「それより耳を塞いだ方がいいと思うよー」


 アーゼロッテはそう言うや否や、耳に指を突っ込む。ナマリの背後から爆音とともに衝撃が躰に叩きつけられた。




 爆音の原因を作り出したのは、ユウとドルムの激突であった。

 ユウの握る鋼竜のハンマーは先が粉々に砕け、圧力に耐えられなかった右腕からは折れた骨が肉と皮膚を突き破り飛び出していた。


「うむ。ゴーリアでは勝てぬわけじゃわい」


 対するドルムは無傷。ユウの方がレベルの高い槌技であったのだが、ドルムはいとも容易く上回ったのだ。にもかかわらず、ドルムは称賛を惜しまなかった。過去、自身と打ち合ってこの程度で済んだ使い手など僅かであったからだ。

 ユウの傷ついた右腕が逆再生するかのように回復していく。その様子をドルムは追撃をせずに黙って見守っていた。


「お主ほどの使い手であればわかるじゃろう。儂には勝てぬと」


「ああ、わかるさ。俺が負けるわけがないってな」


 ユウは砕けた鋼竜のハンマーを放り投げると、鞘から黒竜・燭を抜き放つ。漆黒の刀身からは抑え切れぬかのように黒炎が漏れ出していた。


「おぉ……なんと見事な剣じゃ」


 ドルムがユウの剣に見惚れた刹那、武技『縮地』を発動。一瞬にしてドルムとの距離を詰めると同時に武技『震脚』の振動がドルムの動きを封じる。ドルムは緋龍の槌を地面に叩きつけ振動を相殺しようとするが、ユウは震脚を放つ際に黒魔法『アイスバーン』を発動していた。ユウの踏みつけた左足を中心に周囲十メートルが氷に覆われていた。ドルムは地面が凍っていることに気付くと、緋龍の槌の対象をユウへと力尽くで軌道修正する。迫り来る緋龍の槌を、ユウは武技『柔拳』によって軌道を変えて躱し、右手に握る黒竜・燭で右薙に斬りつける。

 黒竜の角を元にウッズが作り上げた漆黒の刃は、火花を散らしながらドルムの千年百足の甲殻鎧を斬り裂いた。


「儂の鎧に傷を付けるとは……いや、それよりも」


 斬り裂かれた千年百足の甲殻鎧の傷は、既に鎧に備わっているスキル自動修復によって塞がりつつあったが、それよりもドルムは納得できないことがあった。


「何故、儂は躱せなかった?」


 先程の攻防、確かにユウは武技と黒魔法を複合させた凄まじいものであったが、歴戦の(つわもの)であるドルムが躱せないほどのものではなかった。事実、ドルムは対応できていたのだ。しかし結果はユウの斬撃をまともに喰らったのだ。

 一方でユウも斬った際の手応えに違和感を感じていた。千年百足の甲殻鎧を斬り裂いたにもかかわらず、ドルムは無傷。斬り裂いた際に更に堅い物によって阻まれた感触があった。


「くっく……くはははは! 血が滾るぞ!!」


 ドルムの全身を砂が駆け巡る。砂の正体はダマスカス、ミスリル、黒曜鉄、アダマンタイト、オリハルコン、ヒヒイロカネなどの各種鉱物であった。金剛士であるドルムはアイテムポーチの中に粉末状にした鉱物を入れて持ち歩いていた。先程のユウが感じた違和感の正体は、千年百足の甲殻鎧の下に仕込んでいたアダマンタイトとヒヒイロカネを混合させた第二の鎧と言うべきものであった。

 緋龍の槌の先端に鉱物が集い、唯でさえ大きな槌が更に巨大になる。数百kgを超える槌を持っているとは思えない速度でドルムがユウへ襲い掛かる。




「あははー、おじいちゃん、あんなに喜んじゃってぇー」


 アーゼロッテと対峙するナマリは、攻撃を仕掛けてこない少女に戸惑っていた。ユウからは抑えてろと言われていたので、アーゼロッテが動かない以上ナマリから攻撃をしていいものかと悩んでいた。


「お前……」


「あっ、ちょっと待って」


 アーゼロッテは手でナマリを制すると、耳元に手を当てる。耳元には光り輝く球体が浮かんでいた。光る球体の正体は風の精霊であった。アーゼロッテは「ふむふむ」「なるほどー」「えー」などと、一々大袈裟な動作をする。その姿が何故かナマリには癇に障り、イライラが溜まっていた。


「わかりましたーっと、おじいちゃんの方は……あははっ、君も見てよ。あれ、すっごいね」


 アーゼロッテへの警戒を怠らずに指し示す方に視線を向けると、そこは戦場と化していた。


「ぬんっ!」


 ドルムが槌技『旋風』を放つ。LV3の回転しながら振るう槌技なのだが、ドルムが放てば巨大な竜巻が巻き起こり、ユウへと襲いかかった。一方、ユウは竜巻を唐竹割りに斬り裂く。二つに分かれた竜巻が後方で土砂を巻き上げながら消えていく。二人の戦いによって大地は割れ、山は崩れ、瞬く間に地形が変わり果て、最初の面影はもはやなかった。


「死ね」


 ユウは剣技『月下美刃』を発動。漆黒の刃から黒い炎が大きく一度噴き出し、直後に刃に吸収される。赤黒くなった刃をそのままドルムの頭部へ打ち込む。ドルムが左腕を振るうと、鉱物が壁となって立ち塞がるが、ユウの剣はお構い無く斬り裂きドルムの頭部を捉えたかに思えたが、ドルムが緋龍の槌で受け止めていた。衝撃によってドルムの足は足首まで地面に埋まるも、顔は嗤っていた。


「また躱せぬか! くっく、どうなっておるんじゃっ!!」


 最初に本気になったのはドルムであった。アイテムポーチから二本目の槌を取り出す。紫色に輝く槌。槌の名は紫鋼銀龍。二本の槌を縦横無尽に操るのが本来のドルムの姿であった。


「久しくおらなんだぞ! 儂に二本目(・・・)を持たせる(つわもの)はっ!!」


「おじいちゃーん」


 興奮するドルムに、水を差すかのようにアーゼロッテの声が割って入った。


「迅雷の、今いいところなんじゃ。邪魔するでない」


「えー、でもみーちゃんから伝言だよー」


「むっ、教主殿からじゃと? それを先に言わんか!」


「ぶー、おじいちゃんが最後まで話を聞かないからじゃない。えっとね、その子の髪とか肌とか瞳の()を教えてくれって」


「何を今更……髪は黒、瞳は茶色、肌の色は……はて? 瞳が茶色じゃと?」


 考えこむドルムとは別にアーゼロッテは風の精霊を通じてユウのことを伝えていた。


「お主、黒色の瞳ではなかったか? どれ、もっと近くで見てみんことには……っ!?」


 ドルムはユウから一気に距離を取った。まるでそうしなければ大変なことになるかのように。


「誰から聞いた?」


 ナマリは震える躰を思わず抱き締めた。怖いのだ。あれほど慕っているユウのことが。

 ユウの両手にはいつに間にか二つの球体があった。


「殺した後にゆっくり聞けばいいか」


「なんじゃその球は……まさか」


「おじいちゃん、あれ魔玉みたいだよー」


「なんじゃとっ!? あれほど巨大な魔玉があるわけが……」


 ドルムが驚くのも無理はなかった。強い魔物ほど手に入る魔玉の質が上がる。しかし大きさはそこまで変わらず、大体がビー玉ほどの大きさであった。ユウの手にある魔玉の大きさはボウリング球と同じくらいの大きさであった。


「むぅ。いかん、これはいかんぞ」


 ドルムは幾度となく死線をくぐり抜けてきた。その経験が言っていた。退かねば死ぬと。死臭が身体に纏わり付く。ドルムは横目でアーゼロッテに合図を送る。


「えっとね。あの子、周囲に結界を張ってるよ。それもちょっと強いのー。私達を逃がす気はないみたいだよー。あとね。みーちゃんは帰ってもいいって言ってたよ」


 アーゼロッテが他人の魔法を褒めることなど初めて聞いたドルムであったが、それよりも自身と戦いながら結界を維持していたユウに対して驚嘆する。

 撤退。未だかつて敵を前にして逃げたことなどないドルムは迷う。ユウの方を見れば背後の空間には罅割れが出来ていた。召喚魔法、本来の召喚魔法とは違うがドルムの結論は、ユウが何か召喚をしようとしているであった。問題は何を召喚しようとしているかだ。罅から漏れ出す魔力は僅かにもかかわらず、ドルムの全身の産毛が逆立つほどであった。

 横にいる少女、アーゼロッテが手を貸してくれれば相手が何者であろうが勝てるとドルムは思案するが、それはドルムの誇りが許さなかった。


 空間の罅が増え、割れると思ったその時――

 全く別の場所から何かを咀嚼する音が聞こえてきた。

 全員が音の発生源へ視線を向けると、ユウの張った結界の一部が黒い塊に覆われていた。目を凝らせば黒い塊は蠢いており、奇っ怪な形をした蟲であることがわかる。蟲は貪欲に結界を貪り、あっという間に人一人が通れる穴を作り出してしまった。出来上がった穴をローブを纏った老人が潜る。足が悪いのか杖をつきながらよろよろとこちらに向かって歩いてくる。


「ふぇっふぇっふぇ。厄介な結界を張りよってからに儂の蟲でもてこずったわい。ドワーフにエルフ、お前等が死徒じゃな? んん? そっちの童子と子鬼は関係ないの」


「なんじゃこの爺は」


「かーっ、何を言うか! お前も爺じゃろうが! 儂は『蠱蟲鏖殺(こちゅうおうさつ)のヤーコプ』、セット十二魔屠と言った方がわかりやすいかのぅ」

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