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第147話:生き餌

 グラスのワインを一気に飲み干すと、ドゥラランドは何やら思案顔になる。


「二百十七番か……」


「そうっす! 通信の魔導具で連絡すればすぐにわかるっす。

 ニーナさんには2級だか3級だかの良い物を持たせてるんでしょ? 前にドゥラランド様が言ってたっす。そのくらい等級が高くなると傍受するのも難しいって」


「難しいというより、傍受する技術は数百年も前に失われている。はずだったんだがね。今回フフには通信の魔導具をなぜ持たせなかったか、わかるかい?」


「わかるっす! 通信の魔導具は貴重だからっす」


「フフは本当に馬鹿です」


「なっ!? チ、チンツィアさん酷いっす」


「ははっ。君達の絡みは本当に面白いな。

 フフに持たせなかった理由は傍受される可能性があったからだ。ナナとの連絡が途絶えたのも通信中だ。ナナはサトウの尾行で迷宮内へ潜っていたから、魔物に襲われたか迷宮内の特殊な階層で通信ができなくなった可能性もあるが、私は通信を傍受された可能性が高いと考えている」


「っていうことは、サトウ側には数百年前に失われた技術を持っている人物が居るってことっすか?」


「その可能性は高い。是非、その人物に会ってみたいね」


「ドゥラランド様、まさか……」


「今すぐにというわけにはいかないが、サトウに会いに行こうじゃないか。それにジョゼフに釘を刺しておかないとね」


「ジョゼフ? ドゥラランド様が警戒するほどの相手とは思えませんが」


「自分もチンツィアさんと同意見で嫌っすけど、そう思うっす」


 余計な一言を言った為に、フフはこめかみをチンツィアにグリグリとされて悶絶する。


「デリム帝国を捨てたとはいえ、ジョゼフの影響力は依然変わりなくある。その気になれば元セブンソードもジョゼフのもとへ喜んで集うだろう」


「かしこまりました。いつでも向かえるように準備をしておきます。サトウの変化については私の方で確認しておきます」


「わかった。任せるよ」






「ほいっ」


 ニーナがどこか気の抜けた掛け声で斬撃を放つが、爛れたオーガジェネラルは黒曜鉄の大盾で受け止める。黒竜の爪より作りだされたダガー、黒竜・爪の一撃は頑強な黒曜鉄でできた大盾を容易く斬り裂くも、爛れたオーガジェネラルに傷を付けるには至らなかった。


「……隙だらけ」


 阿吽の呼吸で、ニーナが距離を取ると同時にレナの黒魔法第3位階『フレイムストーム』が、爛れたオーガジェネラルを覆い尽くす。本来広範囲に影響を及ばす魔法であるが、炎の範囲は爛れたオーガジェネラルの周囲のみに留まった。レナの精妙なコントロールがあってのことである。


「ウガア゛ア゛ァァァァァアッ!」


 痛みを感じない爛れたオーガジェネラルは纏わり付く炎を吹き飛ばすと、そのままマリファへと突進する。だが、マリファの側に控える二匹の従魔がそれを許さない。ランがすれ違いざまに右足をもぎ取り、バランスを崩したところをコロが見逃さずに首を噛み千切る。尚も動こうとする爛れたオーガジェネラルであったが、ニーナの左手に握る黒竜・牙が一閃。縦に真っ二つに斬り裂かれ、そのまま動かなくなる。


「ふ、ふふ。ユウ~見た? 今の見た? 私達成長したでしょ?」


 ニーナがどうどう? っとユウの方へ振り返るが、当のユウはモモの髪を梳かしている最中であった。その横ではナマリが次は自分の番だと座って待っていた。

 ユウ達が現在居るのは腐界のエンリオ35層、魔人族の村へ向かう途中であった。ついでにニーナ達の成長を確認するのも兼ねているので、ユウの時空魔法で直接行かずに30層から進んでいた。


「もう~、ユウちゃんと見てたの?」


「見てた見てた。たった一匹に手間取り過ぎ。ほらマリファを見てみろよ。次の魔物の相手をしてるぞ」


「う~、わかってるよ~」


 雑な扱いをするユウであったが、ニーナ達の成長は認めていた。ニーナ達は初めて来た腐界のエンリオであるにもかかわらず、ユウからの支援を一切受けることなく魔物達を倒していた。


「オドノ様、ニーナ姉ちゃん達って結構やるんだな」


「ナマリ、お前は勘違いしていないだろうな? お前の力はマスターと私のおかげだということをな」


「ソノトオリデスヨ」


 ナマリの角から一部分だけ飛び出したナナが、ラスの言葉に同意する。


「うるさーい。ナナ、勝手に出てくるなよ」


 ナマリは小言を言うナナが苦手なのか、角の中へナナを無理矢理押し込む。


「ナマリ、静かにしろ」


「ほらっ、ラスとナナのせいでオドノ様に怒られただろう」


「自業自得だな」


「ソウデスヨ」


 涙目になりながらナマリはラスを追い掛けるが、空に飛んで逃げるラスに卑怯者と罵声を飛ばすことしかできなかった。


「ご主人様、終わりま――」


「……全部倒した」


 マリファの言葉に被せるように、レナが杖をブンブンさせながら魔物を殲滅した報告をする。


「レナ、何の真似です? 私がご主人様に報告している最中なんです。そ、それを横からっ」


「あ~、二人だけずるい~。ユウ、私も倒したんだよ~」


 身体で押し合いをしているマリファとレナの間を割るように、ニーナが飛び込んでユウに抱き着く。


「ニーナさん、ご主人様に勝手に抱き着かないで下さい」


「……どーん」


 ニーナを引き剥がそうとするマリファを尻目に、レナが横からユウの膝下へ滑り込み、そのまま流れるようにユウの膝枕で横になる。ニーナ達のせいでユウの手の平から落ちたモモが、レナの鼻の上に落ちる。鼻を真っ赤にしながらレナがマリファに対してドヤ顔をすると、マリファは怒りで耳まで真っ赤に染めた。





 腐界のエンリオ66層、60~63層の蟻の楽園を抜けると、そこからは魔物の数は減少する。しかし魔物の強さ、脅威は遥かに増し、竜、巨人、天魔などのアンデッドと遭遇するのも珍しくはなかった。


「ぬんっ!」


 巨人族のアンデッドが放つ一撃。

 身長十三メートルは超える巨体から放たれる一撃は、想像を絶する威力であろう。普通であれば、攻撃を受けた者は原型を留めることは叶わないのが容易に想像できるが、巨人から攻撃を受けた者は受け止めていた。身長百七十~百七十五センチメートルほど、樽体型に立派な髭を蓄えたその姿は典型的なドワーフであった。

「中々の攻撃じゃな……」


 巨人の攻撃を自慢の槌で受け止めながら軽口を吐く余裕まであった。


「おじいちゃん、早く行こうよ~、ゴーちゃんのところまであと少しだよ」


 フリルのついたスカートがはためき、めくれそうになるのを手で押さえながらアーゼロッテは頬を膨らませる。駄々っ子のように叫ぶアーゼロッテの声に、ドルムは苦笑する。


「わかった。わかった。

 もう少し楽しみたいところじゃが、すまんの。こちらも何かと忙しいんでな」


 アンデッドになっても多少の知性を残していた巨人は、矮小なドワーフから放たれる鬼気に後ずさりしそうになるが、巨人族としてのプライドがそれを許さなかった。

 ドルムの上半身が捻られる。次の瞬間、上半身が消えたかと見間違うかのような速度で回転し、後を追うように槌が唸り声を上げる。巨人は拳を振り下ろし対抗する。

 まるで空気が割れたかのような音が響き渡り、アーゼロッテが耳に指を突っ込む。

 槌技『旋風』LV3の技であるが、ドルムが本気で放てばその威力は常人とはかけ離れたものとなる。上半身を失った巨人は、腐った肉を血と共に撒き散らしながら後方へ倒れる。砂埃が巻き起こるが、アーゼロッテの精霊魔法によって二人が汚れることはなかった。


「おじいちゃん、もっと綺麗に倒せないの?」


「むぅ、これでも綺麗に倒したつもりなんじゃがのぅ」


 ドルムとアーゼロッテは腐界のエンリオ66層まで無傷で辿り着いていた。高ランクの冒険者パーティーでも命の危険がある腐界のエンリオを、まるで散歩をするが如く進んでいく。


「あっ、ゴーちゃん居たよ~」


「迅雷の、これは生きておるのか?」


「ぷぷ、ゴーちゃん、何その格好~」


「ゴーリア、生きておるなら返事をせぬか」


 やっと見つけたゴーリアの変わり果てた姿に、ドルムは顔をしかめ、アーゼロッテは堪えきれずに笑ってしまう。

 ゴーリアの身体は腐っており、身体中に蛆が蠢いていた。腐食馬蝿の苗床となったゴーリアは、ドルムの呼び掛けに剥き出しの眼球が動く。


「どうすればそんな姿になるのか聞きたいものじゃが、今はゴーリアを回収するのが先かのぅ」


「ねね。ゴーちゃん、もしかして負けちゃったの? おっかしーんだ。死徒が負けるなんて~」


「これ、迅雷のやめぬか」


 アーゼロッテの嘲笑の影響か、ゴーリアの口元が微かに動く。


「に……ぇろ。……な、だ」


「む? 何か言っておるの」


「え~と、ふむふむ~」


 アーゼロッテが耳に手を当てながら、ゴーリアの口元に近寄る。


「何と言っとるんじゃ?」


「あはは。罠だから逃げろって」


「罠じゃと?」


 その時、腐った大地から鎧を纏った骸骨の騎士達が這い上がってくる。骸骨の騎士団は隊列を組みながら、ドルム達を囲む。


「ほおぅ……儂ら相手に喧嘩を売る馬鹿がおるとは面白い」


「おじいちゃん、この前もいたじゃない~。もう、歳なんだから」


 数百体の骸骨騎士に包囲されたにもかかわらず、ドルムとアーゼロッテから笑みが消えることはなかった。

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