第138話:慰め方
ジュウウゥゥゥ……、弱火でじっくり焼き、最後に焼き色を付ける為に高温で一気に焼かれた肉から出る脂の弾ける音が居間まで届く。音とともに肉から発せられる匂いが鼻孔をくすぐり、食事を待っている者達は今か今かと唾を飲み込んで耐えた。
「マリファ、これで全員分だ」
「かしこまりました」
マリファはユウから受け取ったステーキを皿に取り分けると、テーブルへ運び並べていく。朝から肉など普通であれば重過ぎるのだが、冒険者をしている者達は常日頃から一様にエネルギーを欲している。
ニーナ、レナ、ナマリは自分の目の前に置かれた肉の塊に笑みを浮かべる。
「おうっ! 朝からステーキか、しかもこりゃ悪魔の牢獄に生息するウードン魔牛の肉じゃねえか!」
朝から大声で話すジョゼフの声にユウのこめかみがピクリッ、と動く。
「ジョゼフ、もう少し静かにしてくれないかな? う~ん、ジョゼフが興奮するのも無理はないかな。ウードン魔牛のステーキに妖樹園で最近発見された日光トウモロコシのコーンポタージュ、サラダに使われている野菜も一般市場では中々お目にかかれないモノばかりじゃないか。おっ、パンも上等なモノだ。爺や、ワインを」
ムッスの側に控えていたヌングは流れるような動きでグラスにワインを注ぐ。それを見ていたジョゼフが自分にも寄越せと催促する。
当然のように席に着いているムッスに、ユウのこめかみが再度ピクリッ、と動く。その様子にマリファの耳が狼狽えるように上下に動く。
「ジョゼフ、酒は控えていたんじゃないのかな?」
「バカ野郎! めでたい日はいいんだよ」
「お前等……何の用だ?」
声は抑えていたがユウの言葉には隠しようのない怒気が含まれていた。
「わははっ、何って飯を食いに来たに決まってんだろうが」
「ジョゼフの言うとおりだよ。これが食事以外の何に見えるんだい?」
音も無くユウのもとに移動したラスはそのまま跪くと、進言する。
「マスターの許可さえ頂ければ、あの程度の者達など数分で屠ってご覧にいれましょう」
「オドノ様ー、まだ食べちゃだめ?」
我慢しきれなくなったナマリが叫ぶと、ユウは小さな溜息を吐き、肩を下げる。
「ナマリ、食べていいぞ」
「やった! いただきます!」
ナマリの後ろでは話に割り込まれたラスが小言を言っているが、肉を食うのに忙しいのかナマリは相手にしてはいなかった。
「ユウ、このお肉美味しいね!」
「……噛み締める毎に肉汁が出てくる」
「ほら、肉ばっかり食べずに野菜も食べろ」
レナは差し出された山盛りのサラダから目を背ける。だが、ナマリがサラダを美味しそうに頬張ってレナに意味深長な笑みを向けると、負けず嫌いのレナはサラダを小さな口一杯に放り込んでどうだ! と言わんばかりにユウを見詰めた。ユウの頭の上ではモモが面白いモノでも見るかのように、ポリポリと野菜を齧りながらレナとナマリのやり取りを見ていた。
「いや、普通に食えよ」
「ご主人様、どうぞ」
空になったユウのコップにマリファが水を注ぐ。
ヌングは主と同席しての食事など出来ないと、ユウが何度誘っても頑なに拒んだ。今もムッスの側にはヌングが控えていた。
朝から豪華な食事にニーナ達は舌鼓を打つ。ナマリに対抗して欲張ったレナは食べ過ぎたのか、小さなお腹がポッコリと膨らみソファーで横になっていた。ジョゼフとムッスは、ユウの作ったニンニクを素揚げしたモノを酒の肴に、ワインを流し込むように飲んでいた。
「朝からそんなに飲んで、後でどうなっても知らねえからな。それにニンニクを馬鹿みたいに食べているが、それは大量に食べるもんじゃないんだぞ」
「ユウの作る飯が美味いのが悪いんだ。このニンニクの素揚げも食べ始めると止まらねえしな」
「ふぅ……確かに飲み過ぎたかもしれないね。少し休ませてもらうよ」
ユウの忠告を無視したジョゼフは、この後トイレに篭もることになる。
朝食が終わると居間では皆が寛いでいた。ナマリはレナにちょっかいを掛け、ニーナはユウの身体の一部に、常にどこか触れていた。マリファは黙ってユウの側に控えていたが、それだけで幸せなのか、耳がピクピクと小刻みに動いていた。モモはユウの髪の毛に絡まって遊んでいた。少し前のユウがニーナ達と別行動を取っていた頃では考えられないほど、騒がしい光景であった。
「ユウ、今日はどこか行くの?」
「ああ、冒険者ギルドに用がある。その後はマゴと商談、それにおっちゃんの店にも行かないとな」
「私も行くよ~」
「お前とレナはダメだ」
「なんで~やだやだ。絶対ついていくからね!」
子供みたいにユウに抱き着くニーナをそのままに、ユウは片付けの終わったテーブルの上にアイテムポーチから一冊の本を取り出し置く。
「……この本は?」
ソファーで横になっていたレナが興味深そうに本を見詰める。
「この本には俺とラスが調べた各ジョブの情報が書かれている。俺が帰ってくるまでに読んでおけよ。勿論、マリファにも後で読んでもらう」
「ユウ~、本はちゃんと読むから」
「本だけじゃないぞ」
ユウはそう言うと、アイテムポーチから次々と宝箱を取り出す。普通の外見の宝箱から神秘的な印象を受ける宝箱、一目で禍々しいとわかる宝箱まで様々であった。
「ユ、ユウ……これは?」
「俺が手に入れた宝箱だ。ここにある宝箱には罠が仕掛けられている。ニーナは俺が帰って来るまでに、一つ残らず罠を解除しておくように。
ちなみにBランク以上の迷宮で手に入れた宝箱だ。罠の解除に失敗すれば大変なことになるぞ」
「た、大変なこと?」
「死にたくなければ死ぬ気で解除するんだな。ラス、お前はニーナに付いてやれ。結界を忘れるなよ」
「マスターっ、それでは私は?」
「ラスを連れて街に行くわけにはいかないだろう。昨日は冒険者や傭兵達だからまだよかったが、街に行けば大騒ぎになる」
ラスは「ぐぬぬっ」と唸り声を上げるも、ユウのもっともな言葉に反論することが出来ずに頭を垂れた。
「ラスはお留守番ー!」
「えっ、ナマリ、来るの?」
「行く! お外で待ってるから」
ナマリはお出掛けが嬉しいのかそのまま庭に飛び出す。
「マゴと商談ねぇ……」
「何だよ。ムッス、文句でもあんのか?」
ソファーにもたれていたムッスが起き上がり、ユウを見詰める。
「マゴと言えば、カマーでも指折りの大商人じゃないか。最近では都市サマンサや要塞都市モリーグールにも出店しているそうじゃないか」
「それで?」
「いや~、よく許可が降りたと思ってね。特に都市サマンサを治めるシプリアノ子爵は強欲で知られているからさ」
「そんなことか。シプリアノは、あっちからちょっかいかけてきたからな。詫びを込めてマゴの出店を認めてくれたぜ」
「ふ~ん、それにしても店舗数がこの数カ月で倍以上に増えるっていうのは異常だよね? どこからその資金は出ているのかな?」
「マゴは長年都市カマーで腰を据えて運営してきてたからな。金なら溜め込んでいるんだろう」
「なるほどね~。ところで、昔から龍は金銀、宝石を貯めこむ習性があるんだけど、ウードン王国でも半ば伝説と化していた古龍マグラナルスはどれほどの財宝を貯めこんでいたんだろうね?」
ムッスは楽しそうにグラスを傾けると一気にワインを喉に流し込む。ジョゼフは金の話などには興味がないのか、ニンニクの素揚げを肴に高級なワインを湯水の如く飲んでいた。
「俺がマゴに資金を出資してるって言いたいのか? 仮にそうだとしたらどうする」
「どうもしないよ。でもユウの資金力はどれほどあるかは興味があるかな?」
「敵になるかもしれない奴に、態々自分の資金力を教える馬鹿がいるか」
「やだな~、僕はユウの敵にはならないよ」
「今はだろ? お前の気持ちなんて国の思惑の前じゃ何の役にも立たない」
ムッスは終始笑みを崩すことはなく、ユウは感情を乱すことはなかった。ムッスの側に控えていたヌングだけは悲しそうな眼で二人を見詰めていた。
ユウが玄関に向かうと、マリファが立って待っていた。マリファはニーナから何度も「ユウから目を離しちゃダメだよ」と念を押されていたが、ニーナに言われるまでもなかった。
玄関の扉をユウが開けようとするが、取っ手から手を放すとマリファの頬を両手で掴んで伸ばす。
「ご、ごひゅじんさま?」
突然のユウの奇行にマリファも慌てるが、ユウの顔は真剣そのものであった。
「お前、何か元気ないだろ? 俺は人の気持ちなんてわからないから、どうすればお前が元気になるのかわからん」
昨日、ラスに全く手が出ずに自信を喪失していたマリファは、主であるユウが自分のことを心配していることに、本来であれば奴隷である自分は恥じねばいけないにもかかわらず、それ以上に心の底から嬉しい気持ちが溢れ出していた。
あまりの幸せに耳だけでなく全身が激しく震えるマリファであったが、ユウはマリファが傷ついていると勘違いする。
「どうすれば元気が出るんだ? お前って欲しい物とか言わないし、何をすれば喜ぶのか俺にはわからないんだよ」
ユウは頬から手を放すと、今度はマリファの両耳を掴み優しく横に引っ張る。引っ張る度にマリファからは「あっ、あっ、ああっ」と喘ぎ声にも似た艶のある声が漏れる。
「ご……ごちゅじ……ん、あっ、さまぁ……あっ、あっ、元気、でまちゅ、した」
マリファの言葉にユウは安堵の表情を浮かべた。高ランクの魔物と戦っても動揺することのないユウが、激戦をくぐり抜け安全を確認した冒険者のような顔で玄関の扉を開けると、待ちくたびれたナマリがコロと遊んでいた。
「あー! オドノ様、遅いー」
「待たせたな。行くぞ」
「わかった。あれ? マリ姉ちゃん、顔が真っ赤だけど何かあったの?」
「何も……ありません……でしたよ?」
ナマリとコロが、耳まで真っ赤に染めたマリファの顔を不思議そうに見詰めるのであった。
名前 :ニーナ・レバ
種族 :人間
ジョブ:シーフ・暗殺者
LV :40
HP :936
MP :420
力 :368
敏捷 :513
体力 :299
知力 :147
魔力 :134
運 :22
パッシブスキル
索敵LV6 ↑UP
罠発見LV6 ↑UP
短剣術LV6 ↑UP
忍び足LV5
短剣二刀流LV5 ↑UP
暗殺術LV5 ↑UP
回避LV5 ↑UP
敏捷強化LV4 ↑UP
剥ぎ取りLV3 ↑UP
アクティブスキル
盗むLV2
潜伏LV5
罠解除LV5 ↑UP
隠密LV5
闘技LV3
短剣技LV5 ↑UP
暗殺技LV4 ↑UP
開錠LV5 ↑UP
鑑定LV3 ↑UP
罠設置LV3 ↑UP
固有スキル
魔導*地
装備
武器:黒竜・爪(3級):切れ味激化・攻撃時に一定確率で猛毒状態 黒竜・牙(3級):貫通力激化・攻撃時に一定確率で麻痺
防具:聖獣革の鉢金(3級):攻撃力強化・防御力強化・HP回復速度強化・聖耐性激化・聖の加護
:黒竜革のジャケット(3級):竜耐性激化・物理耐性激化・自己修復
:腐喰甲殻のガントレット(4級):腐食耐性強化・腕力強化
:大盗賊の靴(3級):敏捷激化・斥候職スキル強化
装飾:鬼の腕輪(3級):腕力激化
:妖精のピアス(4級):幻惑耐性強化
:シスハのペンダント(5級):解析LV3まで防げる。またステータスの部分だけにブロックを掛けることも出来る
:竜の腕輪(4級):全能力上昇
:小人のピアス(5級):敏捷上昇
:黄金糸のスカーフ(4級):物理耐性強化・火水耐性強化
名前:レナ・フォーマ
種族 :人間
ジョブ:魔術師・魔女
LV :42
HP :488
MP :2316
力 :89
敏捷 :121
体力 :119
知力 :601
魔力 :647
運 :16
パッシブスキル
杖術LV5 ↑UP
詠唱速度強化LV4 ↑UP
MP回復速度強化LV4 ↑UP
魔力強化LV7 ↑UP
消費MP半減 ↑UP(消費MP減少の上位スキル)
無詠唱LV5 ↑UP
杖装備時魔力上昇LV3 ↑UP
魔法耐性LV5 ↑UP
アクティブスキル
白魔法LV6 ↑UP
黒魔法LV6
結界LV6
魔力覚醒LV6 ↑UP
固有スキル
なし
装備
武器:ミルドの杖(4級):消費MP減少・魔力強化 ミスリルの箒(4級):魔力強化・詠唱速度上昇・MP回復速度上昇・風の加護
防具:黒竜の帽子(3級):竜耐性強化・MP回復速度激化・物理耐性強化
:ミスリルのローブ(4級):魔法耐性強化
:天魔ヴェクウタスの手袋(3級):聖属性激化・白魔法激化
:アークデーモンのマント(3級):魔法耐性激化・MP回復速度強化・消費MP減少
:大魔女の靴(4級):魔力強化・MP回復速度強化・魔法耐性強化
装飾:ユグのアミュレット(5級):防御力上昇
:生命の指輪(5級):HP50増幅・HP上昇・MP上昇
:ゴルドバのネックレス(4級):消費MP減少
:岩石竜の指輪(4級):防御力強化
:強命の指輪(3級):HP500上昇・HP8%上昇
:聖天使のピアス(4級):白魔法上昇・神聖魔法強化・聖耐性強化
:闇のピアス(4級):闇耐性強化・呪い耐性強化
:闇のネックレス(3級):闇耐性激化・呪い耐性激化
:闇のアンクレット(4級):闇耐性強化・呪い耐性強化
:魔王セーンの指輪(3級):第5位階までの魔法攻撃吸収MP変換
闇シリーズのセット効果
地水火風耐性強化・MP300上昇
名前 :マリファ・ナグツ
種族 :ダークエルフ
ジョブ:調教士・虫使い
LV :40
HP :879
MP :523
力 :296
敏捷 :305
体力 :316
知力 :249
魔力 :264
運 :3
パッシブスキル
弓術LV3 ↑UP
魔眼LV4 ↑UP
調教LV6 ↑UP
操虫術LV5 ↑UP
身体能力強化LV1 ↑UP(身体能力上昇の上位スキル)
騎乗LV3 NEW!
アクティブスキル
弓技LV3 ↑UP
精霊魔法LV3 ↑UP
従属強化LV6 ↑UP
使役LV4 ↑UP
従魔強化LV5 ↑UP
固有スキル
なし
武器:霊樹の弓(4級):幽体系にダメージ・身体能力強化・命中率強化
防具:グレーターデーモンのレザージャケット(4級):魔法耐性強化・物理耐性強化・MP回復速度上昇
:霊樹の靴(4級):恐慌耐性・魔力上昇
:魔甲蟲のガントレット(4):筋力強化・身体能力強化・敏捷強化
装飾:黒竜のチョーカー(3級):筋力激化・竜耐性強化・物理耐性強化
:黒竜のバングル(3級):物理耐性激化・魔法耐性激化
:アーティスのアミュレット(4級):聖・闇耐性上昇 恐慌耐性上強化
:癒しの腕輪(5級):HP回復速度上昇
:獣魔の指輪(4級):従魔強化・使役強化
:使役の指輪(4級):従魔の支配力強化