表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/405

第104話:次はお前の番

 辺りを血の匂いが漂い、ゴーリアは鼻を引くつかせると満足そうに肉塊と化したそれ(・・)を見て口角を上げる。


「へっへ、散々オイラの邪魔をするから、こういう目に遭うんだ。

 あっ、オイラのブーツが汚れちゃったよ。汚いな~」


 ゴーリアはブーツに付いた血と共に、ゴミでも蹴るかのようにスッケの一部を蹴飛ばす。


「き、貴様っ!!」


 ゴーリアの行為に、1番冷静にならなくてはいけないマリファが、感情を抑えきれずに傷ついた身体を押して仕掛けてしまう。マリファの矢には、最初からバレットアントを付けて射っていたが、ゴーリアの身体を覆う毛と強力な『闘技』によって守られており、バレットアントの毒針が皮膚まで届かなかった。

 飛来してくる矢を難なく躱すゴーリアと対照的に、マリファは無理に動いた為に右胸の傷が開き、溢れる血がメイド服を真っ赤に染めていく。

 

「ごふっ……コ、ロ……動いては、いけ……ま、せ…………ん」


 全身の毛を逆立て、今にも兄の仇であるゴーリアに襲い掛かろうとしたコロだったが、マリファの側を離れられずにいた。憎き敵が目の前に居るにもかかわらず、怪我で動けないマリファを守らなくてはいけない葛藤に、喰いしばったコロの口から血が流れ落ちる。


「お前、あのゴミ(・・)の家族だろう? オイラ、匂いでわかるんだよ。自分の家族が殺されたのに、飼い主の言うことにペコペコ従って情けない奴だ」


 言葉の内容を全て理解したわけではなかったが、自分と兄が侮辱されたのを理解したコロが飛び出す。

 待ってたと言わんばかりにゴーリアがハンマーを担ぐと同時に、ニーナが懐に飛び込み、短剣技『インフィニティーブロー』を放つ。魔力が続く限り永遠に放たれるブローを、ゴーリアは難なく防いでいく。


「わはっ! 速い速いっ! でも永遠には続かないんだな。魔力が切れると同時に綺麗な華を咲かせてあげるよ~」


 インフィニティーブローの最中に、短剣技『クリティカルブロー』『デッドスタブ』を混ぜるが、ゴーリアはさして驚かずにこれを捌く。

 永遠に続くかと思われたニーナのインフィニティーブローだが、速度に陰りが見えてくる。


「最初に比べて、動きに見る影もないね。お姉さん、さようなら~」


 高速で放ち続けるブローが最早見る影もなく、ニーナの攻撃を躱したゴーリアは、鋼竜のハンマーを真上に持ち上げ、ニーナに叩きつけようとするが、雷が鋼竜のハンマーへ落ちる。雷は鋼竜のハンマーを伝い、ゴーリアへもダメージを与える。


「ぐっ……、空に浮かんでいる奴かっ!?」


 マナポーションで回復した僅かな魔力を振り絞り、黒魔法第2位階『サンダーボルト』を放ったレナは、そのまま意識を失い地へと落ちて行く。


 一瞬レナに気を取られたゴーリアは、目の前のニーナから目を逸らしてしまった。その僅かな一瞬をニーナは見逃さなかった。

 左右に握るダガーに力を込め、全身の力を振り絞り、短剣技『デッドスタブ』を左右同時に放つ。


「お、前……魔力が切れたフリを――」


 ゴーリアが言葉を最後まで喋ることは出来なかった――何故なら。


「ぐあぁっ!」


 ゴーリアの首元にコロの牙が突き立てられたからだ。

 我慢に我慢を重ねた。コロはシャドーウルフ本来の戦闘方法である気配を消して、相手の隙ができるのを待ち続けた。兄の仇を討つために、感情を無理やり抑えつけて、ゴーリアに隙ができるのをじっと待ち続けていたのだった。


「ぐあぁぁあぁ~、はぁ……オイラ、油断しすぎたよ。ま~た、姉さんに怒られるよ」


 ゴーリアにほとんどダメージが無いことに、ニーナとコロが驚愕の表情を浮かべる。よく見ればニーナのダガーもコロの牙も、ゴーリアの身体に僅かしか突き刺さっていなかった。そんなはずはないと、手に牙に力を込めるニーナとコロだったが、刃と牙はピクリとも動かなかった。逆にゴーリアが身体に力を込めると、押し返されたニーナとコロがゴーリアから距離を取る。


「へっへ~、少しはダメージはあったから、そんなに気を落とさない方がいいよ~」






「今の内に落ちた少女を確保しておけ」


 ニーナ達とゴーリアの戦闘に巻き込まれないように、包囲していた聖ジャーダルクの諜報員達が、レナの確保に動き出していた。






 チー・ドゥが満身創痍の状態でユウを睨む。一方のユウは都合が良いとばかりにチー・ドゥへ近付いていくが、遠くの方からジョゼフの叫び声が聞こえてくる。俺を巻き込みやがってや、本当は知らなかったんだよな? といった内容だったが、ユウは舌打ちすると黒魔法第2位階『ファイアーウォール』を展開する。高さ3メートル、幅数百メートルの炎の壁がユウとジョゼフ達を隔離する。


「これで邪魔者は来ない」


 ユウはチー・ドゥから『杖術』『調教』『詠唱速度強化』『消費MP減少』『毒・麻痺耐性』『騎乗』『杖技』『召喚魔法』『魔力覚醒』『従属強化』『結界』『使役』『従魔強化』を次々と奪っていく。流石にチー・ドゥのスキルはどれもレベルが高く、激しい頭痛がユウを襲う。パッシブスキルとアクティブスキルを全て奪い、チー・ドゥの持つ2つの固有スキル『並列思考』『開門』を奪う時にそれは起きた。


「て、てめぇ……な、んで目から……血が、ま゛ぁいぃ……殺す、変わりはな、い」

 チー・ドゥの言う通り、ユウは目から血が滴り落ちていた。

 ユウは血を拭うとチー・ドゥに止めを刺そうと剣を抜くが、それよりも速くチー・ドゥが右手に握り締めたグレーターデーモンの杖が、ユウに向けられる。


「馬鹿がっ! 油断して近付いて来やがって!」


 チー・ドゥのグレーターデーモンの杖には2つの強力なスキルが付与されていた。その2つとは『魅了』『精神効果強化』、この2つのスキルの組み合わせとチー・ドゥの魔力によって、魅了状態に失敗したことは過去1度もなかった。

 

「ひっひ、これでお前も終わりだ。死にたいと思うような苦痛を与えてやるぞ」


 ユウの魅了に成功したチー・ドゥは、アイテムポーチからハイポーションを取り出し飲み干す。あとはユウを連れて、この状況からどう脱出するかを考えていると――

「何が終わりなんだ?」


「馬鹿な! お前は魅了に掛かったはずだ! 何故っ!?」


「■■? どこの言葉だ」


「レ、レジストはされていないっ。どういうことだ!? ま、まさか……俺は嵌められたのか、邪眼の魔女(・・・・・)め、……ステラっ! 俺を……俺を利用したなっ」


「■眼の魔■■テ■?」


 チー・ドゥの言葉に感じるはずの違和感が、ユウの中から消えていく。まるで考えてはいけないと言うように……


 ユウはチー・ドゥから奪った固有スキル『並列思考』を早速使う。今までは死霊魔法で使役した小動物達とは、必要な時以外は意識を共有していなかった。何故なら小さな動物や魔物は知能も低く、意思疎通に時間が掛かり、ユウの必要としていない情報まで大量に流れ込んできたからだ。

 『並列思考』により、膨大な情報も処理できるようになったユウは、周囲に放っているアンデッドと情報を共有する。

 様々な情報や光景がユウの頭に一気に流れ込んでくる。都市カマーの表通りを歩く人々、隙あらばユウに手を出そうと考えている貴族の屋敷、路地裏でケンカをしている若者と中年の男性、そしてゴーリアによってボロボロにされているニーナ達の姿。

「お前等……ニーナ達にも」


「聖女派が俺を嵌めたのか? それとも聖者派が……あ? 何だ今頃気付いたのか。お前の女達なら今頃皆殺しに――」


 右手に込めたのは火の魔法、ユウの『魔拳』によって顔を貫かれたチー・ドゥの最期はあっけないものだった。

 死んだチー・ドゥなど見向きもせずにユウは考える。


(今から走っても……いや、奪った召喚魔法で大型の鳥に乗っても間に合わない)


 戦闘中でも見せたことのないほど、ユウの表情には焦りがあった。

 ユウはチー・ドゥが創った門を見上げる。


(やるしかない。失敗すればニーナ達は……)








 全身血塗れの少女が立っていた。

 身に着けている装備はどれもボロボロで、ミスリルの額当てもとうに砕け散っていた。ニーナも奮戦したが、ゴーリアによって嬲るように肘関節、胸骨、胸椎、腰椎、骨盤を砕かれ、それでも立っていたのは奇跡と言えた。


「ご、ごめ~んね」


 イチかバチかの固有スキル『魔道*地』を発動するが、真正面からの攻撃にゴーリアが万が一でも対応に失敗することはなく、躱し様に左足の膝を砕かれる。


「何度も言ってるけど、オイラにそんな攻撃は通用しないって、そろそろ飽きてきたし~もう終わりにしようかな~、取り敢えずあっちの空から好き放題魔法を打ってきた女の子からかな」


「そ……そんなことさせ、ない」


「へへ、立つのもやっとなのにどうやってオイラを止めるの?」


 足を引きずりながら、レナの方へ向かうゴーリアを追い掛けるニーナだったが、それを嘲笑うかのようにゴーリアは歩き出す。


「そ、ぞんなのゆ゛るざないっ!」


「あらら、泣いちゃった? オイラ、弱い者イジメは……これは」


 ニーナを中心に魔力の糸が碁盤の目状に拡がっていく。魔力の糸はゴーリアの足元まで拡がっていた。


「ごめ~んね」


 固有スキル『魔道*地』のキーワードを唱えると、ニーナの身体が魔力の糸の中へと溶け込んでいく。ゴーリアの顔から笑みが消える。


 ゴーリアの斜め後ろからニーナが現れる。魔力の糸の形から予想していたとはいえ、ゴーリアの反応が遅れる。今までなら余裕を持って捌いて反撃をしていたゴーリアが、受け止めることしかできなかった。

 尚もニーナの猛攻は続く。四方八方からいつ現れるかわからない攻撃が、ゴーリアを襲い続ける。徐々にだがゴーリアの身体に傷が増えていく。

 どこから攻撃されるかわからない為に、ゴーリアは常に全身に『闘技』を張り巡らせていた。その分どうしても魔力の薄い部分が出来てしまう。ニーナはその薄い部分を狙って攻撃を繰り返す。


(これなら……なんとか勝てる。ううん、時間だけでも稼げればきっとユウが)


「本当にムカツク奴等だな。ちまちま、ちまちま……殺すぞ」


 ゴーリアの全身が二回りも大きく膨れ上がり、重装備にもかかわらず天高く飛び上がり回転しながら落ちて来る。高速回転で鋼竜のハンマーを地面に叩き付ける。ゴーリアの槌技LV7『暴威鋼虐圧潰』が地面を粉々に破壊する。

 ゴーリアが放った破壊のエネルギーが地面を砕きながら拡がっていく。その破壊の痕跡は、ゴーリアから遠く離れた都市カマーをも揺るがすほどだった。


「たった……たった1人の亜人がこの惨状を起こしたっていうのかっ!?」


「勝てないっ! 毒も効かない。魔法も効かない。その上あの馬鹿げた身体能力。隊長、俺達はこのまま無駄死にするしかないんですか……」


「最後まで諦めるな。きっとチャンスは来る。その時まで待つんだ」




 ゴーリアの一撃によって魔力の糸が吹き飛ばされたニーナは――


「あらら、あんよが無くなっちゃったな。オイラのせいじゃないよ? ちょこまか動くお姉さんが悪いんだよ」


 ニーナは魔力の糸の中に、身体を溶け込ましていた際に直撃を受けた為に、両足の太腿から先が消失していた。


「命乞いすれば、オイラが気まぐれ起こすかもしれないよ~」


「だ……だれ、が……きっと……く、る」


 ニーナの言葉にゴーリアの表情が憤然としたものになる。ゴーリアの中では自分に追いつめられた者は、情けなく命乞いをし、恐怖に染まった顔をするので、それを見ながら止めを刺すのが、ゴーリアの楽しみの一つであった。

 ゴーリアは鋼竜のハンマーを肩に担ぎながら、ゆっくりとニーナの下まで歩を進める。


「そうそう。この指輪はオイラのだから返してもらうね。

 まっ……それなりに楽しめたかな。それじゃ、今度こそさようなら~」


 ニーナに止めを刺そうと振りかぶったゴーリアの背後で、ガラスが割れるような音が聞こえてくる。音はゴーリアの耳にまで届いていたが、ゴーリアの頭の中では肉塊と化したニーナのことを想像するだけで絶頂しそうになっており、音のことなど二の次になっていた。




 だから気付かなかった。自分と同じ強者が現れたことに――




 マリファがニーナの名を叫ぶのと同時に、ゴーリアの鋼竜のハンマーが振り下ろされる。スッケの身体を四散させた槌技LV5『暴凶破壊槌』が、ニーナの身体を粉々に砕くかと思われた瞬間――


 凄まじい激突音が周囲に鳴り響く。

 手に来るはずの感触が来ないことに、ゴーリアが首を傾げる。


「結界……? オイラの攻撃を防ぐほどの!?」


 ニーナとゴーリアの鋼竜のハンマーの間には、いつの間にか結界が張られていた。ゴーリアの攻撃を防ぐなど、並みの後衛職の結界では不可能なことだろう。ゴーリア自身も十二分にそのことは理解していたので、また首を傾げる。

 不意にゴーリアは後を振り返る。殺気? 闘気? 何故振り返ったのかはゴーリアにもわからなかった。ただ、振り返らなければ、大変なことになる予感が身体を動かしていた。


「お前、誰だ?」


 ゴーリアの問い掛けに一切答えず、飛行帽にゴーグルを装着したユウが立っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i901892
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ