第10話:シーフのニーナ④
俺は今、イラついている。何故かというと……
「ドヤッ!」
俺が一人考え事をしている横で、さっきから牛お……ニーナがドヤ顔でこちらを見ている。ムカツクがニーナとパーティーを組んでから効率が跳ね上がったのだ。
まず、クエスト報酬だが、薬草採集と同様にゴブリン討伐は毎日あるクエストのひとつだ。ゴブリンは農作物の被害や女を拐う。拐った女にはゴブリンの子供を産ませるそうだ。
ゴブリンクエストの報酬が10匹で銀貨1枚、毎日30匹は狩っている。
更にニーナが居るので山間の洞窟へ入れるようになった。
俺が今まで山間の洞窟に入らなかったのは、洞窟・迷宮と呼ばれる場所は、普通では考えられないことが起こるそうで、罠・魔物・迷路と斥候職なしで入るのは、自殺行為と言われている。
腐ってもニーナはシーフなので、罠も発見するし解除もできる。
更に俺にとって一番のメリットは魔物の種類だった。今までゴブリンしか倒してこなかったが、山間の洞窟にはオークは勿論、ウォーバット(でっかい蝙蝠だった)・ゴブリンソルジャー・ゴブリンナイトと、様々なモンスターが居た。
そいつらからスキルを奪いながら経験値を稼いだおかげで、現在の俺のステータスはかなり上昇していた。
名前 :ユウ・サトウ
種族 :人間
ジョブ:なし
LV :8
HP :52
MP :63
力 :16
敏捷 :23
体力 :20
知力 :29
魔力 :16
運 :1
パッシブスキル
剣術LV2
腕力上昇LV3
索敵LV2
アクティブスキル
剣技LV1
闘技LV2
白魔法LV1
黒魔法LV1
鍛冶屋LV1
錬金術LV1
固有スキル
異界の魔眼LV2
強奪LV1
『剣術』はゴブリンソルジャー・ナイトから、『腕力上昇』はオークから、『索敵』はウォーバットから新しく覚えた。
特に『索敵』を覚えてからは、ニーナが尾行(未だにしてくる)してきても、気付けるようになったのが何気に一番嬉しかった。
「私とパーティー組んでよかったでしょ♪」
「お前にもちゃんと報酬・素材・魔玉は分け合ってる」
「お前じゃなくてニーナだって言ってるでしょ!」
(もうパーティーを組んで一ヶ月も経つんだから、いい加減認めてよ)
「大体お前は前衛のくせに、闘技も使えないじゃないか。罠の発見と解除には感謝しているけど、もっと鍛えた方がいいんじゃないか」
「むぅ……だったらユウが教えてよ……」
ふくれっ面のニーナが拗ねて行ってしまった。
確かにニーナとパーティーを組んで、今のところデメリットはない。メリットだらけだが俺はニーナを信用していない。いや誰であろうと簡単に信用してはいけない。
この一ヶ月の間に風呂造りも8割は完成している。まさか一からの風呂造りが、ここまで大変とは思わなかった。材料の木は山からタダで手に入るが、木をくり抜いたり、火で温められるように底に鉄板を嵌め込むのが大変だった。特に底に嵌め込む鉄板を手に入れるのに、ステラおばあちゃんにお願いするわけにもいかないので、ニーナを利用した。
こんだけ苦労しているのに鍛冶屋スキルはまだLV1のまま、錬金術スキルに関してもレシピが入手できていないので、やっぱりLV1のまま……
スキルによって上がりやすいのと上がりにくいのがあるのか?
風呂が完成すれば、ステラおばあちゃんも喜ぶなぁと、考えながら歩いていると、誰かが言い争いしているのが聞こえてきた。
見付からないように近付くと、ハーゲの取り巻き……確かナッツとココっていう兄弟と、ニーナが言い争っているようだ。
「ニーナ、俺達の言うことが聞けないってことか?」
「当たり前でしょ。なんで私があんた達の言うことを聞かないといけないのよ」
「難しいことを頼んでるわけじゃねぇだろ? あのガキを俺達の言う場所まで、連れて来るだけでいいんだよ」
「嫌よ」
「あんまり調子に乗るんじゃねぇぞ! てめぇがあのガキと一緒に、山間の洞窟に行っているのは知ってるんだよ。あのガキがどこから手に入れたのか、武器と防具を装備しているのもな!
それにハーゲが1ヶ月前から行方がわからねぇ!! あのガキが怪しいんだよ!」
どうやらハーゲが居なくなったのと、俺が関係していると疑っているようだ。装備に関しては普段は隠してて、ステラおばあちゃんも知らないはずだが、狩り中の俺の姿を村人の中で見た奴がいたのかもしれない。
とりあえずステータスを確認する。
名前 :ナッツ・ミシェ
種族 :人間
ジョブ:戦士
LV :8
HP :75
MP :20
力 :35
敏捷 :16
体力 :41
知力 :9
魔力 :10
運 :7
パッシブスキル
槍術LV1
アクティブスキル
槍技LV1
闘技LV1
固有スキル
なし
名前 :ココ・ミシェ
種族 :人間
ジョブ:戦士
LV :9
HP :81
MP :13
力 :50
敏捷 :13
体力 :47
知力 :9
魔力 :13
運 :7
パッシブスキル
斧術LV1
身体能力上昇LV1
アクティブスキル
斧技LV1
闘技LV1
固有スキル
なし
二人共、ステータスだけならともかく、スキル込であれば負けることはないな。ニーナも逃げるだけなら問題ない。
「ゴッ!!」
鈍い音が聞こえた。見るとニーナが顔面を殴られたようだ。鼻血を流している。
あいつ何やってんだ。あれくらい躱せるだろう!?
「へへ、こっちが下手に出てれば調子に乗りやがって。黙って言うことを聞けばいいんだよ」
ナッツが薄ら笑いを浮かべながら、ニーナを更に殴る。
「い……いや…………だ」
あいつらは闘技を使えるが、躱すか逃げる位できるだろうが……イライラする……
その後も蹲るニーナを、ナッツとココは手加減しながら嬲る。
「お前、なんであんな気持ち悪いガキを庇うんだよ? あんなガキ庇っても良い事なんてないぜぇ? ヘヘ」
「わ……だぢは……ユウ…………のと……もだぢになる…………だ……!」
涙と鼻水、更に血でクシャクシャの顔でニーナが叫ぶ。
馬鹿な女だ……馬鹿は奪われるだけだ…………
「ギャッハハ!! 馬鹿じゃねぇの!」
イライラする……なんで俺がイライラするんだ…………
「ウヘヘ! どこまで我慢できるか試してやるぜ」
下衆な視線から、ニーナに暴力以外のことをしようと考えているのがわかる。ニーナのレザージャケットをナッツが無理やり脱がせる。
「や……やめで……!」
「ヒヒッ……たっぷりかわいがってやるよ」
「すぐに俺達の言うことを、素直に聞くようにしてやるからよっへへ」
その時、凄まじい殺気が後方から放たれる。
「あっ!?」
ナッツとココは腐っても冒険者だった。すぐに槍と斧を手に取り構える。そこにはロングソードを手にしたユウが立っていた。
「ユ……ウ…………?」
ニーナが信じられないという表情で、ユウを見つめる。
「……ミが…………ーナに……ねぇよ…………」
「あ? お……お前! いつから居た!! 丁度いい、お前に用があったんだ!」
ナッツが動揺しながらも吠える。
「お前、そのロングソードとレザーアーマー!? やっぱりてめぇが!!」
ココは、ユウの装備がハーゲの物だと気付いたようだ。顔を真っ赤にして、ユウへ襲いかかる。
「死ねっこの糞ガキが!!」
「ゴミがニーナに、手を出すんじゃねぇよ!!!」
剣技の二段突きを出す。狙うのは首と腹。
ブシュッ……
腹の方は斧で弾いたが、首への攻撃は躱せずに、ココの首から血が吹き出す。
「な……なんれ?……グフっ…………魔言も……な、しぢで……二……段……」
最後まで言えずに、ココは倒れる。
「は!? なんで……お前、二段突きを使えるんだ。それに魔言もなしで!? 大体、ほとんど予備動作もなかったぞ!!」
舐めていたガキに弟が一瞬で殺され、パニックになっているナッツに、ユウは近付いて行く。
「お前らみたいにスキル覚えて満足してる馬鹿と一緒にするな」
ナッツの脳天へ、剣を振り下ろす。子供が振り下ろしたとは思えない剣速で刃が頭上から迫り来る。
「ヒッ」
ナッツはなんとか槍で防ぐことができたが、力が尋常ではなかった。
ユウは片手にもかかわらず、両手で耐えているナッツが押されている。
「ま……待て!!」
「待たねぇよ」
そのまま槍ごとナッツを斬り捨てる。
「ユ……ユウ」
ユウは布を取り出すとニーナの顔を拭いて、ヒールを掛ける。
「なんで抵抗しない」
「だって、ユウとステラさんに迷惑が掛かる」
「俺は馬鹿が嫌いだ」
ユウに怒られているのにもかかわらず、ニーナは笑顔でニヤニヤしている。
「俺は怒っているんだぞ! 何笑ってんだ……」
「だって、ユウが助けに来てくれたし、ニーナって……フフ」
「……だからな」
「え?」
「友達だからな……助けるのは当たり前だろ」
そう言って、ユウは僅かだが微笑んだ。